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CⅩⅩⅩⅧ 星々の格式と置換編 中編(5)

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第1章。伝説の水の妖精の契約者のまえに(1)


 「ちょっと待ってイルム。」

キョウショウが、イルムに向かい、彼女の発言を止める。

「確かに、伝説の水の妖精エメラルアと契約者が誰か、今後どう動くつもりか
というのは一番大事だわ・・・。」

「だけどその前に、もうひとりの水の超上級妖精ルコニアの事を無視するは、
どうかと思う。」

「そうね、ラファイス殿を含め、極上級妖精の方々が、この世界に次々と
集結している感じで、伝説の妖精エメラルアの契約者のほうを
優先してしまったけど・・。」

イルムは、キョウショウの意見を受け、自分も思うところがあったのか、
話の向きを変える。

「ほんと、10年前なら、ひとりの超上級妖精の契約者が戦場で暴れたら、
一週間は最優先で、対策を講じさせられたはず。」

ルリも、キョウショウの言葉への同意を示すために、話に加わる。

「それに、戦術のほとんどを無効化してしまう化け物という扱いだったし。」

ルリは、イルムが話を受けたあいだに、キョウショウの表情から、
また別の事実があるのを読み解き、推理したことを言葉にのせる。

「キョウショウ、エリースに、報告書に記していない、
があったんじゃない?」

そのルリの言葉で、一瞬、キョウショウの美貌が硬直する。
だが、キョウショウは、大きな息を吐き、そして話を続ける。

「・・・そのとおりよ、ルリ。エリースは、
『私とリーエで対応するから、他言は無用にして。』
と、言ったけれど・・・。」

そう、アマトが、三人とって情けないけど、かけがえのない弟分なら、
エリースも生意気ではあるが、かけがえのない妹分である。
イルム・ルリのふたりの瞳に、公的な部分と違う色の真剣さが浮かんでくる。

「エリースが、水の超上級妖精の契約者を倒した時、
その水の超上級妖精のルコニアから、
『風の超上級妖精の契約者よ、わたしはかえってくる!』
と、精神波を送られたそうよ。」

「そのあとすぐに、リーエがしばらくのあいだ、不覚醒ふかくせい状態におちいったし・・・。」

さすがにイルムとルリも、何の考えも浮かばず、沈黙してしまう。
しかし、さらにキョウショウは話を続ける。

「ラティスさんと、ラファイアさんに、聞いてはみたんだけど・・・。」

「ラティスさんは、
『はあ~、ルコニアとかいう雑魚ざこがそんなこと言ったにしても、
またエリースの前に出てきたら、このわたしが横から出てきて、
八つ折にして しめてあげるから問題はないわ。
 ま、これはあのポンコツの妖精には無理よね。』
と、言っていたし。」

「ラファイアさんは、
『それ聞きましたよ。ほんと、面倒くさいですね。ラティスさんがやりたい
と言うなら、 捕獲して熨斗のしつけて、御前おんまえに放り投げて、
御魔力おちからを振われるまえに、消去してあげますから。』
と言って、白金の光粒を背中からほとばしらせていたわ。」

と、<聞いたわたしがバカだった。>という結果も告白するにいたった。


第2章。伝説の水の妖精の契約者のまえに(2)


 この場の空気と化していたアマトは、キョウショウの言葉から
義妹エリースの名前を聞き、さすがに無視はできなくなり、
沈黙してたたずんでいるラファイスに、何か智見ちけんを得られないかと、
恐る恐る質問する。

「ラファイスさん。ルコニアさんの言葉、これってどうなんですか?」

ラファイスは、その美しい顔を傾け、アマトに応じる。

「死にたいのか、アマト?」

何の圧も感じさせることなく放たれた言葉は、むしろそれだからこそ、
そこにいるアマトを除く全員を、こおり付かせる。

「エリースのためなら。」

その直截ちょくさい的な言葉と、真摯しんしに自分に向き合ってくるアマトに、
ラファイスの表情が柔らかいものに変わり、

「ま、エリースは、ノエルの大事な友になる人間だろうからね。」

とアマトに返し、その言葉で、その場の雰囲気を融雪させる。

「ありがとうございます。」

と、頭を下げるアマトを手で制し、ラファイスは淡々たんたんと語りだす。

「ほとんどの妖精にとって、人間の契約者は、おまえたちの感覚でいえば、
長距離の鉄馬車に相席したぐらいの心持こころもちに過ぎない。
契約後、半覚醒状態の妖精も多いしね。」

「だが異能の妖精のわたしやリーエのように、覚醒かくせい状態にある妖精は、
どうしても契約者の心に影響されるし、
また契約者に、過度に思入れをしてしまう妖精もいる。」

そこまで話して、沈黙するラファイス。

「ラファイス殿。〖沈黙の掟〗が必要ならおこないます。
わたしたちも、エリースを失いたくない。」

イルムの言葉に、キョウショウとルリも、ラファイスを真剣に見つめる。
ラファイスは自分の手の平の上に、白金の光を輝かせ、しばらくながめていたが、
何かを納得したのか、話を続ける。

「・・・・われら妖精は、同族間の滅し合いは行わない。
たとえば、わたしがこの強大な魔力を、最弱の同族にふるおうとするならば、
何千、何万の妖精がわたしの前に立ちふさがるだろう。」

「だが、この世界でエーテルを得るために、人間と契約同化した後、
その人間同士が、殺し合いをした場合、殺された方に同化している妖精も、
場合によっては、滅し去ってしまう・・・。」

「だからわれらは、この世界にいたる門をくぐるとき、不文律の誓いをたてる。」

「ひとつは、人間の同族殺しに巻き込まれて滅し去ることになっても、
生き残った方の妖精に、他の妖精からの復讐ふくしゅうを望まないというもの。」

「もうひとつは、たとえ自分と契約した人間が殺されることになっても、
相手の契約妖精と人間に、復讐ふくしゅうはおこなわないというもの。」

「この誓いを汚してしまえば、妖精界からの追放がまっている。
つまりは、二度と故郷には戻れず、他の妖精からは敵視され
この世界で、孤独にただち果てていく、
そして、最期の、を待つというだけのね・・・。」

「・・・・・・・・。」

妖精たちの苦渋くじゅうに満ちた誓いを初めて知り、アマトたちは何も
言葉にすることができない。
そして、ラファイスの話は続く。

「だがアマト、安心するがいい。リーエは、ラファイアやこのわたしとも
渡り合える、ごうの超上級妖精。」

「それを滅し去るには、ルコニアも相討ちを覚悟しなければならない。
ルコニアにその覚悟があっても、新しい契約者には、
それを強いることはできないわ。」

「人間との契約なしに、この世界で己の全力の魔力をつかうのは、
このわたしでも難しいからね。」
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