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斎藤福寿、守咲窓華との初めての夜。
7 変わらない守咲窓華
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「あれ、窓華さん?」
”いや、危ないところだったね”
「李さんですか?どうして?」
首輪から李さんの声がする。確かに普通に考えれば危ないところだった。包丁はマットレスに刺さり、ベッドの左側は血の海だ。
”斎藤君に命の危険があると判断した場合は、電流で気絶させるの”
「そんな説明を僕は受けていませんよ」
”だって言ってないもん。こんなことは滅多に起こらないから”
僕は首輪に守られたのかと分かった。この首輪のシステムを作った人は李さんでマザーも作っている。マザーに作れと言われたから作ったのか。それとも必要と思って作ったのか。僕はそんなことを考えていた。
「そうですか」
”まぁ、早く寝て忘れることだね。おやすみ”
「僕達の会話っ聞かれているんですか?」
こういった反応ができるということは会話が聞かれている可能性がある。僕が下僕のように使われている生活も、李さんに筒抜けなのかも。もしかしたらマザーにも伝わっているかもしれない。霞さんはどうしているのだろうか。
”全部じゃないけどね。じゃあ、明日二人で庁舎来て。電流は一回分しか入ってないからさ、充電も必要だし”
「分かりました。おやすみなさい」
そうは言ったものの、僕の足元で倒れる窓華さんをどうしたら良いのか分からなくて困っていた。僕は流れる血をそのままにして、窓華さんを部屋まで運ぶ。この場合は止血すべきなのだろうか?でも包帯の巻き方なんて知らない。窓華さんのベッドも血の海だった。僕を殺そうとする前に包丁で右腕を切っていたわけだ。血だらけのベッドはお揃いと思うと乾いた笑いが出る。僕はベッドで寝るにも、冷静になると血が気になって、リビングのソファーで寝ることにした。
「おっはよう、八時だよ」
「おはようございます。元気ですね」
僕の左半身は血が固まっていた。窓華さんも包帯を右腕に巻いてはいるのもも昨日のこともあり、もこもこのパジャマには血がべっとりついている。僕の三本線のジャージは右側が血みどろになっている。鏡合わせのようなその血の色に、僕は昨日の夜あったことが事実だったのかと思う。それでも平和に見えるのは窓華さんが作った朝食の良い匂いがするからだろう。僕は至って平和な生活が今日も始まるだけで、昨日の夜が異質だったのだと思った。
「どうせ私は死ぬ覚悟のない人間ですから」
「根に持ってますねぇ」
促されるままにリビングの椅子に座り、並べられた朝食を見ていた。トーストとバターが皿に乗せられハムエッグと、ゆでたまごを切ってレタスと添えたサラダがあった。なんて平和な一日の始まりだろう。
「でも、呪のことは嫌いじゃないよ」
「それは良かった」
昨日、僕のことを嫌いと言っていたけどあれは言い過ぎだと感じたのか、窓華さんの方から訂正してきた。僕は朝食を食べようと思ったけど、斜めに切られたトーストと半分に割ったゆでたまごを見て、思うことがあった。
「でも、電流が流れることを教えないのは卑怯だよ」
「いや、僕も説明されていませんでした」
「そうかそうか」
窓華さんも納得するように言って、朝食を食べ始める。僕はやっぱり気になることは聞きたくて、食事に手を付けられなかった。昨日の包丁で作った料理だったらどうしようかと僕は思っていた。
「これって、昨日の手首切った包丁で料理作ってません?」
「そういうの気にするんだ?」
「普通はしますよ」
「私は普通じゃないから気にならない」
窓華さんはバターじゃなくていちごジャムを塗っている。右手の袖は血が固まって茶色くて、いちごジャムとは思えない。でも、昨日の夜僕が見た窓華さんの腕はいちごジャムの赤い色をしていた。
「あぁ、そう……」
「もっと良い反応を期待したのに。ちなみに包丁は別のものだよ」
その言葉を聞いて僕はほっとした。そして僕もトーストにバターを塗って食べ始める。窓華さんは食べ始めるのを見てからテレビをつけた。
「安心して食べられますね」
「あ、その言い方は酷いかも」
いや、酷いだろうか?僕は人の肉を切った包丁を使った食べ物を食べたくないって普通のことに感じるのだけれども。まぁ、これはその包丁とは別のものだから気にしないけれど。
「昨日、呪は戻りたい過去がないって言ったけど本当なの?」
「そうですよ、幸せだった過去がありません」
僕はトーストを頬張りながら答える。戻りたくない過去ばかりだ。それに今現在だって将来の自分からしたら、戻りたくない時代だと思う。
「寂しい人生だね。私は結婚した頃に戻りたいなぁ、ほら新婚時代のラブラブみたいなさ。あぁ、懐かしい」
「僕にとっては戻りたい過去があるだけで人生を楽しんでいると思えますね」
「呪って本当に人生楽しんでないなぁ……」
うちの両親は仲が良いけど、新婚時代はどうだったのだろう。今はマザーが結婚相手を決めるから、離婚率も少ない。それに結婚して不幸になったと感じる人だって少ないし、幸せな人が多い。それはマザーが決めた人と結婚したからであって、僕と詩乃みたいな自然恋愛はどうなのだろうか。
「食べ終わったら庁舎行きますから」
「えぇ、何で?」
窓華さんはびっくりしていた。だって、昨日庁舎に行ったばかりで、僕との生活がこれからの生活と李さんに教えられていたと思うから。
「首輪の電力がなくなったからです」
「じゃあ、今なら気絶させられずに呪を殺せるってこと?」
その言葉に僕はぎくりとする。昨日みたいに死ぬかもしれない瞬間は怖いと感じなかったと言うのに、この今の言葉は怖いものがある。
「まぁ、そうなりますけどやめてくださいね」
「分からないよぉ、私は未来のない人間だから」
茶化すように窓華さんは言って、食器も片付けずに自室に戻っていった。僕は今日の配給とミネラルウォーターを運び、部屋で着替える。そしてパソコンの画面を開いてパジャマとベッド用品の配給を頼んでいた。こうやって、朝になってベッド周りを見ると、床にも血がついている。僕はそれを拭きながら、酷い生活が始まってしまったのかもしれないと思っていた。そして僕は少し切られた首に絆創膏を貼る。痛くはないけど、切り傷が見えるのはカミソリ負けしたようで嫌だった。
”いや、危ないところだったね”
「李さんですか?どうして?」
首輪から李さんの声がする。確かに普通に考えれば危ないところだった。包丁はマットレスに刺さり、ベッドの左側は血の海だ。
”斎藤君に命の危険があると判断した場合は、電流で気絶させるの”
「そんな説明を僕は受けていませんよ」
”だって言ってないもん。こんなことは滅多に起こらないから”
僕は首輪に守られたのかと分かった。この首輪のシステムを作った人は李さんでマザーも作っている。マザーに作れと言われたから作ったのか。それとも必要と思って作ったのか。僕はそんなことを考えていた。
「そうですか」
”まぁ、早く寝て忘れることだね。おやすみ”
「僕達の会話っ聞かれているんですか?」
こういった反応ができるということは会話が聞かれている可能性がある。僕が下僕のように使われている生活も、李さんに筒抜けなのかも。もしかしたらマザーにも伝わっているかもしれない。霞さんはどうしているのだろうか。
”全部じゃないけどね。じゃあ、明日二人で庁舎来て。電流は一回分しか入ってないからさ、充電も必要だし”
「分かりました。おやすみなさい」
そうは言ったものの、僕の足元で倒れる窓華さんをどうしたら良いのか分からなくて困っていた。僕は流れる血をそのままにして、窓華さんを部屋まで運ぶ。この場合は止血すべきなのだろうか?でも包帯の巻き方なんて知らない。窓華さんのベッドも血の海だった。僕を殺そうとする前に包丁で右腕を切っていたわけだ。血だらけのベッドはお揃いと思うと乾いた笑いが出る。僕はベッドで寝るにも、冷静になると血が気になって、リビングのソファーで寝ることにした。
「おっはよう、八時だよ」
「おはようございます。元気ですね」
僕の左半身は血が固まっていた。窓華さんも包帯を右腕に巻いてはいるのもも昨日のこともあり、もこもこのパジャマには血がべっとりついている。僕の三本線のジャージは右側が血みどろになっている。鏡合わせのようなその血の色に、僕は昨日の夜あったことが事実だったのかと思う。それでも平和に見えるのは窓華さんが作った朝食の良い匂いがするからだろう。僕は至って平和な生活が今日も始まるだけで、昨日の夜が異質だったのだと思った。
「どうせ私は死ぬ覚悟のない人間ですから」
「根に持ってますねぇ」
促されるままにリビングの椅子に座り、並べられた朝食を見ていた。トーストとバターが皿に乗せられハムエッグと、ゆでたまごを切ってレタスと添えたサラダがあった。なんて平和な一日の始まりだろう。
「でも、呪のことは嫌いじゃないよ」
「それは良かった」
昨日、僕のことを嫌いと言っていたけどあれは言い過ぎだと感じたのか、窓華さんの方から訂正してきた。僕は朝食を食べようと思ったけど、斜めに切られたトーストと半分に割ったゆでたまごを見て、思うことがあった。
「でも、電流が流れることを教えないのは卑怯だよ」
「いや、僕も説明されていませんでした」
「そうかそうか」
窓華さんも納得するように言って、朝食を食べ始める。僕はやっぱり気になることは聞きたくて、食事に手を付けられなかった。昨日の包丁で作った料理だったらどうしようかと僕は思っていた。
「これって、昨日の手首切った包丁で料理作ってません?」
「そういうの気にするんだ?」
「普通はしますよ」
「私は普通じゃないから気にならない」
窓華さんはバターじゃなくていちごジャムを塗っている。右手の袖は血が固まって茶色くて、いちごジャムとは思えない。でも、昨日の夜僕が見た窓華さんの腕はいちごジャムの赤い色をしていた。
「あぁ、そう……」
「もっと良い反応を期待したのに。ちなみに包丁は別のものだよ」
その言葉を聞いて僕はほっとした。そして僕もトーストにバターを塗って食べ始める。窓華さんは食べ始めるのを見てからテレビをつけた。
「安心して食べられますね」
「あ、その言い方は酷いかも」
いや、酷いだろうか?僕は人の肉を切った包丁を使った食べ物を食べたくないって普通のことに感じるのだけれども。まぁ、これはその包丁とは別のものだから気にしないけれど。
「昨日、呪は戻りたい過去がないって言ったけど本当なの?」
「そうですよ、幸せだった過去がありません」
僕はトーストを頬張りながら答える。戻りたくない過去ばかりだ。それに今現在だって将来の自分からしたら、戻りたくない時代だと思う。
「寂しい人生だね。私は結婚した頃に戻りたいなぁ、ほら新婚時代のラブラブみたいなさ。あぁ、懐かしい」
「僕にとっては戻りたい過去があるだけで人生を楽しんでいると思えますね」
「呪って本当に人生楽しんでないなぁ……」
うちの両親は仲が良いけど、新婚時代はどうだったのだろう。今はマザーが結婚相手を決めるから、離婚率も少ない。それに結婚して不幸になったと感じる人だって少ないし、幸せな人が多い。それはマザーが決めた人と結婚したからであって、僕と詩乃みたいな自然恋愛はどうなのだろうか。
「食べ終わったら庁舎行きますから」
「えぇ、何で?」
窓華さんはびっくりしていた。だって、昨日庁舎に行ったばかりで、僕との生活がこれからの生活と李さんに教えられていたと思うから。
「首輪の電力がなくなったからです」
「じゃあ、今なら気絶させられずに呪を殺せるってこと?」
その言葉に僕はぎくりとする。昨日みたいに死ぬかもしれない瞬間は怖いと感じなかったと言うのに、この今の言葉は怖いものがある。
「まぁ、そうなりますけどやめてくださいね」
「分からないよぉ、私は未来のない人間だから」
茶化すように窓華さんは言って、食器も片付けずに自室に戻っていった。僕は今日の配給とミネラルウォーターを運び、部屋で着替える。そしてパソコンの画面を開いてパジャマとベッド用品の配給を頼んでいた。こうやって、朝になってベッド周りを見ると、床にも血がついている。僕はそれを拭きながら、酷い生活が始まってしまったのかもしれないと思っていた。そして僕は少し切られた首に絆創膏を貼る。痛くはないけど、切り傷が見えるのはカミソリ負けしたようで嫌だった。
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