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斎藤福寿、守咲窓華と台湾旅行する。
8 お酒の勢いだったのか
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僕は死にたくないという本心の気持ちを言葉で聞いて、それからはベッドに入ったけれどぐっすり寝れなかった。窓華さんはしばらくするとベッドに戻ってきて泣いていた。僕は声をかけるか迷ったけれど、話しかけることができなかった。
窓華さんを助けることができない事実に苦しんでいたから。こんな夜があったのに次の日の窓華さんは何気ない様子だった。ホテルの窓から見える空は、夜とは違って地上鉄の存在が目立っている。夜はそれほど気にならなかったのに不思議だ。昨日は死にたくないと言って泣いていたというのに。逃げようとか心中とか物騒なことを言ったというのに。僕は性格が悪いので持ち出すことにした。
「お酒飲んでからの記憶ありますか?」
僕はホテルの朝食ビッフェで聞いた。僕は海外でも早起きで起きてすぐシャワーを浴びていたが、窓華さんは寝ていた。窓華さんを起こして、ホテルの朝食の時間までに準備させるようにした。お酒に悪酔いしたらしく、ちょっときつそうだ。僕らの服装は昨日の夜とは違って、カジュアルなものだった。窓華さんはカリカリベーコンなどをいろいろ皿いっぱいに盛ってテーブルに座っていた。
「記憶?なんかあったの?私は特にないよ」
「窓華さんは酒癖が悪いですから、もうお酒は飲まないでください。罪を犯す前でも困っていた人多いと思いますよ」
「そうかなぁ、でも今は呪だけじゃん?なら、別に呪に迷惑かけることは悪いと思ってないよ?それが呪の仕事だもん」
僕はだんだんと窓華さんを失った後の生活を想像できなくなっていた。だってみんな生き物は本能では死にたくないはずだ。窓華さんは昨日の夜の話を覚えていないようだ。覚えていない無意識の言葉ってことは本当の気持ちだと思う。この僕に看取る覚悟がないことがよく分かった。逃げることもできない弱い人間だ。
それでも窓華さんは昨日の夜を思い出そうとしているようだ。
「うん、夜景が綺麗で呪が金魚掬いが得意ってことは覚えているよ」
「まぁ、夜景もみましたし屋台の話もしましたね」
「ならそれ以上覚えているわけじゃん。私なんか酷いこと言ってた?」
窓華さんは断片的にしか覚えていないらしい。良かったというか、逃げたいと内心思っていた日本への生活に今日から戻ることになる。僕らはマザーの判断から逃げることができなかった。だって首輪の爆発とかもだけど死が怖いから。
「窓華さんは今の生活はどうですか?」
「結局、呪は私を看取るために居るのでしょう?それは嫌だけど楽しいよ。だって私の死を見届けることが呪の仕事だしね」
「僕が窓華さんを失うしかないのに、どうしてここまで仲良くするの?」
「私達はきっと最期まで仲良しだよ。だから呪は仕事をサボったら駄目だよ」
死を受け入れたふりをする窓華さんは、明るい声なのにどこか寂しい。僕は死にたくない気持ちがあることを知ってしまった。だから、そんな姿を見ることが辛い。僕だってこんなに仲良くなった人を失いたくない。
僕は残酷なのだろうか。仕事だとしても人の命を奪う立場なんて。なんて辛いのだろう。僕はそれから何も食べれなくなって窓華さんを心配させることになった。窓華さんは不思議そうな顔をしていた。僕は窓華さんと寄り添うことぐらいでしか救う方法がない。はたしてそれは救うと言うのだろうか。
「あぁ、朝もいっぱい食べちゃったな」
窓華さんはお腹がぱんぱんだ。僕らはホテルの部屋でチェックアウトの準備をすることになる。準備と言っても一泊だからそこまでの準備ではない。僕も準備を終えてロビーへ行く。すると李さんが居て、それで特別な用紙にチェックアウトの記入をしていた。李さんはいつも通りスーツだ。僕はスーツを二着しか持っていないけれど、李さんはスーツしか持っていないのではないだろうか。僕らはどこにいってもイレギュラーなのだ。
「すももさん、すごいですね。本当にお肌ぷるぷるですよ」
「あの食事は奮発したからね」
「僕も言葉にならないぐらい美味しかったです」
「俺は君たちが純粋に観光を楽しんでくれて安心しているよ」
李さんはほっとした様子で言った。
「もしかして逃げ出すとか思いました?」
「思ったよ。だから君の首輪にはカメラつけていたしね」
「それって、僕に言ってなかったですよね?」
僕はそんな高性能なのかと知って驚くと同時に信用されてないのだと分かった。そして実際に逃げようとする話題も出た。僕らはやはり監視されていた。
「だって、道端でのことはストーカーしててもホテルに入ってからの会話とか、そういうことは分からないじゃん」
「なら李さんも最初からカメラがあるって言ってくださいよ」
「いや、そうすると監視されているみたいで楽しめないかと思ってさ。僕なりの配慮でもあるんだけど?」
李さんは悪びれもなく言う。この首輪は電流が流れるだけではなく、盗聴など監視の意味もあったと言うのだ。
「あと、窓華さんにも言ってやってくださいよ。お酒と薬を一緒に飲むことは危ないからやめろって」
「あれは君は大変だったと思うよ」
「私、そんな酒癖悪いのかな?今まで指摘されたことないんだけど……」
窓華さんは少しだけ恥ずかしそうだった。李さんも昨日の夜に窓華さんが言ったことを伝えなかった。李さんも僕と同じ奪う側の立場だから、気持ちを分かってくれるだろうと思い上がりだけど感じた。窓華さんは僕に逃げようと言ったけど、本心だったと思う。それに日本に居場所がないというのだって本心だ。僕も世界のどこにも居場所なんてないような感じがする。
「あ、保護人は昨日のことは覚えていないのね?」
「本当、窓華さんのことで僕も大変だったんですから」
「呪も本当にごめんねぇ」
僕達はマザーから逃げることができなかった。そしてまた日本に返される。これがチャンスだったかもしれないのに。だから僕も死にたくないと言ったことは聞かなかったことにしよう。どうせ窓華さんは失う人なのだ。
窓華さんを助けることができない事実に苦しんでいたから。こんな夜があったのに次の日の窓華さんは何気ない様子だった。ホテルの窓から見える空は、夜とは違って地上鉄の存在が目立っている。夜はそれほど気にならなかったのに不思議だ。昨日は死にたくないと言って泣いていたというのに。逃げようとか心中とか物騒なことを言ったというのに。僕は性格が悪いので持ち出すことにした。
「お酒飲んでからの記憶ありますか?」
僕はホテルの朝食ビッフェで聞いた。僕は海外でも早起きで起きてすぐシャワーを浴びていたが、窓華さんは寝ていた。窓華さんを起こして、ホテルの朝食の時間までに準備させるようにした。お酒に悪酔いしたらしく、ちょっときつそうだ。僕らの服装は昨日の夜とは違って、カジュアルなものだった。窓華さんはカリカリベーコンなどをいろいろ皿いっぱいに盛ってテーブルに座っていた。
「記憶?なんかあったの?私は特にないよ」
「窓華さんは酒癖が悪いですから、もうお酒は飲まないでください。罪を犯す前でも困っていた人多いと思いますよ」
「そうかなぁ、でも今は呪だけじゃん?なら、別に呪に迷惑かけることは悪いと思ってないよ?それが呪の仕事だもん」
僕はだんだんと窓華さんを失った後の生活を想像できなくなっていた。だってみんな生き物は本能では死にたくないはずだ。窓華さんは昨日の夜の話を覚えていないようだ。覚えていない無意識の言葉ってことは本当の気持ちだと思う。この僕に看取る覚悟がないことがよく分かった。逃げることもできない弱い人間だ。
それでも窓華さんは昨日の夜を思い出そうとしているようだ。
「うん、夜景が綺麗で呪が金魚掬いが得意ってことは覚えているよ」
「まぁ、夜景もみましたし屋台の話もしましたね」
「ならそれ以上覚えているわけじゃん。私なんか酷いこと言ってた?」
窓華さんは断片的にしか覚えていないらしい。良かったというか、逃げたいと内心思っていた日本への生活に今日から戻ることになる。僕らはマザーの判断から逃げることができなかった。だって首輪の爆発とかもだけど死が怖いから。
「窓華さんは今の生活はどうですか?」
「結局、呪は私を看取るために居るのでしょう?それは嫌だけど楽しいよ。だって私の死を見届けることが呪の仕事だしね」
「僕が窓華さんを失うしかないのに、どうしてここまで仲良くするの?」
「私達はきっと最期まで仲良しだよ。だから呪は仕事をサボったら駄目だよ」
死を受け入れたふりをする窓華さんは、明るい声なのにどこか寂しい。僕は死にたくない気持ちがあることを知ってしまった。だから、そんな姿を見ることが辛い。僕だってこんなに仲良くなった人を失いたくない。
僕は残酷なのだろうか。仕事だとしても人の命を奪う立場なんて。なんて辛いのだろう。僕はそれから何も食べれなくなって窓華さんを心配させることになった。窓華さんは不思議そうな顔をしていた。僕は窓華さんと寄り添うことぐらいでしか救う方法がない。はたしてそれは救うと言うのだろうか。
「あぁ、朝もいっぱい食べちゃったな」
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「すももさん、すごいですね。本当にお肌ぷるぷるですよ」
「あの食事は奮発したからね」
「僕も言葉にならないぐらい美味しかったです」
「俺は君たちが純粋に観光を楽しんでくれて安心しているよ」
李さんはほっとした様子で言った。
「もしかして逃げ出すとか思いました?」
「思ったよ。だから君の首輪にはカメラつけていたしね」
「それって、僕に言ってなかったですよね?」
僕はそんな高性能なのかと知って驚くと同時に信用されてないのだと分かった。そして実際に逃げようとする話題も出た。僕らはやはり監視されていた。
「だって、道端でのことはストーカーしててもホテルに入ってからの会話とか、そういうことは分からないじゃん」
「なら李さんも最初からカメラがあるって言ってくださいよ」
「いや、そうすると監視されているみたいで楽しめないかと思ってさ。僕なりの配慮でもあるんだけど?」
李さんは悪びれもなく言う。この首輪は電流が流れるだけではなく、盗聴など監視の意味もあったと言うのだ。
「あと、窓華さんにも言ってやってくださいよ。お酒と薬を一緒に飲むことは危ないからやめろって」
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窓華さんは少しだけ恥ずかしそうだった。李さんも昨日の夜に窓華さんが言ったことを伝えなかった。李さんも僕と同じ奪う側の立場だから、気持ちを分かってくれるだろうと思い上がりだけど感じた。窓華さんは僕に逃げようと言ったけど、本心だったと思う。それに日本に居場所がないというのだって本心だ。僕も世界のどこにも居場所なんてないような感じがする。
「あ、保護人は昨日のことは覚えていないのね?」
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「呪も本当にごめんねぇ」
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