上 下
236 / 266

CCⅩⅩⅩⅥ 星々の膨張と爆縮編 中編(2)

しおりを挟む
第1章。考察


 その日の前夜、叛乱貴族軍との間に緊張高まる、ミカル大公国の公都
ミカル・ウルブスにも、武国と王国連合軍の戦のあらましが届いた。

普通、各国とも、その戦場や戦いが確認できる場所に、
諜報ちょうほう者をひそませるものではあるが、戦場であるカウチの平原は、
膨大ぼうだいな水量が荒れ狂う山津波での、
壊滅的な状況に巻き込まれ、
それでも水のやいばにかろうじて生き残った者や、高空でいた者たちも、
攻撃に極振りした、武国軍の魔力による長距離狙撃により、
ひとり、またひとり、と撃ち抜かれ、本国に戦況を知らせられた者は、
皆無に近かった。

また、魔力でその戦況を確認しようとした者は、不明の超大な魔力障壁ではばまれ、
または精神を狂わされて、このやり方も上手くいっていない。

よって、戦況の、それもあらましを知るために、公都やミカの街で、
足で聞いて集めるしかなかったので、情報の収集が遅くなったのだ。

・・・・・・・

「で、何が言いたいんだ?」

イルト卿の言葉に、レリウスは声だけで答える。
その目は、トリハ宰相が地図上で動かす、大小・多数の青・赤・白の駒の
新たな位置を追っている。

「わたしが受け取りました、敗走した王国連合軍にひそませておりました
生き残った密偵からの書状に、
≪敵軍に暗黒の妖精確認!≫の精神波が飛び交ったとの、
一文がございました。」

「あわせて、その他の書状から推測しますに、
暗黒の妖精が、武国と王国連合の戦いで、巨大シューマ湖を決壊《けっかい》させ、
王国連合を壊滅かいめつさせたのは、まず間違いありますまい。」

「その暗黒の妖精を、現在の状況で、わが国におまねき入れるのは、
いかがなものかと、小臣は愚考しております。」

そう上奏じょうそうするイルト卿の背後に、オルク卿・ウルト卿のニ將もひかえ、
あるじの、理知ある返答を待っている。

「リリカ、お前はどう思う?」

渡された、三將のもとに到着した書状を確認していた、副宰相のリリカに、
レリウスはえて質問を投げてみる。

「あの戦いののち、武国に、新帝国からの交渉の使者が走ったようには、
どの書状も書いてきておりません。」

「だから、武国の凶虎と新帝国の女狐との間に、
事前になんらかの密約があったという可能性は、低いかと思われます。
この資料だけでは、皆無とは、いいかねますが。」

感情を入れない、冷静な受け答えを、リリカはあるじレリウスに対して行う。
その副宰相の返答に、トリハ宰相も目の動きで、同意している。

「ま、事後処理で、大変なようですな、あちらさんたちも。」

リリカ副宰相の返答を聞いた後にしては、緊張感もないトリハ宰相の言葉に、
その場の空気のとどこおりが、少しゆるんでいく。

「ところで、イルトはく。このまえ、風のエレメントの超上級妖精と相対して、
どう思えた?」

急に、レリウスは数日前のことを、自身の忠臣に、その存意ぞんいを求める。
忘れたい記憶が、イルト伯の心の底からき上がってくる。

蜃気楼しんきろう体の、風のエレメントの超上級妖精ですか・・・。
情けないことですが・・、その存在自体にすくめられ・・、
小指の先さえ、動かそうにも、動かせ・・ませんでした・・・。」

『なぜ今その事を?』と、オルク・ウルトのニ卿の視線が、
敬愛するレリウスの後ろ姿へ向かう。
その思いを知ってか知らずか、なおも、イルト伯の言葉は続いていく。

「〚戦場で、超上級妖精と遭遇そうぐうしたら、逃げよ!〛という言葉を、
生き残った臆病者の・・、都合のいい弁解ためのものと思っていましたが・・・、
実際、超上級妖精と相対あいたいして、それが言葉以上の事実をふくんでいるのを、
気付かされました・・・。」

レリウスは、そのイルト伯の言葉を背に聞き、目の前の地図から目を離し、
ゆっくりと三將の方へ体を向ける。

「おれも、そうだった。
水のエレメントの超上級妖精ルコニア、その契約者グゴール。
その底さえ見えぬ圧倒的な魔力ちから
あの時オレは、間違いなく死を覚悟した・・・。」

「だが、その相手を、エリースのじょうちゃんと、けいらが相対した
あの妖精は、こともげも無く、奴らを敗者の地位へ追いやった・・・。」

「ほんと、こともげも無くな・・・。」

そう語る、レリウスの目は遠くを見つめ、目の前の三將を見ていない。

「だがなイルト伯。それ以上に、極上級妖精は、
オレの目の前で、荒れ狂う超上級妖精の契約者の嬢ちゃんを、
軽くいなして、みせたんだよ・・。まったくにな・・・。」

遠くに泳いでいたレリウスの目が、今度は、三將の方へ向かう。

「まあ、向こうが来ると言うのを断ったら、ミカルの明日は、まずないな。」

「ですが、陛下!」

えられなくなったのか、ウルト卿が、ふたりの会話に割ってはいる。

「ウルト卿。言いたいことは、わかるぜ。
ただ、お前たちは、ある思い違いをしている。」

「思い違いですか!?」

それまで沈黙を選択していたオルク卿も、言葉をついらしてしまう。

「暗黒の妖精は・・・、ラティスの姉御あねごは・・、契約者であるアマトの坊やの、
たてにはなってくれるが、剣やほこにはなってくれないとういことだ。」

「・・・・・・・・。」

「つまりだ。自分が気が乗らないなら、契約者が何をわめこうが、
、ということだ。」

「それに、アマトの坊やは、全く魔力が使えんしな・・・。」

レリウスの言葉が、いったん、そこで切れる。

わたくしが思いますに、王国連合軍は、新帝国側からの干渉をけるために、
暗黒の妖精の契約者に、暗殺者を差し向けたのかと、考察いたします。」

「今の新帝国には、他国に干渉できる剣は、かの妖精しかありますまい。
だとすれば、その契約者を亡き者にすれば・・・。」

「武国との戦いに集中するため、最小限の手間ひまでむと考えたのでは。」

リリカが、ミカルの公爵とミカルの伯爵の考察をすり合わせるために、
立場として、ふたりの会話の間にはいる。

「オルク卿。陛下は、かの者に、かって暗殺者をを、
お話になっている。」

「「「・・・・・・・・!!??」」」

不意に発せられた、トリハ宰相の言葉に、さすがのミカルがほこる三將も、
驚愕きょうがくのあまり、固まってしまう。

「つまりだ、それでも、オレはこうして生きている。」

「それに、オレは、アマトの坊やも、ラティスの姉御も、エリースの嬢ちゃんも、
きらいじゃないんだ。」

「こんな時だが、会うだけなら、そんな、手間にもなるまいよ。」

「それに、これがオレの、生きた公爵としての、
最後の見栄みえになるかもしれないがな。」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

排泄時に幼児退行しちゃう系便秘彼氏

mm
ファンタジー
便秘の彼氏(瞬)をもつ私(紗歩)が彼氏の排泄を手伝う話。 排泄表現多数あり R15

冤罪で自殺未遂にまで追いやられた俺が、潔白だと皆が気付くまで

一本橋
恋愛
 ある日、密かに想いを寄せていた相手が痴漢にあった。  その犯人は俺だったらしい。  見覚えのない疑惑をかけられ、必死に否定するが周りからの反応は冷たいものだった。  罵倒する者、蔑む者、中には憎悪をたぎらせる者さえいた。  噂はすぐに広まり、あろうことかネットにまで晒されてしまった。  その矛先は家族にまで向き、次第にメチャクチャになっていく。  慕ってくれていた妹すらからも拒絶され、人生に絶望した俺は、自ずと歩道橋へ引き寄せられるのだった──

処理中です...