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CⅬⅩⅨ 星々の象意と進行編 前編(4)

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第1章。双月教国からの使者(5)


 わたしたちは、全身を縛りつけていた圧から、急激に解放された。
だが心は、この悪夢から一刻も早く逃げ出したいと、激しい鼓動こどうを叩いている。
暗黒の妖精との会合は、わたしの経験も覚悟も、
吹き荒れる嵐のなかのちりの重さもなかったということが、
わたしの魂に刻み込まれる。

わたしは、エリースという最上級妖精の契約者との噂がある少女が、
この場に残ったことを、いぶかしんでいた。
リント將も、この少女がここにいることに関して、なんの言葉さえはさまない。

だが、この少女が、いまだであるこの少女がいなかったら、
わたしは、わずかな理性も崩壊して、狂うか、逃げ出すかしたかもしれない。
横に座っている、スーシル、そして、エリミーにエルミーも、
同じ心持ちだろう。

そう、わたしの対面に、底知れぬ深淵をみせている妖精が、
わたしの言葉をまっている。

口角こうかくよ動け!!
すべての勇気を振り絞って、わたしたちの思いを、教国の人々の未来を、
目の前の伝説級の妖精に、届けなければならない。


・・・・・・・・


「ラティスさま、はじめてお目にかかります。
わたしは双月教国の白光の騎士団の騎士、ナナリス。
あとの3人は、向かって右より、
スーシル、そして、エリミーにエルミーと申します。」

「本日は、わたしどもような者のために、このような・・・・。」

目の前から、再び凄まじい圧がかかる。

「長いわ・・・。用件・要点だけを言いなさい。
すぎ行く時間は、あんたのためだけに、あるわけではないわ!」

フッと圧が消える。決心した!
わたしは、単刀直入に、暗黒の妖精の心に切り込んでいくと。

「・・・失礼いたしました。われわれのお願いは、ラティスさまの
広大無辺な魔力を、ぜひ私ども、いえ双月教国の人々のために、
お力えいただきたく、おうかがいした次第です。」

わたしは、わたしと3人は、目の前の妖精に、深々と頭を下げる。

「あんた、あんたの国が、わたしの契約者を害そうと、
いろいろとやってきたから、やむを得ず、わたしは相手をしたわ。」

「結果、あんたの国では、わたしを恨む人間が数万では、
すまないはずよ。」

「あんたたち、そいつらに、裏切り者と、言われる覚悟はあるの?」

わたしは、目の前の妖精の放った〖裏切り者〗という言葉の選択に、
この妖精の力を借りれることが、ニヒルゼロでない事に気付いた。
ここは、いくしかない・・・。

「ラティスさまが、力を貸していただければ、数十万の人間が、
助かることになります。それを考えれば、わたしたちの名誉など、
なにほどのものでしょうか。」

わたしの真摯しんしな心情の発露はつろに対して、
妖精の顔に、気がのらない表情が浮かんでいるのに気付いた。
だめだったか!?

「じゃ、わたしがあんたたちの国に、国の人間に肩入れしたとして、
あんたたち、わたしに何をかえしてくれるわけ?」

「わたしたちにでできることなら、何なりと・・・。」

「じゃ、アマトのめかけになれと言ったら!?」

妖精の契約者の少年が、驚いているのが見て取れる。
わたしの口が考えることなく、反射的に、妖精の言葉に反応する。

「わたしたち4人、一生アマトさまの身の回りのお世話を、
させていただきます。」

「ラティス~!!!」「ラティスさん!!!」

契約者とその妹の叫びが、わたしの耳に届いてくる。

「冗談よ、なにふたりとも赤くなってんの。
エリース、この冗談で貸し借りは、チャラね。」

冗談?? 貸し借り??

「ほんと、バカらし。わたしは、アストリアの探索にでるから。
義兄ィ、あとはよろしく。」

エリースという名の少女が立ち上がり、部屋から出て行く・・・。
その少女の行動を、目だけで追った妖精が、
今度は、契約者の方に体を向けて、口を開く。

「アマト、どうせ、のモクシから書状でも、預かってきてんでしょう。
わたし自身は、中身を見る気にもならないから・・・、
とにかく、モクシには、引き受けたと伝えるのよ。」

教皇猊下げいかを弟子だと!?書状を見ない、引き受けた、それは・・・。
わたしは、妖精の言葉に混乱する。

「ラティスさん、教皇猊下げいかを、弟子って言うのは・・・。」

「アマト! 弟子のお願いだから、師匠たるわたしが、こいつらの話を、
無条件に引き受けるのよ。」

「もしモクシのやつが、弟子ではないなどというのなら、
今回のことは、わたしは引き受けないわ。」

「・・・・・・・・。」

そういうことなのか!?目の前の妖精は、妙な理屈づけをしてまで、
この契約者の少年の周りの世界に干渉を行い、これを護ろうとしている。

「ナナリスとか言ったわね。あとはイルムのとこに行って、平身低頭したら。
だったら、あいつも、国策として考えてくれるかもよ。」

「ラティスさま。ご助言、ありがとうございます。」

つまりは、始めから、目の前の妖精のなかでは、結論は出されていた。
けれど、わたしたちへの見極みきわめと、その覚悟を試したということなのか。

暗黒の妖精が、新帝国というそういう大きな単位ではなく、
この契約者の少年と、その周りの人たちを、小さな優しい空間で包み込み、
この世界のために行動しているのを、いや、その世界に干渉しているのを、
わたしは、わたしたちは、十分に理解させられていた。

「ほんと、急いだほうがいいですよ。ラティスさんの同意の記憶なんて、
明日までは覚えていても、明後日には忘れられてるものかもしれないし・・・。」

「そう、ナナリス殿、話は一刻いっこくを争うのだろう。今からでも構わない。
イルム執政官のもとには、わたしも付き合おう。」

ラファイア殿と、リント殿の言葉が、遠くに聞こえるわ。
わたしたちも、その優しい空間に包まれようとしている。
わたしの視界が曇っている、今、下げた頭が、上げられない。


・・・・≪おまけ≫・・・・


リント將と、双月教国の使節の4人が、出て行くのと入れ替わりに、
ニコニコ笑顔のユウイが、部屋に入ってくる。

「ラティスさん、お話合いは終わったかしら。
エリースちゃん呼び止めようとしたんだけど、『あとで。』って、
逃げられてしまったのよ。」

「では、わたしも警護に。」

ラファイアが、この場を逃げ出そうと、行動を起こす・・が・・。

「ラファイア、だれの警護というのよ。
警護なんて、だれも必要ないんじゃなくて。」

暗黒の妖精が、急所の一撃を、白光の妖精に言葉で放つ。

「あら、だったら、ラファイアさんからも、お話を聞きたいわ。
まさか、わたしとの話し合いより、
ルリさんの香茶を、優先してしまうのかしら?」

「そんな~、とんでもありません。
わたしが、ユウイさん第一なのは、知っておられるじゃないですか。」

今度は、いつもの如才じょさいない態度で逃げようと試みるも、
それが逆にラファイアを、深みに落とし込んでいく・・・。

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