たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

文字の大きさ
上 下
19 / 87
斎藤福寿、普通の日々に苦しむ。

5 式部霞からの説教

しおりを挟む
馴染みの焼肉屋に行ってこの日は寝た。焼き肉の煙の匂いがするスエットのままベッドに入りそのまま寝た。でもゲームのログインの四時には起きてしまう。スマホを持ってゲームを起動させようとして、それがないと思うと僕ままた寝た。次に起きると新しいスマホが鳴っている。霞さんからだった。
『もしもし』
『根暗君、おはよう。両親に何するか決めた?』
僕は昨日両親を責めてしまったことを反省している最中だった。僕は弱いからこの未来設計を人のせいにするしかできない。僕は最低の人間だと思う。
『昨日は焼肉に行ったかな?』
『あ、そこであのカード使ったってわけね。やっぱり根暗君も考えるのは親孝行になるよね』
『あのカードは使ってないし、親孝行でもないよ。寿管士になるって決まったこと、両親に八つ当たりしちゃったし』
素直に話す自分に驚いた。これからの僕には李さんと霞さんしか居ない。嘘で取り繕うようなことはしたくなかった。それにありのままの自分で居たい。霞さんの言うように根暗眼鏡で良いのだ。
『君、最低だね。私だって教員になりたかったけど我慢しているんだよ』
『そうだね、霞さんの言う通りだ』
『私なんて最悪よ?これから遺書に年齢を書いてないずっと古くて、よく分からない関係でも一応親族だけど話したこともない老人の面倒も見るの』
喜代也という不死身の薬が広まった今の時代で、死にたい年齢を書いた遺書を残していないなんて珍しい。年齢が書いていない人は一八0歳の誕生日に国家の人に頼んで殺しても良いことになっている。どういう人が来るのかは知らないが、この仕事だって僕みたいな国家公務員だ。この喜代也ができたからマザーができた。喜代也のせいで鎖国することになったりして日本は混乱した。だからマザーにすべてを任せることにした。これさえ日本が作らなかったら、僕はマザーに人生を決められることはなかった。だから普通の人よりも喜代也は不幸の薬だと感じていた。まぁ、あの薬とかぼかして言うまで毛嫌いしているわけじゃないけど。僕は寿命について詳しく聞いても良いかと黙っていたけれど、霞さんはそんな僕のことを気にせず話す。
『国の決める老人の寿命って一八0歳でしょ。それまで面倒みるとして、その時の私は四六歳よ。そこまでどういう人生を送るわけ?この仕事で?』
『霞さんは死にたい年齢を決めているんですか?』
遺書に書いた死にたい年齢を話すことは特に親しい間柄だけではなく、話に困ったときの話題でもある。僕は話に困ってこの話題を出した。霞さんも特に驚いた様子もなくそれに答える。
『沙妃さんはきりが良いからって一00歳にしているし、私も同じかな?』
『沙妃さん?』
『ママのことよ』
喜代也のせいで、老化が少し遅くなっている。これは論文などで確証された事実でもある。実際定年の年齢は一00歳だ。それなのに、きりが良いからという理由でその年齢に死のうとする人が多い。まぁ、社会保障とか年金制度が破綻した日本で生きていくのは辛いからだ。その遺書に書かれた年齢になっても、一八0歳の寿命と同じ職業の人が安楽死させる。喜代也を打った人は普通に死ぬこともできない。

『霞さんは母さん親を名前で呼ぶんだね』
『そうだけど何か問題ある?』
怖い口調で霞さんは答える。僕は問題はないです……と小声で答える。霞さんはそれを聞いてか聞かずか会話を続けた。
『私は沙妃さんと北海道旅行に行こうかなって思っているの』
『それは良いね』
『だって、もう旅行なんてできないかもしれないもん……』
急に霞さんがしんみりと言う。僕は遺書を書いているがそこまで病弱なわけでもなく元気で老人ホームに居る。だから遺書の通りに死ぬのだと思う。死ぬ年齢は相続で問題になるからタブーな話とされていた時期もあるが、今は普通に会話で出てくるような話題だ。僕は旅行までは考えていなかった。
『霞さん、楽しんできてね。それから僕をよろしく』
『旅行については楽しんでくるけどさ、私は根暗君の面倒は見ないよ』
年下の女の人に面倒を見てもらうつもりはない。でも僕は誰かにすがりたいほど弱っていたことも事実で、本心が漏れたと言っても良い。
『まぁ、これは軽い冗談だよ』
『そうだね、分かっているよ。私もよろしくね』
『僕もさ、頼りないけどよろしく』
と言って電話を切った。あれだけ強く見えた霞さんにも、悩むことがなるのだろうなと思うと、人の子なのかと思った。いや、今まで鬼の子どもだと思っていたってわけでもないが、僕は霞さんほど強くないと思った。でも、霞さんだってこの仕事をあてがわれて悩む部分はあるのだ。僕と同じだ。台所からご飯よという母さんの声が聞こえてきたので、僕もその声に従った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

第一機動部隊

桑名 裕輝
歴史・時代
突如アメリカ軍陸上攻撃機によって帝都が壊滅的損害を受けた後に宣戦布告を受けた大日本帝国。 祖国のため、そして愛する者のため大日本帝国の精鋭である第一機動部隊が米国太平洋艦隊重要拠点グアムを叩く。

光と陰がまじわる日(未完成)

高間ノリオ
SF
これはある少年の身に起こる奇々怪界な物語 季節は夏、少年(主人公)の名は優(ゆう)14歳なのだ、ある日手にれた特殊な能力で危機的状況を乗り越えて行く、これから優に何が起きるかは貴方の目で確かめて頂きたい…どうぞ

超能力者の私生活

盛り塩
SF
超能力少女達の異能力バトル物語。ギャグ・グロ注意です。 超能力の暴走によって生まれる怪物『ベヒモス』 過去、これに両親を殺された主人公『宝塚女優』(ヒロインと読む)は、超能力者を集め訓練する国家組織『JPA』(日本神術協会)にスカウトされ、そこで出会った仲間達と供に、宿敵ベヒモスとの戦いや能力の真相について究明していく物語です。 ※カクヨムにて先行投降しております。

夜鴉

都貴
キャラ文芸
妖怪の出る町六堂市。 行方不明に怪死が頻発するこの町には市民を守る公組織、夜鴉が存在する。 夜鴉に在籍する高校生、水瀬光季を取り巻く数々の怪事件。

アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)

愛山雄町
SF
 ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め! ■■■  人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。 ■■■  宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。  アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。  4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。  その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。  彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。 ■■■  小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。 ■■■ 小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。

すべて実話

さつきのいろどり
ホラー
タイトル通り全て実話のホラー体験です。 友人から聞いたものや著者本人の実体験を書かせていただきます。 長編として登録していますが、短編をいつくか載せていこうと思っていますので、追加配信しましたら覗きに来て下さいね^^*

あやとり

吉世大海(キッセイヒロミ)
SF
人類は世界を宇宙まで進出させた。  地球の「地上主権主義連合国」通称「地連」、中立国や、月にある国々、火星のドームを中心とする「ゼウス共和国」で世界は構成されている。  そして、その構成された世界に張り巡らされたのがドールプログラム。それは日常生活の機械の動作の活用から殺戮兵器の動作…それらを円滑に操るプログラムとそれによるネットワーク。つまり、世界を、宇宙を把握するプログラムである。  宇宙の国々は資源や力を、さらにはドールプログラムを操る力を持った者達、それらを巡って世界の争いは加速する。   ・六本の糸  月の人工ドーム「希望」は「地連」と「ゼウス共和国」の争いの間で滅ぼされ、そこで育った仲良しの少年と少女たちは「希望」の消滅によりバラバラになってしまう。  「コウヤ・ハヤセ」は地球に住む少年だ。彼はある時期より前の記憶のない少年であり、自分の親も生まれた場所も知らない。そんな彼が自分の過去を知るという「ユイ」と名乗る少女と出会う。そして自分の住むドームに「ゼウス共和国」からの襲撃を受け「地連」の争いに巻き込まれてしまう。 ~地球編~ 地球が舞台。ゼウス共和国と地連の争いの話。 ~「天」編~ 月が舞台。軍本部と主人公たちのやり取りと人との関りがメインの話。 ~研究ドーム編~ 月が舞台。仲間の救出とそれぞれの過去がメインの話。 ~「天」2編~ 月が舞台。主人公たちの束の間の休憩時間の話。 ~プログラム編~ 地球が舞台。準備とドールプログラムの話。 ~収束作戦編~ 月と宇宙が舞台。プログラム収束作戦の話。最終章。 ・泥の中 六本の糸以前の話。主役が別人物。月と宇宙が舞台。 ・糸から外れて ~無力な鍵~  リコウ・ヤクシジはドールプログラムの研究者を目指す学生だった。だが、彼の元に風変わりな青年が現われてから彼の世界は変わる。 ~流れ続ける因~  ドールプログラム開発、それよりもずっと昔の権力者たちの幼い話や因縁が絡んでくる。 ~因の子~  前章の続き。前章では権力者の過去が絡んだが、今回はその子供の因縁が絡む。 ご都合主義です。設定や階級に穴だらけでツッコミどころ満載ですが気にしないでください。 更新しながら、最初から徐々に訂正を加えていきます。 小説家になろうで投稿していた作品です。

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

処理中です...