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CⅩⅫ 星々の大三角と大十字編 中編(4)
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第1章。司令部受付にて
翌朝、アマトはラファイアと共に、夏宮の端にある軍司令部を訪ねてきている。
ラティスは、
『私が留守にする間に、学院生が気を抜いたら、私の名誉に傷がつくわ。』と、
2日間 目いっぱいの、緊急講義での学院生の招集を、ハイヤーン老に命じ、
早朝からアバウト学院に詰めている。
アマトは、偽りの理由をユウイとエリースに話し、今日・明日と外出することに
良心をうずかせながらも、軍司令部の受付に向かう。
軍司令部は、ごった返していたが、ここに集う人間の約四分の一程度は、
服から判断すると創派の出身者らしく、アマトに目礼をする戦士も多い。
「よ、アマト。」
聞きなじんだ声が、アマトの耳に届く。
「あ、サーレスさん。」
浅黒い顔のサーレスが、奥から出てくる。その恰好はどうみても、軍人というより
ながれの冒険者としか見えない。
「キョウショウの姉御に言われて、ノープルの方に行くんだが、
おまえ、ここの前はノープルにいたんだよな。馴染みの女がいたんだったら、
文の一つでも届けてやってもいいぜ。」
「アマトさんに、そんな気の利いた事が出来ますか。」
ラファイアが、アマトの代わりに、胸をはって答える。
「これは、これは、ラファイアの姐さん、挨拶が遅れまして、すいません。」
「いえいえ、今日は単なるお供ですから。」
どうやら、ふたりとも、この小芝居を楽しんでいるらしい。
「アマト、打ち合わせの時間までもう少しあるだろう。ちょっと座れよ。」
受付待ちの者が座る、対面の椅子の片方に、サーレスがどっかりと、
腰をすえる。アマトとラファイアも、もう一方の方の椅子に座る。
ラファイアが、さり気なく、音響障壁を三人の回りに構築する。
「アマト、創派の村からも移住は、滞りなくすすんでいる。
それに、ラティスの姐さんに頼んで、巨大な湖までつくってくれたてな。
これは、移住してきた創派の家族たちにも、励みになっている。」
「この頃会えなかったからな、この機会に、お礼を言わせてもらう。」
深々と、サーレスは頭を下げる。
「そんな・・・。」
「不必要な謙遜は、妬みと恨みを買うぜ・・・、アマト君。」
「これは言わせてくれ、皇都にきた創派の人間は、オレやサニー兄貴と同様に
アマト君に、非常なる感謝の気持ちを持っている。」
「まあ、なんだ。アバウト学院のことは残念だったが、あまり気にするなよ。」
そういうことか、アマトはサーレスの無骨な気遣いに、心が温かくなる。
「ありがとうございます。けど、これが終わったら、教会の新しく立ち上げる
図書館の司書をすることになっています。」
「そうかい、それはよかった。」
サーレスの眼差しは、やさしいものに変わる。
「そうか、そうか。う~ん、帰ってきたら、酒の飲み方でも、教えてやるか。
女性の方は、ユウイさんやエリースちゃんに恨まれて、出禁になったら、
キョウショウの姉御に、目ん玉が飛び出るぐらい、しばかれるからな。」
「サーレス、もうサボりか!?」
キョウショウの命で、アマトたちを迎えにきたのだろう、
サ二―が声をかけてくる。
「兄貴、アマト君を見たんで、なんか話とかしとかないと、
いけないと思えてな。」
「じゃ~な、アマトにラファイアの姐さん。」
サーレスは、椅子からパッと立ち上がると、颯爽と朝の光の中に出て行った。
第2章。アマトへの願い
サニーから案内された部屋には、キョウショウとリントのほか、
フレイアとアストリアも、アマトたちを待っていた。
知っているもの同志なので、あえて声に出した挨拶はしない。
省略して会釈で済ます。
「アマト君、ラファイアさん。昨日に引き続きすまない。」
キョウショウが、話の口火を切る。
「きのう、君たちが帰ったあのあと、イルムとルリと詳細を検討したんだけど、
イルムに言わせれば、何か起こりそうで、仕方ないそうよ。」
だから、師団の指揮官と副将を、実戦的な組み合わせにしたというわけ。」
それに、フレイアも言葉を加える。
「わたしと、キョウショウさんの組み合わせなら、
何も考えずに突撃できそうだしね。」
「そいつは、ひどいな。」
キョウショウが豪快に笑う。
フレイアのみならず、リントもフレイアも頬を緩ませている。
『おそらく、この4人は、交流があるんだな。』
と、アマトは4人の様子からそれを見て取り、同窓生だった
フレイアとアストリアが、新たな先で居場所をつくりだしていることに、
どこか、ほっとしている。
「けど、ルリが一番大変かもね。皇都内の警備と、もしかしたら、
後詰の指揮もしなくてはならないから。」
リントが、そうアマトに説明する。
ここには、戦場で鍛えられたイルムの勘を、おおげさと笑うものはいない。
イルムは、どこかの王国の、軍令部の中にいるだけで、地図の上のみで考える
軍師・参謀ではない。最前線に出る事もいとわない戦士だ。
アマトが知るなかでも、教皇猊下の捕囚の際、ルリのように、フレイアを連れて、
教国正規軍の現場総司令陣に、遊撃・強襲をかけ混乱させている。
「今、至急で用意させているけど、どうしても、一個中隊を用意するのは、
兵站も考えれば、あと5日は欲しい。」
「だから、アマト君たちは先発してもらって、先に国境線の付近で
待機していて欲しい。」
「アマト君、すまない。できるだけ、急いでみるから。」
フレイアが、ほんとうに済まなそうに話す。
「フレイアさん。こちらから、仕掛けたわけでもなく、
降ってわいた話への対応ですから、あやまらないで下さい。」
「そう言ってもらうと、助かるわ。」
「ははは、おふたりが来るまでには、いろいろと解決してるかもしれませんよ。」
ラファイアが、いろんな意味にとれる不穏な言葉を、
笑顔で話す。
ただ、いつものラファイアを知っている4人は、悪い冗談と思おうとする。
《相手がアマト君に手を出さない限り、おとなしくしていてくれるだろうと。》
「私たちの方は逆の状況になりそうよ、国境線沿いで、レウス公女一行を
待っているから、ゆっくり来るといいわ。」
涼しく笑いながら、リントがアマトに話かける。
「今の時点でわかっている事は、書面にまとめといたから。」
学院生時代の口調で、アストリアが話しながら、アマトに書類の束をわたす。
「みなさん。アマトさんに、言いたいことが、あるんじゃないですか?」
あのラファイアが、芯を打つ言葉を言い放つ。
・・・・・・・・
しばらくの沈黙のあと、
「ラファイアさんに、気付かれていたとわね。」
フレイアが苦笑いをしながら、静けさを破る。
「フレイア、ラファイアさんに失礼よ。」
アストリアがフレイアを、軽く睨みつける。
「いえ、わたしは、寛容と許しの妖精ですよ。全く気にしません。」
と、もうひとりの妖精が聞いたら、腹を抱えて笑うようなことを、
しれっと述べる、白光の妖精。
「わかったわ、代表して、わたしが言うわ。」
キョウショウが、隙のない真面目な表情で話し出す。
「アマト君。もし、わたしたちが危機に面しても、
おふた方の警護いや、君の命を優先して欲しい。」
「それは、・・・・。」
「ラファイアさんとラティスさんがいる限り、アマト君、君の命がどうこうと
いうことはまずないわ。」
「だが、君が自分の身より、わたしたちの身の安全を重視した行動をした場合、
アマト君自身の命を、左右することになりかねない。」
「つまりだ、そんな状況がきたら、わたしたちを見殺しにして欲しいんだ。」
「そんな・・・・・。」
「君が死んだら、おふたりの妖精も妖精界に戻られるでしょう。
つまり、新帝国は失われる。」
「これは、ここにいる4人の意思でもある。」
4つの、真剣なまなざしが、アマトに注がれる。
反論を許さぬその真摯な想いに、アマトは、ただうなずくしかなかった。
翌朝、アマトはラファイアと共に、夏宮の端にある軍司令部を訪ねてきている。
ラティスは、
『私が留守にする間に、学院生が気を抜いたら、私の名誉に傷がつくわ。』と、
2日間 目いっぱいの、緊急講義での学院生の招集を、ハイヤーン老に命じ、
早朝からアバウト学院に詰めている。
アマトは、偽りの理由をユウイとエリースに話し、今日・明日と外出することに
良心をうずかせながらも、軍司令部の受付に向かう。
軍司令部は、ごった返していたが、ここに集う人間の約四分の一程度は、
服から判断すると創派の出身者らしく、アマトに目礼をする戦士も多い。
「よ、アマト。」
聞きなじんだ声が、アマトの耳に届く。
「あ、サーレスさん。」
浅黒い顔のサーレスが、奥から出てくる。その恰好はどうみても、軍人というより
ながれの冒険者としか見えない。
「キョウショウの姉御に言われて、ノープルの方に行くんだが、
おまえ、ここの前はノープルにいたんだよな。馴染みの女がいたんだったら、
文の一つでも届けてやってもいいぜ。」
「アマトさんに、そんな気の利いた事が出来ますか。」
ラファイアが、アマトの代わりに、胸をはって答える。
「これは、これは、ラファイアの姐さん、挨拶が遅れまして、すいません。」
「いえいえ、今日は単なるお供ですから。」
どうやら、ふたりとも、この小芝居を楽しんでいるらしい。
「アマト、打ち合わせの時間までもう少しあるだろう。ちょっと座れよ。」
受付待ちの者が座る、対面の椅子の片方に、サーレスがどっかりと、
腰をすえる。アマトとラファイアも、もう一方の方の椅子に座る。
ラファイアが、さり気なく、音響障壁を三人の回りに構築する。
「アマト、創派の村からも移住は、滞りなくすすんでいる。
それに、ラティスの姐さんに頼んで、巨大な湖までつくってくれたてな。
これは、移住してきた創派の家族たちにも、励みになっている。」
「この頃会えなかったからな、この機会に、お礼を言わせてもらう。」
深々と、サーレスは頭を下げる。
「そんな・・・。」
「不必要な謙遜は、妬みと恨みを買うぜ・・・、アマト君。」
「これは言わせてくれ、皇都にきた創派の人間は、オレやサニー兄貴と同様に
アマト君に、非常なる感謝の気持ちを持っている。」
「まあ、なんだ。アバウト学院のことは残念だったが、あまり気にするなよ。」
そういうことか、アマトはサーレスの無骨な気遣いに、心が温かくなる。
「ありがとうございます。けど、これが終わったら、教会の新しく立ち上げる
図書館の司書をすることになっています。」
「そうかい、それはよかった。」
サーレスの眼差しは、やさしいものに変わる。
「そうか、そうか。う~ん、帰ってきたら、酒の飲み方でも、教えてやるか。
女性の方は、ユウイさんやエリースちゃんに恨まれて、出禁になったら、
キョウショウの姉御に、目ん玉が飛び出るぐらい、しばかれるからな。」
「サーレス、もうサボりか!?」
キョウショウの命で、アマトたちを迎えにきたのだろう、
サ二―が声をかけてくる。
「兄貴、アマト君を見たんで、なんか話とかしとかないと、
いけないと思えてな。」
「じゃ~な、アマトにラファイアの姐さん。」
サーレスは、椅子からパッと立ち上がると、颯爽と朝の光の中に出て行った。
第2章。アマトへの願い
サニーから案内された部屋には、キョウショウとリントのほか、
フレイアとアストリアも、アマトたちを待っていた。
知っているもの同志なので、あえて声に出した挨拶はしない。
省略して会釈で済ます。
「アマト君、ラファイアさん。昨日に引き続きすまない。」
キョウショウが、話の口火を切る。
「きのう、君たちが帰ったあのあと、イルムとルリと詳細を検討したんだけど、
イルムに言わせれば、何か起こりそうで、仕方ないそうよ。」
だから、師団の指揮官と副将を、実戦的な組み合わせにしたというわけ。」
それに、フレイアも言葉を加える。
「わたしと、キョウショウさんの組み合わせなら、
何も考えずに突撃できそうだしね。」
「そいつは、ひどいな。」
キョウショウが豪快に笑う。
フレイアのみならず、リントもフレイアも頬を緩ませている。
『おそらく、この4人は、交流があるんだな。』
と、アマトは4人の様子からそれを見て取り、同窓生だった
フレイアとアストリアが、新たな先で居場所をつくりだしていることに、
どこか、ほっとしている。
「けど、ルリが一番大変かもね。皇都内の警備と、もしかしたら、
後詰の指揮もしなくてはならないから。」
リントが、そうアマトに説明する。
ここには、戦場で鍛えられたイルムの勘を、おおげさと笑うものはいない。
イルムは、どこかの王国の、軍令部の中にいるだけで、地図の上のみで考える
軍師・参謀ではない。最前線に出る事もいとわない戦士だ。
アマトが知るなかでも、教皇猊下の捕囚の際、ルリのように、フレイアを連れて、
教国正規軍の現場総司令陣に、遊撃・強襲をかけ混乱させている。
「今、至急で用意させているけど、どうしても、一個中隊を用意するのは、
兵站も考えれば、あと5日は欲しい。」
「だから、アマト君たちは先発してもらって、先に国境線の付近で
待機していて欲しい。」
「アマト君、すまない。できるだけ、急いでみるから。」
フレイアが、ほんとうに済まなそうに話す。
「フレイアさん。こちらから、仕掛けたわけでもなく、
降ってわいた話への対応ですから、あやまらないで下さい。」
「そう言ってもらうと、助かるわ。」
「ははは、おふたりが来るまでには、いろいろと解決してるかもしれませんよ。」
ラファイアが、いろんな意味にとれる不穏な言葉を、
笑顔で話す。
ただ、いつものラファイアを知っている4人は、悪い冗談と思おうとする。
《相手がアマト君に手を出さない限り、おとなしくしていてくれるだろうと。》
「私たちの方は逆の状況になりそうよ、国境線沿いで、レウス公女一行を
待っているから、ゆっくり来るといいわ。」
涼しく笑いながら、リントがアマトに話かける。
「今の時点でわかっている事は、書面にまとめといたから。」
学院生時代の口調で、アストリアが話しながら、アマトに書類の束をわたす。
「みなさん。アマトさんに、言いたいことが、あるんじゃないですか?」
あのラファイアが、芯を打つ言葉を言い放つ。
・・・・・・・・
しばらくの沈黙のあと、
「ラファイアさんに、気付かれていたとわね。」
フレイアが苦笑いをしながら、静けさを破る。
「フレイア、ラファイアさんに失礼よ。」
アストリアがフレイアを、軽く睨みつける。
「いえ、わたしは、寛容と許しの妖精ですよ。全く気にしません。」
と、もうひとりの妖精が聞いたら、腹を抱えて笑うようなことを、
しれっと述べる、白光の妖精。
「わかったわ、代表して、わたしが言うわ。」
キョウショウが、隙のない真面目な表情で話し出す。
「アマト君。もし、わたしたちが危機に面しても、
おふた方の警護いや、君の命を優先して欲しい。」
「それは、・・・・。」
「ラファイアさんとラティスさんがいる限り、アマト君、君の命がどうこうと
いうことはまずないわ。」
「だが、君が自分の身より、わたしたちの身の安全を重視した行動をした場合、
アマト君自身の命を、左右することになりかねない。」
「つまりだ、そんな状況がきたら、わたしたちを見殺しにして欲しいんだ。」
「そんな・・・・・。」
「君が死んだら、おふたりの妖精も妖精界に戻られるでしょう。
つまり、新帝国は失われる。」
「これは、ここにいる4人の意思でもある。」
4つの、真剣なまなざしが、アマトに注がれる。
反論を許さぬその真摯な想いに、アマトは、ただうなずくしかなかった。
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