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CCⅬⅪ 星々の紅焔と黒点編 中編(5)

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第1章。晴れ間


 皇都の街路を、気持ちいい風が駆け抜けてゆく。

ミカルの都、ミカル・ウルブスから、帰都してやがて30日になる。
新帝国は、イルムさんの施策で、公的な部署なら、通常日は交代制で、
10日に1日は休暇になる。

新双月教の施設である、禁書館も、それに準じていて、
ぼくも、10日に1度は、休みをもらえるようになっている。

教会住み込みのヨスヤ館長さんなんかは、ほぼ休日なしで、動いているので、
どこか、後ろめたい気持ちもある。

ただ、カシノさんに、

『ここにアマトくんがいるということを告知するだけで、
<猛犬注意>の看板を下げているみたいなものだから、
教会にとっては、用心棒としては、極めて安い報酬で、
きみを雇っているようなもの。』

『お金を出さない代わりに、3日に1日休んでも、猊下げいかもわたしも、
それに他のみんなも、気にしないから。』

められたのかなんなのか、そういうふうに言われてしまった。
そう、暗黒の妖精の契約者というやつは、知らない人から見れば、
こういう感じなんだろう。
この件に関しては、ぼくはもうこれ以上、深く考えないようにしている。

とにかく今、ミカル遠征でもらった、いくばくかの報酬を握りしめて、
職業斡旋あっせんギルド、ザクトさんのところに、
養父ちちセグルトの行方ゆくえに対する情報提供依頼の
更新の手続きをしにいく途中。

新帝国政府とザクトさんのところとは、
双月教国方面避難路の警備の報酬のことで、
上手くいかなかったことがあるけれど、
その後ルリ副執政官さんが、新帝国政府の期間職員の斡旋あっせん受付の仕事も、
びとして、ギルドに正式の依頼したことで、
その、わだかまわりは解けてるとのことだ。

ここで、ぼくの契約妖精のラファイアさんだけど、
今日はカオ・ルーさんも休みなので、
その代わりに、ユウイ義理姉ェの店に詰めている。

きのうの夜、ユウイ義理姉ェのお願いに、

「ははは、おまかせて下さい。ユウイさんのお願いということなら、
このラファイア、たとえ、火の中、水の中、行けとおっしゃるのなら、
空の果てまで・・・。」

と例の笑顔で言ってたから、さすがに今日、するりと抜けてくることは、
ないだろうな・・・。

むろん、今、ラファイアさんが、透明な分身体を、ぼくに守護として、
つけてくれているかどうなのかは、
確かめるすべは、もたないけれど・・・。

もうひとりの契約妖精のラティスさんは、子供の教育とやらに目覚めた?ようで、
今日も朝から、学院の方へ、名誉理事長として出かけて行っている。
けれど、超上級妖精のリーエさん同様、子供たちの、
いい玩具おもちゃになっているんだろうな。
ま、平和と言えば平和で、これもこれでありかと思える。

しかし皇都の街路は変わった。
ぼくらが、ノープルの街から、この街に到着したとき、
この街のいたるところに、ぼろの服を身にまとい、せて、
生気のない瞳で、この世界をながめていた子供たちがいた。

だけど、ラティスさんの宣言、イルムさんの政治力、ラファイアさんの金貨で、
みなしごが、街路で寝起きする姿は、一切みなくなった。
皇都とその周辺での、保護者のいない子供たちは、
アバウト学院の外部組織、幼児部・少年部で、保護・生活させている。

これだけでも、ぼくたちが、皇都にいる理由、いれる理由になるんだろうな・・・。


第2章。夕時


 この日イルムは、ルリから強制的に休みを入れさせられ、
昼近くまで、自分の汚部屋で、惰眠をむさぼっていたが、
昼過ぎに、教会より文があったので、ルリとともに教会へ密行している。

「おそかったわね。」

教会の来客用の広めの応接室。先にきていたキョウショウが声をかける。
部屋の中には、他にはカシノ・エリースそして青い顔のナナリスが、
各々椅子に座っている。

「キョウショウ、今日は休みだったんだ。許せ。」

ルリが、含み笑いに耐えながら、キョウショウに答える。
おそらく、先程のイルムの姿・格好を思い出したのだろう。

「ナナリス。教都からの帰還、おつかれさま。」

イルムが自分を呼び出した人物に声をかける。

「ありがとう、イルム・・・。
単刀直入に言う、教都での交渉の状況はよくない・・・。」

「自警団のみなさんは、新帝国との講和に、だくとは言わない。
正直なところ、交渉の場で、リントもわたしも、裏切り者扱いだ。」

「それだけではない。猊下げいかでさえ、
教都を見捨てて逃げ出そうとした、多くの枢機卿・司教・司祭らと同じように、
不快感さえ向けられている。」

「それに、暗黒の妖精との会敵で散った、恋人・家族・友人のことを考えれば、
新帝国に対して、を結ぶ気にはなれぬそうだ。」

そこで、ナナリスは、リントからの私書をイルムにわたす。

「・・・そっちが、先に手を出してきたのは、忘れたふりなの!?」

イルムが、書面を広げ、それに目を落としたとたん、
エリースの、やや甲高い声が、部屋の中に響く。

「そういうなエリース・・・。人間は自分の側の都合のいいことしか、
頭にないもんだ。」

めずらしくキョウショウが、ルリのような物言いで、エリースをなだめる。
サーッと書面を速読したイルムが、あらためて口を開く。

「カシノ。わたしたちは、教都を信仰の都として、残すつもりだった。
だが、このままでは、教皇猊下げいかの自治領として残すのも無理なようだ。」

「これが、政治的な、いや本質的に、金銭的な取引なら交渉も、妥協さえできる。
だが、問題の本質が、感情的なことだ。
だったら、彼等は、理にも、利にも、動くまい。」

「カシノ、教皇猊下げいかのお心に沿わない形で、解決を目指さなければならない。
それで、猊下には、納得いていただくしかない。」

そこで、イルムの言葉が切れる。

「かって、1000年を超える隆盛を誇った宗教の都が、
近い未来は地方の一都市か・・・。」

キョウショウが、イルムの言葉をつなぐ。

「じゃ・・、テムスの・・・、ファウス妃に任せたらいいんじゃないの。」

「どうせ、こちらに来るんだし、おみやげということで押し付ければ、
わたしたちは、万々歳よ!」

「エリース。」

ルリが、あきれて年下の同志の言葉を止めようとする。

「いや、ルリ。わたしの結論も同じようなものよ。」

「新帝国にとっては、教都を復興させるより、新双月教を勃興ぼっこうさせる方が、
意味があるからね。」

「ナナリス。リントに交渉を打ち切って、皇都に帰還するよう、
至急、文を出して。」

「ひょっとしたら、この行動が、教都を無理して維持させるつもりが全くないと
新帝国が考えてると知ったら、彼等も折れるかもしれない。」

「その最後の考え直しの機会を、あげてもいい。」

「あわせて、それでもダメなら、この世界で、軍事の助けがない都市が、
いかにもろいものか、心の底から知る機会を得るでしょう。」

イルムは、そこで言葉を切る。
カシノ・ナナリス、旧双月教国出身のふたりは、イルムの強い言葉に、
やはり、沈痛な表情をしている。

「けど、イルム。こんな話合いなら、
明日の昼間、旧南宮ですればいいじゃない。」

再びエリースが、口をはさむ。
ルリが、やれやれという態度で、エリースに向き合う。

「エリース。新帝国には、各国の密偵が、やまのように入り込んでいる。
それが、暗殺工作や強利敵工作でなければ、今の新帝国政府では、
ほおっとくしかない・・・。」

「いや、正直に言おう。取り締まるには、手が回らない。」

「で、その密偵たちの重要な任務のひとつだけど、その国の施政者の能力を、
自分の考えを加えることなく、母国に報告することなの。」

「だから、うちの執政官殿は、表向きには、明日、リントの書状を受け取って、
それを見て、即決で判断して・・・という、儀式をすることとなる。」

「そして、それが、新帝国の女狐のふたつ名を、
させることになるわ・・。」
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