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CCⅡ 星々の天頂と天底編 後編(2)

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第1章。カウチ平原の戦い(1)


 風の超上級妖精契約者のように、高々度を高速で飛翔とまではいかないが、
水の超上級妖精ルコニアは、契約者であるわたしに、
ある程度の高度・それなりの速度で天翔あまかける魔力を与えている。

わたしは現在、カウチ平原の上空で、氷幕による光折迷彩で姿を隠し、
眼下で行われている、武国軍と王国連合軍の戦争を凝視している。

武国軍は、平原のなかの高地部分、円形の丘のような場所に陣取り、
その周りを、王国連合軍が、その円のほぼ5分の4を取り巻き、
魔力で攻撃を続けている。

不規則・連続で輝く、赤・黄・青・緑の光の炸裂さくれつが、
本来透明なはずの、武国軍の魔力障壁の輪郭りんかくを写し出す。

このように、大部隊が平原で交戦する場合、戦術は限られてくる。
基本としては、魔力障壁を構築しつつ、魔力攻撃を連続する。
そして、自軍の魔力攻撃により、相手軍の魔力障壁が決壊けっかいしと同時に、
障壁内に待機していた、滑空かっくう将兵による突撃を加え、
最終的には、接近戦による、決着に至る・・・と。

無論、そのための、最上級妖精契約者・上級妖精契約者・中級妖精契約者の配置、
火・水・地・風の妖精契約者の攻撃位置は、各国の軍の最高機密になる。

ざっと見たところ、連合王国軍の兵力は、武国軍の4倍くらいか。
一方的に、連合王国軍の魔力攻撃が、武国軍の障壁をけずっている。

遊軍として、マイチ侯爵軍の後方に控えていた、ラスカ王国の前衛も、
3方向に動き出した。

『これは、みだな。』

彼我の状況から判断し、わたしは、心の中でつぶやく。

その刹那せつな

≪おい、超上級妖精の契約者。その、命なきものと思え!≫

わたしの背後に屹立きつりつし、そして耳元でささかれたような精神波が、
わたしの六感に、するどく突き刺さる。

『だれ!!』

反射的に振り向くわたしの背筋に、悪寒おかんが走る。
それに呼応してか、水の超上級妖精のルコニアが、わたしと分離し、
最大の攻撃姿勢をもって、わたしの眼の前に、蜃気楼しんきろう体として顕現けんげんする。

『前か!』

はるか前方に、迷彩に隠れていた影を、何とかとらえることができた。
それに、ルコニアの全身に発生している細かい震えと、あおく輝く背光がわたしに、
エメラルア級の伝説の妖精が相手だと、瞬時に認識させる。

次の瞬間、視線の先の山のに、激しい魔力の巨大爆発が起こったのが、
わたしの視覚に、突き刺さってくる。
ヒガンテ巨人というあだ名をもつ巨大シューマ湖のこちら側が、一気に決壊けっかいを起こし、
膨大ぼうだいな水量が、荒れ狂う山津波とかして、山麓さんろくを駆け降りる。

『これは!?』

そのすさまじい水の怪物と化した流れの、直前の山肌が、
次から次に黒光りする石畳のようなものに、先行して変化へんげしていき、
それは、水の流れの抵抗を減らし、その勢いを加速させていく。

「クッ、間に合うか!?」

わたしは無意識に叫び、眼下に確認した、クラテス子爵旗がたなびく、
ラスカ王国軍本陣に、光折迷彩を解除しながら、急降下していく。


第2章。カウチ平原の戦い(2)


 王国本陣へ降下するわたしの前面に、その本陣から強力な緑雷撃を放ちながら
強大な魔力をまとわせて影が、すごい勢いで上昇してくる。

『邪魔だ!』

わたしの心に、怒りの炎が充満じゅうまんする。
その攻撃を、簡易障壁で無効化し、同時に相手を照準固定する。

≪沈黙しろ!≫

精神波の叫びと同時に、〖呪縛結界〗の魔力を放ち、
名も知らぬ戦士が落ちていく横を、それ以上の落下速度で追い越し、
ラスカ王国軍の多重障壁を突破し、
この軍の、おそらくは指揮官の前に、警護の騎士をね飛ばしつつ、
着地する・・・激しい土埃つちぼこり・・・。

着地する寸前に、王国連合軍を、光を吸収して黒色にしかみえない、
幅はないが背の高い壁が取り巻いていくのを、わたしは視覚にとらえている。
そして、土煙つちけむりを、超上級妖精のルコニアが、一瞬にして消し去る。

≪「おまえが、クラテスか?」≫

目に前で、立ち上がった、將のよろいまとった男に
わたしは、声と精神波で問いかける。

≪「これが、凶虎の戦術か、見事!我が首討って、おまえの栄誉ほまれとするがいい。」≫

クラテスの視線が、蜃気楼しんきろう体のルコニアにも注がれているのに、わたしは気付く。
目の前に、超上級妖精と契約者が、顕現けんげんしたということ・・。
瞬時にして、覚悟を決めたのだろう。
わたしは、この男が、かなえ軽重けいちょうの問えるうつわがある人物と得心する。

≪「わが名はシリュー!挨拶あいさつはあとだ、クラテス!!」≫

わたしは割符わりふである徽章きしょうを、彼に投げつけ、
そして、迫ってくるすさまじい山津波をにらみ、
超上級妖精のルコニアと同時に、魔力を発動する。

≪氷結超抗壁!!!≫


☆☆☆☆☆☆☆☆


 この戦いは、マイチ侯爵・王国連合軍の大敗北で終わった。
膨大ぼうだいな水のかたまりの奇襲に、人間になすすべはなく、
一瞬にして、堅牢けんろうに思えた連合軍の障壁は、散り散りになって霧散し、
飛行能力のある将兵以外は、水のやいばに飲み込まれて沈んでいった。

運よく、魔力により上空へ脱出した将兵も、
≪レスト王国軍裏切り!≫ ≪メリオ王国軍内通!≫ ≪ラスカ王国軍撤退!≫
≪新帝国軍襲来!≫ ≪敵軍に暗黒の妖精確認!≫・・・・・などの、
飛び交う精神波に、恐慌を引き起こし、右往左往しているうちに、
魔力障壁を全解除し、攻撃に極振りした、武国軍の魔力による長距離狙撃により、
ひとり、またひとり、と撃ち抜かれ、水中に落ちていった。

そして、武国軍の中に、が、新たにのを、確認するにいたり、

【各人、それぞれの判断で、撤退・投降せよ!】

という意味の信号弾が、かろうじて部隊の形を保っていた、
クラテス子爵本陣から、いくたびも、打ち上げられる。

その間、わたしは、次から次に襲い来る水のやいばも利用して、
〖氷結超抗壁〗を舟形に変形させ、クラテス子爵本陣を死守する。
武国軍からの魔力攻撃は、わたしの〖呪縛結界〗から解放された、
最上級妖精の契約者を中心として構築された魔力障壁で、
かろうじて防がれていた。

わたしの心の中では、『いつ、あの妖精が仕掛けてくるのか!?』という思いが、
死の覚悟とともに駆け巡っていた。

時間がたち、いつの間にか、黒色の背の高い壁が消え、水が引いていき、
大地がところどころ見えた時、わたしの心に浮かんだ言葉は、
『あの妖精は、見逃してくれたのか!?』だった。

ラスク王国軍も、無事では済まず、前衛として本隊から離れた将兵たち、
レンス・クリース・ラゴル・バレスという將の生死も不明らしい。


「ありがとうよ。何度言っても、言い足りねぇ!」

青白い顔で、わたしにそう語る、クラテスの言葉が重い・・・。
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