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斎藤福寿、寿管士としての生活が始まる。
11 役割分担
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テレビでは歌番組をやっていた。僕は歌番組はあまり好きじゃない。どの歌が流行ったころにも、楽しかった思い出がない。それを再確認するようで、昔流行った物を紹介する番組も同様に嫌いだ。僕はすき焼きの汁でご飯を食べるようなことはせず糸こんにゃくで食べた。そして今はデザートタイムだ。窓華さんは期間限定のシールが貼ったティラミスの蓋を外し、スプーンで食べていた。
「やっぱり安定の美味しさがあるのはティラミスだよ」
「そうですか。僕は最近のプリンはどうかと思いますね」
「呪はプリンに何を思うの?」
「僕は昔の硬めのプリンが好きなので、ふわとろ系は苦手ですね」
今日買ったプリンも古いタイプのカラメルが下に入った黄色いプリンだ。ムースのような白っぽいプリンは僕は好きになれない。
「ならレアチーズケーキも嫌いなの?」
「分かりますか。やっぱり定番の味が一番なんですよ。僕はこってりしたチーズケーキが好きです」
「いや、呪の好みは分かったけど私と正反対だと思っただけ……」
僕は意気揚々とプリンとチーズケーキの好みを話していて、窓華さんに引かれていることに気づかなかった。僕の好きなものはバレても、相手がそれを好きとは限らない。人って分かり会えないなとひしひしと感じていた。気まずい空気が流れるけれども、僕は特に気にならない。いつもひとりで生きてきた僕にとって、他人にどう思われるとか考えるだけ無駄だと思う。でも、その雰囲気が窓華さんにとっては苦痛だったようで僕に提案をしてきた。
「ついでに当番とかも決めちゃおうよ」
「仕事ですから、雑務も僕がやりますよ」
この底抜けに明るい女性が死ぬ。それまで面倒をみることが僕の仕事。窓華さんが死ぬなんて考えられないけど、喜代也が効かないのだし死ぬ時刻まで僕は知っているわけで、受け入れるしかないのだ。
「こういうときは協力しなきゃ。一緒に暮らすんだから。これは呪もさっき言ってたことだよ」
「そうですね、なら決めましょうか」
「私は力仕事とかは嫌だからね」
さすがの僕でも女性に力仕事はさせない。デートで明らかに軽いかばんを持つようなレディーファーストな男性にはなれないけど、女性だってそこまでのことは求めていないだろうと思った。
「ミネラルウォーターの配給は僕が運びます」
「汚いことも嫌だ」
「なら掃除は僕ですか?」
今日の食器は僕が洗うのかと思った。今日は鍋と茶碗と小皿だ。特に副菜があるわけでもない。まぁ、これくらいのことなら僕がしよう。この生活が僕がマザーによって決められた仕事なのだから。
「面倒なこともしたくない」
「そうなると、やっぱり僕がすることが多くなりそうですが……」
「それが呪の仕事だから仕方ないよ」
笑いながら窓華さんは言う。確かに僕の仕事だけど、協力する方が良いと言っていたのはそっちなのでは?どうして僕ばかり……
「あの、さっきから言っていることが矛盾していますよ」
「だって、何もやりたくないのが本音だもん」
「ついに言いましたね」
窓華さんの本音を聞いて僕はこの人はこういう人間なのかと思った。それに無理に押し付ける強さも僕にはなく、逆らうことなんてできない。あのマザーが僕と窓華さんを引き合わせたわけで、きっと相性が悪いはずはない。でも、僕はマザーの考えを不思議に思っていた。
「なんで、家族以外の人の面倒を見るわけ?家族でも嫌なのに」
「そっくりそのまま、その言葉をお返ししますよ」
「そういう言い方が嫌味だと思う」
僕らは一緒に暮らすだけで家族ではない。僕が実家で暮らしていたときは、母さんが家事をすべてやってくれたけど、僕がやるしかないのだろう。僕は嫌味だと言われたけど、どうとでも言えば良い。
「僕はどう思われても構いませんよ」
「どうせ私が死ぬから?」
「誰でもゴールは死ですよ」
喜代也を打っていても、寿命になれば殺される。だから早いか遅いかだけで人間も生き物でいつかは死ぬ。幸せに死ぬために僕らは生きているときに努力しているだけだ。最終的にはみんな死ぬのだ。
「もっと優しい言葉をかけてくれても良かったのに酷い」
「酷いのはどちらですか。僕が家事はやりますよ」
家事は僕がやると言ったら、窓華さんは僕の言葉を遮るように机をバシッと叩いたからびっくりしてしまう。驚いていると一言だけ僕に言った。
「私、料理は作る。作るだけ」
「分かりました。コンベより手料理の方が好きなので片付けは任せてください」
「本当、簡単な料理しかできないからよろしく」
料理は作ってくれるらしい。僕はここ数日のコンベの食事を嫌だと思っていたから有り難い。でも、今日みたいな副菜のない食事なんだろうな。まぁ、僕は料理なんてできないから任せるけど。
「僕はパスタを茹でることも焦がして無理なので……」
「どうして、パスタが焦げるの?ちゃんと沸かしてから入れてる?」
「あれって沸騰させてから入れるんですか?」
僕は水からパスタを入れて茹でていた。だからそれにびっくりしてしまう。最近便利用品としてコンベのレンジ機能で茹でることができる容器ができた。それを買ってからはパスタは食べれるけど、あれは量が調節しにくいのであまり使いたくない。
「当たり前だよ。そうめんとかも同じだから」
「へぇ、初めて知りました」
料理って基礎がなってないと何もできないと言うけれど、実際問題そうなのだなと僕は思った。そうめんとひやむぎは太さが違うと習った。だからと言って、どっちが好きとかはない。出されたものを食べるだけだ。
「一人暮らしの経験はないの?」
「大学時代は一人暮らしでしたよ。料理なんてしませんでしたけど」
寮で生活していたときのことを思い出す。あの頃はコンベも嫌でコンビニでお弁当を買っていた。だから僕は大学時代はぽっちゃり体型だった。大学院になって就職のためにデブは良くないと言われ、コンベの食事にしたけど。
「私もさっき言った言葉撤回でよろしく。パスタも茹でれない人は良い旦那さんにはならない」
「もうそれで良いですよ」
僕は窓華さんの言葉に呆れてしまった。やはり窓華さんは皿を洗い場に持っていくこともせず、ソファーでテレビを見始める。食器を運ぶことから僕の仕事はスタートなのかと思い最悪だと感じていた。
「やっぱり安定の美味しさがあるのはティラミスだよ」
「そうですか。僕は最近のプリンはどうかと思いますね」
「呪はプリンに何を思うの?」
「僕は昔の硬めのプリンが好きなので、ふわとろ系は苦手ですね」
今日買ったプリンも古いタイプのカラメルが下に入った黄色いプリンだ。ムースのような白っぽいプリンは僕は好きになれない。
「ならレアチーズケーキも嫌いなの?」
「分かりますか。やっぱり定番の味が一番なんですよ。僕はこってりしたチーズケーキが好きです」
「いや、呪の好みは分かったけど私と正反対だと思っただけ……」
僕は意気揚々とプリンとチーズケーキの好みを話していて、窓華さんに引かれていることに気づかなかった。僕の好きなものはバレても、相手がそれを好きとは限らない。人って分かり会えないなとひしひしと感じていた。気まずい空気が流れるけれども、僕は特に気にならない。いつもひとりで生きてきた僕にとって、他人にどう思われるとか考えるだけ無駄だと思う。でも、その雰囲気が窓華さんにとっては苦痛だったようで僕に提案をしてきた。
「ついでに当番とかも決めちゃおうよ」
「仕事ですから、雑務も僕がやりますよ」
この底抜けに明るい女性が死ぬ。それまで面倒をみることが僕の仕事。窓華さんが死ぬなんて考えられないけど、喜代也が効かないのだし死ぬ時刻まで僕は知っているわけで、受け入れるしかないのだ。
「こういうときは協力しなきゃ。一緒に暮らすんだから。これは呪もさっき言ってたことだよ」
「そうですね、なら決めましょうか」
「私は力仕事とかは嫌だからね」
さすがの僕でも女性に力仕事はさせない。デートで明らかに軽いかばんを持つようなレディーファーストな男性にはなれないけど、女性だってそこまでのことは求めていないだろうと思った。
「ミネラルウォーターの配給は僕が運びます」
「汚いことも嫌だ」
「なら掃除は僕ですか?」
今日の食器は僕が洗うのかと思った。今日は鍋と茶碗と小皿だ。特に副菜があるわけでもない。まぁ、これくらいのことなら僕がしよう。この生活が僕がマザーによって決められた仕事なのだから。
「面倒なこともしたくない」
「そうなると、やっぱり僕がすることが多くなりそうですが……」
「それが呪の仕事だから仕方ないよ」
笑いながら窓華さんは言う。確かに僕の仕事だけど、協力する方が良いと言っていたのはそっちなのでは?どうして僕ばかり……
「あの、さっきから言っていることが矛盾していますよ」
「だって、何もやりたくないのが本音だもん」
「ついに言いましたね」
窓華さんの本音を聞いて僕はこの人はこういう人間なのかと思った。それに無理に押し付ける強さも僕にはなく、逆らうことなんてできない。あのマザーが僕と窓華さんを引き合わせたわけで、きっと相性が悪いはずはない。でも、僕はマザーの考えを不思議に思っていた。
「なんで、家族以外の人の面倒を見るわけ?家族でも嫌なのに」
「そっくりそのまま、その言葉をお返ししますよ」
「そういう言い方が嫌味だと思う」
僕らは一緒に暮らすだけで家族ではない。僕が実家で暮らしていたときは、母さんが家事をすべてやってくれたけど、僕がやるしかないのだろう。僕は嫌味だと言われたけど、どうとでも言えば良い。
「僕はどう思われても構いませんよ」
「どうせ私が死ぬから?」
「誰でもゴールは死ですよ」
喜代也を打っていても、寿命になれば殺される。だから早いか遅いかだけで人間も生き物でいつかは死ぬ。幸せに死ぬために僕らは生きているときに努力しているだけだ。最終的にはみんな死ぬのだ。
「もっと優しい言葉をかけてくれても良かったのに酷い」
「酷いのはどちらですか。僕が家事はやりますよ」
家事は僕がやると言ったら、窓華さんは僕の言葉を遮るように机をバシッと叩いたからびっくりしてしまう。驚いていると一言だけ僕に言った。
「私、料理は作る。作るだけ」
「分かりました。コンベより手料理の方が好きなので片付けは任せてください」
「本当、簡単な料理しかできないからよろしく」
料理は作ってくれるらしい。僕はここ数日のコンベの食事を嫌だと思っていたから有り難い。でも、今日みたいな副菜のない食事なんだろうな。まぁ、僕は料理なんてできないから任せるけど。
「僕はパスタを茹でることも焦がして無理なので……」
「どうして、パスタが焦げるの?ちゃんと沸かしてから入れてる?」
「あれって沸騰させてから入れるんですか?」
僕は水からパスタを入れて茹でていた。だからそれにびっくりしてしまう。最近便利用品としてコンベのレンジ機能で茹でることができる容器ができた。それを買ってからはパスタは食べれるけど、あれは量が調節しにくいのであまり使いたくない。
「当たり前だよ。そうめんとかも同じだから」
「へぇ、初めて知りました」
料理って基礎がなってないと何もできないと言うけれど、実際問題そうなのだなと僕は思った。そうめんとひやむぎは太さが違うと習った。だからと言って、どっちが好きとかはない。出されたものを食べるだけだ。
「一人暮らしの経験はないの?」
「大学時代は一人暮らしでしたよ。料理なんてしませんでしたけど」
寮で生活していたときのことを思い出す。あの頃はコンベも嫌でコンビニでお弁当を買っていた。だから僕は大学時代はぽっちゃり体型だった。大学院になって就職のためにデブは良くないと言われ、コンベの食事にしたけど。
「私もさっき言った言葉撤回でよろしく。パスタも茹でれない人は良い旦那さんにはならない」
「もうそれで良いですよ」
僕は窓華さんの言葉に呆れてしまった。やはり窓華さんは皿を洗い場に持っていくこともせず、ソファーでテレビを見始める。食器を運ぶことから僕の仕事はスタートなのかと思い最悪だと感じていた。
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