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斎藤福寿、守咲窓華との初めての夜。
2 子どものオプション
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窓華さんと夕食を食べ、お風呂にも入りこれから寝る準備をしようと考える。こんな時間に眠くなってしまうなんて、ゲームで周回を一晩中していた僕からしたら考えられないと思う。テレビCMでやってるけど、今はエンドザワールドはイベント期間中で限定キャラの配布があるらしい。詩乃は思いっきり周回してるんだろうな。僕はリビングのソファーに座っていたがテレビを消して部屋に戻ろうと思った。すると窓華さんが何か箱のようなものを持ってこちらにやってくる。僕も窓華さんもパジャマでこれから寝るだけという感じなのに、窓華さんはなんか楽しそうだ。
「この部屋いろいろあるねぇ、百人一首見つけちゃった」
「へぇ、そんなものがあるんですね」
僕は生活に困らないものはあると李さんに教えてもらっていたが、百人一首まであるとは思わなかった。窓華さんは新品の百人一首の箱を持って僕の座るソファーの隣にどすんと座った。窓華さんのパジャマはピンクの花柄でとても可愛らしい。僕のパジャマなんてチェックでどこでもありそうなものだ。
「呪はオプションで覚えた派?自分で覚えた派?」
「僕の両親はオプション嫌いで最低限なんですよ」
「そうかぁ、私はオプションは結構付けたつもりだけど、百人一首のオプションは付けてなかったからな」
今の子どもは育児科でオプションをつけることが当たり前だ。僕の親はその試験管の中でのオプションが嫌いで、言語と義務教育の最低限度だった。だから僕はみんなが理解している百人一首を、正月の大会のためだけに覚えた。僕はずるい人間なので最初の文字だけで取れる札を中心に覚えていた。だから百人一首は得意でカルタ取りの成績は上の方だ。
「まぁ、百首覚えれば良いだけですし」
「つけて欲しかったオプションとかある?」
「自転車と逆上がりは付けてほしかったですね」
自転車も逆上がりも練習で僕は習得した。育児科でオプションを付けてくれたのならこんな努力は必要なかったのに。でも僕は公園で補助輪を外した自転車で父さんと母さんと頑張って乗る練習をしたことは覚えている。これは必要なオプションを付けなかったという虐待と通報されて、少し困ったことにもなったのだが。
「なるほどなぁ。私は桜には結構オプション付けてるよ」
「百人一首もですか?」
「もちろん!だって生きることに苦労して欲しくないもの」
僕は百人一首を覚えることが生きる苦労とは思えない。マザーに選んでもらった道を信じて生きることが苦労のような気がする。僕は努力することが嫌いではない。だって努力すれば結果がついてくる。マザーの判定はどんなに努力しても覆ることはなく僕達は従うだけだ。
「僕は自転車乗れたときの達成感も好きですけどね」
「なんか呪はマザーができる前のおじいちゃんみたい」
「そんな笑わないでくださいよ」
自転車の練習をしているとき、僕は周りの親から白い目で見られた。それは当たり前だ。普通はオプションでつけるから。でも、僕は後ろで父さんが自転車を持っていて離したことに気づかなくて、乗れたときの感動は忘れていない。そして逆上がりは苦労しなかったが、体育の先生と練習した経験も良かったと思う。日本の子どもはオプションばかりに頼りすぎなのだと僕は感じる。努力も喜びもない学生生活なんて何が楽しいのだろう。
「笑っちゃうよ。で、何する?」
「二人でできる百人一首なんて、坊主めくりぐらいでしょう」
「それもそうだね」
窓華さんは百人一首の箱を開けて準備を始めていた。坊主めくりは読み札の絵の書いた方を使うゲームだ。男だと手持ちになって、坊主だと手持ちを捨てて、女が出たら坊主で捨てた手持ちがもらえる。女は何人居るのだろう?
「で、坊主めくりをするんですか?」
「そうだなぁ、呪の好きな歌を聞いてから決めるかも。私は君と長生きしたいっていう歌が好き」
「そんな歌ありましたっけ?」
僕が百人一首を覚えたのは小学生で、それから特に復習をしたことなどない。だからそんな歌があったかな?と思っていた。恋の歌だろうか。覚えたときには分からなかった恋の歌だけど、僕は今でも理解できない。
「藤原義孝の歌だし有名だよ。呪はしっかり勉強したの?」
「その歌なら知ってますよ。でも、それは意訳しすぎでしょう。君と出会ったから死ぬことが嫌になったって意味ですよ。まぁ、これもかなり簡易的な翻訳になりますけど……」
あぁ、いかにも女性が好きそうな歌だと僕は思った。藤原義孝は短命なこともあって、好きな人と長生きできなかった可愛そうな歌だ。僕はこれから生きてきて自分が死ぬことが嫌になるぐらい好きになる女性と出会えるのだろうか。詩乃のことは好きだけれども、そこまでの熱量はない。
「呪はどの歌が好きなの?」
「好きというか、響きが好きなのはまにまにですね」
「それは下の句でしょ?言われてもとっさに思い浮かばないよ」
僕は神のまにまにという響きが好きだった。特に歌の意味が好きだったわけでもないし、初見で面白い言葉だなと思っただけ。窓華さんのような熱い思いなんて何もなくて少し恥ずかしくなる
「この旅はから始まるやつですよ。菅原道真の」
「へぇ、そんな渋いのが好きなんだ?」
「学問の神様ですからねぇ」
学問の神様といえば、僕が通った高校も菅原道真を称える神社が近くにある。この人も遣唐使として苦労した役人だ。そして裏切られて左遷された。
「この部屋いろいろあるねぇ、百人一首見つけちゃった」
「へぇ、そんなものがあるんですね」
僕は生活に困らないものはあると李さんに教えてもらっていたが、百人一首まであるとは思わなかった。窓華さんは新品の百人一首の箱を持って僕の座るソファーの隣にどすんと座った。窓華さんのパジャマはピンクの花柄でとても可愛らしい。僕のパジャマなんてチェックでどこでもありそうなものだ。
「呪はオプションで覚えた派?自分で覚えた派?」
「僕の両親はオプション嫌いで最低限なんですよ」
「そうかぁ、私はオプションは結構付けたつもりだけど、百人一首のオプションは付けてなかったからな」
今の子どもは育児科でオプションをつけることが当たり前だ。僕の親はその試験管の中でのオプションが嫌いで、言語と義務教育の最低限度だった。だから僕はみんなが理解している百人一首を、正月の大会のためだけに覚えた。僕はずるい人間なので最初の文字だけで取れる札を中心に覚えていた。だから百人一首は得意でカルタ取りの成績は上の方だ。
「まぁ、百首覚えれば良いだけですし」
「つけて欲しかったオプションとかある?」
「自転車と逆上がりは付けてほしかったですね」
自転車も逆上がりも練習で僕は習得した。育児科でオプションを付けてくれたのならこんな努力は必要なかったのに。でも僕は公園で補助輪を外した自転車で父さんと母さんと頑張って乗る練習をしたことは覚えている。これは必要なオプションを付けなかったという虐待と通報されて、少し困ったことにもなったのだが。
「なるほどなぁ。私は桜には結構オプション付けてるよ」
「百人一首もですか?」
「もちろん!だって生きることに苦労して欲しくないもの」
僕は百人一首を覚えることが生きる苦労とは思えない。マザーに選んでもらった道を信じて生きることが苦労のような気がする。僕は努力することが嫌いではない。だって努力すれば結果がついてくる。マザーの判定はどんなに努力しても覆ることはなく僕達は従うだけだ。
「僕は自転車乗れたときの達成感も好きですけどね」
「なんか呪はマザーができる前のおじいちゃんみたい」
「そんな笑わないでくださいよ」
自転車の練習をしているとき、僕は周りの親から白い目で見られた。それは当たり前だ。普通はオプションでつけるから。でも、僕は後ろで父さんが自転車を持っていて離したことに気づかなくて、乗れたときの感動は忘れていない。そして逆上がりは苦労しなかったが、体育の先生と練習した経験も良かったと思う。日本の子どもはオプションばかりに頼りすぎなのだと僕は感じる。努力も喜びもない学生生活なんて何が楽しいのだろう。
「笑っちゃうよ。で、何する?」
「二人でできる百人一首なんて、坊主めくりぐらいでしょう」
「それもそうだね」
窓華さんは百人一首の箱を開けて準備を始めていた。坊主めくりは読み札の絵の書いた方を使うゲームだ。男だと手持ちになって、坊主だと手持ちを捨てて、女が出たら坊主で捨てた手持ちがもらえる。女は何人居るのだろう?
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