196 / 266
CⅬⅩⅩⅩⅩⅥ 星々の天頂と天底編 中編(2)
しおりを挟む
第1章。出陣前日
明日は、カウチの平原に出陣という日、武国軍は一つの出来事に湧いていた。
ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二の戦士の帰還が、伝わったからだ。
歴戦の勇士であり、また最上級妖精契約者の4人が、武国軍に復帰したのは、
戦力の補完という以上に、戦士たちの心に灯りをもたらした。
3日前、双月教国を軍を撃破し、教都を占拠していた3ヶ国連合軍の先遣隊が、
国境を突破したの報に接し、急遽招集の鐘が鳴らされたのだが、
彼我の兵数比が、3倍を超えるとの情報がなぜか流れ出し、
その結果2割を超える貴族・騎士・兵士たちが、首都を去った。
戦術を知らない人間や、結果を知る後世の人間からいえば、戦の天才といわれ、
武国の凶虎のふたつ名さえ持つ、カウシム王太子の元を去るなど、
考えられないことだが、時代の当事者からいえば、兵士の数は絶対であった。
天才といえども、大軍に対して選択できる戦法は、
⦅基本⦆ 奇襲と相手を分割させてからの各個撃破のふたつである。
ならば、油断をせず、大軍を割らず、粛々と前進すれば、
カウシム王太子は、普通人いや凡才と化すだろうと・・・。
・・・・・・・・
小人数用の謁見の間、奥にカウシム王太子とレティア王女が座る。
その前に、ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二が傅き、
その左右に、騎士のコールスとクレイ(旧ズース)卿が、直立している。
「陛下、殿下の大事な時期に、幻光の迷宮になるものに捕えられ、
何の働きもできなかったこと、このブーリカ以下4名、
いかなる処罰でも受ける所存でございます・・・。」
ブーリカには、目の前の壁に飾ってある武国国旗が、
自分たちを睨んでいるように感じられている。
おふたりの警護を第一義とするならば、曲者の捕縛より、
自分らの帰還の有無を最優先すべきだった。
コールスという、超上級妖精契約者に匹敵すると思われる、
最上位の最上級妖精契約者の騎士が、御側に控えていたといえども、
迂闊というべき失態であった。
人払いがされた意味を、ブーリカらは、厳しい意味があるものと考えていた。
「処罰なんてとんでもない。すべては、ここにいる義兄上が、
武国を出奔なされたのが、そもそもの原因。
ブーリカたちを処罰されるというのであれば、
まず、義兄上が罪を負うべきでは!?」
「そういうことです、ブーリカ。わたしは、牢の中で瞑想にふけるのも
いいと思ってたんですが・・。」
「義兄上!」
レティア王女は、義兄カウシム王太子を、睨みつける。
「ブーリカ殿、ウェリキン殿、ゲトラクス殿、イケ二殿。
よくぞ、生きて戻られた。
カウシム陛下も、レティア殿下も、先程まで本当に喜んでおられたぞ。」
みかねて、クレイ卿が助け舟をだす。
「「「「・・・・・・!」」」」」
「だいたい義兄上は、出奔している間は、
王子でさえ、ありませんでしたよね。」
なかなか、【許す】の一言を言わない義兄に、レティア王女はしびれを切らす。
この4人は、ただの騎士ではない。
先王が、武国建国500周年の祝賀の日に、
各王子、各王女に贈り物を下賜するまえ、
なにか希望があればと、あらかじめ聞きとりをしていたのだが、
各王子たちは、当然、領地、支配地を望んだ。
だが、カウシムだけが、不遇をかこっていたブーリカら4兵士を見出し、
自分の側近とするのを要望し、望んで手に入れた戦士なのだ。
自分の義妹の忍耐が、限界値に近づいたのを察したのか、カウシムは口を開いた。
「レティア、はじめから、処罰なんかする気がありませんよ。
それに、相手が悪すぎました。そうでしょう、コールスさん。」
「まあ、相手は、わたしの友人の契約妖精さんだし、
あまり悪くも言いたくないのですが。」
「カウシム、よけいな気遣いだ。
4人供、幻光の迷宮の魔力が、暗黒の妖精ラティス以外の妖精の力と、
うすうすは、気づいているようだしな。」
普段寡黙なコールスが、なかば公の場で、王太子を呼び捨てにしたことに、
4人は驚いて下げていた顔を上げ、黒一色の鎧に包まれた騎士を凝視する。
「陛下に殿下。臣は、この4人に理を開示するべきものと考えます。」
そのクレイ卿の言葉の重みを感じ取り、4人は我を忘れ、顔をあげたまま、
上座に座るふたりの貴人を、息を殺してジッと見つめた。
「そうですね、クレイ卿。
ではあらためて、4人に聞きたい。わたしたちと共に滅する覚悟がありますか?」
傅く4人には、王太子の言葉で、媒介石の灯りが揺らいだように感じられる。
そして、ブーリカは心の奥底からの感情とともに、灼熱した言葉を並べる。
「陛下そして殿下、われら4人、本来なら騎士にもなれぬ底辺の出、
あの時、陛下のお声かけがなかったら、貴族の武勲のために、
死ぬまで殺し合いをさせられ、弊履のように捨てられたでしょう。」
「おふたりは、わたしどもに騎士の称号も、名誉も与えてくださいました。
同じ死を迎えるのなら、陛下そして殿下の傍らで役割を全うすることを・・、
われら4人、これを望みます。」
ブーリカ以外の3人も、真剣なまなざしで、武国王太子を仰ぎ見ている。
「そうですか・・。帝国も教国も崩壊しました。武国も、軋みが出てきています。
壊すのは仕方ないとしても、壊した者の責任として、
再始動はさせなければ、なりませんからね・・・。」
「確率論から言えば、有意義な駒は、わたしやレティア、クレイも含めて、
ひとつでも多い方が、いいのですが・・・。」
カウシム王太子は、まだ悩んでいる。
4人が、たんなる武国の騎士としてなら、生き残れる未来が、非常に大きい。
しかし、自分の盟友となれば、それが叶わぬ可能性が非常に高いことを。
「カウシム陛下。わたしは、運命論を無条件に肯定する者ではありませんが、
これは運命というべきものかもしれません。」
「・・そうですか・・わかりました。・・コールスさん、お願いいたします。」
頷くコールスの全身が、淡く七色の光に包まれ、さらに白銀の光が、
コールスの周りを、縦に、横に、斜めにと、数数え切れぬほど、
縦横無尽に疾走する。
そして、光の渦が静まったとき、
その中央に、緑黒色の長い髪・雪白の肌・白銀の瞳・超絶の美貌の妖精の姿が
この場に顕現した。
≪わたしの真の名はアピス。
暗黒の妖精にして、レティア・カウシムと契約をせしもの。≫
伝説に彩られた本物の暗黒の妖精が、目の前に現れたことに、
ブーリカら4人は、自分たちが今までと違う地平に、立ったことを実感させられ、
その全身は細かく震えていた。
明日は、カウチの平原に出陣という日、武国軍は一つの出来事に湧いていた。
ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二の戦士の帰還が、伝わったからだ。
歴戦の勇士であり、また最上級妖精契約者の4人が、武国軍に復帰したのは、
戦力の補完という以上に、戦士たちの心に灯りをもたらした。
3日前、双月教国を軍を撃破し、教都を占拠していた3ヶ国連合軍の先遣隊が、
国境を突破したの報に接し、急遽招集の鐘が鳴らされたのだが、
彼我の兵数比が、3倍を超えるとの情報がなぜか流れ出し、
その結果2割を超える貴族・騎士・兵士たちが、首都を去った。
戦術を知らない人間や、結果を知る後世の人間からいえば、戦の天才といわれ、
武国の凶虎のふたつ名さえ持つ、カウシム王太子の元を去るなど、
考えられないことだが、時代の当事者からいえば、兵士の数は絶対であった。
天才といえども、大軍に対して選択できる戦法は、
⦅基本⦆ 奇襲と相手を分割させてからの各個撃破のふたつである。
ならば、油断をせず、大軍を割らず、粛々と前進すれば、
カウシム王太子は、普通人いや凡才と化すだろうと・・・。
・・・・・・・・
小人数用の謁見の間、奥にカウシム王太子とレティア王女が座る。
その前に、ブーリカ・ウェリキン・ゲトラクス・イケ二が傅き、
その左右に、騎士のコールスとクレイ(旧ズース)卿が、直立している。
「陛下、殿下の大事な時期に、幻光の迷宮になるものに捕えられ、
何の働きもできなかったこと、このブーリカ以下4名、
いかなる処罰でも受ける所存でございます・・・。」
ブーリカには、目の前の壁に飾ってある武国国旗が、
自分たちを睨んでいるように感じられている。
おふたりの警護を第一義とするならば、曲者の捕縛より、
自分らの帰還の有無を最優先すべきだった。
コールスという、超上級妖精契約者に匹敵すると思われる、
最上位の最上級妖精契約者の騎士が、御側に控えていたといえども、
迂闊というべき失態であった。
人払いがされた意味を、ブーリカらは、厳しい意味があるものと考えていた。
「処罰なんてとんでもない。すべては、ここにいる義兄上が、
武国を出奔なされたのが、そもそもの原因。
ブーリカたちを処罰されるというのであれば、
まず、義兄上が罪を負うべきでは!?」
「そういうことです、ブーリカ。わたしは、牢の中で瞑想にふけるのも
いいと思ってたんですが・・。」
「義兄上!」
レティア王女は、義兄カウシム王太子を、睨みつける。
「ブーリカ殿、ウェリキン殿、ゲトラクス殿、イケ二殿。
よくぞ、生きて戻られた。
カウシム陛下も、レティア殿下も、先程まで本当に喜んでおられたぞ。」
みかねて、クレイ卿が助け舟をだす。
「「「「・・・・・・!」」」」」
「だいたい義兄上は、出奔している間は、
王子でさえ、ありませんでしたよね。」
なかなか、【許す】の一言を言わない義兄に、レティア王女はしびれを切らす。
この4人は、ただの騎士ではない。
先王が、武国建国500周年の祝賀の日に、
各王子、各王女に贈り物を下賜するまえ、
なにか希望があればと、あらかじめ聞きとりをしていたのだが、
各王子たちは、当然、領地、支配地を望んだ。
だが、カウシムだけが、不遇をかこっていたブーリカら4兵士を見出し、
自分の側近とするのを要望し、望んで手に入れた戦士なのだ。
自分の義妹の忍耐が、限界値に近づいたのを察したのか、カウシムは口を開いた。
「レティア、はじめから、処罰なんかする気がありませんよ。
それに、相手が悪すぎました。そうでしょう、コールスさん。」
「まあ、相手は、わたしの友人の契約妖精さんだし、
あまり悪くも言いたくないのですが。」
「カウシム、よけいな気遣いだ。
4人供、幻光の迷宮の魔力が、暗黒の妖精ラティス以外の妖精の力と、
うすうすは、気づいているようだしな。」
普段寡黙なコールスが、なかば公の場で、王太子を呼び捨てにしたことに、
4人は驚いて下げていた顔を上げ、黒一色の鎧に包まれた騎士を凝視する。
「陛下に殿下。臣は、この4人に理を開示するべきものと考えます。」
そのクレイ卿の言葉の重みを感じ取り、4人は我を忘れ、顔をあげたまま、
上座に座るふたりの貴人を、息を殺してジッと見つめた。
「そうですね、クレイ卿。
ではあらためて、4人に聞きたい。わたしたちと共に滅する覚悟がありますか?」
傅く4人には、王太子の言葉で、媒介石の灯りが揺らいだように感じられる。
そして、ブーリカは心の奥底からの感情とともに、灼熱した言葉を並べる。
「陛下そして殿下、われら4人、本来なら騎士にもなれぬ底辺の出、
あの時、陛下のお声かけがなかったら、貴族の武勲のために、
死ぬまで殺し合いをさせられ、弊履のように捨てられたでしょう。」
「おふたりは、わたしどもに騎士の称号も、名誉も与えてくださいました。
同じ死を迎えるのなら、陛下そして殿下の傍らで役割を全うすることを・・、
われら4人、これを望みます。」
ブーリカ以外の3人も、真剣なまなざしで、武国王太子を仰ぎ見ている。
「そうですか・・。帝国も教国も崩壊しました。武国も、軋みが出てきています。
壊すのは仕方ないとしても、壊した者の責任として、
再始動はさせなければ、なりませんからね・・・。」
「確率論から言えば、有意義な駒は、わたしやレティア、クレイも含めて、
ひとつでも多い方が、いいのですが・・・。」
カウシム王太子は、まだ悩んでいる。
4人が、たんなる武国の騎士としてなら、生き残れる未来が、非常に大きい。
しかし、自分の盟友となれば、それが叶わぬ可能性が非常に高いことを。
「カウシム陛下。わたしは、運命論を無条件に肯定する者ではありませんが、
これは運命というべきものかもしれません。」
「・・そうですか・・わかりました。・・コールスさん、お願いいたします。」
頷くコールスの全身が、淡く七色の光に包まれ、さらに白銀の光が、
コールスの周りを、縦に、横に、斜めにと、数数え切れぬほど、
縦横無尽に疾走する。
そして、光の渦が静まったとき、
その中央に、緑黒色の長い髪・雪白の肌・白銀の瞳・超絶の美貌の妖精の姿が
この場に顕現した。
≪わたしの真の名はアピス。
暗黒の妖精にして、レティア・カウシムと契約をせしもの。≫
伝説に彩られた本物の暗黒の妖精が、目の前に現れたことに、
ブーリカら4人は、自分たちが今までと違う地平に、立ったことを実感させられ、
その全身は細かく震えていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
田舎娘、追放後に開いた小さな薬草店が国家レベルで大騒ぎになるほど大繁盛
タマ マコト
ファンタジー
【大好評につき21〜40話執筆決定!!】
田舎娘ミントは、王都の名門ローズ家で地味な使用人薬師として働いていたが、令嬢ローズマリーの嫉妬により濡れ衣を着せられ、理不尽に追放されてしまう。雨の中ひとり王都を去ったミントは、亡き祖母が残した田舎の小屋に戻り、そこで薬草店を開くことを決意。森で倒れていた謎の青年サフランを救ったことで、彼女の薬の“異常な効き目”が静かに広まりはじめ、村の小さな店《グリーンノート》へ、変化の風が吹き込み始める――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる