たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

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守咲窓華、初恋の人。

3 初恋の人は社長になっていた?

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『相手は社長さんだからさ、時間あまり取れないみたいで』
『やっぱり会えないんですか?』
初恋の人が社長になるなんて、こっちの方が玉の輿だ。
『会うって言っているよ。だって斎藤君の担当する保護人って、海斗さんの初恋の人だったんだよね。両思いだよ』
『なんかドラマみたいな運命の再会ですね』
『そう、だから俺が連絡したら嬉しがっていたよ』
僕はこんな奇跡があることに驚いて、そして窓華さんは愛されていると思った。僕は家族以外からこんな感情を持たれたことはないだろう。
『窓華さんは幸せものですね』
窓華さんは正直なことを言う人間だと思っている。特にお酒を飲むとそうだ。でも好きだった人に保護人になったと言えるような強い人間だろうか。僕は思えない。窓華さんが弱い部分も知っている。
『突然、初恋の人に会ってだよ?運命だと思うじゃん?そうしたら、俺だったらきっと話しちゃうと思うな。だって、海斗さんは独身だし』
『それは、窓華さんのことを本当に運命の人だと思ったとしてでしょう?』
『でもマッティングも受けてない人が突然初恋の人に会わないか?なんて提案されたらどう考えると思う?君は恋愛経験乏しそうだから、あんま分からないかもしれないけど』
どうやらみんなから僕はモテないと思われているらしい。
『先方は会うことに乗り気でね。明後日のランチに誘ってきたんだよ』
『明後日ですか?急ですね』
『海斗さんは早く会いたいみたいなんだよね』
『窓華さんも喜ぶと思います』
窓華さんには未来がないから、自分でいつ死ぬか理解していない。もしかしたら海斗さんに会ってそれで死ぬかもと考えている可能性もある。どこまでいっても窓華さんと僕の間に共通するものは死しかない。僕は八月二六日までもう一ヶ月しかないことが迫ってきて焦っていると言うのに。
『斎藤君は一人で近くの席に座って見張っているだけで良いよ』
『李さん、ありがとうございます』
『斎藤君の善意からくる行いが保護人にどう思われるだろうね』
僕はこの世に思い残すことを窓華さんに残したくない。何も未練なく死んでもらいたかった。それが幸せだと感じたから。
『僕は初恋の人と会うことは、悪いことだとは思いませんけど?』
『まぁね、斎藤君は無垢だからそう言えるんだよ。現実を見ていない』
『現実というと?』
僕は窓華さんが海斗さんが会うことは良いことだと思った。だって、お互いの初恋の人と会うなんてロマンチックじゃないか。お互いに幸せだと思う。
『海斗さんが本当に保護人を好きになったら困るだろう?』
『それは困りますね。窓華さんの本性も言わなくてはいけませんし』
喜代也が効かない人が居るなんて、一般的な国民にバレたら危ない。喜代也が効かないと知った人は家族には話せる。それを知った家族は外部には話せない。それに保護人も自分のことを保護人と名乗ってはいけない。
『まぁ、そこらへんはうまくやってくれよ』
『友達も居ない僕に難しいこと言いますね』
『部下をフォローするのも仕事だからね。俺も仕事は増やしたくない』
『分かりました』
なんだかいつも李さんに頼っているなと思った。

『十一時に車が二台来る。それに別れて乗ってもらう。運転手には事情は言ってあるからその会場のレストランまでしっかり送ってくれる。まぁ、もしものときって言ったら悪いけど保護人には首輪もあるしね』
『分かりました。僕もそれなりに用意します』
急に電流が流れるんだ。そんなことをしたら相手はどう思うだろう。窓華さんには何か秘密があるとバレるのではなかろうか。
『斎藤君にも配給でちょっと小洒落た服を用意したよ。あと保護人の服には盗聴器がしかけてあるから、音楽聞くふりでもして会話聞いてて』
『これは窓華さんには言えないことですよね?』
『盗聴器のことは言っちゃ駄目だよ。まぁ、保護人も自由に会わせるとか身勝手な考えはしないと思うけど』
僕は窓華さんのことを思うと、身勝手なことをすると感じた。
『もし、保護人って名乗ったり逃げようとしたら首輪に警告音が鳴る。だから店内はもしものときのために貸し切っている』
『結構大掛かりなんですね』
『客も全員警察官で、エキストラをやってもらうことになっている』
『そこまでするんですか?』
だってこれではテレビのどっきりよりすごいじゃないか。こんなことまでして窓華さんと海斗さんは会う。初恋は実らないと聞くけれど、実る可能性すらない初恋の再会かと悲しくなった。
『保護人を家族でもない一般人と面会させるんだから、普通だったらできないことをして無理していることは分かって欲しいな』
『ごめんなさい。でも、頑張りますね』
僕は電話を切ると窓華さんのところに報告へ行くことにした。
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