たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

文字の大きさ
上 下
20 / 87
斎藤福寿、普通の日々に苦しむ。

6 謝るしかないじゃないか

しおりを挟む
コンベのオーブン機能で温めた食パンにジャムを塗りながら僕は、今まで通りの朝を迎えていた。いつもと違うことはゲームをしていないぐらいか。
「霞さんは母さん親と北海道旅行するらしいんだ」
「春の北海道も素敵よね。美味しいものたくさんあるわ」
「そんな覚悟を決めた同僚が居るのに、わがまま言ってごめん」
僕は昨日、自暴自棄になって両親に当たった。だからそれについて今になって謝ることにした。両親にはもう会えないかもしれないんだ。そのことを二人はまだ心のどこかで悩んでいたらしく、それからは僕に普段どおり接してくれた。きっとこの僕の行動だってマザーの想定内なのだろう。
「僕はさ、引っ越しの準備を頼める人が居ないから旅行は無理だと思う。でも、上司にいろいろ雑務に使って良いって言われているクレカがあるからさ。何か僕は父さんと母さんにしようと思うよ」
「そんなことしなくて良いよ」
と父さんは言った。でも、僕はどうしても後ろ髪が引かれるのだ。もう会えないような気が本気でするのだ。詩乃にだって何かしたいけど、これは李さんに止められるような気がする。僕は詩乃とも別れることになるかもしれない。
「引っ越しは業者の料金は無料なんだ。だから、誰か頼める人が居るなら僕らだって旅行に行けるし……」
「その気持ちは嬉しいわ」
「どうしても父さんと母さんに何かしたいんだ」
僕は昨日途中から無視をしまったこともあり、両親の優しさ涙が出てきた。僕が不幸になって日本がうまくいくとして、子どもを不幸にしたい親は居ないと思う。二人だって辛いはずだ。寿管士という謎の仕事に、日本に居るはずのない保護人。そんな仕事を子どもにさせるのだから、きっと辛い。

「父さん、母さん、なんか昨日はさ、ごめん」
僕は昨日、両親に当たって無視してしまったことを何度も謝る。でも、これで許してもらおうなんて思っていない。だって、父さんも母さんも僕が幸せになるように育ててきたと思うから。本当は両親を責めるなんて間違っている。そんなことは分かっている。僕はだからこそ今の自分には謝るしか残されていない。
「仕方ないだろ、あんな仕事に就くなんて思わないから」
父さんは僕の肩を持つ。
「そうよ、母さんもね、福寿のことが心配なのよ。ただそれだけ」
母さんも僕を心配してくれる。僕はなんて良い両親の居る家庭に産まれたのだろうと思い、また違う意味で涙が出た。家族でどこかに行くのはこれが最後になるかもしれない。過ちというのは繰り返すから過ちだ!と誰か有名な人が言っいたことを思い出す。僕はもう進路選択に関して過ちは犯さないつもり。決まったことは後悔しないつもりだ。自分なりに受け入れたから。あんなマザーだけど、僕だって幸せになりたい。幸せになる道をマザーが選ぶのならそれに従うしかない。だって僕らは、今の日本はマザージェネレーションでマザーに従うことが一般的なのだから。だからこの結果は仕方がない。誰も恨むことはできないのだ。僕は母さんが運んできたコーヒーにたくさん砂糖を入れて飲んでいる。母さんも紅茶を飲んでいた。
「あら、泣かないの。そんなんだと保護人に舐められちゃうわよ?」
母さんが僕の頭をなでながら言った。僕は母さんの優しさには産まれてきて何度も助けられていた。だから、それが嬉しかったのだ。僕は本当に愚か者だ。こんな両親に心配を二度とかけたくない。だからこの機会の引っ越しは良いきっかけになるだろう。このままずるずる居ても、こういう両親に対する感謝とかそういうの。気づけないままだっただろうし。独り暮らしをしていると言っても近場で助けてもらうことが多かった。これからは恩返しせねば。
「父さん、母さん、今まで本当にありがとう」
僕は本心を口にした。昨日言ったことも本心だけれど、これは家族を喜ばせる本音の話だった。父さんと母さんのおかげでここまで来たのだ。これからは、できるだけ一人で頑張らなければならない。これはきっとマザーが与えた試練だと思う。気まずくなってしまったのは事実だけれども。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

超能力者の私生活

盛り塩
SF
超能力少女達の異能力バトル物語。ギャグ・グロ注意です。 超能力の暴走によって生まれる怪物『ベヒモス』 過去、これに両親を殺された主人公『宝塚女優』(ヒロインと読む)は、超能力者を集め訓練する国家組織『JPA』(日本神術協会)にスカウトされ、そこで出会った仲間達と供に、宿敵ベヒモスとの戦いや能力の真相について究明していく物語です。 ※カクヨムにて先行投降しております。

クロノスの子供達

絃屋さん  
SF
時空調整官ゴーフルは、作業中にクロノスの時空嵐に巻き込まれ若返り退行してしまう。 その日を境に、妹や友人からも子供扱される屈辱の日々を送るはめに……。 さらに、時の砂に関する重要機密を狙う謎の組織に狙われるなど災難が続くのだった。

椿散る時

和之
歴史・時代
長州の女と新撰組隊士の恋に沖田の剣が決着をつける。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

『遠い星の話』

健野屋文乃(たけのやふみの)
SF
数億光年離れた遠い星は、かつての栄えた人類は滅亡し、人類が作った機械たちが、繁栄を謳歌していた。そこへ、人類に似た生命体が漂着した。

アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)

愛山雄町
SF
 ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め! ■■■  人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。 ■■■  宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。  アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。  4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。  その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。  彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。 ■■■  小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。 ■■■ 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。

あやとり

吉世大海(キッセイヒロミ)
SF
人類は世界を宇宙まで進出させた。  地球の「地上主権主義連合国」通称「地連」、中立国や、月にある国々、火星のドームを中心とする「ゼウス共和国」で世界は構成されている。  そして、その構成された世界に張り巡らされたのがドールプログラム。それは日常生活の機械の動作の活用から殺戮兵器の動作…それらを円滑に操るプログラムとそれによるネットワーク。つまり、世界を、宇宙を把握するプログラムである。  宇宙の国々は資源や力を、さらにはドールプログラムを操る力を持った者達、それらを巡って世界の争いは加速する。   ・六本の糸  月の人工ドーム「希望」は「地連」と「ゼウス共和国」の争いの間で滅ぼされ、そこで育った仲良しの少年と少女たちは「希望」の消滅によりバラバラになってしまう。  「コウヤ・ハヤセ」は地球に住む少年だ。彼はある時期より前の記憶のない少年であり、自分の親も生まれた場所も知らない。そんな彼が自分の過去を知るという「ユイ」と名乗る少女と出会う。そして自分の住むドームに「ゼウス共和国」からの襲撃を受け「地連」の争いに巻き込まれてしまう。 ~地球編~ 地球が舞台。ゼウス共和国と地連の争いの話。 ~「天」編~ 月が舞台。軍本部と主人公たちのやり取りと人との関りがメインの話。 ~研究ドーム編~ 月が舞台。仲間の救出とそれぞれの過去がメインの話。 ~「天」2編~ 月が舞台。主人公たちの束の間の休憩時間の話。 ~プログラム編~ 地球が舞台。準備とドールプログラムの話。 ~収束作戦編~ 月と宇宙が舞台。プログラム収束作戦の話。最終章。 ・泥の中 六本の糸以前の話。主役が別人物。月と宇宙が舞台。 ・糸から外れて ~無力な鍵~  リコウ・ヤクシジはドールプログラムの研究者を目指す学生だった。だが、彼の元に風変わりな青年が現われてから彼の世界は変わる。 ~流れ続ける因~  ドールプログラム開発、それよりもずっと昔の権力者たちの幼い話や因縁が絡んでくる。 ~因の子~  前章の続き。前章では権力者の過去が絡んだが、今回はその子供の因縁が絡む。 ご都合主義です。設定や階級に穴だらけでツッコミどころ満載ですが気にしないでください。 更新しながら、最初から徐々に訂正を加えていきます。 小説家になろうで投稿していた作品です。

処理中です...