たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

文字の大きさ
上 下
63 / 87
守咲窓華、初恋の人。

3 初恋の人は社長になっていた?

しおりを挟む
『相手は社長さんだからさ、時間あまり取れないみたいで』
『やっぱり会えないんですか?』
初恋の人が社長になるなんて、こっちの方が玉の輿だ。
『会うって言っているよ。だって斎藤君の担当する保護人って、海斗さんの初恋の人だったんだよね。両思いだよ』
『なんかドラマみたいな運命の再会ですね』
『そう、だから俺が連絡したら嬉しがっていたよ』
僕はこんな奇跡があることに驚いて、そして窓華さんは愛されていると思った。僕は家族以外からこんな感情を持たれたことはないだろう。
『窓華さんは幸せものですね』
窓華さんは正直なことを言う人間だと思っている。特にお酒を飲むとそうだ。でも好きだった人に保護人になったと言えるような強い人間だろうか。僕は思えない。窓華さんが弱い部分も知っている。
『突然、初恋の人に会ってだよ?運命だと思うじゃん?そうしたら、俺だったらきっと話しちゃうと思うな。だって、海斗さんは独身だし』
『それは、窓華さんのことを本当に運命の人だと思ったとしてでしょう?』
『でもマッティングも受けてない人が突然初恋の人に会わないか?なんて提案されたらどう考えると思う?君は恋愛経験乏しそうだから、あんま分からないかもしれないけど』
どうやらみんなから僕はモテないと思われているらしい。
『先方は会うことに乗り気でね。明後日のランチに誘ってきたんだよ』
『明後日ですか?急ですね』
『海斗さんは早く会いたいみたいなんだよね』
『窓華さんも喜ぶと思います』
窓華さんには未来がないから、自分でいつ死ぬか理解していない。もしかしたら海斗さんに会ってそれで死ぬかもと考えている可能性もある。どこまでいっても窓華さんと僕の間に共通するものは死しかない。僕は八月二六日までもう一ヶ月しかないことが迫ってきて焦っていると言うのに。
『斎藤君は一人で近くの席に座って見張っているだけで良いよ』
『李さん、ありがとうございます』
『斎藤君の善意からくる行いが保護人にどう思われるだろうね』
僕はこの世に思い残すことを窓華さんに残したくない。何も未練なく死んでもらいたかった。それが幸せだと感じたから。
『僕は初恋の人と会うことは、悪いことだとは思いませんけど?』
『まぁね、斎藤君は無垢だからそう言えるんだよ。現実を見ていない』
『現実というと?』
僕は窓華さんが海斗さんが会うことは良いことだと思った。だって、お互いの初恋の人と会うなんてロマンチックじゃないか。お互いに幸せだと思う。
『海斗さんが本当に保護人を好きになったら困るだろう?』
『それは困りますね。窓華さんの本性も言わなくてはいけませんし』
喜代也が効かない人が居るなんて、一般的な国民にバレたら危ない。喜代也が効かないと知った人は家族には話せる。それを知った家族は外部には話せない。それに保護人も自分のことを保護人と名乗ってはいけない。
『まぁ、そこらへんはうまくやってくれよ』
『友達も居ない僕に難しいこと言いますね』
『部下をフォローするのも仕事だからね。俺も仕事は増やしたくない』
『分かりました』
なんだかいつも李さんに頼っているなと思った。

『十一時に車が二台来る。それに別れて乗ってもらう。運転手には事情は言ってあるからその会場のレストランまでしっかり送ってくれる。まぁ、もしものときって言ったら悪いけど保護人には首輪もあるしね』
『分かりました。僕もそれなりに用意します』
急に電流が流れるんだ。そんなことをしたら相手はどう思うだろう。窓華さんには何か秘密があるとバレるのではなかろうか。
『斎藤君にも配給でちょっと小洒落た服を用意したよ。あと保護人の服には盗聴器がしかけてあるから、音楽聞くふりでもして会話聞いてて』
『これは窓華さんには言えないことですよね?』
『盗聴器のことは言っちゃ駄目だよ。まぁ、保護人も自由に会わせるとか身勝手な考えはしないと思うけど』
僕は窓華さんのことを思うと、身勝手なことをすると感じた。
『もし、保護人って名乗ったり逃げようとしたら首輪に警告音が鳴る。だから店内はもしものときのために貸し切っている』
『結構大掛かりなんですね』
『客も全員警察官で、エキストラをやってもらうことになっている』
『そこまでするんですか?』
だってこれではテレビのどっきりよりすごいじゃないか。こんなことまでして窓華さんと海斗さんは会う。初恋は実らないと聞くけれど、実る可能性すらない初恋の再会かと悲しくなった。
『保護人を家族でもない一般人と面会させるんだから、普通だったらできないことをして無理していることは分かって欲しいな』
『ごめんなさい。でも、頑張りますね』
僕は電話を切ると窓華さんのところに報告へ行くことにした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夜鴉

都貴
キャラ文芸
妖怪の出る町六堂市。 行方不明に怪死が頻発するこの町には市民を守る公組織、夜鴉が存在する。 夜鴉に在籍する高校生、水瀬光季を取り巻く数々の怪事件。

夢の骨

戸禮
SF
悪魔は人間に夢を問うた。人が渇望するその欲求を夢の世界で叶えるために。昏山羊の悪魔は人に与えた。巨額の富も、万夫不当の力も、英雄を超えた名声も全てが手に入る世界を作り出した。だからこそ、力を手にした存在は現実を攻撃した。夢を求めて、或いは夢を叶えたからこそ、暴走する者の発生は必然だった。そして、それを止める者が必要になった。悪魔の僕に対抗する人類の手立て、それは夢の中で悪夢と戦う"ボイジャー"と呼ばれる改造人間たちだった。これは、夢の中で渇望を満たす人間と、世界護るために命懸けで悪夢と戦う者たちの物語−

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

『遠い星の話』

健野屋文乃(たけのやふみの)
SF
数億光年離れた遠い星は、かつての栄えた人類は滅亡し、人類が作った機械たちが、繁栄を謳歌していた。そこへ、人類に似た生命体が漂着した。

神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行
SF
 主人公 須舞 宇留は、琥珀の巨神アンバーニオンと琥珀の中の小人、ヒメナと共にアルオスゴロノ帝国の野望を食い止めるべく、日々奮闘していた。  最凶の敵、ガルンシュタエンとの死闘の最中、皇帝エグジガンの軍団に敗れたアンバーニオンは、ガルンシュタエンと共に太陽へと向かい消息を絶った。  一方、帝国の戦士として覚醒した椎山と宇留達の行方を探す藍罠は、訪ねた恩師の居る村で奇妙な兄弟、そして琥珀の闘神ゼレクトロンの化身、ヴァエトに出会う。  度重なる戦いの中で交錯する縁。そして心という琥珀の中に閉じ込めた真実が明らかになる時、宇留の旅は、一つの終着駅に辿り着く。  神樹のアンバーニオン 3  絢爛!思いの丈    今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)

愛山雄町
SF
 ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め! ■■■  人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。 ■■■  宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。  アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。  4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。  その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。  彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。 ■■■  小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。 ■■■ 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。

銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお
SF
 いまから二百年の未来。  前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。  その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。  折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。  火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。

【全64話完結済】彼女ノ怪異談ハ不気味ナ野薔薇ヲ鳴カセルPrologue

野花マリオ
ホラー
石山県野薔薇市に住む彼女達は新たなホラーを広めようと仲間を増やしてそこで怪異談を語る。 前作から20年前の200X年の舞台となってます。 ※この作品はフィクションです。実在する人物、事件、団体、企業、名称などは一切関係ありません。 完結しました。 表紙イラストは生成AI

処理中です...