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CCⅤ 星々の天頂と天底編 後編(5)
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第1章。かれらは見た(1)
アマトとカウシム王太子の会談に、妖精さんが割り込んできた。
アマトの顔が、一瞬にして今までより、真っ青になってゆく。
「アマト!早く、そいつに書状を書かせなさいよ。すぐに帰るわよ!」
「・・・アマトさん、ちょっといいですか・・・。」
「帰りは、ぶら下げて飛翔していってやるから、着くのはすぐよ。」
「・・・アマトさん、ちょっといいですか・・・。」
「まあ、アマト。心配しないでいいわよ。どっかのお下劣な妖精と違って、
アピスは、あれで無駄に誇り高い妖精よ。
後ろからドーンなんて、まねはしないから。」
「・・・アマトさん、ちょっといいですか・・・。」
自分勝手な言葉を、浴びせ続けていたラティスの横から、
にこにこ顔のラファイアも、アマトに声をかけ続けている。
カウシム王太子は、顔色ひとつ変えず、さんにんのやり取りを
目を細めて眺めている。
王太子の態度を慮って、レティア王女以外の武国の戦士は、
静かな面持ちで、何も言わずに控えている。
「なんなのよ、ラファイア!!歴史という舞台の上で、通行人1の役の妖精が、
ガヤ以外の言葉を発していいと思っているの?」
「・・・こんなアホなお方はほっといて、
アマトさん、ちょっといいですか・・・。」
「もういいわ。アマト!ラファイアに、順番を譲ってやるから、
チャチャッと、ラファイアの雑事を終わらせなさいよ。」
ラティスは、ラファイアのにこにこ顔に、だれかさんの悪意のない
笑顔と似たような影を見たのか、めずらしく自分が引っ込む。
・・・・・・・
『『『『暗黒の妖精が退いた・・・!』』』』
ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二の、武国の戦士たちは、
今が新帝国側との会見の刻だというのを側面に置き、
ラファイアの正体を考えていたので、より衝撃を受けた。
また、王太子陛下との会談が中断されたという、超異常事態にもかかわらず、
カウシム王太子陛下自身、レティア王女殿下、クレイ卿、
なにより暗黒の妖精アピスが、なにも言わずに、沈黙している。
目の前にいる暗黒の妖精アピス・・・殿は、
1000年以上前、数個師団の教国軍を、一瞬の白銀の輝きにより消滅させたと
正史は伝えている。
それは、アピスを退けた白光の妖精聖ラファイスを、より光り輝かせるための、
双月教の勢力拡大のための作り話と、彼らは考えていた。
しかし、暗黒の妖精の魔力を、実際に戦場で体感してみて、
あの正史はむしろ、双月教の未来のために、事実をわざと矮小化して、
後世に伝えていたのだと、気付かせられたのだ。
今、彼らの頭の中に、伝説級の妖精たちの名が、飛ぶように駆け巡っている。
そして、彼らの目を見開かせた言葉が、そのラファイアの口から放たれる。
「アマトさん、わたしも本来の姿に、戻っていいですか?」
☆☆☆☆☆☆☆☆
ラファイアさんの、普段の口調で放たれた言葉に、ぼくは驚いている。
ラファイアさんにとっては、擬態の姿でいるのが、
精神的な苦痛だというのは、分かっていた。
だけど、聖ラファイスの伝説が存在するために、いや新帝国の建国のため、
それ以上に、なにより契約者であるぼくのために、
常時擬態していてくれているんだ。
そう、日頃の態度に騙されるけど、ラファイアさんは、
ラティスさんとアピスさんのふたりへ、同時に魔力攻撃をしかけ、
生きて残る自信がある、妖精さんなのだ。
ぼくは明晰夢で、感じ、見ている。妖精界で酷薄のふたつ名を、わがものとして、
妖精界の絶対者のひとりとして輝く、ラファイアさん、
いや、白光の妖精ラファイアを。
レティア王女殿下が、敵意のある目で、ぼくを睨んでいる。
軍師のクレイ卿が、感情のない目で、ぼくを探っている。
カウシム王太子が、好奇燦々というような眼差しで、
ぼくの言葉を待っている。
ぼくの、乏しい未来予想の世界線、その上でなぜか浮かぶ、
カウシム武国王と敵対する、どうしようもない光景を、
ぼくは、新帝国の国民のひとりとして、伝説の妖精の契約者として、
人間として、その未来を避けないといけない・・・。
だから、ぼくは口を開く、ぼくは刃を隠した言葉を紡ぎ出す。
「ラファイアさん、いいよ。・・」
『・・ぼくらが戦わない未来のために・・。』
ラファイアさんの全身が、白光に輝きだす・・・。
擬態の姿が消えてゆき、光の中から、徐々に表れてくるその姿。
白金の髪に白金色の瞳・大理石色の肌・白金の背光・超絶美貌・・・。
「聖ラファイスさま!?」
だれかの口から、心の叫びが漏れていた。
第2章。かれらは見た(2)
ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二だけではなく、
冷静を信条とするクレイでさえ、自分の感情を抑えるのに、必死になっている。
ラファイア・・白光の妖精・・、その聖姿というべき姿を初めて見た人間は、
まさに、神々之使を感じ、抑えきれない思いを、
理性で押さえつけるのは難しい。
「おい、ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二、
そんな奴を、ありがたがるんではない。」
「そいつは、お前たちを、幻光の迷宮に閉じ込めた妖精様だ。」
わたしの契約妖精アピスの言葉で、
4人の眼差しが、戦士のそれに戻ってゆく。
「いやだな~アピスさん。そんなに、褒めていただいても・・・。」
「バカなの、ラファイア。アピスは、褒めてなんかいないわよ。」
「まさか。わたしに敵意を向け続けられる人間さんなんて、いないはずですよ、
ラティスさん。」
「たしかに、おまえに完全な敵意を向けた瞬間、
この世界に存在できるものを探すのは、むずかしいかもな。」
アピスが深淵な闇を抱える眼差しで、神々の使いもどきに、声をかけた。
・・アピス・・・・
わたしは、あの妖精契約の場所で、何にも犯されない力を求めた。
武国の開祖王の伝承に記述された、
現在は顧みられくなった古式の妖精鑑定式に、
わたしは、わたし、わたしたちの未来と命を賭け、
乱舞する華々しく輝く光球に惑うことなく、
輪郭しか輝かせていない白銀の光球にーそれに隠れた妖精にー、
契約を求めたのだ。
その光球が、伝説の禁忌の妖精、そう暗黒の妖精アピスと知ったとき、
さすがにわたしも、大魔王と取引したとの思いに揺さぶられ、
吐き気と寒気が止まらなかった。
だが、アピスの魔力は、本物だった。
妖精ひとりに対して、人間ふたりという歪な形の契約にもかかわらず、
病弱だったカウシム義兄上は、強靭な体を手に入れ、
わたしには、わずかばかりの魔力、
そして、精強を誇った祖国も、今、わたしたちの手中に落ちている・・・。
『では、アマト君。あなたが予告された者でなくても、
妖精界の頂にいる、ふたりの妖精の契約者たる君は、
この世界に何を望む!?』
と、あの時、目の前の情けない容姿の若者に放った、カウシム義兄上の言葉が、
今、わたしたちに跳ね返り、そして突き刺さる。
わたしも、一千の夜を、過ごしてきたのだから。
アマトとカウシム王太子の会談に、妖精さんが割り込んできた。
アマトの顔が、一瞬にして今までより、真っ青になってゆく。
「アマト!早く、そいつに書状を書かせなさいよ。すぐに帰るわよ!」
「・・・アマトさん、ちょっといいですか・・・。」
「帰りは、ぶら下げて飛翔していってやるから、着くのはすぐよ。」
「・・・アマトさん、ちょっといいですか・・・。」
「まあ、アマト。心配しないでいいわよ。どっかのお下劣な妖精と違って、
アピスは、あれで無駄に誇り高い妖精よ。
後ろからドーンなんて、まねはしないから。」
「・・・アマトさん、ちょっといいですか・・・。」
自分勝手な言葉を、浴びせ続けていたラティスの横から、
にこにこ顔のラファイアも、アマトに声をかけ続けている。
カウシム王太子は、顔色ひとつ変えず、さんにんのやり取りを
目を細めて眺めている。
王太子の態度を慮って、レティア王女以外の武国の戦士は、
静かな面持ちで、何も言わずに控えている。
「なんなのよ、ラファイア!!歴史という舞台の上で、通行人1の役の妖精が、
ガヤ以外の言葉を発していいと思っているの?」
「・・・こんなアホなお方はほっといて、
アマトさん、ちょっといいですか・・・。」
「もういいわ。アマト!ラファイアに、順番を譲ってやるから、
チャチャッと、ラファイアの雑事を終わらせなさいよ。」
ラティスは、ラファイアのにこにこ顔に、だれかさんの悪意のない
笑顔と似たような影を見たのか、めずらしく自分が引っ込む。
・・・・・・・
『『『『暗黒の妖精が退いた・・・!』』』』
ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二の、武国の戦士たちは、
今が新帝国側との会見の刻だというのを側面に置き、
ラファイアの正体を考えていたので、より衝撃を受けた。
また、王太子陛下との会談が中断されたという、超異常事態にもかかわらず、
カウシム王太子陛下自身、レティア王女殿下、クレイ卿、
なにより暗黒の妖精アピスが、なにも言わずに、沈黙している。
目の前にいる暗黒の妖精アピス・・・殿は、
1000年以上前、数個師団の教国軍を、一瞬の白銀の輝きにより消滅させたと
正史は伝えている。
それは、アピスを退けた白光の妖精聖ラファイスを、より光り輝かせるための、
双月教の勢力拡大のための作り話と、彼らは考えていた。
しかし、暗黒の妖精の魔力を、実際に戦場で体感してみて、
あの正史はむしろ、双月教の未来のために、事実をわざと矮小化して、
後世に伝えていたのだと、気付かせられたのだ。
今、彼らの頭の中に、伝説級の妖精たちの名が、飛ぶように駆け巡っている。
そして、彼らの目を見開かせた言葉が、そのラファイアの口から放たれる。
「アマトさん、わたしも本来の姿に、戻っていいですか?」
☆☆☆☆☆☆☆☆
ラファイアさんの、普段の口調で放たれた言葉に、ぼくは驚いている。
ラファイアさんにとっては、擬態の姿でいるのが、
精神的な苦痛だというのは、分かっていた。
だけど、聖ラファイスの伝説が存在するために、いや新帝国の建国のため、
それ以上に、なにより契約者であるぼくのために、
常時擬態していてくれているんだ。
そう、日頃の態度に騙されるけど、ラファイアさんは、
ラティスさんとアピスさんのふたりへ、同時に魔力攻撃をしかけ、
生きて残る自信がある、妖精さんなのだ。
ぼくは明晰夢で、感じ、見ている。妖精界で酷薄のふたつ名を、わがものとして、
妖精界の絶対者のひとりとして輝く、ラファイアさん、
いや、白光の妖精ラファイアを。
レティア王女殿下が、敵意のある目で、ぼくを睨んでいる。
軍師のクレイ卿が、感情のない目で、ぼくを探っている。
カウシム王太子が、好奇燦々というような眼差しで、
ぼくの言葉を待っている。
ぼくの、乏しい未来予想の世界線、その上でなぜか浮かぶ、
カウシム武国王と敵対する、どうしようもない光景を、
ぼくは、新帝国の国民のひとりとして、伝説の妖精の契約者として、
人間として、その未来を避けないといけない・・・。
だから、ぼくは口を開く、ぼくは刃を隠した言葉を紡ぎ出す。
「ラファイアさん、いいよ。・・」
『・・ぼくらが戦わない未来のために・・。』
ラファイアさんの全身が、白光に輝きだす・・・。
擬態の姿が消えてゆき、光の中から、徐々に表れてくるその姿。
白金の髪に白金色の瞳・大理石色の肌・白金の背光・超絶美貌・・・。
「聖ラファイスさま!?」
だれかの口から、心の叫びが漏れていた。
第2章。かれらは見た(2)
ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二だけではなく、
冷静を信条とするクレイでさえ、自分の感情を抑えるのに、必死になっている。
ラファイア・・白光の妖精・・、その聖姿というべき姿を初めて見た人間は、
まさに、神々之使を感じ、抑えきれない思いを、
理性で押さえつけるのは難しい。
「おい、ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二、
そんな奴を、ありがたがるんではない。」
「そいつは、お前たちを、幻光の迷宮に閉じ込めた妖精様だ。」
わたしの契約妖精アピスの言葉で、
4人の眼差しが、戦士のそれに戻ってゆく。
「いやだな~アピスさん。そんなに、褒めていただいても・・・。」
「バカなの、ラファイア。アピスは、褒めてなんかいないわよ。」
「まさか。わたしに敵意を向け続けられる人間さんなんて、いないはずですよ、
ラティスさん。」
「たしかに、おまえに完全な敵意を向けた瞬間、
この世界に存在できるものを探すのは、むずかしいかもな。」
アピスが深淵な闇を抱える眼差しで、神々の使いもどきに、声をかけた。
・・アピス・・・・
わたしは、あの妖精契約の場所で、何にも犯されない力を求めた。
武国の開祖王の伝承に記述された、
現在は顧みられくなった古式の妖精鑑定式に、
わたしは、わたし、わたしたちの未来と命を賭け、
乱舞する華々しく輝く光球に惑うことなく、
輪郭しか輝かせていない白銀の光球にーそれに隠れた妖精にー、
契約を求めたのだ。
その光球が、伝説の禁忌の妖精、そう暗黒の妖精アピスと知ったとき、
さすがにわたしも、大魔王と取引したとの思いに揺さぶられ、
吐き気と寒気が止まらなかった。
だが、アピスの魔力は、本物だった。
妖精ひとりに対して、人間ふたりという歪な形の契約にもかかわらず、
病弱だったカウシム義兄上は、強靭な体を手に入れ、
わたしには、わずかばかりの魔力、
そして、精強を誇った祖国も、今、わたしたちの手中に落ちている・・・。
『では、アマト君。あなたが予告された者でなくても、
妖精界の頂にいる、ふたりの妖精の契約者たる君は、
この世界に何を望む!?』
と、あの時、目の前の情けない容姿の若者に放った、カウシム義兄上の言葉が、
今、わたしたちに跳ね返り、そして突き刺さる。
わたしも、一千の夜を、過ごしてきたのだから。
応援ありがとうございます!
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