たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

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斎藤福寿、守咲窓華と台湾旅行する。

10 土産話

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それから数日は僕らは筋肉痛で最低限の行動しかできなかった。でも、洗濯や片付けなどの最低限はしてダウンしていた感じだ。でも実家には手紙とお茶を送っていたので、感謝からパソコンにテレビ電話の通知が着ていた。
『海外旅行に行ったんだって?お茶ありがとな』
『そうよ、日本が鎖国しているのに海外に行けるなんてねぇ。私だって海外には父さんとの新婚旅行で行きたいと思ったけど無理だったもの』
『なんか上司が気をきかせて買ってくれたんだ。僕はそこまで気が回らなかったからごめんね』
僕は正直なことを言った。父さんも母さんも別れたときと何も変わっていない。その姿に安心した。保護人と接してきた僕は変わってしまっただろうか。
『そりゃあ、当たり前じゃない。保護人と暮らしているんだもの。家族のことなんて気が回らないと思うわ』
『そうだ、母さんの言う通りだ。精神の戦いだからな』
窓華さんとの生活は正直、精神が削られることもあるが新しい発見が多くて楽しい部分もある。だからそこまで気にはなることはない。
『まぁ、そこまで危なくないんだけどね』
『そんなこと言っても、相手は危ない人だから気をつけてね。じゃあ、そろそろ配信を切るから頑張るのよ』
と母さんが言った。最初こそ、窓華さんのことを警戒していたが、僕は最近は普通に接することができるようになったと思う。

電話を切ろうとすると父さんが僕に話しかけた。
『父さんと母さんの昔の仕事知りたいか?』
『父さんはマザーのない世界の話はしてくれるけど、仕事の話はしなかったよね。どうして?』
『それは父さんだってマザーに思う部分があるからだ』
『ヘルパーになって欲しくないから、僕にたくさん勉強させたんでしょ?』
両親は僕に肉体労働をさせたくないから勉強させた。でも、今の僕がしている寿管士だって肉体労働だと思う。買い物に行ったり旅行に行ったり。僕はどの道この父さんと母さんの子どもだからこんな仕事なのだ。
『父さんと母さんは非正規の派遣社員だったからなぁ』
『非正規って違法じゃないの?』
『まだ派遣社員が合法だった時の話ね。だから正規雇用の国家のヘルパーになれたって意味でマザーには感謝するしかない』
『へぇ、二人はマザーに助けられたんだ』
マザーによって見捨てられた僕とは違って、両親はマザーによって助けられたと初めて知った。ならマザーには感謝しかないだろう。非正規雇用なんて非合法なことが当たり前に受け入れられていた期間を知っているとは強い。その頃は自分で選択するから失敗することがあった。失敗しても自分の責任だ。マザーがなかったから。
『でも、恵はマザーに助けられたとは言えないよなぁ』
『詳しくは言えないけど、充実した日々だよ』
『あら、保護人と暮らして楽しいの?』
『楽しいわけじゃないよ。ただ、驚きの連続ってだけ』
素直な感想を言う。どこまで話しても良いか判断がつかないから、窓華さんの名前も出せないけれど。比較的楽しいと思ったことをピックアップして話す。そうすると二人は喜んでいるようだった。
『やっぱりマザーの決めた未来は明るいのね』
『母さんにも、父さんはマザーの判断を信じるべきだと言っただろう』
『そうだね、僕の未来は明るいと思うよ』
二人は僕にされたマザーの判断を正しいと思っているらしい。僕はこの判断が正しいかどうかなんて分からない。確かに刺激のある生活だ。しかし実りがある生活とは言えない。この繰り返される日々はいつか終わる。いつ終わるかは分からない。僕は二人に話を合わせてマザーを素晴らしいと言った。そしてテレビ電話を切った。
なんだかため息が出た。両親を安心させたことは良いことだと思う。それでも僕はマザーの決めたこの未来選択が良いとは思えない。最低限の家事というか、ゴミ捨てをしていたらスマホが鳴ったので電話を取る。

『あ、根暗君。旅行のお土産ありがとね』
霞さんからだった。
『あぁ、これは李さんが手配してくれたもので』
『分かっているよ。眼鏡君がそこまで気をつかえる人だと思ってないから』
『霞さんも李さんにいろいろお願いしているんですか?』
『しているけどさ、保護人と旅行なんて危ないことは頼もうとは思えないな』
やっぱり霞さんもこの保護人との生活に不安な部分があるのだ。だから、僕だけが李さんに相談しているわけじゃない。でもやりすぎた。
『確かに僕も危ないことだと思いました。僕もあの首輪しましたし』
『それはやばいね。すもももよく許したと思うよ。根暗のことはさ、前から思ってたけど、どこかおかしいんじゃない?危機感がないと言うか』
『僕が窓華さんにした旅行は異常ってことですか?そういえば、霞さんって保護人にはなんて呼ばれていますか?僕はのろいの呪って呼ばれています』
僕は思ったことを口にした。 僕は呪と呼ばれることに慣れている。でも、普通はこんな呼ばれ方は嫌だろうな。
『福寿君、もしかして保護人にそんな陰湿なあだ名で呼ばせてるの』
『そうだけど?これって変なの?』
珍しく霞さんが僕を名前で呼ぶからそれにびっくりした。そして陰湿なあだ名というか、あだ名が禁止された今こんな風に呼ばれたこともない。僕は李さんは窓華さんを名前で呼ばなかったけど、保護人に対しては霞さんはどうなのだろうと思った。霞さんは友達感覚で接してそうだという勝手なイメージがあった。
『異常だよ。保護人は守るべき国民だけど、こっちが負けて良いような存在でもないの。対等なのよ。友達じゃないんだからさ』
『そうですか。その考え方だと暮らしにくくないですか?』
『でも、そうね。私もあだ名で呼ばせてるわ。私はアラレちゃんって呼ばせているよ。本名嫌いだから』
なんだか二人も割り切れられない関係なんだなと思った。霞さんも戸惑っているから李さんに相談することもあるんだろうし。李さんは僕の保護人の窓華さんも名前で呼ばなかったけど、霞さんの保護人はどうだろう?
『あ、あの……。李さんは霞さんの保護人をなんと呼びますか?』
『気にしたことなかったわ。保護人は保護人じゃない?』
『そうですよね。いちいち李さんも覚えるほど暇じゃないかもですね』
そうだ、李さんは保護人ともマザーさんとも仕事があって、一人ひとりの保護人を覚えている暇なんてないのかもしれない。僕はずっと窓華さんのことを心のどこかで忘れられないのだろうけど、李さんだって母国に残した家族について考えることがあるかもしれない。保護人の名前なんていちいち覚えていてどうなるだろう。
『とにかくさ、こっちの保護人も美味しかったって言っているからありがとね』
『それなら良かったです』
僕は電話を切ろうとしたけど遮った。窓華さんとの関係が異常なのかと思い、まだ聞きたいことがある。でも、僕は保護人が相手だとしても、きっと誰でも名前で呼ぶだろう。それ以上に気になることだ。

『霞さんは担当に一緒に逃げようとか心中しようとか言われないんですか?』
『根暗眼鏡の保護人はドラマの見過ぎじゃない?』
『じゃあ、僕が特殊なんですね』
『そんなことで悩んでるの?』
この悩みはそんな小さいことなのだろうか。僕は本気で悩んでいるというのに。霞さんの保護人は死についてどう考えているのだろう。
『いや、死にたくないとも言われちゃって』
『それでも私達は死を見届けることが仕事だからね』
『そうですね、話してすっきりしました』
僕と違って仕事内容を受け入れている。僕はまだ窓華さんが死ぬなんてこと、理解できないでいるのに。
『まぁ、保護人には私も思うところがあるし』
『思うところ?』
『いや、なんでもない。またね』
霞さんも霞さんなりに保護人への対応には悩んでいるんだと、人並みのことを感じていた。僕みたいに弱い人間じゃないから、弱みを見せないだけだろう。そして僕はスマホの通知を見て驚く。詩乃からメッセージが入っていたから。詩乃からは”久しぶり、大変な仕事に就いてたんだね”と労いの言葉があった。
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