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CⅩⅬⅧ 星々の順行と逆行編 前編(5)

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第1章。同じ夜に(3)ー①


 二つの月が、痛々しい光を、大地と大気に分かち与えている。
ここは、コウニン王国(旧サ・クラ王国領)の辺境の地方、セリサ郡。

約二百年前、サ・クラ王国は全土で、ように農民の叛乱はんらんが起こり、
鎮圧に、隣の大国のコウニン王国の力を借りた。

その際の貸した武力に相当する高額な代金を請求され、
2年後、その返済がとどこおっているとして、
【国家間の信義に劣る】という名目のもと、
コウニン王国は、サ・クラ王国に攻め込み、その王族一族を処刑し、
貴族らは称号と領地を剥奪はくだつし、全てを己の国のものとしている。

彼らの統治は極めて巧妙こうみょうであった。サ・クラ王国でとれた全ての作物を、
強制的に安値で買い取り、その十倍の金額で小売をしたのだ。
その金が出せない領民には、無制限に高金利で購入用の金を
貸し付けた、連帯保証(人)の掟とともに。

百年も経たないうちに、領民が持っていたほとんどの財産は巻き上げられ、
現在は、借金がない者も、連帯保証人になってない者はいない、
というまでの状態となっている・・・。

しかし、影あるところに、光もある。

一部の者たちは、地下組織をつくり、正式の妖精契約より以前に、
年に何人かの子供を、為政者どもから隠した妖精契約の場に連れて行き、
ひたすら上位級の妖精との契約を目論もくろんだ。

万が一、最上級以上の妖精との契約が成れば、
歴史の針を、自由だったあの頃に、戻す可能性があるからだ。
ただ、今だその成功の話は聞かない・・・。

・・・・・・・・

 「今回も、ダメだったとはな。今はこの儀式を隠すのも難しくなっている。
これだけ苦労をしたのに、それに情けない事に3人のうちひとり、
孤児院から連れて来た虚弱児は、級外枠下妖精との契約だと。
まさに時間と金の無駄遣いよ!」

妖精契約の場に連なる洞窟のなか、この地方の地下組織の人間が集まっていた。
今夜は、豊作祈願祭きがんさいの最中で、全員が用心として、
祭祀さいし用の顔の前面をおおう仮面をかぶっていて、
それぞれが声の音声も変えている。

「あれだけあった隠し妖精契約の場も、摘発てきはつされ続けて、数が少なくなっている。
このままでは、すべての希望が消え失せてしまうぞ。」

別のひとりが、声をあげる。

「可能性はニヒルゼロではない。あきらめたらそれで終わりだ。
それに今回ひとりは、中級妖精との契約だったしな。」

と、ドゥクスリーダーの男が、不満をもらした男をたしなめる。

「それはそうだが。こう結果がでないと・・・」

そうつぶやくまた別の男に、そこにいる全員が沈黙してしまう。
しばらく続いたかわいた沈黙を破り、ドゥクスリーダーの男は、皆に指示する。

「失敗した子供は廃棄。また、次の祭りの夜に集まろう。準備をおこたるな!」

「「「おう。」」」

その場から立ち去ろうとした男達に、洞窟どうくつの入り口から精神波が響く。

≪ククク、あなた方が、次の祭りの夜を迎えることはありませんよ!!≫

その強力な精神波に、そこにいる全員が硬直する。

「爆破!!」

そのような時の、取り決めがあったのであろう。

次の瞬間、激しい爆音が、入口方向から次と次ととどろき、土埃つちぼこりがこの空間に
流れ込んでくる。

「散れ!!!」

誰かのその絶叫も、連続するすさまじい音に、かき消される。


・・・・・・・・


 「クレー様、地下組織の人間らは、全員処理できました。」

セリサ郡の代官ラクスが、自分よりはるかに若い男にかしずき、言上する。

「妖精契約を果たした者は、どうしたんですか、ラクス準爵?」

「それが、そのうちのひとりが、橙色に近い炎の爆球を放っているということで、
周りを取り囲んで、逃げられぬようにはしています。」

「なるほど、上級妖精契約の可能性があるということですか・・・。」

クレーは、後ろを振り向き、無言でたたずむ、ふたりに声をかける。

「キマにセル。先にそこに行ってくれないか。」

ふたつの影は、軽くうなずき、次の瞬間、姿が消える。

クレーにキマとセルは、コウニン王国の対外工作部南局員(最上級妖精契約者)、
俗にいう南局四天王のうちの残りの三人。
コウニン王国の中央政府より、〘旧サ・クラ領の地下組織を壊滅かいめつさせよ。〙との
命を受け、行動している。

コウニン王国の中央政府は、新帝国の皇帝候補と暗黒の妖精の契約者への、
暗殺工作の失敗のみならず、北局のルリ、南局のノマという最上位工作者の
裏切り(新帝国への返り忠)まで起こったため、
近々新帝国との全面摩擦まさつけられないということで、
少しでも問題になりそうな事は、今のうちに抹消すべしという事となり、
旧サ・クラ王国領への【生かさず・殺さず】の統治政策を変換した経緯いきさつがある。

『ふむ、こいつが報告したように、上級妖精契約者なら、めっけ者だがな。』

指示を待つ準爵に、冷たい眼差まなざしでを与え、
クレーも、この場から姿を消す。


・・・・・・・


 「どうした、なぜ、行動せぬ。」

冷たい笑顔を浮かべ、ただ見物しているキマとセルに、クレーは声をあげる。

「殺していいならな。」

セルが、獲物の方へ目を逸らさずに答える。
その間にも、橙色の炎の爆球が、規則性もなく襲来し、
囲んでいる兵士たちを、火柱にしていく。

「少し、炎に赤みがあるわ。火の中級妖精契約者の最上位ってとこかしら。
あとは、同じエレメントのあなたの出番じゃない?」

キマが、興味なさそうに、先ほどからの考察を述べる。

「わかった。」

クレーは、飛んできた爆球を、無詠唱で黄色の炎の壁を構築し無効化する。
そして、探知の視力で闇を見通す。
そこには、大きな木を背にして、泣き叫ぶ少女と魂をとばしたような少女の
盾となって護る少年の姿が、浮かび上がる。
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