たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

文字の大きさ
上 下
70 / 87
式部霞、斎藤福寿に秘密を告げる。

1 式部霞は保護人とラブホテル

しおりを挟む
『霞だけど』
『久しぶりです。元気してますか?』
久しぶりに聞く霞さんの声はどこか重々しい。僕はお酒でふらふらだから早く寝たいなと思っていた。
『浴衣で花火大会に来てた』
『うちの保護人も行きたいって言ってたんですよ』
『でも今、私はラブホテルに居る』
霞さんの衝撃発言に僕は言葉も出ない。だって、僕と窓華さんは殺人未遂ぐらいしか問題を起こしていないのに、肉体関係なんて大問題じゃないか。それに相手は結婚詐欺師だったはず……
『私って馬鹿よね。だって、結婚詐欺師の保護人と関係を持っちゃったからなぁ』
自分のことを馬鹿と言うなんて霞さんもかなり疲れているのだな。霞さんの保護人も二六日に死ぬ。きっとこの世界を続けることが叶わない関係だからと言うこともあるし、それ故の感情のゆらぎを受けたからかもしれない。
『李さんにはどう言うつもりですか?』
『もしかしてすももに告げ口するわけ?』
ドスの利いた声で霞さんは僕に言う。やっぱり霞さんは怖い。
『霞さんが嫌ならしないですけど』
『まぁ、私は着付けとか自分でできるから別に困らないんだけどさ』
僕はあのチャラそうな霞さんが着付けができることに失礼ながら驚いた。

『一緒に暮らしてたら、そういう気分になっちゃうことあるよね?って根暗君に聞きたくてさ。あ、君はそんな度胸ないか』
最初の夜に窓華さんが僕の部屋に入ってきたことを思い出す。包丁を僕の首に押し当てて、その右腕からは血がたらたらと流れていて。それを思い出す。窓華さんと僕に肉体関係はありえない。それに窓華さんの言う励ましてって言葉もそういう意味には受け取ること、僕にはできなかった。
『僕はそんなことしませんよ』
『そうだよね、私って卑怯者かもね。保護人がすっごく優しかったからさ。このまま保護人と逃げちゃいたいって思ったぐらい。だって残り一一日だよ?』
『そんなことしたら駄目です。そんなことをするなら、李さんに言います』
僕は多分、霞さんにも気の利いた言葉は言えない。あと数日しか残っていない日々に僕は何が残せるだろう。
『そんなこと、根暗眼鏡なんかに言われなくても分かっているよ』
『じゃあ、なんで僕に話すんです?』
『なんでだろね、同僚だしさ。自分だけで、保護人との現実を受け止められなくなったからかな?』
雨の音がザーザーとしている。霞さん達は次の花火大会も行くのだろうか。僕から聞くことでもない。
『霞さんも人間らしいところあるんですね』
『こういう弱っているときに酷いこと言うわね』
霞さんの保護人は死についてどう思っているのだろう。僕達とは関係性が全く違うような生活をしている。だって、そういう関係になっているのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

超能力者の私生活

盛り塩
SF
超能力少女達の異能力バトル物語。ギャグ・グロ注意です。 超能力の暴走によって生まれる怪物『ベヒモス』 過去、これに両親を殺された主人公『宝塚女優』(ヒロインと読む)は、超能力者を集め訓練する国家組織『JPA』(日本神術協会)にスカウトされ、そこで出会った仲間達と供に、宿敵ベヒモスとの戦いや能力の真相について究明していく物語です。 ※カクヨムにて先行投降しております。

【『星屑の狭間で』『パラレル2』(アドル・エルク独身編)】

トーマス・ライカー
SF
 舞台は、数多ある地球圏パラレルワールドのひとつ。  超大規模、超高密度、超高速度、超圧縮高度複合複層処理でのハイパー・ヴァーチャル・エクステンデッド・ミクシッド・リアリティ(超拡張複合仮想現実)の技術が、一般にも普及して定着し、ハイパーレベル・データストリーム・ネットワークが一般化した未来社会。  主人公、アドル・エルクは36才で今だに独身。  インターナショナル・クライトン・エンタープライズ(クライトン国際総合商社)本社第2棟・営業3課・セカンドセクション・フォースフロアで勤務する係長だ。  政・財・官・民・公・軍がある目的の為に、共同で構築した『運営推進委員会』  そこが企画した、超大規模ヴァーチャル体感サバイバル仮想空間艦対戦ゲーム大会。 『サバイバル・スペース・バトルシップ』  この『運営推進委員会』にて一席を占める、データストリーム・ネットワーク・メディア。  『トゥーウェイ・データ・ネット・ストリーム・ステーション』社が企画した 『サバイバル・スペースバトルシップ・キャプテン・アンド・クルー』と言う連続配信リアル・ライヴ・ヴァラエティショウが、民間から男性艦長演者10名と女性艦長演者10名を募集し、アドル・エルクはそれに応募して当選を果たしたのだ。  彼がこのゲーム大会に応募したのは、これがウォー・ゲームではなく、バトル・ゲームと言う触れ込みだったからだ。  ウォー・ゲームであれば、参加者が所属する国・団体・勢力のようなものが設定に組み込まれる。  その所属先の中での振る舞いが面倒臭いと感じていたので、それが設定に組み込まれていない、このゲームが彼は気に入った。  だがこの配信会社は、艦長役演者に当選した20名を開幕前に発表しなかった。  連続配信リアル・ライヴ・ヴァラエティショウが配信されて初めて、誰が選ばれたのかが判る仕掛けにしたのだ。  艦長役演者に選ばれたのが、今から90日前。以来彼は土日・祝日と終業後の時間を使って準備を進めてきた。  配信会社から送られた、女性芸能人クルー候補者名簿から自分の好みに合い、能力の高い人材を副長以下のクルーとして選抜し、面談し、撮影セットを見学し、マニュアルファイルを頭に叩き込み、彼女達と様々な打ち合わせや協議を重ねて段取りや準備を積み上げて構築してきた。  彼の目的はこのゲーム大会を出来る限りの長期間に亘って楽しむ事。  会社からの給与とボーナス・艦長報酬と配信会社からのギャラ・戦果に応じた分配賞金で大金持ちになる事と、自分が艦長として率いる『ディファイアント』に経験値を付与し続けて、最強の艦とする事。  スタッフ・クルー達との関係構築も楽しみたい。  運営推進委員会の真意・本当の目的は気になる処だが、先ずは『ディファイアント』として、戦い抜く姿を観せる事だな。

夜鴉

都貴
キャラ文芸
妖怪の出る町六堂市。 行方不明に怪死が頻発するこの町には市民を守る公組織、夜鴉が存在する。 夜鴉に在籍する高校生、水瀬光季を取り巻く数々の怪事件。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)

愛山雄町
SF
 ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め! ■■■  人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。 ■■■  宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。  アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。  4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。  その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。  彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。 ■■■  小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。 ■■■ 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。

あやとり

吉世大海(キッセイヒロミ)
SF
人類は世界を宇宙まで進出させた。  地球の「地上主権主義連合国」通称「地連」、中立国や、月にある国々、火星のドームを中心とする「ゼウス共和国」で世界は構成されている。  そして、その構成された世界に張り巡らされたのがドールプログラム。それは日常生活の機械の動作の活用から殺戮兵器の動作…それらを円滑に操るプログラムとそれによるネットワーク。つまり、世界を、宇宙を把握するプログラムである。  宇宙の国々は資源や力を、さらにはドールプログラムを操る力を持った者達、それらを巡って世界の争いは加速する。   ・六本の糸  月の人工ドーム「希望」は「地連」と「ゼウス共和国」の争いの間で滅ぼされ、そこで育った仲良しの少年と少女たちは「希望」の消滅によりバラバラになってしまう。  「コウヤ・ハヤセ」は地球に住む少年だ。彼はある時期より前の記憶のない少年であり、自分の親も生まれた場所も知らない。そんな彼が自分の過去を知るという「ユイ」と名乗る少女と出会う。そして自分の住むドームに「ゼウス共和国」からの襲撃を受け「地連」の争いに巻き込まれてしまう。 ~地球編~ 地球が舞台。ゼウス共和国と地連の争いの話。 ~「天」編~ 月が舞台。軍本部と主人公たちのやり取りと人との関りがメインの話。 ~研究ドーム編~ 月が舞台。仲間の救出とそれぞれの過去がメインの話。 ~「天」2編~ 月が舞台。主人公たちの束の間の休憩時間の話。 ~プログラム編~ 地球が舞台。準備とドールプログラムの話。 ~収束作戦編~ 月と宇宙が舞台。プログラム収束作戦の話。最終章。 ・泥の中 六本の糸以前の話。主役が別人物。月と宇宙が舞台。 ・糸から外れて ~無力な鍵~  リコウ・ヤクシジはドールプログラムの研究者を目指す学生だった。だが、彼の元に風変わりな青年が現われてから彼の世界は変わる。 ~流れ続ける因~  ドールプログラム開発、それよりもずっと昔の権力者たちの幼い話や因縁が絡んでくる。 ~因の子~  前章の続き。前章では権力者の過去が絡んだが、今回はその子供の因縁が絡む。 ご都合主義です。設定や階級に穴だらけでツッコミどころ満載ですが気にしないでください。 更新しながら、最初から徐々に訂正を加えていきます。 小説家になろうで投稿していた作品です。

処理中です...