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CⅬⅧ 星々の順行と逆行編 中編(8)

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第1章。謎の妖精契約者は闇夜にうたう(1)


 声のした方向に、舞踏会の執事長のような姿をした人間が浮かんでいた。
漆黒しっこくの上下。上着のすそは、燕尾えんびのような形。
ここまでは正統なたたずまいだが、不気味なのは、月白げっぱく色の仮面を装着し、
顔の前面をおおっていたことだ。

霧がすべてを隠していく世界に、キョウショウは、
他に近づいてくるものがひとつもないか、探知の魔力で空間を、
打擲ちょうちゃくする。
その彼女の探知に、他に何もとらえるものはなく、
よって目の前の敵のみに、意識を切り替える。

「さてと、用意は終わったか?」

仮面の人物から、無機質の音調で、あざけるような声が、キョウショウの耳に届く。
同時にキョウショウは、全方位から自分に、殺意の矢が放たれているのを感じる。

「レウス公女は、もう皇都に入っている時間。いいのか、遅れて!?」

さぶりを 口にしてみるキョウショウ。

だが心の内では、

『アストリアも、上位の上級妖精契約者だったはず・・・。』

『まるでがみえない。・・・先制攻撃・・・、一気にいくしかないか。』

と、覚悟を決めている。

そして、そのキョウショウの顔色は、月白の色より、蒼白そうはくになっている。

仮面の人物が、かすかに、ほんのかすかに動く・・・。

それに反応して、キョウショウは多数の白氷のやいばを仮面の人物に放つべく、
自分の上空に構築していた、ルリ直伝の複数の透明な十二角の魔法陣に、
聖槍を使用し魔力を通力する・・・。

・・・・・・・・

この時、キョウショウの上空に、数十の氷のやりが、同時に出現、
刹那せつな、一斉に牙をむいて、仮面の人物におそい掛かる。

第二波、第三波・・・、上空に氷の槍は連続して姿を現わし、
うず巻き状に、あるいは左うず巻き状に直進し、仮面の人物が立っていた位置に、
絶え間なく迫撃し続ける。

あわせてキョウショウは、もうひとつの攻撃も加えるため、
大きく後方に跳び下がる。

彼女の全身が青色の光芒こうぼうに変化していく。
闘技場の全体が、その青い光に反射する。

≪氷結破壊!!≫

キョウショウを中心にして、青い冷光が輝きながら膨張ぼうちょうし、
その光は、岩石でできた円形の巨大な闘技場の観客席を凍り付かせ、
粉々に砕け散らせていく・・・。

・・・数瞬、あるいは、短い時間が経過する・・・。

仮面の人物の立っていたところには、多面体の なかば氷の盾が屹立きつりつしていた。

『多面体立体障壁。やはり、最上級妖精を超えた妖精の契約者か!』

氷の盾に、まぶしい青金の光のひびが入る。立体的な氷のたてくだけ散る。
仮面の人物は、何もなかったように、青金の光をまとい、直立している。

キョウショウはさらに後方に跳びのき、彼我ひがの間合いを開く。
同時に、着地した足元に魔法陣、上空に3つの魔法円を顕現けんげんさせる。

『あれで、傷ひとつなしか?』

失笑がもれる。自分の青色の髪が激しく逆立っている。

『もはや生還は捨てた。次の攻撃で、自分が持ちうる究極の一撃を見舞う!』

キョウショウの心の内に、[生への希求]が霧散した。
心が、波一つない、なぎの状態になっていく・・・・・・。

「!!!」

言葉にならない雄叫びと同時に、聖槍を通して、
白氷の光と白輝の雷電が放たれる。

怒涛どとうの光と雷が、とどめとばかりに、仮面の人物におそい掛かる。

仮面の人物は、左手に巨大な魔力盾を構築する。
怒涛どとうの光撃と雷撃は玲瓏れいろうに輝く盾に、
あるいは反射し、あるいは飲み込まれてゆく。

凄まじい音と光が交差し、その一帯を包み、大気が鳴動した。

≪「気が済んだか。こんどは、こちらからいかせてもらう。」≫

仮面の人物は、精神波と音声で宣言し、かるく左の指をならす。
瞬時、仮面の人物の全身から荒れ狂う光が放出され、
一瞬にして世界を、広大な氷のそのへと変化させていく。

≪どうだ、ほんものの氷結破壊は!≫

その精神波に、嘲笑の響きが・・・。


第2章。謎の妖精契約者は闇夜にうたう(2)


 仮面の人物の、氷結破壊の魔力は、その範囲の大地をおおいつくしている
はずであった。
そして、大地を魔力のおりで取り囲み、内にある大地以外のものを
すべてをこおらせ、粉々にくだいてしまう・・・。

だが、目の前の一部分だけが、大地から天空へ、白銀の光と白金の光が噴出し、
氷の世界の完成を妨げている。

「あの槍、暗黒の妖精と白光の妖精の魔力を付与してあるのか!?」

仮面の人物は、全く感情のれもみせずに、つぶやく。

「だが、この世界のエーテルを、自在に使えるとしても、
わたしの魔力に対抗できる時間は、無限ではないはず。」

仮面の人物は、自らが構築した魔力のおりを、全方向から縮小を開始させる。
青金と白金・白銀の光が、互いを打ち消し、飲み込もうと、身震いを継続する。

「しつこい、だが勝ったな!」

仮面の人物が己の勝利を確信しつぶやいた、まさにその時、
天空から一筋の白金に輝く光のかたまりが、霧を突き抜け、
仮面の人物の眼前に到来した。

・・・・・・・・

「・・白光の妖精・・・ラファイア?・・・、・・・の分身体か・・・!」

目の前の、光輝く蜃気楼しんきろう体に、全身が無意識に最大限の警戒をしている。
仮面の人物の紫紺しこん色の髪が、はげしく波打っている。

「なるほど、二段構えの仕掛けがあったわけだ。」

だが、その強大な圧と裏腹に、目の前の蜃気楼しんきろう体から、敵意は放たれていない。

同胞どうほう同士の、滅し合いは、望まないということか。」

「フフフ、しかし、見えるぞ。以前は見えもしなかった、
伝説の妖精の魔力のいただきがな・・・。」

思いもかけない実相を得た事で、仮面の人物は、心の中で、考えを変える。

『まあいい。アルケロンから、新帝国の三けつのひとりを、
殺せとは言われていない。』

『今度の会談から排除せよ、とは言われたが・・・。』

『ククク、わたしの望みが、レウス公女の野望と重なる限り、臣従もしよう。
だが、すべては駆け引き。』

敵意をみせない白光の妖精の蜃気楼しんきろう体の前で、構えを解く仮面の人物。

『取引以上のことをする必要はないか。それに、対妖精契約者の闘いのときの
わたしの超上級妖精の魔力も、最上級妖精契約者との立ち合いで、
精査できたしね・・・。』

厚くおおっていた霧と無限に続くような氷の世界が、
無機質な笑いと共に、消えていく・・・。

少しの、雲間から、ふたつの月の光が差し込んできたとき、
そこには、えぐられた大地の上に倒れた、新帝国の美貌びぼうの戦士と、
彼女を見護る、白金に輝く白光の妖精の蜃気楼しんきろう体が、いるだけだった。
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