たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

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守咲窓華、初恋の人。

5 マッチングじゃない告白の行方

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”窓華ちゃんをそこまで苦しめるものはなんなんだい?”
”海斗君の気持ちも嬉しいよ。海斗君と幸せになりたいと思うよ。でも、私は未来のない人間なの”
喜代也が効かないとはさすがに言えないか。未来がない。マザーがあるのにと言われたらどう返すのだろうと僕は思った。マザーさんはこの再会についてどう考えているのだろうか。
”そんな人間は居ないよ。もしかして旦那さんにストーカーされている?なら一緒に逃げようよ”
”そんなんじゃないの。どうしても無理なことって世の中にあるの”
そういうと窓華さんはまた泣き出した。初恋の人にプロポーズされたのに、自分の罪のせいで受け入れることができない。自分が保護人だということを言うことも許されていない。僕だったらどうするだろう……と感じた。
”一緒に逃げよう。僕は社長を辞めて逃げても良い。それくらい窓華ちゃんのことが引っ越してもずっと忘れられなかったんだ”
”ありがとう。でも、ごめんなさい。理由は言えないの。でも、気持ちは本当に嬉しくて。だけど、どうしてもその提案には乗れないの”
”思い合っている二人が駄目なわけないだろう”
そう言うと海斗さんは窓華さんの服を引っ張った。
”何するの?”
”一緒に逃げよう”
”ごめんなさい。本当にごめんなさい”
そういう窓華さんを強引に店内から連れ出そうとする海斗さん。そこにエキストラの人とかが止めに入った。みんな警察官だ。僕も窓華さん達のもとへ向かう。

「どういうことだ」
海斗さんは数人に捕まえられながら言う。そりゃあ、初恋の人に好きって言われて自分も好きなのだから、結婚しても良いと思うだろう。でも、窓華さんにはそれができない理由がある。
「海斗君、ごめんね。でも、嬉しかったよ」
「ならなんで……」
指輪が入っていると思った小箱からは、なんとツヤツヤに光った泥団子が入っていた。それが転がり落ちたので、僕は拾った。そして海斗さんに返した。でもこれはプロポーズだったのだろう。二人にとって泥団子はダイヤモンドの指輪よりも尊い。
「君は国家公務員の仲間なのか?」
窓華さんの元に向かった僕に言う。
「そうです。窓華さんと海斗さんが会う手配をしました」
「君も窓華ちゃんのことが好きなのか?だから駄目なのか?」
「違いますよ」
窓華さんはしゃがんで泣いていた。
「僕は窓華ちゃんを幸せにしたいと思っただけなんだ」
「海斗君、私はもう十分幸せだよ」
「僕らに未来はないのか?窓華ちゃんと会わせてくれるって言った人も、これが最初で最後って言ってたし……」
そうか、この関係は一度限りなのかと僕は今知った。なのに、海斗さんは窓華さんにプロポーズまでしている。
「どうしても、駄目なんです。一度切りなんです」
「そうなのか。ならこの団子は窓華ちゃんに持っていて欲しい」
ツヤツヤに光った泥団子を持ち、窓華さんの前に座って手渡す。
「じゃあ、窓華ちゃん。さようなら。それと君、窓華ちゃんをよろしく。君だって理由があって窓華ちゃんと居るのだろう。醜い嫉妬はしないよ」
「ご配慮ありがとうございます」
そういうと海斗さんは窓華さんに別れを告げて帰って行った。窓華さんはその後姿を泣きながら眺めていた。
「スープ冷めちゃいましたね」
「最初から冷めているよ。これは枝豆の冷静スープだから」
と言う窓華さん。窓華さんは泥団子を大事そうに握りしめていた。そして海斗さんが置いていった箱に入れる。
「呪、帰ろうか?」
泣きはらした窓華さんはそう言った。とても吹っ切れたとは思えない。僕だったら吹っ切ることなんてきっとできない。僕らは帰りは二人で同じ車に乗った。そして僕らの住むアパートまでは無言だった。無言というと嘘になるか。窓華さんはずっと泣いていたから。

アパートに着いた。店の人が料理を持ち帰らせてくれたので、それをテーブルに並べて食べることにする。僕らは夕方だというのに、出かける予定がないのでパジャマに着替えていた。これは夕食になるのだろうか。
「あぁ、海斗君と一緒になっていたら変わってたのかな?」
「死ぬ前に後悔することは減りましたか?」
「後悔か。なんか逆に思い残すことができっちゃった感じ」
一般人であっても、紹介されたのは窓華さんを裏切って浮気した旦那さんだ。もしかして、海斗さんと再会するという選択は窓華さんが保護人にならないと実現しなかったのかもしれない。マザーの考えることがちっとも分からない。
「そうですね、好きでも一緒になれないんですもんね」
「マザーが選んでないから仕方ないと思うけどね。でもさ、海斗君の気持ちに答えられないのが辛かったな」
そういうと小箱を開いて泥団子を見ながら窓華さんは泣いていた。保護人だから仕方ないという簡単な言い訳を僕はしたくない。保護人だから選べない人生の岐路があるなんて悲しすぎる。僕の仕事上では保護人として諦めてもらわなきゃいけない。しかしながら僕は窓華さんを不憫に思った。窓華さんは僕の前で何度も泣く。きっともとから弱い人間だ。
「そこのとこは頑張ったと思いますよ」
「あと私、知ってたんだからね!服に盗聴器ついているの!」
「あ、バレましたか」
「外さなかっただけ偉いと思いなさい」
窓華さんは何故か勝ち誇ったように言う。
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