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CCⅩⅩⅧ 星々の様相と局面編 後編(7)  

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第1章。エリースの目から見た ある日の学院の放課後


 夕方、講義が終わると、わたしたちは、学内にあるガクさんとルックスさんが、
運営している休憩所で、果実水を飲むのが、日課となりつつあるわ。

それは、新帝国ノウムインぺリウム皇帝予定者であるセプティと、
ミカル大公国の公女、キリナ・セリナ・ミリナの警護のため、
多くの学院生の下校と時間をずらす方が、警護がしやすいからね。

このような事象において、儀仗ぎじょう隊とかが、
物々しく4人を囲んでの警護とならないのが、
他の王国や公国と、新帝国の違いだろう。

ま、それ以上に、怖い?お妖精ねえさんが、帯同をしているんだけど、
と目の前で、香茶を楽しんでいるリア(ラファイス)を、眺めてはみる。

わたしも、風の妖精のリーエも、敵意を持つ人間や、不審な動きをする人間に
多複数同時に照準固定をして攻撃するのは、
残念ながら白光の妖精ラファイスほど、得意ではない。

ただ、リーエの構築する障壁は、相手が伝説級の水の妖精エメラルアであっても、
最初の一撃は無効化できる・・・はず。
リーエの舞踊言語ポーズが、本当ならばだけど・・・。

そのリーエだけど、現在は、空中に浮かび、その蜃気楼しんきろう体を可視化させている。
そして、講義中は、室外で、ラティスと一緒に、子供たちと遊んで、
いえ、あれは完全に、遊ばれているようね。

少なくとも学院生以上の年齢のみなさんは、しながら宙をただよっている
リーエの姿を見ても、見えないふりをしてくれている。

だが、子供たちは正直なもので、リーエの姿が目に触れるようになって、
3日もった頃には、一方的に、暗黒の妖精のラティス同様、
遊び相手として認定をされたようね。

けど、魔力で子供たちを高空に放り投げて、
同じく透明な架空かくうすべり台のようなものを作って、
その上を滑空かっくう降下させて、喜ばせているって、どうなのよ。

けどね、〖矛の英雄ギウス伯物語〗にでてくる超上級妖精を想像していた人には、
相当な幻滅を与えているんじゃないかと思うわ。

わたしも、自分で契約する前までは、超上級妖精というものに、
正直、夢見てたいたこともあったわ。けど、現実の姿はね~~。
・・・そのリーエが高空から下降してきた。
何の悩みもないような・・・、ほんと、ニコニコしているわ・・・。
ま、現実は、夢の世界とはちがうわね・・・。

そんな事を思っていたら、
光とともに、緑色の髪、青白い瞳、純白の肌、超絶美貌の
蜃気楼体が、降下し終えて宙に浮いている。
その風の超上級妖精リーエを横目にして、
セリナが、果実水の杯を机の上に置いて、たずねてきた。

「ねえ、エリース。
今度、妖精契約前の子供たち用に、アバウト学ができるって、本当?」

わたしは、如才じょさいなくセリナに答える。

「本当よ。さすがのラティスも、今の状態に、を上げてるらしいわ。
ま、絶対に本妖精ほんにんは認めないけどね・・・。」

まだ、果実水は十分に残っている、話を続けるのにも、
はいらない・・・か。
そんなにもつかないことを考えながら、わたしは思いに心をとばす。

実際、ラティスのによる、
《アバウト学院付属初等学校》を開くとの宣言によって、
当初は、皇都とその周辺の孤児が集められていたんだけど、
現在は、イルム執政官が政策として、新帝国領全域に、
それに3大公国の同意も経て、旧帝国本領地域からも、
孤児だけではなく、生活に困窮こんきゅうする家族も続々と、
皇都に受け入れている。

「学院の理事長代理のロンメルさんが、中心となって動いているけど・・・。」

「ロンメルさんが・・・!?また、ラティスさんの威圧で倒れて、再度療養りょうよう中に、
ならなきゃいいけど・・・。」

と、心配そうに話すエルナの、橙色の髪・紺碧色の瞳がれる。

「理事長代理も、いい加減、慣れてきているでしょうし・・・。」

と、取りえず、き上がるいろんな思いを抑えて、無難な返事をしておく。

「私も、追加で果実水をもらおうかな。
ミリナ、あなたの分も含めて、3人分頼むわ。」

「はい、キリナ義姉さん。」

再び学院に通学してきているキリナも、話に加わってきた。
ミカル大公国内のごたごたが、小康状態にあるようなので、
顔色は以前と変わらないまでに回復はしている。

「エリース。アバウト学?について、聞きたい事があるんだけど・・・。」

と、今日は茶系の支給服を身にまとうセプティから、声がかかる。
セプティも新帝国の旗印になる運命を受け入れたのか、
こういう政治的な話は、自分から質問してくるようになったわ。

「ノエル。じゃ先に帰ろうかしら?」

リア(ラファイス)が、この場の雰囲気を察し、そうリアに話しかけた。
そう、リア(ラファイス)は、特別聴講生として、
聴講生としての雑務から解放されているし、
講義の選択の自由も与えられている。
そのラファイスにとっては、必要なのは、ノエルの安寧あんねいだから・・・。
明日、皇都が廃墟になっても、契約者のノエルが幸せなら、
それで構わない妖精さま・・・。

「いいえ、リア。セプティが聞いているんだから、わたしも聞きたいわ。
今日の治癒ヒール仕事の予約は、夜からだからね・・・。」

ノエルとリア(ラファイス)も話に加わるか・・・。
初めのうちリアは、政治的な話には興味を示さなかったけど、
なんか今は、ちがうわ。瞳が輝いている・・・。

『きれいごとだけでは、世の中は渡っていけませんし。私も聞きたいです。』
エルナの言葉だったろうか、その言葉が急に頭に浮かぶ・・・。

おっと、セプティが無言でわたしを待っている。
じゃあ、セプティの質問を聞くとするか・・・。


第2章。エリースの目から見た 新帝国の執政の裏側


 「で、何が聞きたいの、セプティ?」

わたしは、セプティの顔をみながら耳を傾ける。

「表向きは、孤児や生活の苦しい家族の方たちに、生きるかてを与えるため。
それに、新帝国の人気取りもあるのかしら。」

「表向き!?」

この言葉に、わたしは好きな展開になったと笑いをみ締める。
キリナ・セリナ・ミリナ・ノエル、
それに将来近衛の將士の筆頭になるであろうエレナも、
わたしに集中しているのに気付く。

考えてみれば、キリナは近い未来に、セリナ・ミリナもほぼ確実な未来に、
どこかの国の政治に直接なり、間接なりに、関わることになるし・・・。
とすれば、他国より新帝国の女狐と言われているイルムやその相棒のルリの
施策や視点は、生きた講義というべきものだしね・・・。

「そうね、セプティ。表向きは、その通りよ。
それに人口は、ある一定の数を超えれば、多くの商売が可能になるらしいわ。」

セプティが、軽くうなずいている。わたしは、その姿を見て、話しを進める。

「けど、イルムが、最も興味を示しているのは、それは
そう、・・帝国の最盛期・・・、帝国法・帝国組織を一変させ、
最も強権を誇ってたアバウト2世の時代・・・。」

「・・・その時には、キラ星のような才幹がいたけど、2世が死去し、
彼を支えていた最後のひとり、ラップ元宰相が死亡した後、
帝国は、坂道を転がるように、腐敗し、滅亡の道に進んでいった・・・。」

「そういう腐敗に対するね・・・。」

「けれど、エリース。あれは、王帝の親族、貴族、大商人のせいと言われていて、
だから、イルムさんは、6世の協力者は追放して、
さらに貴族制自体も廃止し、爵位は単なる名誉称号にしたはず。
それに、子供たちやその家族を受け入れる理由が、なぜ対策になるの?」

セプティが、教科書通りの答えを返してくる。

「まず、セプティ。当時の上級の文官たちが、2世の死の前後、
自身の権力を拡大するために策謀をめぐらしたことは、
証拠は残ってないと言われているけど、ほぼ確実なことよ。」

「それが、6世という化け物を生み出し、帝国本領を滅ぼし、
結果、上級の文官の子孫の生きていく基盤でさえ、滅ぼしたか・・・。」

エレナの感想のような独り言が、この場にもれる。

「セプティ。イルムにしろルリにしろ、その理屈は知らないけれど、
人間が1万人生まれれば、最低100人は、組織を滅ぼす人間が生まれると、
思っている。」

「・・・・・。」

「イルムは、その人間を、【負けず嫌いの人間】と
言っているけれど・・・。」

「つまり、数多くの銅貨をもらう機会があって、自分が他人より1枚多ければ、
黙っているけれど、自分が他人より1枚でも少なければ、泣きわめきながら
他人を批判し、他人をおとしめることに何のためらいも感じない
のことか・・・。」

驚いた。全く話に加わってこないと思ってた、
リア(ラファイス)から言葉が出た。ただ、ゾクリと背中に、冷や汗が走る。
そうか1000年前、オフトレは、そういう人間たちのために魔界に落ち、
結果、ラファイスは、望まぬアピスとの闘いを、いられたものね・・・。

「・・・だから、イルムさんは、小さい頃からの教育によって、
そういう人間の、そういう部分を矯正きょうせいしよとしていると・・・。
その教育は、受ける子供の数が多ければ、多いほど、
将来の新帝国の希望になると・・・。」

わたしの、話のしかたが悪かったのか、それとも、セプティが善人過ぎるのか、
そういうふうに、さわやかな感想をまとめてきた。
わたしは、大きくため息をつき、再びセプティの方を向く。

「セプティ。イルムは超現実主義者よ。
その周りで、イルムの助けをしているルリもね。」

「そして、ふたりは思っている。それは、人間という生物としてのよどみ。
人間が生まれ続ければ、必ず発生するのろい。」

「だけどね。そういう人間の特質・対処法を子供の時から、
教育によって叩き込み、その多数の激流によって、流し去る。」

「そう、数は力だしね。」
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