たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

文字の大きさ
上 下
9 / 87
斎藤福寿、寿管士に就職する。

9 上司の李子は韓国人?

しおりを挟む
「とりあえず、来週ぐらいかな?それくらいには引っ越してもらって。あ、この引越したってことも親族以外には内緒ね」
「というか、この仕事って外ではどう言えば良いのよ?国家公務員だけど、胸を張ってできる仕事じゃないし、日常生活まで左右されるし!」
「まぁ、そうカリカリしなさんな」
男性は霞さんをなだめる。これは僕についての問題でもある。僕だって国家機密である仕事をどこまで人に言えるのか気になった。この仕事内容について両親についても詩乃についても、どこまで言って良いことなのか分からない。
「僕もどういう職業って言えば良いのか知りたいですね」
「大丈夫だよ。そういうこと話す人も居なくなるから。これは俺の経験談。死ぬまでの保護人を見届けるのが仕事だ。ずっとその繰り返しが仕事ね。こんな生活に部外者が入る場所があると思う?俺なんてマザーのマッチングで結婚はしたけど、置いてきた家族となんて何年も会ってない」
男性は若作りはしているが五0ぐらいに見える。だから奥さんも子どもも居るんだと僕は思った。それなのに会えないとか、どんな辛い仕事なのだろう。置いてきたという言葉が気になるけど、マザーが結婚相手を決めても離婚することもある。だから子どもの親権が取れなかったとかそんな感じだろう。大学院の先生は初めての給与で親に温泉旅行をプレゼントすると良いと言った。普通に生きていたら簡単にできるような親孝行が僕にできるのだろうか。
「きつい仕事なんですね」
「君たちがするのはそういう仕事ってこと。それに人の死に触れることは、むしろ慣れてはいけないと思う」
慣れてはいけない。そりゃあ、保護人と言っても人の命を預かる仕事だからそうなるだろう。僕はきっと慣れるなんてできない。どんな命でも奪うことは悪だ。それにこれは正当防衛ではなく、喜代也が効く一般的な僕が保護人の心の傷をえぐるのではないだろうか。僕がいじめる側になってしまう。
「保護人にとって、僕らは悪役。つまりいじめる側になりますよね?」
「私、そんな怖い仕事できませんよ」
霞さんは僕の言いたいと思ったことを代わりに言ってくれた。寿命を秘密にして死ぬまで一緒に生活するなんて。死因も教えられない。僕は嘘をつくことが苦手だからぽろりと言ってしまうかもしれない。
「給料は良いんだけどねぇ……」
「お給料とやりがいは違うと思います。一緒に暮らした人を失い続ける仕事なんて私は壊れてしまいます……」
というと霞さんは黙った。僕だって、保護人の死を看取る仕事なんて嫌だ。自殺者を減らしたいという、、マザーは何を考えているのだろう。僕は弱気な声の霞さんの方を見ると、霞さんは少し肩が震えていた。僕も足がガタガタとして力が入らない。

「保護人だって今の世の中で好きでなっているんじゃないんだよ」
「まぁ、幸せな未来を約束してくれるマザーが居ますからね」
「だから、保護人は道に外れた可哀想な人なんだ。一緒に楽しく生活して死んでもらう。これが君達の仕事」
僕はマザーの真実を知っている癖に皮肉で言った。僕には幸せな未来なんてマザーは見せてくれない。そして保護人も喜代也による普通の人生を与えられなかった。なんだ僕と同じ種類の人じゃないか。こんな仕事に選ばれてしまったのだからそれは確実だ。マザーは保護人の処分に困っている。保護人になった人は僕よりマザーに見捨てられたことになる。つまりは僕と同じようで、僕よりも惨めな人だ。

「あぁ、こんなに話してきて名前を良い忘れていたね。俺の名前は李子と言う。すももって意味ね。だから気軽にすももと呼んでくれ」
「何語ですももって言うんですか?」
と僕はその男性を呼ぶのに恥ずかしいニックネームに突っ込まず、言語のことを突っ込む霞さんはやはりどこか変な人だと確信した。
「韓国語だよ。そして僕は韓国人だよ」
「え、李さんは日本は鎖国しているのに海外から来たの?」
「それは建前だよ。今もしっかり外交している。今の世の中、国一つだけで経済は回っていかないでしょ?君も頭良いから分かるよね?」
僕は今まで受けていた教育がすべて嘘だったと分かり、この日本という国は信用ならない国で、国家公務員というのもいい加減かもしれないと思った。そしてヘルスメーターも保護人を死因を検知できないクズだ。
「だからさっき残された家族って言ったの?私、ちょっと気になってたのよね。あのマザーが決めるんだもん」
「そう、母国に残された家族とは会ってない。韓国でも僕は家庭を持っていたけど捨ててきたんだ」
捨ててきたという言葉が気になっている。僕は嘘が付けないタイプだから聞いてしまった。
「捨ててきたってどういう?」
「僕はマザーの呼び出しで日本に在籍してるの。簡単に会えるわけないでしょう」
「そうですね、ごめんなさい」
僕はあのマザーが李さんを韓国から日本に呼んで、何がしたかったのだろうと思っていた。李さんは若いわけでも老けているわけでもない。だから、どうして日本なんかに来たか分からない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夜鴉

都貴
キャラ文芸
妖怪の出る町六堂市。 行方不明に怪死が頻発するこの町には市民を守る公組織、夜鴉が存在する。 夜鴉に在籍する高校生、水瀬光季を取り巻く数々の怪事件。

神樹のアンバーニオン (3) 絢爛! 思いの丈!

芋多可 石行
SF
 主人公 須舞 宇留は、琥珀の巨神アンバーニオンと琥珀の中の小人、ヒメナと共にアルオスゴロノ帝国の野望を食い止めるべく、日々奮闘していた。  最凶の敵、ガルンシュタエンとの死闘の最中、皇帝エグジガンの軍団に敗れたアンバーニオンは、ガルンシュタエンと共に太陽へと向かい消息を絶った。  一方、帝国の戦士として覚醒した椎山と宇留達の行方を探す藍罠は、訪ねた恩師の居る村で奇妙な兄弟、そして琥珀の闘神ゼレクトロンの化身、ヴァエトに出会う。  度重なる戦いの中で交錯する縁。そして心という琥珀の中に閉じ込めた真実が明らかになる時、宇留の旅は、一つの終着駅に辿り着く。  神樹のアンバーニオン 3  絢爛!思いの丈    今、少年の非日常が、琥珀色に輝き始める。

怪異語り 〜世にも奇妙で怖い話〜

ズマ@怪異語り
ホラー
五分で読める、1話完結のホラー短編・怪談集! 信じようと信じまいと、誰かがどこかで体験した怪異。

アルケミスト・スタートオーバー ~誰にも愛されず孤独に死んだ天才錬金術師は幼女に転生して人生をやりなおす~

エルトリア
ファンタジー
孤児からストリートチルドレンとなり、その後も養父に殺害されかけたりと不幸な人生を歩んでいた天才錬金術師グラス=ディメリア。 若くして病魔に蝕まれ、死に抗おうと最後の研究を進める彼は、禁忌に触れたとして女神の代行者――神人から処刑を言い渡される。 抗うことさえ出来ずに断罪されたグラスだったが、女神アウローラから生前の錬金術による功績を讃えられ『転生』の機会を与えられた。 本来であれば全ての記憶を抹消し、新たな生命として生まれ変わるはずのグラスは、別の女神フォルトナの独断により、記憶を保有したまま転生させられる。 グラスが転生したのは、彼の死から三百年後。 赤ちゃん(♀)として生を受けたグラスは、両親によってリーフと名付けられ、新たな人生を歩むことになった。 これは幸福が何かを知らない孤独な錬金術師が、愛を知り、自らの手で幸福を掴むまでの物語。 著者:藤本透 原案:エルトリア

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

【完結】空戦ドラゴン・バスターズ ~世界中に現れたドラゴンを倒すべく、のちに最強パイロットと呼ばれる少年は戦闘機に乗って空を駆ける~

岡崎 剛柔
SF
 西暦1999年。  航空自衛隊所属の香取二等空尉は、戦闘機T‐2を名古屋の整備工場へ運ぶ最中に嵐に遭遇し、ファンタジー世界から現れたようなドラゴンこと翼竜に襲撃される。  それから約30年後。  世界中に現れた人類をおびやかす翼竜を倒すべく日本各地に航空戦闘学校が設立され、白樺天馬は戦闘パイロット候補生として四鳥島の航空戦闘学校に入学する。  その航空戦闘学校でパイロットの訓練や講義を受ける中で、天馬は仲間たちと絆を深めていくと同時に天才パイロットとしての才能を開花させていく。  一方、島に非常着陸する航空自衛軍の戦闘機や、傷ついた翼竜の幼体を保護する少女――向日葵との出会いが、天馬の運命を大きく変えることになる。  これは空と大地を舞台に繰り広げられる、のちに最強の戦闘パイロットと呼ばれる1人の少年の物語――。

【全64話完結済】彼女ノ怪異談ハ不気味ナ野薔薇ヲ鳴カセルPrologue

野花マリオ
ホラー
石山県野薔薇市に住む彼女達は新たなホラーを広めようと仲間を増やしてそこで怪異談を語る。 前作から20年前の200X年の舞台となってます。 ※この作品はフィクションです。実在する人物、事件、団体、企業、名称などは一切関係ありません。 完結しました。 表紙イラストは生成AI

銀河太平記

武者走走九郎or大橋むつお
SF
 いまから二百年の未来。  前世紀から移住の始まった火星は地球のしがらみから離れようとしていた。火星の中緯度カルディア平原の大半を領域とする扶桑公国は国民の大半が日本からの移民で構成されていて、臣籍降下した扶桑宮が征夷大将軍として幕府を開いていた。  その扶桑幕府も代を重ねて五代目になろうとしている。  折しも地球では二千年紀に入って三度目のグローバリズムが破綻して、東アジア発の動乱期に入ろうとしている。  火星と地球を舞台として、銀河規模の争乱の時代が始まろうとしている。

処理中です...