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CCⅩⅩⅩⅩⅠ 星々の膨張と爆縮編 中編(7)
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第1章。レリウス大公との歓談(1)
ミカル大公国は、国の中央部にミカル山地という、高い山々が控えている。
そして、その山頂から中腹にかけて、多数の妖魔が生息しているのが
確認されており、
それが、はからずも公国を、旧帝国本領側部分と、王国連合諸国側部分に
二分している。
その王国連合諸国側部分は、先々代のレリウス公爵以前は、
ほぼ王国連合諸国に味方する、あるいは属する地域であり、
そして現在、反ミカル勢力の中心地と化している・・・・。
公都の正面の門でのあの騒ぎがあった明後日、レリウス9世の主催で、
新帝国側の客人を招いて、お茶会を開催することになり、
今日はその日である。
新帝国側は、暗黒の妖精ラティス・その契約者・超上級妖精の契約者エリース、
通常はあり得ないことだが、御者の者、彼らがこの場に臨席している。
ミカル側は、レリウス大公、トリハ宰相、リリカ副宰相、
これも、普通あり得ないことだが、大公母ミリア妃も着席をしている。
・・・・・・・・
来賓用の長机の上には、旬の果実、いい匂いを漂わせている
色々な種類の焼菓子、果実酒、果実水、ミカル公室秘蔵の香茶などが、
美しい花々と一緒に、各自の席の前に置かれている。
トリハ宰相による軽い挨拶のあと、
「大公陛下におかれましては、・・・。」
と、いきなりアマトが、レリウス大公に奏上しようとするが、
「よせやい、アマト。おれとおまえの仲ではないか、
この場では、慇懃講のときのような話し方は、なしにしようぜ。」
と、レリウス公本人に、柔らかに窘められてしまう。
「そうよ、アマト。わたしにとっては、レリウスも、あんたの舎弟のようなもの。
わざわざ畏まって話す必要はないわ。
その、〈舎弟〉の単語に、リリカ副宰相が、抗議をしようと口を開こうとするが、
トリハ宰相に視線で制止させられる。
ここで、この空気に気圧されることもなく、ミリア妃が静かに口を開く。
「新帝国のみなさん、特にエリースさん。
わたしの馬鹿息子のレリウスの命を救っていただき、ほんとありがとう。
いつか、お礼をしたいと思っていました。」
「今日、その願いが叶いました。
もう一度、言わせていただきます。本当にありがとう。」
ミリア妃は、椅子から立ち上がり、深々と頭を下げる。
左右非対称の、白色を基調とした略礼服を、肩で着こなすその姿勢、
イルムやルリがこの場にいたら、ミリア妃が、日々いかに節制に勤しんでいるか、
読み取っていただろう。それが姿勢だけではないことも・・・。
「いえ、お礼を言われる・・ほどの事は、していませんし・・・。
・・・だから、ミリア妃さま。どうぞお顔をあげて・・下さい。」
ミリア妃の態度に驚きながらも、エリースは、なんとか自分の思いを言葉にする。
イルムやルリほどではないにしろエリースも、人としての格というものを、
ミリア妃に感じているようだった。
「あの~、冷えないうちに、香茶をいただいても、よろしいですか?」
そこにラファイアさんが、漂う雰囲気を歯牙にもかけず、
自分の欲望だけに忠実に、この場に言葉を投げ入れる。
その言葉を受けレリウス公は、
「これは、ラファイアの姐さん、気が付かなくて済まない。
どうぞ、どうぞ。そう、お前たちも、好きにやってくれ。」
と、楽しそうに、ラファイアに話を返し、同時に皆に会食をすすめる。
「そうだ、ところでアマト、さっき国書でも、渡そうとしたんだろ。
あとで、トリハの方に渡してくれれば、おれは、それで構わないから。」
「なんせ、今のミカルに、新帝国の提案に異議を唱える余裕は、ないんでね。」
固まり続けているアマトにレリウスは、親し気に声をかけ、
返す刀で、ごく自然に、暗黒の妖精さまに話をふる。
「で、ラティスの姉御。来国された本当の目的はなんだい?」
「ふふふ、知りたい?」
優雅に微笑んでみせる、ラティスの姉御。
「知りたいねぇ。」
レリウス公は、普通に、ラティスの話の流れにのっかる。
「それは~!」
「それは?」
「ミカルに平和のきっかけを届けに来たのよ。」
「「「・・・・・・・。」」」
そのラティスの返す言葉に、昼用の淡い媒介石灯の光が吹雪き、
ラファイア以外の全員が息をのむ。
(ただ、ラファイアだけは、ひとり香茶の世界を耽溺している。)
第2章。レリウス大公との歓談(2)
「で、それはどんな方法なんだい、至高の妖精さま!」
しばしの沈黙のあと、それでもレリウスは、公国の長として、
暗黒の妖精に問いかける。
「あんたも、言葉の使い方が、だいぶマシになってきたんじゃない。
それに免じて、特別に教えてあげる。」
暗黒の妖精さまは、上機嫌で、ミカルの餓狼の言葉に答える。
「わたしは、アバルト学院の名誉理事長として、ここに来ているわ。
大昔、他国の学園の間で、交流戦というのがあったらしいわね。
それで、それを再開させようと、
その交渉で、わたしが来訪したことにするのよ。」
「むろん、手ぶらで来たわけではないわ。
あんたたちの学院の選抜の学生に、わたしの学院の代表として、
ヨクスには矛で、エリースには魔力で、公開模擬試合をさせてあげる。
ふたりとも、半端じゃない力の持ち主よ。
あんたんところの学生も、勉強になると思うわ。」
「そして、大トリに、わたしが、極上級妖精の魔力の一端の試演として、
ミカル山地だったけ、その高山のひとつを、消滅させてあげるわ。」
レリウスにも、おぼろげながら、強大な魔力を持つ、暗黒の妖精が、
何を言いたいか理解してゆく。
「だから、当日までにその事を、あるアホの妖精にも魔力を使わせて、
この大公国の津々浦々、特にアンタに敵対する地域に、
映像と精神波で告知するわ!」
「・・・そこで、定めの日に、山が・・・消滅するか。」
レリウスの脳裏に、その映像がはっきりと浮かんでくる。
「で、あんたは、わたしの舎弟であることが、このミカル全域に知れ渡るわ。
それでも、アンタに対して、叛旗を掲げ続けるだけの、
根性がある相手が、敵側にどれくらいいるかよね。」
「そうとうに、楽しいお話のようね・・・。」
急に、ミリア妃が、ふたりの話に割って入る。
「あゝ、おふくろどの。これが・・・、これこそが、ラティスの姉御だ。」
「ん~そのですね、ラティス殿。レリウス陛下を舎弟と呼ばれるのは、どうかと。
今回だけでも、友人と言っていただければ、嬉しいのですが・・・。」
トリハ宰相も、自然に会話に加わってくる。
あ然とし続けているリリカ副宰相と違い、
ミリア妃もトリハ宰相も、レリウス大公同様、暗殺者・謀略者・陰謀家などが、
常に隣にいるかもしれない、いや、いた日常を送らせられている。
つまり、日頃の覚悟の差が、このようなところで、露呈する。
「は、わたしから友人なんて呼ばせようなんて、万年は早いわよ!」
「それにね、それはそれとして、ひとつ問題があるのよ。」
「ラティスの姉御、それはいったい・・・。」
ミカルの長として、その話にのることを即断した、レリウス公が尋ねる。
「そのアホの妖精はね。なかなか、わたしに協力しようとしないのよ。
だいたい日頃から、わたしが右と言ったら、左に行くような奴なのよ。」
「なるほど・・・。」
レリウスの目は、先程から周りのことは完全無視で、
ミカル公室の秘蔵の香茶の香り・味の世界に惑溺している誰かさんへと、
注がれた。
ミカル大公国は、国の中央部にミカル山地という、高い山々が控えている。
そして、その山頂から中腹にかけて、多数の妖魔が生息しているのが
確認されており、
それが、はからずも公国を、旧帝国本領側部分と、王国連合諸国側部分に
二分している。
その王国連合諸国側部分は、先々代のレリウス公爵以前は、
ほぼ王国連合諸国に味方する、あるいは属する地域であり、
そして現在、反ミカル勢力の中心地と化している・・・・。
公都の正面の門でのあの騒ぎがあった明後日、レリウス9世の主催で、
新帝国側の客人を招いて、お茶会を開催することになり、
今日はその日である。
新帝国側は、暗黒の妖精ラティス・その契約者・超上級妖精の契約者エリース、
通常はあり得ないことだが、御者の者、彼らがこの場に臨席している。
ミカル側は、レリウス大公、トリハ宰相、リリカ副宰相、
これも、普通あり得ないことだが、大公母ミリア妃も着席をしている。
・・・・・・・・
来賓用の長机の上には、旬の果実、いい匂いを漂わせている
色々な種類の焼菓子、果実酒、果実水、ミカル公室秘蔵の香茶などが、
美しい花々と一緒に、各自の席の前に置かれている。
トリハ宰相による軽い挨拶のあと、
「大公陛下におかれましては、・・・。」
と、いきなりアマトが、レリウス大公に奏上しようとするが、
「よせやい、アマト。おれとおまえの仲ではないか、
この場では、慇懃講のときのような話し方は、なしにしようぜ。」
と、レリウス公本人に、柔らかに窘められてしまう。
「そうよ、アマト。わたしにとっては、レリウスも、あんたの舎弟のようなもの。
わざわざ畏まって話す必要はないわ。
その、〈舎弟〉の単語に、リリカ副宰相が、抗議をしようと口を開こうとするが、
トリハ宰相に視線で制止させられる。
ここで、この空気に気圧されることもなく、ミリア妃が静かに口を開く。
「新帝国のみなさん、特にエリースさん。
わたしの馬鹿息子のレリウスの命を救っていただき、ほんとありがとう。
いつか、お礼をしたいと思っていました。」
「今日、その願いが叶いました。
もう一度、言わせていただきます。本当にありがとう。」
ミリア妃は、椅子から立ち上がり、深々と頭を下げる。
左右非対称の、白色を基調とした略礼服を、肩で着こなすその姿勢、
イルムやルリがこの場にいたら、ミリア妃が、日々いかに節制に勤しんでいるか、
読み取っていただろう。それが姿勢だけではないことも・・・。
「いえ、お礼を言われる・・ほどの事は、していませんし・・・。
・・・だから、ミリア妃さま。どうぞお顔をあげて・・下さい。」
ミリア妃の態度に驚きながらも、エリースは、なんとか自分の思いを言葉にする。
イルムやルリほどではないにしろエリースも、人としての格というものを、
ミリア妃に感じているようだった。
「あの~、冷えないうちに、香茶をいただいても、よろしいですか?」
そこにラファイアさんが、漂う雰囲気を歯牙にもかけず、
自分の欲望だけに忠実に、この場に言葉を投げ入れる。
その言葉を受けレリウス公は、
「これは、ラファイアの姐さん、気が付かなくて済まない。
どうぞ、どうぞ。そう、お前たちも、好きにやってくれ。」
と、楽しそうに、ラファイアに話を返し、同時に皆に会食をすすめる。
「そうだ、ところでアマト、さっき国書でも、渡そうとしたんだろ。
あとで、トリハの方に渡してくれれば、おれは、それで構わないから。」
「なんせ、今のミカルに、新帝国の提案に異議を唱える余裕は、ないんでね。」
固まり続けているアマトにレリウスは、親し気に声をかけ、
返す刀で、ごく自然に、暗黒の妖精さまに話をふる。
「で、ラティスの姉御。来国された本当の目的はなんだい?」
「ふふふ、知りたい?」
優雅に微笑んでみせる、ラティスの姉御。
「知りたいねぇ。」
レリウス公は、普通に、ラティスの話の流れにのっかる。
「それは~!」
「それは?」
「ミカルに平和のきっかけを届けに来たのよ。」
「「「・・・・・・・。」」」
そのラティスの返す言葉に、昼用の淡い媒介石灯の光が吹雪き、
ラファイア以外の全員が息をのむ。
(ただ、ラファイアだけは、ひとり香茶の世界を耽溺している。)
第2章。レリウス大公との歓談(2)
「で、それはどんな方法なんだい、至高の妖精さま!」
しばしの沈黙のあと、それでもレリウスは、公国の長として、
暗黒の妖精に問いかける。
「あんたも、言葉の使い方が、だいぶマシになってきたんじゃない。
それに免じて、特別に教えてあげる。」
暗黒の妖精さまは、上機嫌で、ミカルの餓狼の言葉に答える。
「わたしは、アバルト学院の名誉理事長として、ここに来ているわ。
大昔、他国の学園の間で、交流戦というのがあったらしいわね。
それで、それを再開させようと、
その交渉で、わたしが来訪したことにするのよ。」
「むろん、手ぶらで来たわけではないわ。
あんたたちの学院の選抜の学生に、わたしの学院の代表として、
ヨクスには矛で、エリースには魔力で、公開模擬試合をさせてあげる。
ふたりとも、半端じゃない力の持ち主よ。
あんたんところの学生も、勉強になると思うわ。」
「そして、大トリに、わたしが、極上級妖精の魔力の一端の試演として、
ミカル山地だったけ、その高山のひとつを、消滅させてあげるわ。」
レリウスにも、おぼろげながら、強大な魔力を持つ、暗黒の妖精が、
何を言いたいか理解してゆく。
「だから、当日までにその事を、あるアホの妖精にも魔力を使わせて、
この大公国の津々浦々、特にアンタに敵対する地域に、
映像と精神波で告知するわ!」
「・・・そこで、定めの日に、山が・・・消滅するか。」
レリウスの脳裏に、その映像がはっきりと浮かんでくる。
「で、あんたは、わたしの舎弟であることが、このミカル全域に知れ渡るわ。
それでも、アンタに対して、叛旗を掲げ続けるだけの、
根性がある相手が、敵側にどれくらいいるかよね。」
「そうとうに、楽しいお話のようね・・・。」
急に、ミリア妃が、ふたりの話に割って入る。
「あゝ、おふくろどの。これが・・・、これこそが、ラティスの姉御だ。」
「ん~そのですね、ラティス殿。レリウス陛下を舎弟と呼ばれるのは、どうかと。
今回だけでも、友人と言っていただければ、嬉しいのですが・・・。」
トリハ宰相も、自然に会話に加わってくる。
あ然とし続けているリリカ副宰相と違い、
ミリア妃もトリハ宰相も、レリウス大公同様、暗殺者・謀略者・陰謀家などが、
常に隣にいるかもしれない、いや、いた日常を送らせられている。
つまり、日頃の覚悟の差が、このようなところで、露呈する。
「は、わたしから友人なんて呼ばせようなんて、万年は早いわよ!」
「それにね、それはそれとして、ひとつ問題があるのよ。」
「ラティスの姉御、それはいったい・・・。」
ミカルの長として、その話にのることを即断した、レリウス公が尋ねる。
「そのアホの妖精はね。なかなか、わたしに協力しようとしないのよ。
だいたい日頃から、わたしが右と言ったら、左に行くような奴なのよ。」
「なるほど・・・。」
レリウスの目は、先程から周りのことは完全無視で、
ミカル公室の秘蔵の香茶の香り・味の世界に惑溺している誰かさんへと、
注がれた。
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