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CⅬⅥ 星々の順行と逆行編 中編(6)

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第1章。謎の妖精は闇夜にうたう(1)


 アマトが、歴代の妖精学者たちが代々引き継いできた、隠された秘儀を、
ハイヤーン老から口伝くでんで語られた時とほぼ同じ時刻、キョウショウは、
リントが静養している宿の部屋に到着していた。

「リント将軍。皇都より、キョウショウ将軍がまいられました。」

騎士兼治療士ヒーラーと、先ほどキョウショウに自己紹介をしたミリーナが
部屋の扉を叩き、なかの人物に声をかける。

「ミリーナ。入ってもらえ。」

なかから、聞き覚えのある声が、キョウショウの耳に響く。
ミリーナに続いて、入室したキョウショウ。
そのリントは、軍用略礼服に着替え、剣を腰にさそうとしていたのだが、
彼女の顔色は、どう見ても万全とは言い難いという現実を
キョウショウは視認する。

「リント。アストリアの書状には、エーテル切れをおこして、
倒れたとのことだったが、起きて大丈夫なのか!?」

「なんとかね。万が一のことを考えて、旧双月教軍随一の治療士ヒーラー
ミリーナを帯同させたのだが、私のために連れて来たようになってしまった。」

皮肉めいた笑いを浮かべるリントに、キョウショウは何もこたえようとしない。

「そう・・報告しなければな。まず、リウス公女一行は、お行儀よくしている。
だが、あの伝説の妖精エメラルアがいるのであれば、
そういう光景を見せられているだけ、なのかもしれない。」

「次に、あのときのを、説明したいと思う。
少し、時間はいいか?」

「わかった。聞こう。」

いつもより、言葉少なに話す友に、キョウショウは、自分の考えてきたことを
話すのは、後回しにしようと判断する。

「ミリーナ。周辺警備に出向いた、アストリア副官を、呼び帰しくれないか。」

心配そうにたたずんでいるミリーナに、リントは優しく声をかける。

「わかりました。ご命令は、お伝えいたします。
その後は、部屋の外に控えておりますので、別のご用ができましたら、
お呼び下さい。」

ミリーナは、そう応対し、一礼をして部屋を出て行った。

・・・・・・・・

リントは、友に椅子をすすめ、自分も座り、あの日のことを話し始める。

「・・・そう、結論から言うと、相手は、超上級妖精と思う。
その魔力ちからは、精神支配に物理破壊、それに第3者を分身体として、
構築もできるようだ。
無論、すべては、幻覚だったのかもしれないが。」

「まず、腐乱ふらんしたソーケンの姿を見せられ、それに驚いたのがすきになったか、
精神支配にからめとられてしまった。」

「相手は、わたしの心の底に潜んでいた、嫉妬しっとひがみ、
力への渇望かつぼうを見つけ出して、取引を持ち掛けてきた。」

「?」

疑問詞を顔に浮べるキョウショウに、リントは言葉を続ける。

「キョウショウ、エリースだ。わたしは、超上級妖精をかしずかせ、
自らも無限と思える魔力を操る彼女に・・・、
生涯をかけて研鑽けんさんしようが届かない地点へ至った彼女に・・・、
いつの間にか、みにくい嫉妬と満たされぬ渇望かつぼうを、
心の内に潜ませていたらしい。」

「≪より高みに登りたくはないか。≫と精神波で誘われ、
あと一歩で、相手の手の上にちかけた。」

全身を震わせて、言葉が続けられないリントに、キョウショウは、

「リント。わたしも、その魔界に、魅入みいられた事がある。」

と、リントにとって意外とも思える一言を、言の葉にのせる。

「キョウショウ!?」

「そうだ、エリースの魔力ちからのなんたるかを知り、今思えば、何を考えていたのか、
ラファイアさんに、手合わせをいどんだ。」

「・・・ラファイアさん・・・。伝説級の・・・白光の妖精に!!」

「・・白光の妖精・・ラファイアさんは、無論、わたしの全力の攻撃魔力でも、
微動だにせず、逆にどう手加減して攻撃するか、真剣に悩み込んでいたわ。」

「そんなことが・・・。」

「エリースに、いや超上級妖精契約者に出会った、
の戦士が経験させられるごうというものだ、恥じることはないわ。」

「脳筋!?」

「そう、脳筋よ!」

ふたりの戦士の間に、かすかな笑いが流れる。

「だが、リント。その魔力の重厚さ、水の妖精エメラルア本人の
可能性があるんじゃないか。」

「その可能性は、低いと思う。
の、攻撃魔力で、家宝のラマサの妖剣は砕かれたが、
白光の妖精ラファイアさんの刻印と、暗黒の妖精ラティスさんの穿うがちが
付与してある、聖剣エックスクラメンツはくだけなかったし、
これを利用した魔力攻撃が、たぶん有効だった。」

「たぶん?」

「すまない。最後の方は記憶にないんだ。意識が戻った時、は、
影も形もなかった。」

「もしそれが、伝説の妖精エルメルアだとしたら、聖剣もくだかれ、
リント、おまえも・・・。」

「そう、今ここには、いなかっただろうな。」

「・・・・・・・・。」

「だが、休ませてもらっている間に、考えていたのだが、
レウス公女の契約妖精が、伝説の水の妖精エルメルアだとして、
わたしを襲ってきた妖精も、この一行のなかの誰かが妖精契約者だろう。」

「だが、イルムが考えたように、一枚岩ではないように、思えるのだ。」

「なんか、謎の妖精は、レウス公女に、仕方なく協力しているような・・・。」

「それは?」

「わたしは、あの立ち合いの終わり、しばらくの間、意識を喪失そうしつしていた。
レウス公女の計画が、どのようなものかはわからないが、
将来的に新帝国と対立する未来図があれば、当然止めを刺しただろう。」

「つまりは、その妖精か、契約者が、何か含むものがあるという事か。」

「謎の妖精は闇夜にうたう、というところかもしれないな。
私たちにとっても、レウス公女にとっても。」

ふたりが、考えをまとめようとし、口を閉ざした瞬間、
扉がたたかれる。その叩く音は、緊急事態を彷彿ほうふつさせる。

「はいれ!」

リントが声をかけるやいなや、ミリーナが飛び込んでくる。

「失礼します。今連絡がありまして、レウス公女の宿に賊が侵入しようとして、
騎士がふたり倒され、賊を追った、アストリア副官の行方が、
分からないという事です。」

「!?」

思わず固まる、ふたりの美貌の戦士に、ミリーナの声が追い打ちをかける。

「一緒に後を追った騎士の証言によると、アストリア副官は、
急に出現した霧にようなものに取り込まれ、姿が消えた
よしにございます。」
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