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斎藤福寿、寿管士に就職する。
12 いつかやってくる八月二六日の二時五六分
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「ところで、死ぬまで一緒に暮らすって言うけど、死ぬ瞬間は同席ですか?それもマザーの考えになるんですよね?」
「それはどっちでも良いよ。霞さんの担当は昼に死ぬけど、斎藤君の担当の保護人は夜に死ぬからね。カウントダウンしながら夜更かしでもしちゃう?」
と僕が聞くと男性はそう笑って答えた。僕にとっては死を年末年始のようにカウントダウンするとか不謹慎なことはできない。夜中に死ぬということは、死を目の当たりにしなくて良いと言うことか。僕は親族で誰も死んだ人が居なくて人の死に触れたことがなかった。だからほっとしていた。
「死期は分かるのに死因が分からないとか、マザーもどうかと思うわ」
「まぁ、育ちの良い世間知らずの女の子だからって思っているだろうが、マザーはマザー様だ」
「これから一週間後にまたここに保護人を迎えに来てもらうから、そのときに君たちが責任を持って首輪ははめてもうらうことになっている。そしてそれが外れるまで一緒に暮らしてもらうかな」
分厚く青いファイルを渡され、事実を聞かされた。改めて僕らは本当にやばい仕事に就いてしまった。保護人と暮らすためにそんな特別な機械まで用意されているなんて。僕と保護人はマザーから逃げられない。日本からも逃げられない。
「君達にも生活に困らない程度の配給は用意するつもり。配給をパソコンから頼めるようにしてあるんだ。もちろん保護人も」
「私は配給なんて嫌よ。服とか化粧品は自分で選びたいの」
「その保護人って今はどこに居るんです?」
あと半年というのなら、どこで生活しているのだろう。一般人に紛れてあと半年の命と知りながら怯えているのだろうか。
「斎藤君ねぇ、さっき言っただろう。今は保護人じゃなくて一般人だって」
「なら、一般人に紛れているんですよね」
「それだけで俺は精神が強いって思っちゃうな。家族と離れて寿管士と暮らすことを選んだ人も、保護期間になるまでは普通に生活するんだから」
僕は男性の言うことはよく理解できない。喜代也でさえも救えない命とあるということは分かるのだけれども。今も普通に日本国民として過ごしている人が、自分が保護人と知って生きている。それはどんな孤独だろう。喜代也が効かないことも言えず死ぬ前になったら僕らみたいな悪魔が迎えに来るなんて。
「そんなの、やっぱり国家権力で安楽死でも良くない?」
霞さんはさっきからファイルを片手で持ちパラパラめくっている。よくこんな重いものを軽々と持てるものだと僕は思った。僕は机の上に広げて読んでいる。
「霞さんもそう思う?俺だってそう思うよ。実際、死を選ぶ方向で対策は取れるんじゃないかって」
「やっぱり、マザーの未来予測は変えられないんですか?死因が分からないとか僕はどう接したら良いのか……」
重たいファイルに載っている情報なんて、マザーのちょっとした誘導で変えられるのではないだろうかと思った。このファイルには喜代也についての接種とそれから効かないと分かるまでの経緯も書かれている。マザーというパソコンがあれだとしても有能ならば、喜代也の問題だって解決できるはずだ。
「そうなんだよなぁ。マザーの予測した未来は基本的に変えられないからね。この仕事があるのも仕方ないんだ。観測された保護人と言っても、今は普通に世間で生活している一般人だ。でも、自分が保護人だと自覚はある」
僕はマザーの意見は正しいわけではない。でも絶対だと思って生きてきた。こんなに判定がザルだということにびっくりした。そしてマザーの決めた未来は決定済みだと勘違いしていた。男性は基本的に変えられないと言った。そういう変えられないという未来は、変えることができるのだろうか。
「基本的に変えられない?マザーは絶対のこの日本で?」
「うん、マザーも完璧のようで抜けているところあるからね」
「そんなものに僕らは人生を預けているんですか……」
僕は呆れてしまう。僕だってマザージェネレーションで、将来設計においてはマザーに任せれば完璧だと思っていた。でも、マザーは簡単に変えられないという未来を見せているだけ。もしかしたら、頑張ればこの結末を変えることのできる未来かもしれないし、僕だって努力すれば就職先が変わっていたのかも。マザーのある世の中でどうやって努力したら良いかなんて分からないけれど、あんな女の子がマザーとしてこの日本に居るのだから仕方ない。
「それでもマザーが指定した日付に死ぬんだ?」
霞さんはファイルを置くと、冷たい声で呆れるように言った。どこかこの無意味な現実を諦めた様子だ。やっぱり僕と違って霞さんは強い女の人だ。霞さんがか弱いって自分で言ったことを思い出して吹き出しそうになる。
「まぁ、そうなるけど今は一緒に生きることが任務だな」
「そこからはまだ新しい保護人ですか?」
「あぁ、その繰り返しが仕事だ」
僕は人の心を動かすような立派な生き方を選んでこなかった。だから、不安なのだ。マザーのことを嫌いに思う反面、マザーによって選ばれた仕事と決められた完璧な未来に甘えている部分があるから。
「マザーが選んだ君たちを信用していないわけではないよ?でも何でも最初が肝心だからね。寿管士という仕事に全力で取り組んで欲しい」
「それって詭弁ね」
少なからずだが、僕だってそう思った。言わないだけで。こういうことをすらっと言えるってやはり霞さんはしっかりした考えを持っている。僕と違ってこの仕事を受け入れる心の準備ができているのかも……
「そうかもしれないな」
と男性は静かな声で言った。僕らは男性の言葉に何も言えなくなった。
「それはどっちでも良いよ。霞さんの担当は昼に死ぬけど、斎藤君の担当の保護人は夜に死ぬからね。カウントダウンしながら夜更かしでもしちゃう?」
と僕が聞くと男性はそう笑って答えた。僕にとっては死を年末年始のようにカウントダウンするとか不謹慎なことはできない。夜中に死ぬということは、死を目の当たりにしなくて良いと言うことか。僕は親族で誰も死んだ人が居なくて人の死に触れたことがなかった。だからほっとしていた。
「死期は分かるのに死因が分からないとか、マザーもどうかと思うわ」
「まぁ、育ちの良い世間知らずの女の子だからって思っているだろうが、マザーはマザー様だ」
「これから一週間後にまたここに保護人を迎えに来てもらうから、そのときに君たちが責任を持って首輪ははめてもうらうことになっている。そしてそれが外れるまで一緒に暮らしてもらうかな」
分厚く青いファイルを渡され、事実を聞かされた。改めて僕らは本当にやばい仕事に就いてしまった。保護人と暮らすためにそんな特別な機械まで用意されているなんて。僕と保護人はマザーから逃げられない。日本からも逃げられない。
「君達にも生活に困らない程度の配給は用意するつもり。配給をパソコンから頼めるようにしてあるんだ。もちろん保護人も」
「私は配給なんて嫌よ。服とか化粧品は自分で選びたいの」
「その保護人って今はどこに居るんです?」
あと半年というのなら、どこで生活しているのだろう。一般人に紛れてあと半年の命と知りながら怯えているのだろうか。
「斎藤君ねぇ、さっき言っただろう。今は保護人じゃなくて一般人だって」
「なら、一般人に紛れているんですよね」
「それだけで俺は精神が強いって思っちゃうな。家族と離れて寿管士と暮らすことを選んだ人も、保護期間になるまでは普通に生活するんだから」
僕は男性の言うことはよく理解できない。喜代也でさえも救えない命とあるということは分かるのだけれども。今も普通に日本国民として過ごしている人が、自分が保護人と知って生きている。それはどんな孤独だろう。喜代也が効かないことも言えず死ぬ前になったら僕らみたいな悪魔が迎えに来るなんて。
「そんなの、やっぱり国家権力で安楽死でも良くない?」
霞さんはさっきからファイルを片手で持ちパラパラめくっている。よくこんな重いものを軽々と持てるものだと僕は思った。僕は机の上に広げて読んでいる。
「霞さんもそう思う?俺だってそう思うよ。実際、死を選ぶ方向で対策は取れるんじゃないかって」
「やっぱり、マザーの未来予測は変えられないんですか?死因が分からないとか僕はどう接したら良いのか……」
重たいファイルに載っている情報なんて、マザーのちょっとした誘導で変えられるのではないだろうかと思った。このファイルには喜代也についての接種とそれから効かないと分かるまでの経緯も書かれている。マザーというパソコンがあれだとしても有能ならば、喜代也の問題だって解決できるはずだ。
「そうなんだよなぁ。マザーの予測した未来は基本的に変えられないからね。この仕事があるのも仕方ないんだ。観測された保護人と言っても、今は普通に世間で生活している一般人だ。でも、自分が保護人だと自覚はある」
僕はマザーの意見は正しいわけではない。でも絶対だと思って生きてきた。こんなに判定がザルだということにびっくりした。そしてマザーの決めた未来は決定済みだと勘違いしていた。男性は基本的に変えられないと言った。そういう変えられないという未来は、変えることができるのだろうか。
「基本的に変えられない?マザーは絶対のこの日本で?」
「うん、マザーも完璧のようで抜けているところあるからね」
「そんなものに僕らは人生を預けているんですか……」
僕は呆れてしまう。僕だってマザージェネレーションで、将来設計においてはマザーに任せれば完璧だと思っていた。でも、マザーは簡単に変えられないという未来を見せているだけ。もしかしたら、頑張ればこの結末を変えることのできる未来かもしれないし、僕だって努力すれば就職先が変わっていたのかも。マザーのある世の中でどうやって努力したら良いかなんて分からないけれど、あんな女の子がマザーとしてこの日本に居るのだから仕方ない。
「それでもマザーが指定した日付に死ぬんだ?」
霞さんはファイルを置くと、冷たい声で呆れるように言った。どこかこの無意味な現実を諦めた様子だ。やっぱり僕と違って霞さんは強い女の人だ。霞さんがか弱いって自分で言ったことを思い出して吹き出しそうになる。
「まぁ、そうなるけど今は一緒に生きることが任務だな」
「そこからはまだ新しい保護人ですか?」
「あぁ、その繰り返しが仕事だ」
僕は人の心を動かすような立派な生き方を選んでこなかった。だから、不安なのだ。マザーのことを嫌いに思う反面、マザーによって選ばれた仕事と決められた完璧な未来に甘えている部分があるから。
「マザーが選んだ君たちを信用していないわけではないよ?でも何でも最初が肝心だからね。寿管士という仕事に全力で取り組んで欲しい」
「それって詭弁ね」
少なからずだが、僕だってそう思った。言わないだけで。こういうことをすらっと言えるってやはり霞さんはしっかりした考えを持っている。僕と違ってこの仕事を受け入れる心の準備ができているのかも……
「そうかもしれないな」
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