たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

文字の大きさ
上 下
49 / 87
斎藤福寿、守咲窓華と台湾旅行する。

4 冥銭と家族

しおりを挟む
「なんか今川焼きみたいだね」
「え、大判焼きじゃないんですか?」
「大判焼きって言い方も知っているし、なんなら回転焼きって言っている地域だってあること知っているよ。でも私にとっては今川焼きなんだよ」
「回転焼きは初めて知りましたね」
僕はそのいろいろな名前のある食べ物を途中まで食べてびっくりする。僕はこういう焼き物には甘いものが挟んであるだろうと安易に思っていた。中に入っていたのはゆでたまごだった。驚いたのは窓華さんも一緒だった。
「呪は買い物のセンスがないよ。普通中身が見えるものを買うんだよ」
僕はついごめんと謝ってしまう。でも謝るようなことでもない。
「私はタピオカジュースとか、あと台湾の大きいフライドチキンとか食べたいと思っているんだけど、フライドチキンは夜市が多いみたいだしあるかな?」
窓華さんはガイドブックの知識を僕に披露した。
「唐揚げでは駄目なの?唐揚げも有名って書いてあったよ」
「大きい方が異国感あって良いじゃん?日本にはないみたいな」
窓華さんはそう言うとタピオカの屋台の方に消えていく。
「待ってください。僕は窓華さんを見ていなきゃいけないんですから」
「分かっているよ」
それから僕らはタピオカジューズを持って、唐揚げの入った容器を持って街を歩いていた。なんか昨日までの生活が嘘のようだ。僕は近くにあるゴミ箱を見つけてそこに捨てた。海外はゴミ箱が少ないと聞いていたが、第二台北にはたくさんあるみたいだ。道端にも等間隔で何か金属の缶みたいなものがある。これは多分、ゴミ箱ではないだろうと思ってスルーしていた。

「あ、あそこ見て。ゴミ箱でお札燃やしているよ!」
僕は指さされたところを見た。さっきの道にある缶だ。確かに赤い模様をした紙を燃やしていた。結構な炎が出ていたため、気づくとびっくりしてしまった。燃やしている紙はお札と言えなくもない。僕は眼鏡に入った辞書を使って調べると、これはお札ではない。冥銭と呼ばれるものだそうだ。そのことを窓華さんに言う。
「あれはあの世で使えるお金なんですよ。冥銭って言うみたいです」
「へぇ、じゃあ私も燃やそうかな?」
窓華さんはそういって僕にお金をねだる。きっとクレカは使えないと思うので、屋台のために両替した昔のお札を渡すことになる。
「なんか、ご先祖様が使えるように燃やすから、窓華さんは自分のために燃やしても無駄だと思いますけど」
「酷い!私も燃やすけど、呪はこれを先に死ぬ私のために燃やすんだよ!」
「僕に送金しろって言うんですか?それに窓華さんはあの世を信じているなんてびっくりですよ」
あの世の世界のためにお札を燃やす文化は日本にはない。だから、ここでお金を燃やすと選択するということは、もしかしたら死んだ後のことを窓華さんなりに考えているかもしれないと僕は身勝手ながら思ったのだ。
「あったら良いなって思うだけだよ。私は性格悪いから地獄かもしれないし。ならば地獄の沙汰も金次第って言うじゃん」
「あ、窓華さんは自分が性格悪いって理解していて安心しました」
「その言い方はないよ。自分のことは自分が一番よく分かっているの」
そう言って、窓華さんは冥銭を売っているところまでやってきた。そしてたっぷり札束を買ってきた。窓華さんは誰に対してお金を燃やすのだろう。
「これが本当のお金だったらなぁ……」
「だから、あの世では使えますから潔く燃やしましょう」
と言って僕らも冥銭を燃やす。落ち着きのない窓華さんが、そのお札が燃え尽きるまでじっと見ている。僕はそんな窓華さんを見て不安になった。

「これは私のためでもあるけどさ、呪のためでもあるんだよ」
「旦那さんや桜ちゃんのためだと思っていました。ならその感情は、後悔とか償いみたいなもんですよね」
「その通りだよ。呪に迷惑かけるからせめてもの償いかな?」
燃えるお金をさっきから落ち着いて窓華さんは見ている。僕も窓華さんはきっとどこかでは反省しているのだと思ってきた。
「人並みの罪悪感があったことに僕は驚きましたよ」
「それはどうかなぁ?一応、楓と桜のためにも燃やすけど、この冥銭が使われるのは何十年後だろうね。それに私だって悪いことしたってことは分かっているよ」
窓華さんは恐ろしいほど落ち着いた声で言った。
「そうですか。窓華さんのような人でも思うところはあるんですね」
「私がここまで心開いているのに、反応はそれだけ?残酷だね、呪は」
残酷なのはどっちですか?と言おうとして僕はやめた。そのしてしまった行いは一番窓華さんが知っていることだろう。やはり命がなくなってしまうことで、この世に未練があるのだと僕は思った。この頃には台湾の風景に慣れていた。空にも地上にも乗り物が飛び交い、地上では屋台が出たりしている。こんな日本とはかけ離れた世界だというのに。

燃える冥銭を座って見ていた僕らは立ち上がって伸びをする。ものすごい勢いで燃えていたので、顔が熱い。
「さぁ、気を取り直してディナーまで歩こうよ」
「ディナーまでにお腹いっぱいとかならないでくださいよ」
「はは、私も気をつけるから呪も気をつけるんだよ」
と言って、僕らは屋台の服を見たり、小物を売っているアクセサリー店を見たりしてなかなか昼間の台北を楽しんだと思う。僕は歩き疲れたので、足つぼをやっても良いと思ったが、そんな時間すら僕らには残されていなかった。僕らは基本的に時間がないのだ。
「ガイドブックに書いてあったけど、お金の入った封筒は放置するんだって」
「警察に届けないんですか?」
「私はどうかと思うけど……」
窓華さんは少し言いにくそうにしている。僕はどうしてだろうと眼鏡の辞書で調べる。なるほど、子どもを亡くした親が天国での結婚相手を選ぶとき、お金の入った封筒を受け取った人にするらしい。
「それで結婚相手が見つかって子どもは幸せなんですかね?」
「子どもの幸せなんて考えてないと思うよ。これは親のエゴだよ」
僕らはそんな封筒を発見することもなく、平和に歩いていた。ホテルに向かうと李さんが居た。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神水戦姫の妖精譚

小峰史乃
SF
 切なる願いを胸に、神水を求め、彼らは戦姫による妖精譚を織りなす。  ある日、音山克樹に接触してきたのは、世界でも一個体しか存在しないとされる人工個性「エイナ」。彼女の誘いに応じ、克樹はある想いを胸に秘め、命の奇跡を起こすことができる水エリクサーを巡る戦い、エリキシルバトルへの参加を表明した。  克樹のことを「おにぃちゃん」と呼ぶ人工個性「リーリエ」と、彼女が操る二十センチのロボット「アリシア」とともに戦いに身を投じた彼を襲う敵。戦いの裏で暗躍する黒幕の影……。そして彼と彼の大切な存在だった人に関わる人々の助けを受け、克樹は自分の道を切り開いていく。  こちらの作品は小説家になろう、ハーメルン、カクヨムとのマルチ投稿となります。

グラッジブレイカー! ~ポンコツアンドロイド、時々かたゆでたまご~

尾野 灯
SF
人類がアインシュタインをペテンにかける方法を知ってから数世紀、地球から一番近い恒星への進出により、新しい時代が幕を開ける……はずだった。 だが、無謀な計画が生み出したのは、数千万の棄民と植民星系の独立戦争だった。 ケンタウリ星系の独立戦争が敗北に終ってから十三年、荒廃したコロニーケンタウルスⅢを根城に、それでもしぶとく生き残った人間たち。 そんな彼らの一人、かつてのエースパイロットケント・マツオカは、ひょんなことから手に入れた、高性能だがポンコツな相棒AIノエルと共に、今日も借金返済のためにコツコツと働いていた。 そんな彼らのもとに、かつての上官から旧ケンタウリ星系軍の秘密兵器の奪還を依頼される。高額な報酬に釣られ、仕事を受けたケントだったが……。 懐かしくて一周回って新しいかもしれない、スペースオペラ第一弾!

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
よくよく考えると ん? となるようなお話を書いてゆくつもりです 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

コンビニバイト店員ですが、実は特殊公安警察やってます(『僕らの目に見えている世界のこと』より改題)

岡智 みみか
SF
自分たちの信じていた世界が変わる。日常が、常識が変わる。世界が今までと全く違って見えるようになる。もしかしたらそれを、人は『革命』と呼ぶのかもしれない。警視庁サイバー攻撃特別捜査対応専門機動部隊、新入隊員磯部重人の新人教育が始まる。SFだってファンタジーだ!!

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

AI使いの冒険者、ドローンとハッキングで無双する ~手段を選ばず金儲けしていたら宇宙一の大富豪になっていました~

田島はる
SF
仕事をクビになったカイルは自分の天職が冒険者であることを知り、冒険者に転職した。 ドローンやハッキングを駆使して海賊を討伐していくも、コスパの悪さからデブリ(宇宙ゴミ)の回収をするようになった。 廃棄された宇宙船や人工衛星を回収するうちに、整備すれば使えるものが多いと知り、そこに商機を見出していく。 「あれ、これデブリを回収した方が儲かるんじゃないか?」 時に捕まえた海賊に強制労働させ、時に新たなスキルを作って販売し、カイルは事業を拡大していくのだった。 ※本作では科学的な考証等は一切しませんのであしからず。

僕が美少女になったせいで幼馴染が百合に目覚めた

楠富 つかさ
恋愛
ある朝、目覚めたら女の子になっていた主人公と主人公に恋をしていたが、女の子になって主人公を見て百合に目覚めたヒロインのドタバタした日常。 この作品はハーメルン様でも掲載しています。

意味が分かると怖い話 完全オリジナル

何者
ホラー
解けるかなこの謎ミステリーホラー

処理中です...