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斎藤福寿、寿管士に就職する。
5 喜代也と寿命管理士
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そこには上司となる男性が一人居て、それで採用されたのは僕と話しながら入ってきた女の人だけだったようだ。僕らは真ん中の席に座り、男性は教員のような立ち回りで前に立っている。その男性は裏地が赤で派手な、国家公務員ではない危ない仕事をしているようなスーツを着ていた。机とホワイトボードがあるだけの、本当に何もない部屋だ。
「ようこそ。仕事内容について伝えられなくてすまなかった」
と男性が言った。そうだ、仕事内容を聞かなければ。仕事が決まったということで庁舎には案内された。しかし具体的な仕事を僕らは知らされていない。普通なら書留はがきが自宅に届いたときに、そこで職業が分かる。
「あの、やっぱり危ない仕事なんですか?なら、私は日本国民としてマザーの言うことには従いたいとは思うんですが、そういうことなら辞退したいです」
「危ない仕事、そういわれるとそうなるね。でも、肉体より精神の疲労が大きい仕事かと思うな」
「僕らのする仕事って単純に何ですか?」
僕は結論から聞いてしまった。男性は困ったような表情をした。でも、いつかは知ることになる。僕は女の人もマザーの本体を見て女の子だと知っているのに、マザーに従うことを良しとしている。それは僕も同じでやっと就職先が決まって安心した部分はあった。僕だって今をマザーと共に生きる日本人なのだ。
「君達は寿命管理省の寿管士ね。保護人の最期を看取る言えば分かるかな?」
「えっと、保護人って一体何ですか?」
「保護人とは喜代也が効かない人のことだ」
「はぁ?」
僕と女の人は声をあげて言った。何を言っているんだろう。今の時代はその喜代也という薬が広まり、国民に寿命はなくなった。それなのに遺書自分で遺書に書いた年齢以外で死ぬなんて人が居るのだろうか。しかし、喜代也が効かない人間がこの日本に居るらしい。そんな現実があるということに僕は何も答えられなくて、軽くパニックになっていた。そんな僕にこれはマザーの考えた、国民の幸せのために必要なお仕事だからと男性は言った。あの女の子は何を考えているのか分からない。あんなにも三0年前にできたから、ソフトの入れ替えはしてもハードの部分がおかしくなったのでは?人形のようなパソコンに日本が守られているなんて、他国が知ったらどう思うかわかったもんじゃない。鎖国は良い選択だと思った。
喜代也は国民の八割が接種する薬だ。それで日本人の寿命は永遠になった。なのにそれが効かない人が居るなんて。
「喜代也が効かない人が居るんですか?あんな万能薬が?」
「この根暗眼鏡の言う通りよ。喜代也が効かないなんて聞いたことがないわ」
「根暗眼鏡って酷いですね。僕には斎藤福寿という名前があるんですよ」
僕は明るい性格ではないし、それに眼鏡をかけているからそう呼ばれても仕方ないと思う。でも年下に言われるとムカつくというか。僕がそう言って女の人の顔を見ると鋭い目で睨んできた。やっぱり怖い人だ。
「えっと、斎藤福寿君と式部霞さんね。俺からのお願いだ、二人しか居ない同僚なんだから仲良くしてよ」
「私は仲良くする気はありません」
「霞さんは冷たいね。喜代也が効かない人が一定数居ることは確かなんだ。どうしても薬だからね。効果は人それぞれなわけ」
男性は話しだした。そう言われると正しいかもしれない。日本国民は喜代也によって死ぬことがなくなった。そのため遺書に死にたい年齢を書く。そして喜代也のおかげで治癒能力も高まったと研究結果が出ている。しかし、喜代也には欠点があって生殖能力の低下があった。それはまぁ、マザーが受精卵を選ぶようになったことで解決するのだけれど。
「それに喜代也のせいで日本は鎖国したんだからね。本来なら、鎖国しているから海外の話はご法度だけど」
「海外は喜代也を広められるのが怖くて逃げたんでしょ」
「そう、霞さんの言う通り」
「でも、海外では助からない病の人に喜代也を打つって……」
僕は恐る恐る聞く。男性は海外のことをよく知っているねと僕を褒めた。しかし僕はちっとも嬉しくない。日本人でほとんど打つ喜代也なのに、効果のない人は死に怯えて暮らすのだろうか。そんなことあまりにも可愛そうだ。しかしあんなパソコンでショックを受けていたことも事実だ。しかし、閉鎖しても日本は平和だ。これはマザーのおかげだと僕は思っている。
「喜代也が効かない人もごく稀に居るんだよ。放置するわけにもいかないしね。だから君たちには保護人と一緒に生活して欲しいんだ」
「でも、普通なら最期の時間を家族と……って思いませんか?僕はひ孫に看取られながら死にたいと思いますよ」
その言葉に霞さんは笑いをこらえることに必死の様子だ。でも僕は平和に結婚して子どもを作って、育児して普通の生活がしたい。
「そうでもないよ、保護人は最期を寿管士と迎えたい人が多い」
「だから寿管士って名前なんですね。でも、どうして僕らに?」
「自分が寿命で死ぬっていう異端なことで、家族に迷惑をかけたくないっていう保護人の考えも分かってね」
とおちゃめにウインクしながら男性は言った。でも、僕がひ孫に看取られて死にたいというのは事実で、どこの誰とも知らない人に看取られるなんて嫌だ。
「ようこそ。仕事内容について伝えられなくてすまなかった」
と男性が言った。そうだ、仕事内容を聞かなければ。仕事が決まったということで庁舎には案内された。しかし具体的な仕事を僕らは知らされていない。普通なら書留はがきが自宅に届いたときに、そこで職業が分かる。
「あの、やっぱり危ない仕事なんですか?なら、私は日本国民としてマザーの言うことには従いたいとは思うんですが、そういうことなら辞退したいです」
「危ない仕事、そういわれるとそうなるね。でも、肉体より精神の疲労が大きい仕事かと思うな」
「僕らのする仕事って単純に何ですか?」
僕は結論から聞いてしまった。男性は困ったような表情をした。でも、いつかは知ることになる。僕は女の人もマザーの本体を見て女の子だと知っているのに、マザーに従うことを良しとしている。それは僕も同じでやっと就職先が決まって安心した部分はあった。僕だって今をマザーと共に生きる日本人なのだ。
「君達は寿命管理省の寿管士ね。保護人の最期を看取る言えば分かるかな?」
「えっと、保護人って一体何ですか?」
「保護人とは喜代也が効かない人のことだ」
「はぁ?」
僕と女の人は声をあげて言った。何を言っているんだろう。今の時代はその喜代也という薬が広まり、国民に寿命はなくなった。それなのに遺書自分で遺書に書いた年齢以外で死ぬなんて人が居るのだろうか。しかし、喜代也が効かない人間がこの日本に居るらしい。そんな現実があるということに僕は何も答えられなくて、軽くパニックになっていた。そんな僕にこれはマザーの考えた、国民の幸せのために必要なお仕事だからと男性は言った。あの女の子は何を考えているのか分からない。あんなにも三0年前にできたから、ソフトの入れ替えはしてもハードの部分がおかしくなったのでは?人形のようなパソコンに日本が守られているなんて、他国が知ったらどう思うかわかったもんじゃない。鎖国は良い選択だと思った。
喜代也は国民の八割が接種する薬だ。それで日本人の寿命は永遠になった。なのにそれが効かない人が居るなんて。
「喜代也が効かない人が居るんですか?あんな万能薬が?」
「この根暗眼鏡の言う通りよ。喜代也が効かないなんて聞いたことがないわ」
「根暗眼鏡って酷いですね。僕には斎藤福寿という名前があるんですよ」
僕は明るい性格ではないし、それに眼鏡をかけているからそう呼ばれても仕方ないと思う。でも年下に言われるとムカつくというか。僕がそう言って女の人の顔を見ると鋭い目で睨んできた。やっぱり怖い人だ。
「えっと、斎藤福寿君と式部霞さんね。俺からのお願いだ、二人しか居ない同僚なんだから仲良くしてよ」
「私は仲良くする気はありません」
「霞さんは冷たいね。喜代也が効かない人が一定数居ることは確かなんだ。どうしても薬だからね。効果は人それぞれなわけ」
男性は話しだした。そう言われると正しいかもしれない。日本国民は喜代也によって死ぬことがなくなった。そのため遺書に死にたい年齢を書く。そして喜代也のおかげで治癒能力も高まったと研究結果が出ている。しかし、喜代也には欠点があって生殖能力の低下があった。それはまぁ、マザーが受精卵を選ぶようになったことで解決するのだけれど。
「それに喜代也のせいで日本は鎖国したんだからね。本来なら、鎖国しているから海外の話はご法度だけど」
「海外は喜代也を広められるのが怖くて逃げたんでしょ」
「そう、霞さんの言う通り」
「でも、海外では助からない病の人に喜代也を打つって……」
僕は恐る恐る聞く。男性は海外のことをよく知っているねと僕を褒めた。しかし僕はちっとも嬉しくない。日本人でほとんど打つ喜代也なのに、効果のない人は死に怯えて暮らすのだろうか。そんなことあまりにも可愛そうだ。しかしあんなパソコンでショックを受けていたことも事実だ。しかし、閉鎖しても日本は平和だ。これはマザーのおかげだと僕は思っている。
「喜代也が効かない人もごく稀に居るんだよ。放置するわけにもいかないしね。だから君たちには保護人と一緒に生活して欲しいんだ」
「でも、普通なら最期の時間を家族と……って思いませんか?僕はひ孫に看取られながら死にたいと思いますよ」
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第二章 インターミッション ~ Dancing with Moonlight
第三章 キュメルニア・ローレライ (Cjumelneer Loreley)
第四章 ベイシティ・ブルース (Bay City Blues)
第五章 インターミッション ~ミスラのだいぼうけん
第六章 泥沼のプリンセス
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