たおやかな慈愛 ~窓のない部屋~

あさひあさり

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斎藤福寿、寿管士に就職する。

6 寿命管理士の仕事

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「ならば、保護人の方はご自分の寿命は理解されていると?」
「斎藤君も気になる?」
「それは私も気になります」
霞さんが大きな声をあげる。喜代也を打った僕は遺書に書いた年齢まで死なないというか物理的に死なない。しかし、その喜代也が効かない人である保護人というのは昔の人間と同じようにいつ死ぬか分からないのだ。いや、マザーやヘルスメーターなら分かるだろう。しかし死ぬ時期を教えられて正気を保っている人間なんてこの世に居るのだろうか。
「保護人には寿命は伝えてない」
「それって私達も知らないままで良いの?」
「今は自死保護機構もあるでしょ。それが絡んでくるとやっかいなんだけど、今回の保護人は絡んで居ないから」
今の時代はどんな場合であれ、マザーのカウントがあるため自殺や自死はヘルスメーターによって止められる。それをおかしいと思うのが自死保護機構だ。絶対助からない命の人を安楽死させる違法集団。保護人がもしそこに駆け込んだとして、僕ら寿管士はどうすることもできない。安楽死だって違法だけど、僕は自分で死んでしまいたい気持ちも分かる。
「でも安楽死って違法ですよね?」
「当たり前じゃない、根暗眼鏡。海外では合法の国も多いらしいけど、私には自分で命を絶つ気持ちが分からない」
「霞さんは健康だから言えるんだよ。もし不治の病で喜代也を打った永遠に近い命だったらって考えたことある?」
その李さんの意見に霞さんは黙った。だって、僕も治らない病にかかったとして生きていくことは辛いと思う。
「保護人の寿命については、当たり前だけど君達には知ってもらうよ。保護人は死ぬ約半年前から、国が管理しているからね。そして、希望者は寿管士と一緒に生活するんだ」
「それを伝えないのですか?これも自殺予防のために?」
「おぉ、勘が良いね。その死亡時期までに自殺されたら困るから、もちろん寿命は伝えないよ」
僕はあと半年以内に自分が死ぬと言われて、正気で居ることができるかどうか分からない。それくらい寿命というものは日本人とは無縁になった。海外では喜代也は受け入れられていないけど、日本では当たり前だったから。

「もしかして、死ぬまで一緒に居ることが仕事なの」
と僕が聞こうとすると、隣の霞さんが間に入ってきた。それまで鏡を見て化粧直しをしていたのに、話は聞いていたようだ。
「それって危なくないですか?喜代也が効かないって、そんなことをもし私が聞いたら自暴自棄なります。私だったら寿管士に向かって暴れますよ。そんな危険な仕事をするなんて無理です」
「霞さん落ち着いて」
式部霞と呼ばれた女の人は大慌てをしている。僕はこの人をどう呼ぼうかと考えながら様子を見ていた。実は僕のことを根暗眼鏡を呼んだことを実はまだ根に持っている。だから平安貴族のような苗字よりも、下の名前で呼ぼうと思った。
「落ち着けませんよ。それに保護人に寿命は教えられない?私だったらあと半年のいつかに死ぬって言われたら自分から死を選ぶわ。それに加えて、今の保護人なんてマザーから見捨てられたとしか思えない」
「あぁ、保護人の首には自殺予防の首輪をつけるんだ。だから、保護人が自殺で死ぬようなことはないよ」
「そうじゃなくて。私はもっと人間的な最期を迎えて欲しいだけで」
霞さんは言いたいことが伝わらないと思ったようで、身振り手振りをして危険をアピールする。もし僕があと半年で死ぬとして、寿管士と隔離されたなら僕だったら寿管士を恨むだろうなと感じる。自分より平和に日本で命を全うできる喜代也が当たり前に効く人間と、喜代也が効かなかった人間だ。どうしても仲良くなれるようには思えない。僕が保護人だったら寿管士と仲良くしたくない。しかし、喜代也での遺書による死が普通だとも僕は思えない。日本人の死への価値観は、喜代也によって狂わされてしまったのだ。
「保護人なんて勝手に死ねば良いじゃない。無駄よ」
「そうだね、無駄かもしれないね。でもとあるデータが大事になってくるから」
男性は曖昧に答えた。でもそれって重要では?僕の仕事というのは在宅勤務と男性は言ったが、保護人と暮らすことが仕事とでも言うわけか?さすがに一緒に過ごすって危険だろう。僕は一気に不安になった。
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