たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

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斎藤福寿、守咲窓華との日々。

6 アニメの話と特別な今

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「まぁ、私がそんなに簡単に死ぬと思わないことだね」
と窓華さんは嫌な笑みを浮かべる。僕も窓華さんはこういう人間だったと感じる。
「期待せずに死ぬまでゆっくり待ってますよ」
「それって私に早く死んで欲しいってこと?酷いな」
「生きている時を大事にして欲しいだけですよ」
その言葉を聞いて何故か窓華さんは照れている。こんな姿を見てしまったら、僕の方が恥ずかしくなってしまう。
「このアニメの最終話までは死にたくないなぁ。それに劇場版も延期って聞くし、そのときは呪と行きたいと思っているよ」
「いつまで死なないつもりなんですか?残された寿命を考えてます?」
僕は呆れてしまう。半年以内に自分が死ぬと窓華さんはわかっている。それなのにもっとこの暮らしをしたいつもりだろうか?劇場版だって最近PVが公開されたぐらいだ。まだ上映までは時間がかかる。それに今は映画館などに行かずとも家で同じように観れる。映画館に行くような人は、グッズが欲しいオタクとかだ。僕みたいにパンフレットが紙媒体で欲しいとか、そういうことを考える古いオタクが行く。アニメの映画は今でもこういう面で人気だ。普通の映画はほとんど廃れてしまった。でも、オタクの熱意はすごい。
「なんだかんだいって、呪と居る生活って好きだな」
「僕は保護人と住む生活なんて仕事でも嫌です」
「そうだよねぇ、でも私は非日常って感じで好きだよ」
と言った。今日も魔法少女は血まみれになって戦い、次回へ続くといった感じだったので、僕はそこでテレビを消した。
「なにしているの?エンディングとそのあとの次回予告とおまけが面白いのに」
「でも、それって動画サイトで見れるじゃないですか」
「リアタイで見てないくせによく言うね!」
「それは窓華さんも一緒でしょう?」
僕は毎回同じ曲が流れるものはスキップしていた。それに毎週見るのだから動画サイトで次回予告は見る。
「呪って、なんか効率主義者だよね」
と言って窓華さんは僕に呆れていた。僕も同じくそんなことを言う窓華さんに呆れていた。それより僕は李さんにお高いスーツの手配を頼まなければいけない。それに遠い旅行なんて今まで行ったことなかったから、スーツケースすら持っていない。

『もしもし、李さん』
『どうしたの?』
『窓華さんにドレスとか配給であって、僕はそれに見合った服を持っていないからそれを届けて欲しいんです』
『そうだよねぇ、斎藤君が持っているはずないよねぇ』
なんか嫌味に言われたような気がして僕はイラッときた。李さんは赤い裏地のスーツを着ていたような人だ。お洒落なスーツだってたくさん持っているのだろう。
『あと、旅行かばん入ってなかったですよ?僕はスーツケースみたいなものも持ってないです』
『大学時代に友達と旅行とか行かなかったのかい?』
『いや、そういう友達は居なくて……』
『分かった分かった、霞さんと正反対な斎藤君にも手配しておくよ。明日には届くと思うから』
『ところで旅行ってだいたいで良いですけど、いつぐらいに行けるんです?』
僕は李さんが日程について言わないことが気になっていた。
『それは言えないんだよなぁ。海外に行くことは一応、法律違反でしょ?そういう政府の目を盗んで行くんだから、俺の合図に合わせてもらうよ』
『最初に言われたように、いつでも出れるように準備しておけってことですか』
『そういうこと。保護人にもそう伝えといてね』
李さんは難しいことを簡単そうに言う。それに僕だって用意しなきゃいけないことがたくさんある。
『分かりました。よろしくお願いします』
と言って電話を切る。これは早速窓華さんにも言わなければいけない。窓華さんは朝のニュースの三択クイズをいつものように見ている。

「李さんから言われたんですけど……」
「あ、呪もスーツ頼んだんだ」
「まぁ、そうですよ。それよりも、いつでも出発できるようにしてくださいね」
「え、さっきも聞いたけどそれは無理だよ」
確かに女の人は僕ら男と違って準備が大変かもしれない。しかし、配給量だって多いのだし、僕より準備を早く開始することができるだろう。僕なんてスーツは一着しか持っていない。
「李さんに言われたんですよ。法律違反のことをするから、うまい具合に政府の目を盗んで行くみたいな感じで」
「へぇ、なんか面白いね」
「何が面白いんですか」
「だって、まるで犯罪者って感じじゃん」
喜代也が効かない異端者であり保護人でもある窓華さんはそう言った。僕は呆れてしまう。
「僕は窓華さんと違って善良な国民ですから」
「分かっているよぉ。からかっているだけだよ」
窓華さんはけらけら笑っていた。そして、今日はテレビに平和が戻っており三択クイズが当たったようで、よしって言って喜んでいた。
「私は今の生活も悪くないって本当に思っているよ。でも、一緒に旅行に行けるのが家族だったらって考えちゃうよね」
「普通にしていたら海外なんて行けませんからね」
「だから、私は今とても幸せだよ」
窓華さんは真っ直ぐ僕の目を見て言った。僕は照れてしまう。何、照れているのとまた窓華さんにからかわれた。でも、僕だってこの仕事、寿管士にならなければ海外に行くことなんてなかっただろう。
「じゃあ、早速私も準備してくるね」
と言って窓華さんは部屋へ戻っていった。
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