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CCⅬⅡ 星々の紅焔と黒点編 前編(1)

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第1章。魂ひかれた


 二つの月が、不可思議な光を、深夜の大地に浴びせ続けている。

アマトとエリースたちは、あるいは鉄馬車の中、あるいは他のき火の周り
大きな木の下で、夢の世界にただよっている。

ここは、公都ミカル・ウルブスと新帝国皇都との、ほぼ真ん中の街道そばの森の中、
妖精にんの妖精が、ひとつのき火を囲んで、見合っている。

ふたりの極上級妖精にひとりの超上級妖精、
超絶妖精の会合とも呼ばれてもいい状況だが、
小悪党3妖精にん組のぼやき合いにしか見えないのは、仕方ないところだろう。

・・・・・・・・

「で、だれが、羽虫の駆除に行くの?」

暗黒の妖精の言葉に、風の妖精リーエが胸を張り、親指で自分の胸を指差す。

「あんたは、レリウスの軍の先衛で、絨毯じゅうたん電撃して、
鬱憤うっぷん払いしたじゃない、だからダメに決まっているでしょうが!?」

シュンとする、超上級妖精を押しのけて、御者姿のラファイアが前にでる。

「だとしたら、ラティスさんも、なんやかんやで2回もぶっ放していますよね。
さぞ、気分爽快そうかいだったでしょう。」

「だったら、わたしの順番だとは思いませんか?」

三者三様のこの態度で、この場の緊張感が高まってゆく。
この瞬間、暗黒の妖精が、ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、ふたりの妖精の前に、
白金の硬貨を差し出す。

「いいでしょう。コイントスで決めますか」

ふたりの妖精はうなずき、暗黒の妖精がコインを弾く瞬間を、待ち構える。
暗黒の妖精が、コインをはじいた次の瞬間、ラティスの姿がシュッと消える。

「・・・・・・どうやら、やられたようです。」

ラファイアとリーエはお互いに見つめ合い、ため息をついた。

・・・・・・・・

「で、なにか用?」

深夜の虚空に、緑黒色の長い髪・雪白の肌・黒の瞳・超絶の美貌・・・。
人外の美しきものが、フラッと現れる。

≪氷結破壊!!≫

姿を見せぬ何者かの精神波が、この場に響く。
青色の閃光せんこうが爆発・拡大してゆき、すべての大氣そのものが、
一端氷色に塗られ、7色の光を放ちながら、粒子を生み出し、き散らす。
空間は、吹雪の世界と化し、凄まじい勢いで拡大していき、
即座に対応した暗黒の妖精が張った障壁に突き当たり、白光の光を放つ。

冷気が烈風のやいばとなり、
あわせて、青白い氷の中にいるような厚い霧におおわれてゆく。

次の瞬間、数数えられない氷のやりきばをむいて、霧をき、
渦巻き状に回転しながら、一斉に暗黒の妖精に襲い掛かる。

それを迎え撃つラティスの顔色は、信じられないほど、無表情に見える。

『誰かは知らないけど、わたしに対して、氷の世界でいどんでくるとはね!』

己の全力の魔力を解き放てる相手なら僥倖ぎょうこうと、その顔に冷たい笑いが浮かぶ。

この暗黒の妖精ラティスを中心に、
同心球上に構築した防御の障壁が拡大していき、
超高速で飛来してきた氷のやりは、氷の粒子と化しくだけ散っていく。
それを上回ろうと、障壁をけずる魔力を格段に強めた氷のやいばが、
第二弾・第三弾として、再び・三度みたび 姿を現し、攻撃を継続するが、
しかし、何の効果さえあらわさない。

≪ふふふ、エメラルアのレベルに、はるかに及ばない!≫

精神波と同時に、ラティスの前に魔法円が現れ、白銀の光のほん流がはじける。
そして、大きな純白の光の錐と化し虚空の一点に激突する。
 
その激しい光により、可視化した障壁の表面が、七色の光を帯び、
妖精からの攻撃を無効化しようと、脈動しらめく。

「そろそろ、姿を見せたらどう!?」

ラティスがつぶやいた瞬間、七色の光がゆがみ、障壁のすべてがはじけとんだ。

そして、さらに残る氷結の微睡まどろみが、左右に分かれていき、
蒼色の瞳・青色の髪・白雪色の肌、超絶美貌の妖精が現れる。

≪ここまで・・ですね。≫

白金の髪に白金色の瞳・大理石色の肌・白金の背光の白光の妖精のラファイアと、
緑色の髪・青色の瞳・白い肌・緑金の背光の風の妖精リーエが、
容易に攻撃できる空間に、その姿を現わす。

≪ククク・・・。暗黒の妖精だけでも厄介やっかいなのに、白光の妖精に・・・、
 おまけに風の超上級妖精も・・・とわね・・・。≫

この妖精から、敵意がフッと消えてゆく。

≪わたしの名は、エルメルア。・・・水の極上級妖精・・・。≫

≪ラティス。わたしたちは、誇り高い妖精で、かつ妖精界の頂点に位置するもの。≫

≪だから?≫

無機質な暗黒の妖精の精神波が、深夜の空間に響く。

≪そう、始原のとき、ほとんどの妖精は人間の家畜化に、同意した。≫

≪そこで反対したのは、あなたラティス。そこのラファイアとの闘いを選んでもね。≫

≪だから、エルメルアとやら。何の用なの?!≫

いら立ったラティスの精神波が、この空間に響く。

≪ふふふ、ラティス。まず、わたしの目で確認する必要があったわ。
 この時間軸にいるのが、本当に、あなたとラファイアかどうかを。≫

≪あわせて、あの闘いから千年以上もたてば、あなたも 目をまして、
 人間の家畜化に、同意してくれるかとも思ってね・・・・。≫

≪けど話は違った、あなただけでもなく、白光の妖精ラファイア。
 暗黒の妖精アピス、白光の妖精ラファイス、火の妖精ルービス、
 わたしと同じエレメントのエメラルア。
 この世界線に現れた極上級妖精のすべてが契約者の・・・、人間の存在に
 魂をひかれて・・・認め出している・・・・。≫

≪そんな、戯言たわごとをグタグタ言うために、
 わたしたちをいたのですか、エルメルアさん。≫

そういうラティアの精神波にも、暴力の香りがただう。

≪ククク、そのとおり。そして、あなた方の前に現れたのは、妖精界の将来のこと。≫

≪現在、ほとんどの妖精は、人間の家畜化に同意している。
 あなた方、一時代前の極上級妖精が、反対してもね。≫

≪一時代前!?≫

暗黒の妖精の精神波の圧が、急速に上昇してゆく。

≪わたしは・・・、われわれは・・・、人間たちは、われわれと共生してくれて
 平穏な暮らしていくものとばかり 思っていた。≫

≪だが、金・土地・称号・つがい、そんなもののために、
 人間は私たちが与える魔力を、争い・同族同志での殺し合いに使い始め・・・。≫

そこまで語ったエルメルアは、静かに目を閉じた。
ふたつの月の光が、寒々と、人間の世界を照らしている。

≪4百年がたち、妖精界にも、わたしをはじめとして、各エレメントに、
 新たな極上級妖精が現れている・・・。≫

≪わたしたち、異能の妖精はいい。この世界のエーテルを直接摂取せっしゅできるからね。
 だが、このままでは、大半の妖精は、消滅していく。≫

≪だから、人間に魂を引かれた、極上級妖精のあなた方が、
 われわれのやり方に逆らうなら、あなた方を実力で排除する!≫

エルメルアは再び目を開け、強い想いで、ラティスとラファイアを、見つめてくる。
妖精たちの感覚が、ぎ澄まされてゆく。
それに合わせて時間の感覚が、数百万倍、数千万倍に引き延ばされ、
感覚上の時間の歩みが急制動、いや超制動がかかり、
今や止まってしまう寸前に感じている。

ほとんど歩みを止めた、永遠ともとれる時間軸のなかで、
妖精たちは動きを停止し、次の機会が現れるのを、静かにまっている。

≪人間は統治しなければならない・・・。≫

≪妖精たち・・・みんなのためにも、絶対失敗してはいけない。≫

≪ラティスにラファイア、近い将来、あなた方は、どの立場を選択する!?≫

≪フフフ、いったんは、消えてあげる。霧幻の迷宮!!≫

魔力ちからの名を示す、精神波の叫びとともに、
妖精たちの感覚上の時間は一気に加速し、
元の時間の流れの速さに、復元していく。

そして、その強大な魔力がはじけた結果、圧を持った濃霧が再び発生し、
エルメルアの姿を隠していった。
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