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斎藤福寿、寿管士に就職する。
11 喜代也の効かない人
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「さっきも言ったけど、保護人は思ったよりたくさん日本社会に居る」
「完全には隔離されていないと言うことですか?」
「あの世間知らずのマザーが死期を教えれば良いと思いまーす」
霞さんはやる気のなさそうにマザーに頼る選択肢を出した。僕も言い方は馬鹿げていると思うが、霞さんの意見に賛成だ。
「死亡日時の特定ができているのに、死因は分からないんですよね?」
「それ、それが不思議だよねぇ!」
僕も男性にマザーがどこまで僕らに情報提供してくれるか聞く。僕らの反応に男性は困ったようにできないと言う。これって無責任じゃないだろうか。マザーの言うことを聞いて生きることが当たり前の世の中で、またマザーに頼る。でも今は一般社会にまぎれて保護人は生活している。
「保護人は自分が喜代也が効かないっていつから知ってるの?」
「良い質問だね。打ったときに腫れたでしょ?腫れない人は効かないの。それは言っちゃいけないことになってるから広まらない」
「それなら昔から死ぬ覚悟は出来ているのでは?どうして家族が僕らに丸投げするのかが疑問です」
喜代也を打ったときに利き手じゃない左手に打ったのだけれど、腕が上がらないという時期を三日ほど経験した。だから喜代也で腫れないということは、そこで決意がつくと思うのだけれども。それに最期は家族と過ごす方がきっと良い。
「そういう斎藤君の祖父母は?」
「二人とも老人ホームですね」
「ほら、喜代也が効く健康な老人でも自宅で介護しないじゃん」
僕は黙ってしまう。確かに祖父母は元気で、なんなら曽祖父母も元気だ。それでも家で介護はしていない。曽祖父母は老人ホームに居るけれど、正式なことを言えば祖父母は老人が住むシェアハウスみたいなところに居る。そこにはいつもヘルパーさんが誰か居て、何かあったら対応してくれる。家族よりも本人の立場から、そっちの選択が良いと感じた。保護人と寿管士の関係もそれに近いのだろうか。
「うん、斎藤君の言い分も分かるけど死を前にした人間は分からないからね。火事場の馬鹿力とか言うじゃない?」
「だから半年前ぐらいから私達が面倒見るのか……」
霞さんはどこか納得したようにファイルをめくっている。分厚いファイルの物件情報を見ながら、僕は人物のページを見ようとした。そして今は保護人ではないとされる女性の写真を発見した。
「死亡時期は絶対に言っちゃ駄目だからね。自殺率が増えるから」
「でも、死ぬ間際であることに変わりはないじゃない?もしかしてバスジャックとか犯罪起こされるかもしれないよ?」
気だるい様子で霞さんが聞いた。僕だってそう思う。自分が死ぬとしたら、犯罪を起こしてそれで有名になって死にたいと思う保護人も居るかもしれない。そして僕らがその保護人の寿管士で、一緒に暮らすのだ。
「いつ保護人を確保するかで、その自殺や犯罪は防げるんだ」
「マザーが被害状況を判断するのは分かりますけど、死因が分からないなんて僕はどう接したら良いか分かりませんよ」
「残念ながらな。マザーだって完璧じゃないんだ」
と男性が言う。振り袖を着たあの女の子がマザーなんだから、仕方ないだろうと僕は思う。こんな日本の未来より、お洒落に気を使いたい年頃だろう。いや、パソコンに年代も何もないか。僕もファイルをペラペラめくっていた。アパートの近くにはコンビニがあってそこにバス停がある。商店街までも近いし良い立地だ。保護人と一緒に暮らすということは詩乃は呼べないのかと残念に思った。
「ちょっと、担当の保護人が男性って……」
と同じくファイルをめくっていた霞さんが突然、声を荒げる。僕はまだアパートの間取りなどを見ていたから、担当する保護人のことはまだ読んでいない。
「まぁ、二人にはマザーが決めた保護人が担当になっているから」
僕もつられて人物が書かれたファイルを見る。すると担当することになった保護人について守咲窓華と書いてあり、どうやら女性のようだ。僕より年上で子持ちの主婦だった。どうしてこんな人が死刑になるのだろうと思うぐらい、優しい笑顔の写真が載っている。
「私が保護人に寝込みを襲われたりしたらどうするんですか!」
「そのときは首輪が危険音を鳴らすから、ね?それに寝室とか別だし、霞さんは空手を習っていただろう?」
「まぁ、習ってましたけど。でも、自殺されたり襲われたりしたらトラウマ物ですよ!どうにかならないんですか?」
霞さんはハイヒールを履いていることもあって、僕よりも身長が高い。説明をする男性と同じぐらいの一七0センチはありそうな細身の女の人だ。そうしたら喚くように騒いだ霞さんに男性はあえて静かな声で言った。
「君たちが働くこの仕事はそんな甘えは通用しない仕事だ」
僕だって、説明を聞いて頭では理解したつもりだ。でも、心では理解できていないのは事実で。それで、そんな言葉を聞いてしまったら、僕はどうしたら良いのだろうと迷いが出た。それをお見通しのように
「マザーの真実を知った今、引き返すことはできない。ごめんな」
と男性は言った。僕は本当に寿管士として生きることになってしまった。正直このときの僕はまだこの仕事の意味について理解できていなかったのだ。そして今でも意味なんてあったのかと感じる。守咲窓華の笑顔が離れない。どうしてこんな幸せそうな人に喜代也が効かなかったのだろう。
「僕は運動全く駄目だけど、なんで選ばれたんですか?」
「そうだね、君は運動できないって書いてあるね。だから、担当は今回は女性にしてあるけど、そのうち運動もある程度できるようになってもらわないとなぁ」
僕はずっと勉強で過ごし、暇なときはゲームばかりで運動なんてしてこなかった。それを職業が決まった今、反省することになる。彼女の詩乃も厚生施設で毎日働くようになってゲームの時間が取れないって言っていた。イベントでも期間限定のアイテムを逃すことも多い。そういうとき、僕に学生は良いわねと何度も言ってきた。
「完全には隔離されていないと言うことですか?」
「あの世間知らずのマザーが死期を教えれば良いと思いまーす」
霞さんはやる気のなさそうにマザーに頼る選択肢を出した。僕も言い方は馬鹿げていると思うが、霞さんの意見に賛成だ。
「死亡日時の特定ができているのに、死因は分からないんですよね?」
「それ、それが不思議だよねぇ!」
僕も男性にマザーがどこまで僕らに情報提供してくれるか聞く。僕らの反応に男性は困ったようにできないと言う。これって無責任じゃないだろうか。マザーの言うことを聞いて生きることが当たり前の世の中で、またマザーに頼る。でも今は一般社会にまぎれて保護人は生活している。
「保護人は自分が喜代也が効かないっていつから知ってるの?」
「良い質問だね。打ったときに腫れたでしょ?腫れない人は効かないの。それは言っちゃいけないことになってるから広まらない」
「それなら昔から死ぬ覚悟は出来ているのでは?どうして家族が僕らに丸投げするのかが疑問です」
喜代也を打ったときに利き手じゃない左手に打ったのだけれど、腕が上がらないという時期を三日ほど経験した。だから喜代也で腫れないということは、そこで決意がつくと思うのだけれども。それに最期は家族と過ごす方がきっと良い。
「そういう斎藤君の祖父母は?」
「二人とも老人ホームですね」
「ほら、喜代也が効く健康な老人でも自宅で介護しないじゃん」
僕は黙ってしまう。確かに祖父母は元気で、なんなら曽祖父母も元気だ。それでも家で介護はしていない。曽祖父母は老人ホームに居るけれど、正式なことを言えば祖父母は老人が住むシェアハウスみたいなところに居る。そこにはいつもヘルパーさんが誰か居て、何かあったら対応してくれる。家族よりも本人の立場から、そっちの選択が良いと感じた。保護人と寿管士の関係もそれに近いのだろうか。
「うん、斎藤君の言い分も分かるけど死を前にした人間は分からないからね。火事場の馬鹿力とか言うじゃない?」
「だから半年前ぐらいから私達が面倒見るのか……」
霞さんはどこか納得したようにファイルをめくっている。分厚いファイルの物件情報を見ながら、僕は人物のページを見ようとした。そして今は保護人ではないとされる女性の写真を発見した。
「死亡時期は絶対に言っちゃ駄目だからね。自殺率が増えるから」
「でも、死ぬ間際であることに変わりはないじゃない?もしかしてバスジャックとか犯罪起こされるかもしれないよ?」
気だるい様子で霞さんが聞いた。僕だってそう思う。自分が死ぬとしたら、犯罪を起こしてそれで有名になって死にたいと思う保護人も居るかもしれない。そして僕らがその保護人の寿管士で、一緒に暮らすのだ。
「いつ保護人を確保するかで、その自殺や犯罪は防げるんだ」
「マザーが被害状況を判断するのは分かりますけど、死因が分からないなんて僕はどう接したら良いか分かりませんよ」
「残念ながらな。マザーだって完璧じゃないんだ」
と男性が言う。振り袖を着たあの女の子がマザーなんだから、仕方ないだろうと僕は思う。こんな日本の未来より、お洒落に気を使いたい年頃だろう。いや、パソコンに年代も何もないか。僕もファイルをペラペラめくっていた。アパートの近くにはコンビニがあってそこにバス停がある。商店街までも近いし良い立地だ。保護人と一緒に暮らすということは詩乃は呼べないのかと残念に思った。
「ちょっと、担当の保護人が男性って……」
と同じくファイルをめくっていた霞さんが突然、声を荒げる。僕はまだアパートの間取りなどを見ていたから、担当する保護人のことはまだ読んでいない。
「まぁ、二人にはマザーが決めた保護人が担当になっているから」
僕もつられて人物が書かれたファイルを見る。すると担当することになった保護人について守咲窓華と書いてあり、どうやら女性のようだ。僕より年上で子持ちの主婦だった。どうしてこんな人が死刑になるのだろうと思うぐらい、優しい笑顔の写真が載っている。
「私が保護人に寝込みを襲われたりしたらどうするんですか!」
「そのときは首輪が危険音を鳴らすから、ね?それに寝室とか別だし、霞さんは空手を習っていただろう?」
「まぁ、習ってましたけど。でも、自殺されたり襲われたりしたらトラウマ物ですよ!どうにかならないんですか?」
霞さんはハイヒールを履いていることもあって、僕よりも身長が高い。説明をする男性と同じぐらいの一七0センチはありそうな細身の女の人だ。そうしたら喚くように騒いだ霞さんに男性はあえて静かな声で言った。
「君たちが働くこの仕事はそんな甘えは通用しない仕事だ」
僕だって、説明を聞いて頭では理解したつもりだ。でも、心では理解できていないのは事実で。それで、そんな言葉を聞いてしまったら、僕はどうしたら良いのだろうと迷いが出た。それをお見通しのように
「マザーの真実を知った今、引き返すことはできない。ごめんな」
と男性は言った。僕は本当に寿管士として生きることになってしまった。正直このときの僕はまだこの仕事の意味について理解できていなかったのだ。そして今でも意味なんてあったのかと感じる。守咲窓華の笑顔が離れない。どうしてこんな幸せそうな人に喜代也が効かなかったのだろう。
「僕は運動全く駄目だけど、なんで選ばれたんですか?」
「そうだね、君は運動できないって書いてあるね。だから、担当は今回は女性にしてあるけど、そのうち運動もある程度できるようになってもらわないとなぁ」
僕はずっと勉強で過ごし、暇なときはゲームばかりで運動なんてしてこなかった。それを職業が決まった今、反省することになる。彼女の詩乃も厚生施設で毎日働くようになってゲームの時間が取れないって言っていた。イベントでも期間限定のアイテムを逃すことも多い。そういうとき、僕に学生は良いわねと何度も言ってきた。
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