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CCⅬⅩⅤ 星々の紅焔と黒点編 後編(3)

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第1章。立ちくらみ(3)


 コウニン王国の密使が来都した翌日、ナナリスも旧教都から、教都に帰還した。
さらにその翌日、イルムは、教会の一室に、影の執政室の集合を、
みなに呼びかけている・・・。

・・・・・・・

「おくれて、すまないわね。教会の雑事が終わらなくてね。」

カシノが、そう言いながら、部屋に入ってくる。

「教会の方が、人手不足で、雑事が次から次に、襲いかかってくる・・・。」

「それは、新帝国の行政部も同じだ。
だから、ほっておくと、イルムのやつの、睡眠時間が削られていく・・・。」

ルリが、カシノのぼやきに、イルムを事で応対している。

「だが、モクシ教皇猊下げいかは、この集まりに、疑問をていしていないのか?」

リントが、この場にいる仲間たち全員が、たぶん疑問に思っていることを、
カシノに対して、質問する。

猊下げいかは、皇都に来られて、完全にになられている。
今回、教会の一室を使う事を話した時にも、
『わしは、見ざる・聞かざる・言わざる、じゃよ。』と、おっしゃていたわ。」

このカシノの言葉に、

「・・・あの方、らしいわね。」

と反応したエリースの言葉に、全員の表情に軽い笑みが浮かぶ。

・・・・・・・・

「さてと、今日、集まってもらったのには、小さく分けて三つ
大きく分けて二つ、の問題がある。」

と開会のあいさつをしたイルムに対して、せきばらいをした後に、ルリが話出す。

「では、まずはから。今、わたしの影を務めているノマを、
正式にこの集まりに、参加させたい。」

そのルリの言葉に、イルムが言葉をつなぐ。

「この件に関して、明確な反対意見があるもの、質問があるものは、
意思の表示をお願いするわ。」

このイルムの話に対して、キョウショウがスッと挙手をする。
全員の眼差まなざしを集めるなか、キョウショウが口を開く。

「ルリ。ノマの人柄・能力に関しては、異を唱えるところはないわ。」

「だが、ノマ自身、わたしたちの仲間になれば、長生きが出来なくなる可能性が
高くなることは、理解しているの?」

「当然の疑問ね。わかったわ、キョウショウ。わたしが見るに、
まず彼女自身の心が、新帝国のために死ぬことを望んでいる・・・。」

「だけど、わたしは、ノマに生き急ぐ死を迎えて欲しくない。」

ルリが返した言葉に、そこにいる全員が、しばし沈黙の淵に沈む。

「なるほどな、理解した・・・あの時の、恩義でか・・・。そういうことか。」

キョウショウは、ひとり言のようにつぶやく。
他に、口を開くものはいない。

「他に、意見はない!?」

「では、みなに聞きたい。ノマをわれわれの仲間にすることに賛成のものは?」

決をうながすイルムの言葉に、イルムも含めて全員が静かに挙手をする。

・・・・・・・・

「つぎが、本日の本題なんだが・・・。」

イルムの口調が普段と違うのに気付いて、
全員の視線がイルムの口元に注がれる。

「コウニン王国が、カル―、モートというふたりの密使を、派遣してきた。
そして、その話とは、わが国が、教国を崩壊させたことで、
貸した金が回収できなくなり、金の代りに、双月教国の領地を、
彼の国の一部として併合したい、だから邪魔をするなだ、そうだ。」

「まったく、へ理屈にも言えない、理屈だな。
まともな国家がとりうる手段とは、思えない・・・。」

ナナリスが叫ぶように、この場に自分の想いを叩きつける。
ナナリスの脳内には、コウニン王国の無慈悲な統治で、
より荒廃していく故国が見えたのだろう。

「コウニン王国、たしか円卓政権とか言ったかな・・・。奴らは正気か?」

リントは冷静に、それでも怒りを抑え切れずに、話をおこなう。

「正気も、正気。歴代の教皇、全枢機卿から、金が一金貨も返せぬ時は、
全領土を移譲するとの、公的公文書も受け取ってると主張しているわ。
それを、根拠に、わたしたちが、旧教国から手を引かなければ、
最期通牒つうちょうを出す用意があるそうね。」

イルムの言葉に、エリースが椅子から拳を握りしめ立ち上がり、言葉を放つ。

「イルム、来るなら、来いよ!リーエとわたしの絨毯じゅうたん電撃で、
二度と、そのような汚い口がたたけないよう、してあげるわ!」

「エリース、熱くなるな。だが、どう考えても、これはハッタリだろう。」

キョウショウが、年下のエリースをなだめるように、声をかける。

「本当にそうだろうか?やり方はいろいろとあるだろう。」

ナナリスが、やや不安そうな口調で、戦略に詳しいイルムに質問する。

「そうね・・・・。
取り得る戦略とすれば、まず、その事を、何十回も、いや何百回も、
世界にけん伝する。
さらに、複数の国境線を、毎日のように侵犯して、
新帝国が、旧教国を手放す事をやむなしと考えるよう、誘導するとか・・・。」

「そうだね。旧教国の国境線を考えれば、複々数の場所の防御が必要となるけど、
その分の人数を貼り付けるのは、新帝国にとって負担が大きすぎる。
いや、短期はいいが、継続しては不可能か・・・・。」

「だが、密使のカル―が、
『われわれも、こんなことで、新帝国との戦争は望みませんので。』と、
口をすべらせている・・・。」

「これから類推すると、コウニン王国も、そのような戦略は望まないと思うわ。」

「あの国にとっても、生命線である、
金の無駄使いの度合いが、大きすぎるわね。」

それまで、無言を保ってきたカシノが、くちをはさむ。

「それに、あのラテイスがいることも、リーエが超上級の妖精であることも、
当然り込んで、戦略を立てているはずよね・・・。」

エリースも、カシノに続く。

「密使の方には、手ぶらで帰っていただく・・・。」

「本国の方も、おどしなら、30日の猶予ゆうよを、なんて言わないことね。」

「わたしは、この件は完全無視で行きたいと思う。
それに乗じて国境を突破して、旧教国に侵入してきたら、より深く侵入させ、
引き返せないところで、一気に叩く。これでいきたい。」

このイルムの結論に、そこにいる全員がうなずいた。
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