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CⅩⅩⅩⅣ 星々の格式と置換編 中編(1)
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第1章。氷面下の対峙
わたしは、ノエルに黙って、エリースに成りすましているのに、
多少の後ろめたさを感じながらも、
新たな発見を、日々積み重ねていた。
わたしは、今回、エリースの姿で学院に通っている事に対して、
エリースへの貸と考えていたが、むしろ今では、借りとさえ思えてきている。
そう、契約者ノエルと人間の友人として、話・騒ぎ・過ごした時間は、
宝石のように輝いている。
と同時に、セプティ、エレナ、そしてミカルの3公女、キリナ・セリナ・ミリナに
対しても同じ想いに、いたっている。
この日も、いつものように、鉄馬車に乗り込むミカルの3人の公妹を見送った後、
ノエルとセプティそれにエレナと、わいわい話しながら家宅へ帰る途中、
セプティに話かけられる。
「エリース、魔力弾の射的、凄かったね。120発中全弾命中って、
また腕をあげたんじゃない。」
わたしは、しまったやり過ぎたかと思いながら、
エリースなら、話すだろうという言葉を、口に出す。
「ま、今日は調子が良かったからね。」
それを、なぜかエレナが混ぜっ返してくる。
「セプティ、エリースが調子がいいのは、そろそろアマト君が皇都に、
帰ってくるからよ。便りがきてるんじゃないの?」
「エレナ、そんなんじゃないわよ。」
わたしは、無難な受け答えを選択する。
「はいはい、エリースは、お兄ちゃん大好きっ子だからね。
けど、エリースだったら、もっといい男も、選び放題でしょうに。」
「は、わたしと付き合うって事は、視線の中に暗黒の妖精の
あのラティスがはいってくるって事よ。
そんな、勇敢な男なんていないわよ。」
これで、良かったかと、まわりを窺うが、話は至らぬ方へ転がっていく、
「ねえエレナ、今度、複数対複数があったら、わたしも誘ってくれない。」
やめておけ、ノエル。人間の美的感覚はいまだに理解できないが、
エレナやエリースの引き立て役にしかならないぞ、たぶん。
わたしは、ノエルの能天気さに、心の中でため息をつく。
「はいはい、覚えてたらね。」
ノエルは、軽くあしらわれたようだ。
涼しい風が、全身をつつむように、通り過ぎていく。
「ん、これって、もしかして靄、いえ夕霧ね。」
「エレナさん、皇都じゃ見たことないですね。」
「そうね、セプティ。私も皇都では、初めてみるわ。」
はしゃぐ3人をしり目に、わたしの目は、べつの事象をとらえていた。
・・・・・・・・
夜、今度はリアの姿で家宅を出て、脇にある鉄馬庫へはいる。
そして同じように、騎乗用の鉄馬に魔力を流す。
騎乗して、恐らくは呼ばれている地に、鉄馬を疾走させる前に、
わたしは、より深く皇都を覆った霧に、指を光らせ、白光をあてる。
小さな霧の粒子が、虹色に反射する。
「やはり、間違いではなかったか。」
霧の書状、このような小細工を愉しむ妖精を、わたしはひとりしか知らない。
ラティスとラファイアが、大仰にも張り巡らした結界や障壁の中で、
それを無効とし、平然と魔力を潜ませる妖精、ほぼ間違いはないだろう。
わたしは、鉄馬の手綱に魔力を込める。
・・・・・・・・
霧に導かれて、わたしは皇都を離れ、真夜中になるまえには、
森の中の広場に誘導されていた。
≪遅かったじゃない。≫
響く精神波を無視し、わたしは鉄馬を降り、リアの姿を解放し、
本来の白光の妖精の姿に立ち返る。
溢れ出た白金の光粒が、わたしの全身を、ほのかに照らす。
と同時に、熱を持たせた光の粒は、霧の粒子を蒸発させていき、
夜半の森の、森閑とした景色を目の前につむいでくる。
霧の空間の上空に窓が開き、ふたつの月の光が怜悧さをもって、
大地を照らしだす。
そして、さらに残る濃霧の微睡が、左右に分かれていき、
長身・藍色の瞳・青色の髪・白雪色の肌、超絶美貌の水の妖精が現れる。
≪ふふふ・・・。アルケロン大先生が、白光の妖精・・、あなたとやりあったと、
言っててね。≫
≪で、ちょっとまえにわたしも、ラファイアとラティスに会ってるの。
そして、わたしは、ラティスとちょっとお遊びしたけどね。≫
「だから?」
≪ラファイス。わたしたちは、誇り高い、そして妖精界の頂点に位置するもの。
ほかに誰もいないのに、人間のように音声で話をするのは、
下卑と思わない。≫
仕方ない。ここで意地を張っても、話がすすまない。
この妖精は、怒らせれば、この地を永久氷の世界とかえるだろう。
わたしは、エメラルアに合わせることにする。
≪で、何の用なの、エメラルア!≫
≪あわてないで、ラファイス。まず、わたしの目で確認する必要があったわ。
ラファイスもラファイアも、ふたりが本当に、この時間軸にいるのかどうか。≫
≪千年もたてば、あなたたちでも アルケロン大先生の目を欺く変化が、
できるだろううからね。≫
≪けど、安心したわ、ラファイス。あの冷酷なラティス、酷薄なラファイア、
それが、アマトとかいう人間と契約したら、あれはなに、
まったくの道化じゃない。≫
≪あなたは、道化になってないみたいだし。≫
≪そんな、戯言をグタグタ言うために、
わたしを呼んだの、エメラルア。≫
やるか!?わたしの忍耐の糸が切れていく。
≪ククク、そのとおりね。あなたを呼び出したのは妖精界の将来のお話。≫
≪人間をどう思う、ラファイス。
始原の刻、ほとんどの妖精は人間の家畜化に、同意したわ。≫
≪そこで反対したのは、そうラティス、ラファイアとの闘いを選んでもね。≫
≪ほかの異能の妖精たち、あなたもわたしも、沈黙をえらんだ。≫
≪だが今なら言える。あの時、賛成すべきだったとね。≫
≪わたしたちが契約したことで、人間は、妖魔から、飢えから、解放された。≫
≪わたしはあとは人間は平和に、われわれと共生してくれて
暮らしていくものとばかり 思っていた。≫
≪だけどなに、金・土地・称号・つがい、そんなもののために、
人間は私たちが与える魔力を、争い・同族同志での殺し合いに使い始めた。≫
激して語る、エメラルアは、静かに目を閉じた。
ふたつの月の光が、寒々と世界を照らすのを、わたしは感じている。
≪ラファイス、間違いなく人間は、いつかわたしたちの魔力を超える殺し合いの武器を手にし、改革・進化させ続けていくでしょうね。≫
≪そうなったら、行き着く先は、大量虐殺による、人間数の大幅激減か、滅亡!≫
≪わたしたち、異能の妖精はいい。この世界のエーテルを直接摂取できるからね。≫
≪だが、大半の妖精は、消滅していくでしょう。≫
エメラルアは再び目を開け、おそらくは強い想いでわたしを、見つめてくる。
≪人間は統治しなければならない・・・。≫
≪無論、彼らにそれを気付かせるヘマはしないわ。
アルケロン大先生も、基本同意してるしね。≫
≪そう、前回、火の妖精ルービスと組んだ時は、うまくいきそうだったの。≫
≪けど、お互いの契約者は、あの戦いが終わった後、醜い汚物と化した。
欲望に惹かれてね。≫
≪妖精たちのためにも、今回は、絶対失敗はしない。≫
≪ラファイス、ここまで聞いたあなたは、どの立ち位置を選ぶ。≫
わたしは、感情のない目で、エメラルアを見返す。
≪エメラルア、わたしの契約者のノエルはね・・、実体化さえしているわたしを、
今でも級外枠下妖精と思っている。なぜなら、わたしがそう言っているから。≫
そう、妖精界のいただきの一角を占める、わたしを。
わたしは、無意識に、顔が微笑しているのに気付く。
≪それがあなたの返答?人間を愛玩しても、裏切られるわよ。≫
≪けど、今のところは、わたしの敵にはならないみたいね。≫
水の妖精の頂点、絶対の強者であるエメラルアと深い霧が消えていく。
近い未来、わたしは、ノエルとの契約も含めて、
つらい選択をしなければならないことに、気付かされていた。
わたしは、ノエルに黙って、エリースに成りすましているのに、
多少の後ろめたさを感じながらも、
新たな発見を、日々積み重ねていた。
わたしは、今回、エリースの姿で学院に通っている事に対して、
エリースへの貸と考えていたが、むしろ今では、借りとさえ思えてきている。
そう、契約者ノエルと人間の友人として、話・騒ぎ・過ごした時間は、
宝石のように輝いている。
と同時に、セプティ、エレナ、そしてミカルの3公女、キリナ・セリナ・ミリナに
対しても同じ想いに、いたっている。
この日も、いつものように、鉄馬車に乗り込むミカルの3人の公妹を見送った後、
ノエルとセプティそれにエレナと、わいわい話しながら家宅へ帰る途中、
セプティに話かけられる。
「エリース、魔力弾の射的、凄かったね。120発中全弾命中って、
また腕をあげたんじゃない。」
わたしは、しまったやり過ぎたかと思いながら、
エリースなら、話すだろうという言葉を、口に出す。
「ま、今日は調子が良かったからね。」
それを、なぜかエレナが混ぜっ返してくる。
「セプティ、エリースが調子がいいのは、そろそろアマト君が皇都に、
帰ってくるからよ。便りがきてるんじゃないの?」
「エレナ、そんなんじゃないわよ。」
わたしは、無難な受け答えを選択する。
「はいはい、エリースは、お兄ちゃん大好きっ子だからね。
けど、エリースだったら、もっといい男も、選び放題でしょうに。」
「は、わたしと付き合うって事は、視線の中に暗黒の妖精の
あのラティスがはいってくるって事よ。
そんな、勇敢な男なんていないわよ。」
これで、良かったかと、まわりを窺うが、話は至らぬ方へ転がっていく、
「ねえエレナ、今度、複数対複数があったら、わたしも誘ってくれない。」
やめておけ、ノエル。人間の美的感覚はいまだに理解できないが、
エレナやエリースの引き立て役にしかならないぞ、たぶん。
わたしは、ノエルの能天気さに、心の中でため息をつく。
「はいはい、覚えてたらね。」
ノエルは、軽くあしらわれたようだ。
涼しい風が、全身をつつむように、通り過ぎていく。
「ん、これって、もしかして靄、いえ夕霧ね。」
「エレナさん、皇都じゃ見たことないですね。」
「そうね、セプティ。私も皇都では、初めてみるわ。」
はしゃぐ3人をしり目に、わたしの目は、べつの事象をとらえていた。
・・・・・・・・
夜、今度はリアの姿で家宅を出て、脇にある鉄馬庫へはいる。
そして同じように、騎乗用の鉄馬に魔力を流す。
騎乗して、恐らくは呼ばれている地に、鉄馬を疾走させる前に、
わたしは、より深く皇都を覆った霧に、指を光らせ、白光をあてる。
小さな霧の粒子が、虹色に反射する。
「やはり、間違いではなかったか。」
霧の書状、このような小細工を愉しむ妖精を、わたしはひとりしか知らない。
ラティスとラファイアが、大仰にも張り巡らした結界や障壁の中で、
それを無効とし、平然と魔力を潜ませる妖精、ほぼ間違いはないだろう。
わたしは、鉄馬の手綱に魔力を込める。
・・・・・・・・
霧に導かれて、わたしは皇都を離れ、真夜中になるまえには、
森の中の広場に誘導されていた。
≪遅かったじゃない。≫
響く精神波を無視し、わたしは鉄馬を降り、リアの姿を解放し、
本来の白光の妖精の姿に立ち返る。
溢れ出た白金の光粒が、わたしの全身を、ほのかに照らす。
と同時に、熱を持たせた光の粒は、霧の粒子を蒸発させていき、
夜半の森の、森閑とした景色を目の前につむいでくる。
霧の空間の上空に窓が開き、ふたつの月の光が怜悧さをもって、
大地を照らしだす。
そして、さらに残る濃霧の微睡が、左右に分かれていき、
長身・藍色の瞳・青色の髪・白雪色の肌、超絶美貌の水の妖精が現れる。
≪ふふふ・・・。アルケロン大先生が、白光の妖精・・、あなたとやりあったと、
言っててね。≫
≪で、ちょっとまえにわたしも、ラファイアとラティスに会ってるの。
そして、わたしは、ラティスとちょっとお遊びしたけどね。≫
「だから?」
≪ラファイス。わたしたちは、誇り高い、そして妖精界の頂点に位置するもの。
ほかに誰もいないのに、人間のように音声で話をするのは、
下卑と思わない。≫
仕方ない。ここで意地を張っても、話がすすまない。
この妖精は、怒らせれば、この地を永久氷の世界とかえるだろう。
わたしは、エメラルアに合わせることにする。
≪で、何の用なの、エメラルア!≫
≪あわてないで、ラファイス。まず、わたしの目で確認する必要があったわ。
ラファイスもラファイアも、ふたりが本当に、この時間軸にいるのかどうか。≫
≪千年もたてば、あなたたちでも アルケロン大先生の目を欺く変化が、
できるだろううからね。≫
≪けど、安心したわ、ラファイス。あの冷酷なラティス、酷薄なラファイア、
それが、アマトとかいう人間と契約したら、あれはなに、
まったくの道化じゃない。≫
≪あなたは、道化になってないみたいだし。≫
≪そんな、戯言をグタグタ言うために、
わたしを呼んだの、エメラルア。≫
やるか!?わたしの忍耐の糸が切れていく。
≪ククク、そのとおりね。あなたを呼び出したのは妖精界の将来のお話。≫
≪人間をどう思う、ラファイス。
始原の刻、ほとんどの妖精は人間の家畜化に、同意したわ。≫
≪そこで反対したのは、そうラティス、ラファイアとの闘いを選んでもね。≫
≪ほかの異能の妖精たち、あなたもわたしも、沈黙をえらんだ。≫
≪だが今なら言える。あの時、賛成すべきだったとね。≫
≪わたしたちが契約したことで、人間は、妖魔から、飢えから、解放された。≫
≪わたしはあとは人間は平和に、われわれと共生してくれて
暮らしていくものとばかり 思っていた。≫
≪だけどなに、金・土地・称号・つがい、そんなもののために、
人間は私たちが与える魔力を、争い・同族同志での殺し合いに使い始めた。≫
激して語る、エメラルアは、静かに目を閉じた。
ふたつの月の光が、寒々と世界を照らすのを、わたしは感じている。
≪ラファイス、間違いなく人間は、いつかわたしたちの魔力を超える殺し合いの武器を手にし、改革・進化させ続けていくでしょうね。≫
≪そうなったら、行き着く先は、大量虐殺による、人間数の大幅激減か、滅亡!≫
≪わたしたち、異能の妖精はいい。この世界のエーテルを直接摂取できるからね。≫
≪だが、大半の妖精は、消滅していくでしょう。≫
エメラルアは再び目を開け、おそらくは強い想いでわたしを、見つめてくる。
≪人間は統治しなければならない・・・。≫
≪無論、彼らにそれを気付かせるヘマはしないわ。
アルケロン大先生も、基本同意してるしね。≫
≪そう、前回、火の妖精ルービスと組んだ時は、うまくいきそうだったの。≫
≪けど、お互いの契約者は、あの戦いが終わった後、醜い汚物と化した。
欲望に惹かれてね。≫
≪妖精たちのためにも、今回は、絶対失敗はしない。≫
≪ラファイス、ここまで聞いたあなたは、どの立ち位置を選ぶ。≫
わたしは、感情のない目で、エメラルアを見返す。
≪エメラルア、わたしの契約者のノエルはね・・、実体化さえしているわたしを、
今でも級外枠下妖精と思っている。なぜなら、わたしがそう言っているから。≫
そう、妖精界のいただきの一角を占める、わたしを。
わたしは、無意識に、顔が微笑しているのに気付く。
≪それがあなたの返答?人間を愛玩しても、裏切られるわよ。≫
≪けど、今のところは、わたしの敵にはならないみたいね。≫
水の妖精の頂点、絶対の強者であるエメラルアと深い霧が消えていく。
近い未来、わたしは、ノエルとの契約も含めて、
つらい選択をしなければならないことに、気付かされていた。
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