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CⅬⅩⅩⅩⅩⅥ 星々の天頂と天底編 中編(2)

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第1章。出陣前日


 明日は、カウチの平原に出陣という日、武国軍は一つの出来事にいていた。
ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二の戦士の帰還が、伝わったからだ。
歴戦の勇士であり、また最上級妖精契約者の4人が、武国軍に復帰したのは、
戦力の補完という以上に、戦士たちの心にあかりをもたらした。

3日前、双月教国を軍を撃破し、教都を占拠していた3ヶ国連合軍の先遣隊せんけんたいが、
国境を突破したの報に接し、急遽きゅうきょ招集の鐘が鳴らされたのだが、
彼我ひがの兵数比が、3倍を超えるとの情報が流れ出し、
その結果2割を超える貴族・騎士・兵士たちが、首都を去った。

戦術を知らない人間や、結果を知る後世の人間からいえば、戦の天才といわれ、
武国の凶虎のふたつ名さえ持つ、カウシム王太子の元を去るなど、
考えられないことだが、時代の当事者からいえば、兵士の数は絶対であった。

天才といえども、大軍に対して選択できる戦法は、
⦅基本⦆ 奇襲と相手を分割させてからの各個撃破のふたつである。

ならば、油断をせず、大軍を割らず、粛々しゅくしゅくと前進すれば、
カウシム王太子は、普通人いや凡才と化すだろうと・・・。

・・・・・・・・

 小人数用の謁見えっけんの間、奥にカウシム王太子とレティア王女が座る。
その前に、ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二がかしずき、
その左右に、騎士のコールスとクレイ(旧ズース)卿が、直立している。

殿の大事な時期に、幻光の迷宮になるものに捕えられ、
何の働きもできなかったこと、このブーリカ以下4名、
いかなる処罰でも受ける所存しょぞんでございます・・・。」

ブーリカには、目の前の壁に飾ってある武国国旗が、
自分たちをにらんでいるように感じられている。
おふたりの警護を第一義とするならば、曲者の捕縛ほばくより、
自分らの帰還の有無を最優先すべきだった。

コールスという、超上級妖精契約者に匹敵すると思われる、
最上位の最上級妖精契約者の騎士が、御側oそばに控えていたといえども、
迂闊うかつというべき失態であった。

人払いがされた意味を、ブーリカらは、厳しい意味があるものと考えていた。

「処罰なんてとんでもない。すべては、ここにいる義兄上が、
武国を出奔しゅっぽんなされたのが、そもそもの原因。
ブーリカたちを処罰されるというのであれば、
まず、義兄上が罪を負うべきでは!?」

「そういうことです、ブーリカ。わたしは、ろうの中で瞑想にふけるのも
いいと思ってたんですが・・。」

「義兄上!」

レティア王女は、義兄カウシム王太子を、にらみつける。

「ブーリカ殿、ウェリキン殿、ゲトラクス殿、イケ二殿。
よくぞ、生きて戻られた。
カウシム陛下も、レティア殿下も、先程まで本当に喜んでおられたぞ。」

みかねて、クレイ卿が助け舟をだす。

「「「「・・・・・・!」」」」」

「だいたい義兄上は、出奔しゅっぽんしている間は、
王子でさえ、ありませんでしたよね。」

なかなか、【許す】の一言を言わない義兄に、レティア王女はしびれを切らす。

この4人は、ただの騎士ではない。
先王が、武国建国500周年の祝賀の日に、
各王子、各王女に贈り物を下賜かしするまえ、
なにか希望があればと、あらかじめ聞きとりをしていたのだが、
各王子たちは、当然、領地、支配地を望んだ。
だが、カウシムだけが、不遇をかこっていたブーリカら4兵士を見出みいだし、
自分の側近とするのを要望し、望んで手に入れた戦士なのだ。

自分の義妹の忍耐が、限界値に近づいたのを察したのか、カウシムは口を開いた。

「レティア、はじめから、処罰なんかする気がありませんよ。
それに、相手が悪すぎました。そうでしょう、コールスさん。」

「まあ、相手は、わたしのの契約妖精さんだし、
あまり悪くも言いたくないのですが。」

「カウシム、よけいな気遣きづかいいだ。
4人供、幻光の迷宮の魔力が、暗黒の妖精ラティス以外の妖精の力と、
うすうすは、気づいているようだしな。」

普段寡黙かもくなコールスが、なかば公の場で、王太子を呼び捨てにしたことに、
4人は驚いて下げていた顔を上げ、黒一色のよろいに包まれた騎士を凝視ぎょうしする。

「陛下に殿下。臣は、この4人にことわりを開示するべきものと考えます。」

そのクレイ卿の言葉の重みを感じ取り、4人は我を忘れ、顔をあげたまま、
上座に座るふたりの貴人を、息を殺してジッと見つめた。

「そうですね、クレイ卿。
ではあらためて、4人に聞きたい。わたしたちと共に滅する覚悟がありますか?」

かしずく4人には、王太子の言葉で、媒介石のあかりがらいだように感じられる。
そして、ブーリカは心の奥底からの感情とともに、灼熱しゃくねつした言葉を並べる。

「陛下そして殿下、われら4人、本来なら騎士にもなれぬ底辺の出、
あの時、陛下のお声かけがなかったら、貴族の武勲ぶくんのために、
死ぬまで殺し合いをさせられ、弊履へいりのように捨てられたでしょう。」

「おふたりは、わたしどもに騎士の称号も、名誉も与えてくださいました。
同じ死を迎えるのなら、陛下そして殿下のかたわらで役割を全うすることを・・、
われら4人、これを望みます。」

ブーリカ以外の3人も、真剣なまなざしで、武国王太子をあおぎ見ている。

「そうですか・・。帝国も教国も崩壊しました。武国も、きしみが出てきています。
壊すのは仕方ないとしても、壊した者の責任として、
再始動はさせなければ、なりませんからね・・・。」

「確率論から言えば、有意義な駒は、やレティア、クレイも含めて、
ひとつでも多い方が、いいのですが・・・。」

カウシム王太子は、まだ悩んでいる。

4人が、たんなる武国の騎士としてなら、生き残れる未来が、非常に大きい。
しかし、自分の盟友めいゆうとなれば、それがかなわぬ可能性が非常に高いことを。

「カウシム陛下。わたしは、運命論を無条件に肯定する者ではありませんが、
これは運命というべきものかもしれません。」

「・・そうですか・・わかりました。・・コールスさん、お願いいたします。」

うなずくコールスの全身が、淡く七色の光に包まれ、さらに白銀の光が、
コールスの周りを、縦に、横に、斜めにと、かずかぞえ切れぬほど、
縦横無尽じゅうおうむじんに疾走する。

そして、光のうずが静まったとき、
その中央に、緑黒色の長い髪・雪白の肌・白銀の瞳・超絶の美貌の妖精の姿が
この場に顕現けんげんした。

≪わたしの真の名はアピス。
 暗黒の妖精にして、レティア・カウシムと契約をせしもの。≫

伝説にいろどられたの暗黒の妖精が、目の前に現れたことに、
ブーリカら4人は、自分たちが今までと違う地平に、立ったことを実感させられ、
その全身は細かく震えていた。
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