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CCⅩⅩⅩⅢ 星々の膨張と爆縮編 前編(4)
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第1章。新帝国で蝶が羽ばたく・・・(1)
「イルム、いるよね!?」
新帝国執政官室の扉を開けて、人によっては、禍々しい怪物と称するだろう
暗黒の妖精ラティスさまが、陽気に入ってくる。
「あら、ラティスさん。おそかったじゃないですか?」
こちらは、ヘラヘラとした笑顔で、香茶をご相伴していた、
アマトの侍女の姿の白光の妖精が答える。
「あんた、宮殿にも玄関というのが、存在しているのは、分かっている?」
とは言え、この妖精さんも、門の警備の騎士たちの誰何の声に、
一切 呼応したことはない。
これには、南宮にいる、サニーをはじめとした文官も、
アマルをはじめとした武官も、もうあきらめている。
イルムやルリにいたっては、その点については、初めから期待もしていない。
「で、ラティスさん。何のご用ですか?」
裏のありそうな、けど穏やかな笑顔で、イルムが尋ねる。
「イルム。あんたも、新帝国の女狐と言われるわりには、鈍いわね。」
「?」
おやおやという心の声が、イルムの表情に浮かぶ。
「ははは、ラティスさんが、わざわざこの部屋に、お伺いなさるのは、
悪巧みが、万が一にも、事後にあの御方にバレても、
ごまかしきる理由を見つけるため、じゃないですか。」
ラファイアが、香茶碗を机に置きながら、にこやかに正答を、言の葉にのせる。
「ということは、アマトは?」
ルリが、一応は、アマトの所在を確認する質問をしてはみる。
「筆頭護衛騎士のアマルに、押し付けてきたわ。」
「アマトも、この南宮の護衛騎士の筆頭者と、今後のことを考えれば、
仲良くする必要が、あるわよね。」
ルリの美しい顔に、〚何かを期待したわたしが、バカだった〛という
わかりやすい心持ちが浮かぶ。
「はあ~。酷な事をしましたね、ラティスさん。
アマルさんも結構美しい方です。
1対1なんて・・・。
アマトさん、ガチガチに固まっていますよ、今頃は!」
だが、ラファイアの真実の指摘にも、ラティスの口ぶりは、一切変化しない。
「あいつは、特に美人に弱すぎるのよ。だいたい、自分が美人に相手をされると、
思っているのかしら。それこそ、神々をも恐れぬ所業というやつじゃない。」
「・・・・・・・。」
契約者のアマトを貶めるラティスのこの言葉に、
さすがのラファイアも、笑顔から、血の気が引いていく・・・。
この、いつもの小芝居を、何も言わず眺めていたイルムは、
あらためて、ラティスに声をかける。
「あらためて聞くけど。ご用は何、ラティスさん?」
「今度、ミカルに行くことにしたので、アマトとエリースが行ける理由を、
ユウイが納得する命令を、考えて欲しくてね。」
何事もないかのように、ラティスはイルムに答える。
「ミカル大公国に!?」
イルムの、その美しい目の端が、ピクリと動く。
ルリも、お茶受けに、香茶椀を静かに置いた。
「ラティスさんにアマトくん、リーエさんにエリースが、
一斉に皇都を離れるのか・・・。
ま、ラファイアさんが残れば・・・、構わないか・・・。」
イルムが、静かな口ぶりで、暗黒の妖精の真意を探る。
暗黒の妖精の性格は、熟知しているため、止めるの言葉は出てこない。
「ははは、イルムさん。わたしが、ついて行かなくて、
このお方が、気持ち良く暴走したときは、だれが止めるんですか。
わたしは、炎の中に崩れ行くミカルの光景が、簡単に想像できますよ。」
「だとしても、新帝国の執政官の立場としては、御遠慮願いたいとしか、
言えないわよね。」
ルリは、イルムが話せなかったひと言を察し、
それを口にすることで、話に加わってくる。
「それより、正当な理由もなしに、ユウイさんを騙す策を考えるのは、
店子のひとりとしては、お断りしたいわ。」
ルリの言葉に応じた、次のイルムの返答は、まるでそっけない。
「そうですよ、ラティスさん。やはり理由は、噓なく、正確にいきましょう。
ユウイさんに、あの笑顔で、詰められるのは・・・。」
ラファイアも、神々しくもうさんくさい本来の姿に戻ってゆく。
「わかったわよ、ラファイア。わたしも、ラファイスのやつのために、
そこまでしてやる理由はないからね。」
「ラファイスさんが絡んでいるの・・・!?」
イルムの顔色が、わかりやすく変わる
「だったら、イルム。全力で、策作りしないとね。」
ルリの方も、副執政官モードに変わり、口を開く。
「あんたらふたりとも、わたしと扱いが、違いすぎるんじゃなくて!!」
ラティスが、さすがにふたりの態度に、気分を害したようだ。
「わはははは・・・・・・・。」
ラファイアは、両手を広げ、上下にふりながら、派手に笑いを演出する。
「いーかげんにしなさいよ、ラファイア。
絶対あんたも、ラファイス側じゃないわよ!」
ラティスの指摘に、イルムとルリの眼差しを、恐る恐る眺めて、
そして、ラファイアは、しばらく固まった。
第2章。新帝国で蝶が羽ばたく・・・(2)
「今回、ラティスさんが、ミカルに向かうのは、つまるところ、
ラファイスさんの契約者のノエルさんの、キリナさんへの友情に心震わせたのが、
その大元の理由というわけですか・・・。」
「それにあわせて、
アマトくんが【ラファイスの禁呪】を使ってみせたことで、
ノエルさんが、それを信じて励行しているのを、
ラファイスさんが非難してきた件もあると・・・。」
ラティスから一通りの説明を聞いたあと、イルムは最終的な確認を、
目の前の超絶の魔力をもつ妖精にいれる。
その表情は、新帝国執政官以外の何物でもない。
「で、エリースも帯同させるのは?」
「エリースだけじゃないわ。アバウト学院からも、何人か見繕って、
連れて行くつもり。」
「アマトの弟分のレリウスが、来賓理由に困らないように、
いざとなったら、アバウト学院の名誉理事長として来たと、言うためよ!」
「そんな、小細工なんか考えなくても、
トリハ宰相以下、ラティスさんに文句を言う命知らず人なんか、
いないと思いますよ。」
「あまいわね、ラファイア!ミカルなんてド田舎よ!ド田舎。
なまりまじりの言葉に、高貴なわたしの事を賛美する言葉がなくて、
低俗な白光の妖精のみ、文献に記載されてあるかもしれないじゃない。」
「つまりね、妖精関連の文章に、神聖な暗黒の妖精が未掲載で、
知らないという、無知蒙昧な人間だらけかもしれないわよ。」
「だったら、ラティスさん。
そのときは、あのお下品な精神波を使えばいいじゃありませんか?」
「お下品な!? ま、それはおいといて・・・。
わからないわよ、ラファイア。
全部が全部、アマトのような、魔力無し者かも、しれないじゃない。」
「あのね、ラティスさん。
帝国内であれば、どこに言っても、帝国標準語が話されているから。
ま、いくつか知らない単語も、あるかもしれないけどね。」
ルリが、小芝居をやめさせるべく、妖精の会話にわってはいる。
「そうですね。大昔、他国の学園の間で、交流戦というのがあったと
記憶してます。
ラティスさんの方は、その交渉で訪問したと、済ませることにして・・・。
学生の代表として、エリースを帯同させ、
アマトくんの方は、旧双月国領の処分への同意をもらうための、
国書をもたせて、全権大使の任をさせてみるのも・・・、おもしろいか。」
怜悧な笑いが、イルムの表情に浮かぶ。
「ただ、ラファイアさんは、お留守番ね。」
「それ・・・・」
「ちょっと待った!!」
ラファイアが、何か言いかけた途端、ラティスが割って入ってくる。
「ラファイアも、連れて行くわ!」
「「「?」」」
「皇都の護りは、ラファイスにさせる!
あいつからの苦情も原因のひとつで、今回は動くからね。
あの四角四面のバカ妖精も、いやとは言わないしょう」
「それに、イルム。ラファイアの参加は非常に大事なことよ。」
「・・・・・・・。」
ラティスのいつもと違う、その真摯な態度に、ラファイア・イルム・ルリ、
さんにんとも驚いて、口をだせない。
だけど・・・、
「こいつに留守をさせれば、留守中、どんなことをユウイに吹き込むか、
わかったもんじゃない。」
いつもの、ラティスさまであった。
「イルム、いるよね!?」
新帝国執政官室の扉を開けて、人によっては、禍々しい怪物と称するだろう
暗黒の妖精ラティスさまが、陽気に入ってくる。
「あら、ラティスさん。おそかったじゃないですか?」
こちらは、ヘラヘラとした笑顔で、香茶をご相伴していた、
アマトの侍女の姿の白光の妖精が答える。
「あんた、宮殿にも玄関というのが、存在しているのは、分かっている?」
とは言え、この妖精さんも、門の警備の騎士たちの誰何の声に、
一切 呼応したことはない。
これには、南宮にいる、サニーをはじめとした文官も、
アマルをはじめとした武官も、もうあきらめている。
イルムやルリにいたっては、その点については、初めから期待もしていない。
「で、ラティスさん。何のご用ですか?」
裏のありそうな、けど穏やかな笑顔で、イルムが尋ねる。
「イルム。あんたも、新帝国の女狐と言われるわりには、鈍いわね。」
「?」
おやおやという心の声が、イルムの表情に浮かぶ。
「ははは、ラティスさんが、わざわざこの部屋に、お伺いなさるのは、
悪巧みが、万が一にも、事後にあの御方にバレても、
ごまかしきる理由を見つけるため、じゃないですか。」
ラファイアが、香茶碗を机に置きながら、にこやかに正答を、言の葉にのせる。
「ということは、アマトは?」
ルリが、一応は、アマトの所在を確認する質問をしてはみる。
「筆頭護衛騎士のアマルに、押し付けてきたわ。」
「アマトも、この南宮の護衛騎士の筆頭者と、今後のことを考えれば、
仲良くする必要が、あるわよね。」
ルリの美しい顔に、〚何かを期待したわたしが、バカだった〛という
わかりやすい心持ちが浮かぶ。
「はあ~。酷な事をしましたね、ラティスさん。
アマルさんも結構美しい方です。
1対1なんて・・・。
アマトさん、ガチガチに固まっていますよ、今頃は!」
だが、ラファイアの真実の指摘にも、ラティスの口ぶりは、一切変化しない。
「あいつは、特に美人に弱すぎるのよ。だいたい、自分が美人に相手をされると、
思っているのかしら。それこそ、神々をも恐れぬ所業というやつじゃない。」
「・・・・・・・。」
契約者のアマトを貶めるラティスのこの言葉に、
さすがのラファイアも、笑顔から、血の気が引いていく・・・。
この、いつもの小芝居を、何も言わず眺めていたイルムは、
あらためて、ラティスに声をかける。
「あらためて聞くけど。ご用は何、ラティスさん?」
「今度、ミカルに行くことにしたので、アマトとエリースが行ける理由を、
ユウイが納得する命令を、考えて欲しくてね。」
何事もないかのように、ラティスはイルムに答える。
「ミカル大公国に!?」
イルムの、その美しい目の端が、ピクリと動く。
ルリも、お茶受けに、香茶椀を静かに置いた。
「ラティスさんにアマトくん、リーエさんにエリースが、
一斉に皇都を離れるのか・・・。
ま、ラファイアさんが残れば・・・、構わないか・・・。」
イルムが、静かな口ぶりで、暗黒の妖精の真意を探る。
暗黒の妖精の性格は、熟知しているため、止めるの言葉は出てこない。
「ははは、イルムさん。わたしが、ついて行かなくて、
このお方が、気持ち良く暴走したときは、だれが止めるんですか。
わたしは、炎の中に崩れ行くミカルの光景が、簡単に想像できますよ。」
「だとしても、新帝国の執政官の立場としては、御遠慮願いたいとしか、
言えないわよね。」
ルリは、イルムが話せなかったひと言を察し、
それを口にすることで、話に加わってくる。
「それより、正当な理由もなしに、ユウイさんを騙す策を考えるのは、
店子のひとりとしては、お断りしたいわ。」
ルリの言葉に応じた、次のイルムの返答は、まるでそっけない。
「そうですよ、ラティスさん。やはり理由は、噓なく、正確にいきましょう。
ユウイさんに、あの笑顔で、詰められるのは・・・。」
ラファイアも、神々しくもうさんくさい本来の姿に戻ってゆく。
「わかったわよ、ラファイア。わたしも、ラファイスのやつのために、
そこまでしてやる理由はないからね。」
「ラファイスさんが絡んでいるの・・・!?」
イルムの顔色が、わかりやすく変わる
「だったら、イルム。全力で、策作りしないとね。」
ルリの方も、副執政官モードに変わり、口を開く。
「あんたらふたりとも、わたしと扱いが、違いすぎるんじゃなくて!!」
ラティスが、さすがにふたりの態度に、気分を害したようだ。
「わはははは・・・・・・・。」
ラファイアは、両手を広げ、上下にふりながら、派手に笑いを演出する。
「いーかげんにしなさいよ、ラファイア。
絶対あんたも、ラファイス側じゃないわよ!」
ラティスの指摘に、イルムとルリの眼差しを、恐る恐る眺めて、
そして、ラファイアは、しばらく固まった。
第2章。新帝国で蝶が羽ばたく・・・(2)
「今回、ラティスさんが、ミカルに向かうのは、つまるところ、
ラファイスさんの契約者のノエルさんの、キリナさんへの友情に心震わせたのが、
その大元の理由というわけですか・・・。」
「それにあわせて、
アマトくんが【ラファイスの禁呪】を使ってみせたことで、
ノエルさんが、それを信じて励行しているのを、
ラファイスさんが非難してきた件もあると・・・。」
ラティスから一通りの説明を聞いたあと、イルムは最終的な確認を、
目の前の超絶の魔力をもつ妖精にいれる。
その表情は、新帝国執政官以外の何物でもない。
「で、エリースも帯同させるのは?」
「エリースだけじゃないわ。アバウト学院からも、何人か見繕って、
連れて行くつもり。」
「アマトの弟分のレリウスが、来賓理由に困らないように、
いざとなったら、アバウト学院の名誉理事長として来たと、言うためよ!」
「そんな、小細工なんか考えなくても、
トリハ宰相以下、ラティスさんに文句を言う命知らず人なんか、
いないと思いますよ。」
「あまいわね、ラファイア!ミカルなんてド田舎よ!ド田舎。
なまりまじりの言葉に、高貴なわたしの事を賛美する言葉がなくて、
低俗な白光の妖精のみ、文献に記載されてあるかもしれないじゃない。」
「つまりね、妖精関連の文章に、神聖な暗黒の妖精が未掲載で、
知らないという、無知蒙昧な人間だらけかもしれないわよ。」
「だったら、ラティスさん。
そのときは、あのお下品な精神波を使えばいいじゃありませんか?」
「お下品な!? ま、それはおいといて・・・。
わからないわよ、ラファイア。
全部が全部、アマトのような、魔力無し者かも、しれないじゃない。」
「あのね、ラティスさん。
帝国内であれば、どこに言っても、帝国標準語が話されているから。
ま、いくつか知らない単語も、あるかもしれないけどね。」
ルリが、小芝居をやめさせるべく、妖精の会話にわってはいる。
「そうですね。大昔、他国の学園の間で、交流戦というのがあったと
記憶してます。
ラティスさんの方は、その交渉で訪問したと、済ませることにして・・・。
学生の代表として、エリースを帯同させ、
アマトくんの方は、旧双月国領の処分への同意をもらうための、
国書をもたせて、全権大使の任をさせてみるのも・・・、おもしろいか。」
怜悧な笑いが、イルムの表情に浮かぶ。
「ただ、ラファイアさんは、お留守番ね。」
「それ・・・・」
「ちょっと待った!!」
ラファイアが、何か言いかけた途端、ラティスが割って入ってくる。
「ラファイアも、連れて行くわ!」
「「「?」」」
「皇都の護りは、ラファイスにさせる!
あいつからの苦情も原因のひとつで、今回は動くからね。
あの四角四面のバカ妖精も、いやとは言わないしょう」
「それに、イルム。ラファイアの参加は非常に大事なことよ。」
「・・・・・・・。」
ラティスのいつもと違う、その真摯な態度に、ラファイア・イルム・ルリ、
さんにんとも驚いて、口をだせない。
だけど・・・、
「こいつに留守をさせれば、留守中、どんなことをユウイに吹き込むか、
わかったもんじゃない。」
いつもの、ラティスさまであった。
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