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CⅩⅬⅡ 星々の格式と置換編 後編(4)

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第1章。宵闇よいやみ(1)

 
 たぶん、教会の外は夕闇から、宵闇よいやみに変わり、星々が天上で
輝き始めているだろう。アマトは、その雰囲気を肌で感じている。

だが、アマトと同じ、複数の妖精と契約しているカシノ教導士なら、
教会の周辺の広大な範囲に、何人の人間がいるかどうかくらいは、
その気になれば、能動的探知魔力でとらえることができるだろう。

さらに、妖精界の頂点にいるラファイアやラファイスなら、その人間に
敵意があるかどうかも把握はあくし、同時に攻撃魔力の標的として、
意識することもなく、照準固定しているに違いない。
・・・たとえ、それが何千・何万人であったとしても・・・・

 光の表と裏のらぎ合いの時間は終わり、『じゃましたわね。』と言葉を残し、
光の表を象徴する魔力ちからをもつラファイスが消えたあと、

少しの間もおかず、別の広大な圧が教会内に広がり、
お怒りの表情の妖精が現れる。

この妖精ときたら、この場に登場するやいなや・・・・。

「ア~マ~ト!!あんたね。わたしがきのう一晩中、ユウイとでの
お話合いでぐったりしていたところに、街路から教会内へのどこかで、
ラファイアとラファイスが、まさに激突しそうじゃない。
いいになると、参戦しようと思っていたのに・・・。」

「なんでふたりが、和解してんのよ。」

そのラティスの言葉には、ラファイアは勝手に香茶を飲みながら、
知らん顔を決め込んでいる。

「昨夜は、リーエはすぐに、ラファイアもいつの間にか消えているし。」

ここで、ラティスはその美しい指で、ラファイアを指差す。

「そうよ、ラファイア。あんたは、白光の妖精から薄情はくじょうの妖精に、
帰属を変えたら。」

そう叫んで、返す刀でアマトにも言葉を浴びせる。

「で、アマト。あんたのせいで、あなたの、はかなげで可憐かれんな妖精が、
悲惨ひさんな目にあったのよ。せめて、リクリエーションの用意でもしてやろうと、
ラファイスとラファイアの間の怒りの感情をたぎらせ続けるとかいう、
配慮はないの!?」

カシノは、『あいも変わらず、なお方ね。』と、内心ため息をつく。
そうしている間にも、妖精の契約者であるアマトが、契約妖精であるラティス様に
められていく。
『ふつう、妖精とその契約者の間ではありえない景色ね。』とカシノが思った時、
モクシ教皇があきれながらも、妖精の怒りをらしにはいる。

「そう言えば、ラティス殿。伝説の水の妖精エメラルア様に
われたということだが、あの方はどういうお方なのかな?」

アマトの胸倉を掴んでいたラティスだが、彼を長椅子の上に
モクシの方に向き合う。

「モクシ、あいつに敬称なんかいらないの。妖精界で敬称をつけるべきは、
このわたし、ラティスただひとりのみ。わかった?」

「ラティスさん、モクシさんが聞いているんですから、
答えてあげたらどうです。」

ラファイアは、そろそろラティスのご高説が、うざくなったのか、
言葉による冷たい一撃を、ラティスに見舞う。

「そう言うんだったら、ラファイア。アンタがモクシに説明してあげたら。」

「めんどくさいですね。ラティスさん同様、性格がなされている
お方ですよ。」

キッパリと言い切る、白光の妖精ラファイア。

!それケンカ売ってるつもり?」

「それ以外に聞こえたとしたら、ラティスさんも正真正銘しょうしんしょうめいのバカですね。」

「救済と祝福の妖精に、よくそういう物言いができるわね。」

今夜は、ラファイアも一歩も引かない。

「救済と祝福?しょせん自称ですよね。」

刹那、ふたりの圧が凄惨ひさんな勢いで激突、爆発的に膨張ぼうちょうしてゆく。

次の瞬間、ふたりの一撃が激しく輝き、教会の天井を突き抜けいくが、
待ち受けていたかのように、その熱量は空中で完全に消失する。

「逃げられましたね。」

「あの一撃を受け消すとはね。まさか、委員長気質いばりんぼもこの世界に?」

「風の妖精リスタルさんがですか? だとしたら受けが薄いし、
第一だいいちあの方だったら、攻防一体の魔力を振るわれるでしょうから・・・。」

「妖精界も広いしね。わたしの目をあざむ強者もさがいても、不思議はないか。」

これを自分の複数の看視かんしの能力で追っていたカシノは思った。

『教会の天井が少しも壊れていない。あれだけの攻撃魔力ちからを放ったのにね。
透過させたとでもいうの、ふたりともやはり底が知れないわね・・・。』

『けど、それ以上に、また別の妖精ばけものが皇都、いやこの世界に来臨らいりんてたのね・・・。』

一方モクシ教皇は、呆然ぼうぜんとしている若者を見つめて、深く思う。

『神々よ、あなたのしもべたる このモクシはお聞きしたい。
あなたがたは、この若者をとおして、何をお望みになるのか?!』と。


第2章。宵闇(2)


 新双月教のモクシ教皇、新帝国のイルムたち、夜には自分の義妹姫と会見し、
深夜、ミカルの餓狼レリウス大公は、腹心の宰相トリハとギム酒をみ交わしている。

「ま、新双月教と新帝国との関係は、当初の予定とは違ったが、ミカルにとっても
いい落としどころになったと思うが・・・。」

「・・・・・・・・。」

そのレリウス大公の言葉に、トリハ宰相は無言で返事を返している。

「なんでぇ~、トリハ。なんで黙っている?」

「おわかりのはずですが。」

「あの事か?」

「ほかに、何かありますか?」

レリウスは、れるギム酒の水面を見つめ、そして話を続ける。

「ミカルの大公陛下が、ミカルの宰相との約束を果たしただけよ。」

「口約束は無効だとは、おれとおまえの間柄あいだがらでは、なしにしようぜ。」

トリハ宰相は一気にギム酒をあおり、酒の力を借りてレリウスに意見する。

「だとしても、妹君たちを前に、その・・・、『誰か嫁になってやれ。』とは。」

「あまりにも、妹君たちの意思を無視した、暴挙と思われますが。」

「そうか~、そうとも見えなかったぞ。」

「とくに、キリナなんかは、顔が真っ赤になっていたしな。」

「ですが・・・。」

「ま、ダメ大公が、たみに人気のある宰相を取り込もうと、義妹をとつがせるという
ホント、くさいやり方よな。」

「おたわむれを。」

ギム酒の水面のゆれを数えながら、またレリウスは言葉をはこぶ。

「あの三姉妹いもうとたち、おれのために、新帝国の執政官のイルムのところに、
直談判じかだんぱんしに行ったというじゃねぇか。ありゃ~、いい女になるぜ。
ま、だれを側室にしても、間違いはねぇな。」

「それとも何かい。本音のとこでは、おれと義兄弟になるのはイヤだと・・・。」

「・・・・・・・。」

すずやかな雰囲気が、ふたりの間にただよっていく。

「そうだ、トリハ。おふくろ殿のあの口癖くちぐせは、おれの想いとも重なるのよ。
おまえは、おれたち親子のために、家族を失ってしまった。」

「今回のことで感じたのよ。おれが生きている内に、
借りは少しでも返しときたいとな。」

「無論この程度で、借りを全部返したとは、はなっから思いはしねぇが。」

「だからと言って・・・。」

「おれの未来のあらすじでは、ミカルの宰相は、家族に囲まれて、
見取られながら、その生涯を終えることになっているんだ。
だから、トリハ。聞き分けちゃくれねぇか。」

トリハが、口を開こうとした時、不意にふたりの脳裏に鈴を転がすような
軽やかな精神波が響く。

≪中途より聞かせてもらった。・・・うつくしい話ですね・・・。≫
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