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CCⅩⅩⅩⅨ 星々の膨張と爆縮編 中編(5)
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第1章。大騒ぎの陰で
アマト達の鉄馬車は、帝国様式とも言われる大きな5つの門が並列に並ぶ、
ミカルの公都ミカル・ウルブスの正門が見えるところまで、到着している。
だが、臨戦態勢に移行しているミカルの公都は、入都者に対して、
厳しい入都検査が行われているようで、多くの鉄馬・鉄馬車が止まり、
旅人たちが手持ち無沙汰に、自分たちの順番を待っている。
エリースとラファイアは、
この状況を目ざとく気付き、開いている簡易型の露店や、
賑やかに動き回る行商たちのところに行くと、
鉄馬車を離れて、外出している。
それに対して、『わたしは、ラファイアと違って待てる妖精よ。』と、
始めは余裕綽々に、エリースにも言ってたラティスさまだったが、
あまりの待たされように、
さすがに、次第に顔の色が変わってきている・・・。
「こらアマト。これは何なのよ。何で、この世界の神々にも匹敵するわたしが、
このような無意味な時間を、過ごさないといけないのよ!」
と、とうとう爆発したラティスさまに、アマトは、
「ラ ラティスさん、仕方ないよ。武国の王宮をカウシムさんが、
少数の手勢で制圧したという事実が、ミカルにも伝わっているだろうから、
どうしても入都者に厳しくなるのは・・・。」
と、抗弁を試みるものの、それはラティスに届かなかったらしく、
「カウシム?・・・。ああ、あのアピスのわんこね・・・!」
「そう、だったらアマト!つまり、この事態は、あのアピスのヤツが、
遠因だというのよね・・・。」
そう返した暗黒の妖精に、アマトは自分の言葉が、〚大暴れしていい!〛との
白紙許可証を渡してしまったらしい事に気づき、顔色が青く変わってゆく・・・。
「ふふふふ・・・。」
冷ややかに笑う、ラティスの姿は、スッと暗黒の影と消える。
あわててアマトは、鉄馬車の窓から乗り出し、車外を見渡す。
そのアマトの耳に・・・、
≪「わが名はラティス、暗黒の妖精!我が契約者アマトの先導者。
門を閉ざし、時間を空費させる、愚か者よ。
わたしの時間は、万金にあたる。よって、おして通る!!」≫
という斜め上のラティス言葉が、頭上から降ってくる。
あわてて、斜め上を見上げる、アマト。
そこには、怒りの背光に包まれ、右腕を門の方向に伸ばした暗黒の妖精の姿、
手の先には、光を纏った八陣の魔法円が・・・。
≪「セプテム《7》。」≫
アマトの網膜は、左右の見えるところに、
ラファイア・エリース・リーエがいることを、とらえる事ができない。
ゆっくりと、数字は進む・・・。
≪「セクス《6》。」≫
目の前の街道にいた人々が、道の両側に慌てて避難していくのを、
アマトは確認させられる。
≪「クィーンクェ《5》。」≫
それでアマトは、鉄馬車の扉を蹴り開け、席から立ち上がり。
≪「クアットオル《4》。」≫
そして、鉄馬車の側方についている登上用の階段に、手をかけ・・・。
≪「トレース《3》。」≫
あわてて階段をのぼり、最上部の握り手部分を掴み、
体を引き上げ・・。
≪「ドゥオ《2》。」≫
そして何かを叫びつつ、ラティスの足元に飛び込むべく、体勢をつくる。
≪「ウーヌス《1》。」≫
次の瞬間、「なにするの、アマト!!」と、
暗黒の妖精の怒声を鼓膜に受けながら、
まぶしいばかりの光に包まれ、
同時に来た、激しい衝撃に、意識を切り取られた。
・・・・・・
アマトは、意識の底から、自分が浮かび上がっていくのを感じる。
「アマトさん。気づかれましたか?」
聞きなれた声に、アマトは、ゆっくりと、まぶたを上げる。
そこには、安心したような、ラファイアの見慣れた笑顔が。
アマトの耳に、かすかに、雷鳴がきこえる。
「ははは、ラティスさんは、すご~~くお怒りのエリースさんに、
追い回されていますよ。リーエさんも、泣き顔で、強制参加させられてますが。」
「ラファイアさん・・・。」
アマトは、御者姿のままのラファイアに声をかける。
「アマトさん、動かないで下さい。全身治癒を・・しています。」
アマトの言葉を遮りつつ、ラファイア自身は、言葉を続ける。
「ラティスさんが、誤発射したのが、指向性の光線だったんで、
まあそれは、それで良かったのですが、
それでも、発射寸前の時の、アマトさんの体当たりで、一部が暴発して・・・、
・・・鉄馬車は一瞬で消失しました。」
「わたしの、アマトさんに張った、半自動的な障壁がなければ、
アマトさんも、光の粒になっていたでしょう・・・。」
雷鳴が、次第に間隔をあけ、かつ小さくなってゆく・・・。
「さすがに、ラティスさんの光撃です、不完全状態での発射とはいえど、
ミカル・ウルブスの結界を完璧に消滅させ、最も高い塔の一部を削り取り、
光の粒と変えました。」
「まあ、それとは別に、この街道沿いに、あの光芒を直に見た人々の多くが、
視覚の異常を起こしているので、
わたしは同時に、広域治癒もしているんですよ。
ラファイスさんや、エメラルアさんほどのものじゃないかもしれませんが・・・、
どうです、わたしも、凄いでしょう。」
柔らかい微笑みが、ラファイアから、アマトに降り注ぐ。
「ありがとう、ラファイアさん。」
この言葉とは裏腹に、アマトの心に、自嘲の思いが浮かぶ。
『止められなかった・・・。・・・に迷惑をかけた・・・。』と。
「ふふ、ラティスさんの後始末も、結構面白いんですよ。妖精としては・・・。」
「それよりも、凄いのはアマトさんです。」
「ぼくが・・・。」
「あの状態のラティスさんを止めに、体を投げ出すなんて・・・、
妖精界で頂点の魔力を持つわたしだけでなく、
同じ強者である、ラファイスさんも、ルービスさんも、アピスさんも、
そしてエメラルアさんも・・・、そんなことは、できません。」
「いえ正確に言うと、やろうとも思いません。」
「アマトさんは、勇者さま・英雄さまではありませんが、勇気あるひとです。
わたし、ラファイアは、アマトさんと契約したのを、誇りに思います。」
「・・・・・・・。」
しばらく、軽やかな沈黙が続く。
「ん、中央の門が開きます・・・。だれかが、鉄馬で、こちらに・・・。
あれは、先発したヨクスさんと、ミカル大公国のリリカ副宰相さんですね・・・。」
「アマトさん、どうやら、公都に入れそうです・・・。」
アマトは、再び、意識を手放して、眠りに入っている。
「あらあら・・・。ところで、ラティスさんに、エリースさんに、リーエさんは、
どこまでいったんでしょうかね?」
そう言って、ラファイアは小首を傾げた。
アマト達の鉄馬車は、帝国様式とも言われる大きな5つの門が並列に並ぶ、
ミカルの公都ミカル・ウルブスの正門が見えるところまで、到着している。
だが、臨戦態勢に移行しているミカルの公都は、入都者に対して、
厳しい入都検査が行われているようで、多くの鉄馬・鉄馬車が止まり、
旅人たちが手持ち無沙汰に、自分たちの順番を待っている。
エリースとラファイアは、
この状況を目ざとく気付き、開いている簡易型の露店や、
賑やかに動き回る行商たちのところに行くと、
鉄馬車を離れて、外出している。
それに対して、『わたしは、ラファイアと違って待てる妖精よ。』と、
始めは余裕綽々に、エリースにも言ってたラティスさまだったが、
あまりの待たされように、
さすがに、次第に顔の色が変わってきている・・・。
「こらアマト。これは何なのよ。何で、この世界の神々にも匹敵するわたしが、
このような無意味な時間を、過ごさないといけないのよ!」
と、とうとう爆発したラティスさまに、アマトは、
「ラ ラティスさん、仕方ないよ。武国の王宮をカウシムさんが、
少数の手勢で制圧したという事実が、ミカルにも伝わっているだろうから、
どうしても入都者に厳しくなるのは・・・。」
と、抗弁を試みるものの、それはラティスに届かなかったらしく、
「カウシム?・・・。ああ、あのアピスのわんこね・・・!」
「そう、だったらアマト!つまり、この事態は、あのアピスのヤツが、
遠因だというのよね・・・。」
そう返した暗黒の妖精に、アマトは自分の言葉が、〚大暴れしていい!〛との
白紙許可証を渡してしまったらしい事に気づき、顔色が青く変わってゆく・・・。
「ふふふふ・・・。」
冷ややかに笑う、ラティスの姿は、スッと暗黒の影と消える。
あわててアマトは、鉄馬車の窓から乗り出し、車外を見渡す。
そのアマトの耳に・・・、
≪「わが名はラティス、暗黒の妖精!我が契約者アマトの先導者。
門を閉ざし、時間を空費させる、愚か者よ。
わたしの時間は、万金にあたる。よって、おして通る!!」≫
という斜め上のラティス言葉が、頭上から降ってくる。
あわてて、斜め上を見上げる、アマト。
そこには、怒りの背光に包まれ、右腕を門の方向に伸ばした暗黒の妖精の姿、
手の先には、光を纏った八陣の魔法円が・・・。
≪「セプテム《7》。」≫
アマトの網膜は、左右の見えるところに、
ラファイア・エリース・リーエがいることを、とらえる事ができない。
ゆっくりと、数字は進む・・・。
≪「セクス《6》。」≫
目の前の街道にいた人々が、道の両側に慌てて避難していくのを、
アマトは確認させられる。
≪「クィーンクェ《5》。」≫
それでアマトは、鉄馬車の扉を蹴り開け、席から立ち上がり。
≪「クアットオル《4》。」≫
そして、鉄馬車の側方についている登上用の階段に、手をかけ・・・。
≪「トレース《3》。」≫
あわてて階段をのぼり、最上部の握り手部分を掴み、
体を引き上げ・・。
≪「ドゥオ《2》。」≫
そして何かを叫びつつ、ラティスの足元に飛び込むべく、体勢をつくる。
≪「ウーヌス《1》。」≫
次の瞬間、「なにするの、アマト!!」と、
暗黒の妖精の怒声を鼓膜に受けながら、
まぶしいばかりの光に包まれ、
同時に来た、激しい衝撃に、意識を切り取られた。
・・・・・・
アマトは、意識の底から、自分が浮かび上がっていくのを感じる。
「アマトさん。気づかれましたか?」
聞きなれた声に、アマトは、ゆっくりと、まぶたを上げる。
そこには、安心したような、ラファイアの見慣れた笑顔が。
アマトの耳に、かすかに、雷鳴がきこえる。
「ははは、ラティスさんは、すご~~くお怒りのエリースさんに、
追い回されていますよ。リーエさんも、泣き顔で、強制参加させられてますが。」
「ラファイアさん・・・。」
アマトは、御者姿のままのラファイアに声をかける。
「アマトさん、動かないで下さい。全身治癒を・・しています。」
アマトの言葉を遮りつつ、ラファイア自身は、言葉を続ける。
「ラティスさんが、誤発射したのが、指向性の光線だったんで、
まあそれは、それで良かったのですが、
それでも、発射寸前の時の、アマトさんの体当たりで、一部が暴発して・・・、
・・・鉄馬車は一瞬で消失しました。」
「わたしの、アマトさんに張った、半自動的な障壁がなければ、
アマトさんも、光の粒になっていたでしょう・・・。」
雷鳴が、次第に間隔をあけ、かつ小さくなってゆく・・・。
「さすがに、ラティスさんの光撃です、不完全状態での発射とはいえど、
ミカル・ウルブスの結界を完璧に消滅させ、最も高い塔の一部を削り取り、
光の粒と変えました。」
「まあ、それとは別に、この街道沿いに、あの光芒を直に見た人々の多くが、
視覚の異常を起こしているので、
わたしは同時に、広域治癒もしているんですよ。
ラファイスさんや、エメラルアさんほどのものじゃないかもしれませんが・・・、
どうです、わたしも、凄いでしょう。」
柔らかい微笑みが、ラファイアから、アマトに降り注ぐ。
「ありがとう、ラファイアさん。」
この言葉とは裏腹に、アマトの心に、自嘲の思いが浮かぶ。
『止められなかった・・・。・・・に迷惑をかけた・・・。』と。
「ふふ、ラティスさんの後始末も、結構面白いんですよ。妖精としては・・・。」
「それよりも、凄いのはアマトさんです。」
「ぼくが・・・。」
「あの状態のラティスさんを止めに、体を投げ出すなんて・・・、
妖精界で頂点の魔力を持つわたしだけでなく、
同じ強者である、ラファイスさんも、ルービスさんも、アピスさんも、
そしてエメラルアさんも・・・、そんなことは、できません。」
「いえ正確に言うと、やろうとも思いません。」
「アマトさんは、勇者さま・英雄さまではありませんが、勇気あるひとです。
わたし、ラファイアは、アマトさんと契約したのを、誇りに思います。」
「・・・・・・・。」
しばらく、軽やかな沈黙が続く。
「ん、中央の門が開きます・・・。だれかが、鉄馬で、こちらに・・・。
あれは、先発したヨクスさんと、ミカル大公国のリリカ副宰相さんですね・・・。」
「アマトさん、どうやら、公都に入れそうです・・・。」
アマトは、再び、意識を手放して、眠りに入っている。
「あらあら・・・。ところで、ラティスさんに、エリースさんに、リーエさんは、
どこまでいったんでしょうかね?」
そう言って、ラファイアは小首を傾げた。
応援ありがとうございます!
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