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CCⅩⅦ 星々の様相と局面編 中編(2)

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第1章。支流(3)


 この朝、クラテス子爵は、新しい仕官希望者と、同行希望者と面会していた。
広場の片隅、昨晩のき火の残りが、まだくすぶっている。
最上級妖精の契約者セーリアは、シリューが連れて来た一行に何かを感じ、
自らクラテス子爵の背後にひかえ、同時に子爵の周りに、
音響・抗魔力障壁を構築している。

また、異例のことだが、シリューの強い申し出で、
副將のオレス男爵、軍師のフゴク、騎士のセ二カにスパティアと、
生き残ったクラテス子爵の近臣たちが、集席している。

「クラテス。手前にかしずいている3人は、
旧双月教国白光の騎士団の騎士で、
向かって右から、スーシル・エリミー・エルミー。
教国崩壊後は、双月教国軍シュウレイ將のもとで、
新帝国との密使の任をしていた。          
いずれも上級妖精の契約者で、わが軍への仕官を希望している。」

シリューは、あえて敬語を使わず、クラテス子爵とその近臣たちに、
連れて来た5人について、紹介を始める。

「有能でなくても、今はひとりでも騎士の数は必要な時、
シリューの紹介であれば、無能ってことはなかろう。」

ここで、クラテスは、いったん口をつぐむ。そして、

「だが、シュウレイ將の軍を討ったのは、おれたちだぜ。
そのへんは、あんたたち3人の心の内では、昇華できているのかい?」

と、当然の問いを投げる。

「閣下、勝敗は、武門の常と申します。双月教国が滅び、シュウレイ將も亡き今、
自分たちの未来をたくすのは、新しくできる旧双月教国の国家でもなく、
そして新帝国でもなく、閣下のもとでと、思いました。」

と、スーシルが、3人を代表して答える。それに、クラテスの問いかけは続く。

「その理由はなぜだ?」

「この部隊からも、日々逃亡者が出ているものと、推測されます。
それは、閣下が信をおいた者の中からもでしょう。
事実、今日、閣下と合流する部隊のなかから、密使がどこぞやへ走ったのも、
すでに、われわれは、把握しております。」

「そのような中で、新たに列に加わり、国家の建設にたずさわる事が出来れば、
爵位さえ手にでき、なによりも自分の名を、後世に残すことができるでしょう。
それが、この場所を選んだ理由であります。」

「なるほど、ものすごい逆張りを、選んだわけか。気に入ったぜ。
それに、納得した。では、ひとつ聞こう。新帝国の要人では、だれに会った?」

一瞬の間をおいて、スーシルから、予期せぬ名前が飛び出す。

「暗黒の妖精の契約者と。」

その言葉に、そこにいる、クラテス軍側の全員の視線が、
一斉にスーシルに注がれる。

「そうか。スーシルとか言ったな。
あんたから見て、その契約者のは、どう感じた?」

「停滞を指向する若者かと。」

「「停滞!?」」

オレス男爵、フゴク軍師の口から、同時に、同じ驚きの言葉がれる。

「待てよ、スーシル。千年以上も続いたひとつの国家を、そしてみっつの軍を
壊滅させた暗黒の妖精の契約者が、【停滞】を指向する人間というのかい?」

スーシルは、冷静にその問いに答える。

「言葉足らずでした。契約者の意思に関わらず、暗黒の妖精は、
その膨大ぼうだいな魔力をふるうということです。」

「双月教国の滅亡の要因は、自分への暗殺者の使用だと、
契約者、アマト本人が、そう申しておりました。」

「だったら、今回この戦に、暗黒の妖精が参戦してきたのも、
おれたち以外の誰かが、契約者に、ちょっかいを出していたということか。」

クラテスは、軍事機密に属すようなことを、思わずもらしてしまう。

「クラテス閣下、にわかには、信じられませんな。」

余裕をなくしかけるクラテスに、オレス男爵が、あるじの頭を冷やすべく、
この会話に口をはさむ。

「警告のための行為だったとしても、愚かなこと。下策の手としか言えません。」

フゴク軍師の口からも、同じ意思を折込おりこみつつ、言葉が発せられる。

「なるほどな。それで、シリューが推察したように、当然の追い打ちが、
武国軍からないということか。」

クラテスは、素早く自分を取り戻し、3にんの処遇に対して、言葉にする。

「わかった。スーシル、エリミー、そしてエルミー。
ラスカ王国への帰還が無事終了したら、まずは騎士として、わが軍に迎えよう。
それからのことは、働き次第で。当然、準爵位ぐらいは用意するつもりだ。
だが、とりあえずは、陣借じんがりの立場でいいか?」

「「「ははっ!」」」

スーシルらの口から、呼応の言葉が発せられる。


第2章。支流(4)


 「次に、後方に控えた、レティアとシレイア、ですが・・・。」

シリューの言葉は、スーシルらの時と比べて、若干じゃっかんの迷いの色がある。

「最初に言っておくが、シリュー。おれたちは、勝利した軍ではない。
吟遊ぎんゆう詩人として同行させてくれと言うのなら、
いかにシリューの紹介でも、断るぜ。
一戦士でというなら、大歓迎だがな。」

ふたりのかたわらに置いた楽器と、シリューの言葉の迷いの色を、そう察知し、
クラテスは、先に、そう問いかける。
無論彼も、吟遊ぎんゆう詩人の多くが、傭兵稼業も兼任しているのは、
常識としてわかっている。
そして、戦士としては、極めて有能な才を持つ人間が多いことも・・・。

『ここは、実力を試してみるか。』

一介の吟遊ぎんゆう詩人にしか見えないに、クラテスは、セーリアに話をふる。

「セーリア、このふたりと手合わせを、してみてくれないか?」

「・・・ん、セーリアどうした・・・?」

セーリアから、すぐに精神波の返しがないので、
クラテス子爵は、いぶかし気に背後を振り向く。

そのセーリアは、顔面が蒼白と化し、歯がふるえ、
あまつさえ、魂さえどこかに飛ばしている姿で、
立ちすくんでいる。

「セーリアさま?」

クラテス軍下、シリューを除けば最強の戦士である、
最上級妖精の契約者のその姿に、
セ二カが、声をたたきつける。

「シレイア、冗談はやめなさいよ。生きることが、複雑になるでしょう。」

「レティア、わたしは、何もしてないぞ、本当に。」

気付くと、かしずいていたはずのふたりは、いつの間にか、立ち上がっていて、
軽口をたたきあっている。

「だいたい、吟遊詩人というのが、おかしいのだ。
普通の兵士の姿で、十分だろうが。」

「だったら、泥とほこりまみれに、なっちゃうじゃない。」

子爵の御前での、この無礼極まる姿に、そこにいるクラテスの近臣たちは、
りょ外者が!』の言葉を叫ぼうとするが、時が止まってしまったように、
まばたきさえ、自由にすることができない。

あわせて、通常半覚醒状態の自らの契約妖精が覚醒し、
≪≪キケン!!≫≫の悲鳴が、頭の中で激しく木霊こだまする。

「レティア。わたしの真の姿など、わたしが隠しておきたいと思えば、
そこにいる、超上級妖精の契約者のシリューの察知能力さえ、だましきれるもの。」

「だが、そこのセーリアという娘。よほどの精進をしたのか、
おそらくは、契約した妖精の魔力をえて、力をふるえるのだろう。」

「おもしろいな。このおもしろさ、あの暗黒の妖精の契約者アマトに匹敵する。
その生きざま、わたしが、本気で相手するに。」

「だからレティア。わたしは、真の姿でこの場に立ちたいと思う。」

「わたしが、ダメと言って、聞くあなたでもないでしょう。
もう、好きにしたら・・・。」

この言葉に、あきれてレティアは、答える。

それを聞いて、パチンと、シレイアは指をならす。
セーリアがつくった障壁が、異なるものに置き換わってゆく。

そしてこの場に、氷の結晶が乱舞し始め、さらに氷の結晶は、七色に光を反射し、
その七色の光のなか、藍色の瞳・青色の髪・白雪色の肌、超絶美貌の妖精に
シレイアの姿もかがやきながら、変わってゆく。

≪「わが名は、エメラルア。水のエレメントの頂点で輝くもの!!」≫

そう、伝説級の水の妖精の言葉と精神波が、この場に響いた。
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