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CⅩⅪ 星々の大三角と大十字編 中編(3)
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第1章。災い遠方よりきたる(1)
この場が落ち着くのを待って、イルムは話し出す。
もう口調も、先ほどのように固くなく、柔らかくなってきている。
「二通目と、三通目の書状の内容は偶然にも、ほぼ同じ内容。
教皇猊下に、御挨拶にお伺いしたいとの書状がきたから、
面会を同意して欲しいとね。」
「ただ、その相手が尋常ではないの。
ひとりは、ミカルの餓狼・レリウス大公、その人。
もうひとりが、クリルの見目麗しき名花・レウス公女。」
「教皇猊下の反応は?」
ルリが、イルムに当然の質問をする。
「カシノが言っていたわ。『来るものは拒まず。』だそうよ。」
「さすが、大タヌキね。」
ただ、そのルリの物言いには、モクシ教皇への悪意は感じられない。
「教国からの、人々の流入はいまだ続いているし、新双月教の最上位者としては、
仕方ないだろうね。少なくとも、クリル・ミカル両大公国の公認がとれれば、
宗教関係者の住居地が広がるわけだし。」
「まあ、暗黒の妖精ラティスさんの名前で、新帝国からは、双月教関係者は、
ほとんど逃げ出しているし。猊下の捕囚がなった今、
クリル・ミカルの両大公国とも、金に汚く、しがらみの多い双月教には穏やかに
公国から退席いただきたいというのが、本音だろうしね。」
自分の名が出た事で、ラティスは、何か言いたげであったが、
さっきのルリの反撃がこたえたのか、珍しく沈黙を守っている。
キョウショウが、続けて言葉を重ねる。
「そう、テムス大公国のように、新双月教も公認して、その交換条件として、
【宗教を政治に立ち入らせない】ようにしたのは、
どこの治世者も、一度は夢見たことだろうし。」
イルムとルリは、キョウショウの意見に頷いている。
「両国が、水面下で組んで、書状を出した可能性はないんですか?」
アマトが、ごく平凡な疑問を、イルムに問いかける。
「それはないわね。今の両国は対等な勢いではないわ。
だから、そのような謀は成立しない。」
「二ヶ国で謀をした場合、最悪の状況、つまり破綻が生じた時、
武力衝突も覚悟しなければならない、レオヤヌス大公としても、
レリウス大公と斬り結ぶには、現時点では分が悪いわ。
トリヤヌス公子では、問題外だしね。」
ルリが、イルムの話を引き継ぐ。
「コウニン王国でも、レリウス大公の人となりは研究されていた。
いつ暗殺の対象者になっても、不思議のない地位の人間だからね。
ミカルの餓狼・無頼の天才将軍というふたつ名が、本人の異常ともいえる
努力と印象操作によって、つくられているというのが、最終結論だった。」
「だから、計算は得意のはず。今の時期、水面下でどうこうはないはずよ。」
そして、ルリはイルムに話を返す。
「ただ、わたしも、レウス公女のことは、詳しくないわ。
イルム、何か知ってる?」
イルムは、一端目を閉じ、記憶をたどる。
「『レウスは、ワシをも超える才器よ。』と、レオヤヌス大公が言ったという話を
聞いたことがあるわ。単なる親バカと思っていたんだけど・・・。」
「あの娘は、確かに美しく、賢い名花。しかしそれは、造花の美しさよ。
普通、父親の妾の女に会えば、どんなに取り繕っても、何らかの感情の
揺らぎがあるはず。だがあの娘の目には、それがなかった。」
「私を見る目は、父親の妾の女という記号を見る、眼差しだった。」
「イルムすまない。いやな事を聞いてしまった。」
「ルリ、今、わたしは、新帝国の執政官よ。」
それでも、翳りが、その美貌に浮ぶ。
「で、アマトさんを呼んだ理由が、まだなんですけど。」
そのラファイアの、空気の読めない言葉が、
そこにいた、イルム・ルリ・キョウショウ
そしてアマト、ひょっとしたらラティス様でさえ、
ありがたかった。
第2章。災い遠方よりきたる(2)
「では、アマト君を呼んだ理由を今から述べるわ。」
イルムは、新帝国の執政官として、再び話を始める。
「ふたりが来るのは構わない。畢竟、教皇猊下とどのようなやり取りや
密約をしようともね。」
「問題は、新帝国領内で、ふたりに何か、つまり事故などが起こること。」
「例えば、たとえ第三国や第三の勢力が何らかの手段を使って、
彼らを亡き者にしても、新帝国に責任がおよぶことになるわ。」
「つまり、それは新帝国が協力した事とみなされる。
そのうえ、ミカル大公国・クリル大公国との
全面対決を覚悟しないと、いけなくなるわ。」
「その時は、テムス大公国に仲介を頼んで・・・。」
アマトは、自分でも間違いだろうなと思う意見を、イルムに述べる。
「アマト君、残念ね。テムス大公国は、ファウス妃殿下は、動かないでしょうね。
このくらいの事も防げなければ、最低でも起きたら解決できなければ、
優雅に香茶でも飲みながら、見捨てるでしょうね。」
「それが、国家の首脳としての規範よ。」
「それで、アマト君に頼みたいのは、・・・。」
ここで、ラティスが話に割り込む。
「なるほど、そこで私とラファイアで、片方ずつ、新帝国に入る前に、
ひとり残らず完全に掃滅してしまえば、何も起こらず、いいってわけね。」
さっきから沈黙を強いられた、暗黒の妖精様が、まかしておけとばかりに、
大見得を切る・・・。
・・・・・・・・
「暗黒の妖精って、やはりバカですか?」
ラファイアが、未熟なものを諫める口調で、ラティスに語りかける。
こういう謀を苦手とする、キョウショウは驚いて、
ラファイアを見詰めながら思う。
『ラファイアさん、この場合の正鵠がわかっているのか?』
「だったらラファイア、正解というのを聞いてあげようじゃないの。」
「この場合、1個師団を国境まで迎えに行き、完全警護をして、
会見を済ませたら、そして、また国境線まで送り届ける事ですよ。」
ルリもアマトも感心した目つきで、ラファイアの言葉を聞いている。
ラファイアは、そこで話を切り、ニコリと笑って、余計なその先を続ける。
「そして、油断されたところを、わたしとラティスさんで、後からドーンと、
証拠のひとつも残さぬように、ブッ放すんです!」
どうだとばかりに、胸をはる白光の妖精ラファイア。
「後からドーン。それって、おもしろそうね。」
「そう、後からドーンです。」
「後からドーンね!」
暗黒の妖精に悪い笑顔が浮かんでいる、もう十分その気になっている。
「いや、いや、それでは困るわ。」
あわてて、イルムがふたりの伝説級の妖精を止めにはいる。
「ラファイアさんの考えは、9割9分は正解だわ。
だが、今回は、影供として、アマト君とふたりの要人の警護を頼みたいの。」
「後からドーンじゃなくてですか。」
「そう。レリウス大公には、キョウショウを指揮官、副将にフレイアをつけ
一個師団を引き連れて、国境までの行き帰りを、警備させるわ。
レウス公女の方は、リントを指揮官、副将にアストリアをつけ、やはり、
一個師団での警備ね。」
「後からドーンは・・・。」
ラファイアは、未練がましく、イルムに話かける。
「いや、そんな汚れ仕事を、高潔な妖精である、ラファイアさんとラティスさんに
させるわけにはいかない。」
「そうですか、やはりイルムさんの印象を、裏切るわけにはいけませんね。」
ラファイアの顔がやっと明るくなって、イルムの考えに同意する。
「ま、ラファイアのような卑怯妖精は、後からドーンでかまわないけど、
全世界に信奉者がいる私は、やっぱりだめね。
真向正面からドーンでないと。」
「ラティスさん。今回は、ドーンはたぶん必要ないので。」
イルムは必死になって、ふたりの妖精を《ドーン》から、遠ざけようとする。
「で、どちらを先に、裏から警護すればいいんですか?」
「アマト君、すまん。協力してくれるか。」
「もし、ぼくがしなければ、誰かがしなければならないし。
その破壊工作があるとして、ふせがなければ、新帝国は破滅。
ここに集った人たちは、ぼくも含めて、流浪の民に
なってしまうでしょうから。」
第3章。災い遠方よりきたる(3)
「初めは、レリウス大公の方になるわ。」
「同時に、皇都に着くようにそれぞれの公都を出たとしても、
レウス公女の場合、今から言う事で遅くなるわ。
まずは、貴族のお嬢様だから鉄馬車の速度を上げられない。」
「それに、新帝国以外では、近い将来帝国は、クリル大公国が統一すると、
思っている人も多い。
だとすれば、レウス公女は、新王帝の妹君になるという
可能性を考えるはずよね。」
「だから、中途のすべての町では、できる限りの歓待をしようとするわけ。
それを、無視して、先へ先へ進むわけにはいかない。」
「レウス公女は見目麗しき方。町の沿道は見物人と、
クリルの旗で埋まるだろうしね。」
アマトも、もし今の状態でなければ、自分も沿道に並んだろうと、
一端は思ったが、瞬間、背筋に寒気がはしる。
『エリースとユウイ義姉ェの不機嫌さが、すごいものになるだろうな。』
アマトが下らない感慨に耽っているとも知らず、
イルムは、美しい顔を引き締め、最も大事な話に移る。
「レリウス大公の来訪の目的は猊下との面会だけではない。
いろんな可能性を低いものから、消去法で消していくと、
最後まで残るものがある。それは、アマト君、君との面会だ。」
「たぶん、暗黒の妖精の契約者というのが、どのような人間なのか。
なぜ、世界を狙わないのかとね。」
アマトの顔色が、『武国の凶虎に続き またか!』とばかり、蒼白に変わる。
それを見て、イルムは一息いれる。
「う~ん。暗黒の妖精に会えば、その扱いづらさがわかるんですけどね。」
と、ラファイアが退屈したのか、いつものようにラティスを、ディスリ始める。
「は、そいつが、あんたとも契約してると知らないからよ。
だから教えてやれば。」
ラティスが、めんどくさそうに、もう一つの解決案を提示する。
「ほぇ~?」
「伝説級の妖精ふたりと契約しても世界を狙わない。
これは、神話級の不動のヘタレということ。
それで、理解できるでしょう。」
「・・・・・・・・。」
なぜか、ラファイアはアマトをジーッと見詰めている。
・・・・・・・・
「アマト君、レウス公女の情報は少ない。君が大公の影供をしている間に、
調べさせておくから。」
「とりあえずは、ミカル大公国のレリウス大公よ。
今、ミカルの公都ではトリハ宰相だけではなく、
副宰相のリリカの動きもおかしい。
それに、イルト・オルク・ウルトのミカル最強の三將が、
公都に集められている。」
「教皇猊下と君に会見している間に、隠れた何かを
進行させるとするような行為にも思える。」
「イルムさん。それは、何ですか?」
「アマト君。笑ってくれても構わないが、反大公派貴族に対して、
決起の隙を見せてるような。」
「とにかく、ミカルのゴタゴタには、巻き込まれぬようにしなければ・・・。」
「そうよね!」
「当然だな。」
ルリとキョウショウも、イルムの言う事にはっきりと同意した。
この場が落ち着くのを待って、イルムは話し出す。
もう口調も、先ほどのように固くなく、柔らかくなってきている。
「二通目と、三通目の書状の内容は偶然にも、ほぼ同じ内容。
教皇猊下に、御挨拶にお伺いしたいとの書状がきたから、
面会を同意して欲しいとね。」
「ただ、その相手が尋常ではないの。
ひとりは、ミカルの餓狼・レリウス大公、その人。
もうひとりが、クリルの見目麗しき名花・レウス公女。」
「教皇猊下の反応は?」
ルリが、イルムに当然の質問をする。
「カシノが言っていたわ。『来るものは拒まず。』だそうよ。」
「さすが、大タヌキね。」
ただ、そのルリの物言いには、モクシ教皇への悪意は感じられない。
「教国からの、人々の流入はいまだ続いているし、新双月教の最上位者としては、
仕方ないだろうね。少なくとも、クリル・ミカル両大公国の公認がとれれば、
宗教関係者の住居地が広がるわけだし。」
「まあ、暗黒の妖精ラティスさんの名前で、新帝国からは、双月教関係者は、
ほとんど逃げ出しているし。猊下の捕囚がなった今、
クリル・ミカルの両大公国とも、金に汚く、しがらみの多い双月教には穏やかに
公国から退席いただきたいというのが、本音だろうしね。」
自分の名が出た事で、ラティスは、何か言いたげであったが、
さっきのルリの反撃がこたえたのか、珍しく沈黙を守っている。
キョウショウが、続けて言葉を重ねる。
「そう、テムス大公国のように、新双月教も公認して、その交換条件として、
【宗教を政治に立ち入らせない】ようにしたのは、
どこの治世者も、一度は夢見たことだろうし。」
イルムとルリは、キョウショウの意見に頷いている。
「両国が、水面下で組んで、書状を出した可能性はないんですか?」
アマトが、ごく平凡な疑問を、イルムに問いかける。
「それはないわね。今の両国は対等な勢いではないわ。
だから、そのような謀は成立しない。」
「二ヶ国で謀をした場合、最悪の状況、つまり破綻が生じた時、
武力衝突も覚悟しなければならない、レオヤヌス大公としても、
レリウス大公と斬り結ぶには、現時点では分が悪いわ。
トリヤヌス公子では、問題外だしね。」
ルリが、イルムの話を引き継ぐ。
「コウニン王国でも、レリウス大公の人となりは研究されていた。
いつ暗殺の対象者になっても、不思議のない地位の人間だからね。
ミカルの餓狼・無頼の天才将軍というふたつ名が、本人の異常ともいえる
努力と印象操作によって、つくられているというのが、最終結論だった。」
「だから、計算は得意のはず。今の時期、水面下でどうこうはないはずよ。」
そして、ルリはイルムに話を返す。
「ただ、わたしも、レウス公女のことは、詳しくないわ。
イルム、何か知ってる?」
イルムは、一端目を閉じ、記憶をたどる。
「『レウスは、ワシをも超える才器よ。』と、レオヤヌス大公が言ったという話を
聞いたことがあるわ。単なる親バカと思っていたんだけど・・・。」
「あの娘は、確かに美しく、賢い名花。しかしそれは、造花の美しさよ。
普通、父親の妾の女に会えば、どんなに取り繕っても、何らかの感情の
揺らぎがあるはず。だがあの娘の目には、それがなかった。」
「私を見る目は、父親の妾の女という記号を見る、眼差しだった。」
「イルムすまない。いやな事を聞いてしまった。」
「ルリ、今、わたしは、新帝国の執政官よ。」
それでも、翳りが、その美貌に浮ぶ。
「で、アマトさんを呼んだ理由が、まだなんですけど。」
そのラファイアの、空気の読めない言葉が、
そこにいた、イルム・ルリ・キョウショウ
そしてアマト、ひょっとしたらラティス様でさえ、
ありがたかった。
第2章。災い遠方よりきたる(2)
「では、アマト君を呼んだ理由を今から述べるわ。」
イルムは、新帝国の執政官として、再び話を始める。
「ふたりが来るのは構わない。畢竟、教皇猊下とどのようなやり取りや
密約をしようともね。」
「問題は、新帝国領内で、ふたりに何か、つまり事故などが起こること。」
「例えば、たとえ第三国や第三の勢力が何らかの手段を使って、
彼らを亡き者にしても、新帝国に責任がおよぶことになるわ。」
「つまり、それは新帝国が協力した事とみなされる。
そのうえ、ミカル大公国・クリル大公国との
全面対決を覚悟しないと、いけなくなるわ。」
「その時は、テムス大公国に仲介を頼んで・・・。」
アマトは、自分でも間違いだろうなと思う意見を、イルムに述べる。
「アマト君、残念ね。テムス大公国は、ファウス妃殿下は、動かないでしょうね。
このくらいの事も防げなければ、最低でも起きたら解決できなければ、
優雅に香茶でも飲みながら、見捨てるでしょうね。」
「それが、国家の首脳としての規範よ。」
「それで、アマト君に頼みたいのは、・・・。」
ここで、ラティスが話に割り込む。
「なるほど、そこで私とラファイアで、片方ずつ、新帝国に入る前に、
ひとり残らず完全に掃滅してしまえば、何も起こらず、いいってわけね。」
さっきから沈黙を強いられた、暗黒の妖精様が、まかしておけとばかりに、
大見得を切る・・・。
・・・・・・・・
「暗黒の妖精って、やはりバカですか?」
ラファイアが、未熟なものを諫める口調で、ラティスに語りかける。
こういう謀を苦手とする、キョウショウは驚いて、
ラファイアを見詰めながら思う。
『ラファイアさん、この場合の正鵠がわかっているのか?』
「だったらラファイア、正解というのを聞いてあげようじゃないの。」
「この場合、1個師団を国境まで迎えに行き、完全警護をして、
会見を済ませたら、そして、また国境線まで送り届ける事ですよ。」
ルリもアマトも感心した目つきで、ラファイアの言葉を聞いている。
ラファイアは、そこで話を切り、ニコリと笑って、余計なその先を続ける。
「そして、油断されたところを、わたしとラティスさんで、後からドーンと、
証拠のひとつも残さぬように、ブッ放すんです!」
どうだとばかりに、胸をはる白光の妖精ラファイア。
「後からドーン。それって、おもしろそうね。」
「そう、後からドーンです。」
「後からドーンね!」
暗黒の妖精に悪い笑顔が浮かんでいる、もう十分その気になっている。
「いや、いや、それでは困るわ。」
あわてて、イルムがふたりの伝説級の妖精を止めにはいる。
「ラファイアさんの考えは、9割9分は正解だわ。
だが、今回は、影供として、アマト君とふたりの要人の警護を頼みたいの。」
「後からドーンじゃなくてですか。」
「そう。レリウス大公には、キョウショウを指揮官、副将にフレイアをつけ
一個師団を引き連れて、国境までの行き帰りを、警備させるわ。
レウス公女の方は、リントを指揮官、副将にアストリアをつけ、やはり、
一個師団での警備ね。」
「後からドーンは・・・。」
ラファイアは、未練がましく、イルムに話かける。
「いや、そんな汚れ仕事を、高潔な妖精である、ラファイアさんとラティスさんに
させるわけにはいかない。」
「そうですか、やはりイルムさんの印象を、裏切るわけにはいけませんね。」
ラファイアの顔がやっと明るくなって、イルムの考えに同意する。
「ま、ラファイアのような卑怯妖精は、後からドーンでかまわないけど、
全世界に信奉者がいる私は、やっぱりだめね。
真向正面からドーンでないと。」
「ラティスさん。今回は、ドーンはたぶん必要ないので。」
イルムは必死になって、ふたりの妖精を《ドーン》から、遠ざけようとする。
「で、どちらを先に、裏から警護すればいいんですか?」
「アマト君、すまん。協力してくれるか。」
「もし、ぼくがしなければ、誰かがしなければならないし。
その破壊工作があるとして、ふせがなければ、新帝国は破滅。
ここに集った人たちは、ぼくも含めて、流浪の民に
なってしまうでしょうから。」
第3章。災い遠方よりきたる(3)
「初めは、レリウス大公の方になるわ。」
「同時に、皇都に着くようにそれぞれの公都を出たとしても、
レウス公女の場合、今から言う事で遅くなるわ。
まずは、貴族のお嬢様だから鉄馬車の速度を上げられない。」
「それに、新帝国以外では、近い将来帝国は、クリル大公国が統一すると、
思っている人も多い。
だとすれば、レウス公女は、新王帝の妹君になるという
可能性を考えるはずよね。」
「だから、中途のすべての町では、できる限りの歓待をしようとするわけ。
それを、無視して、先へ先へ進むわけにはいかない。」
「レウス公女は見目麗しき方。町の沿道は見物人と、
クリルの旗で埋まるだろうしね。」
アマトも、もし今の状態でなければ、自分も沿道に並んだろうと、
一端は思ったが、瞬間、背筋に寒気がはしる。
『エリースとユウイ義姉ェの不機嫌さが、すごいものになるだろうな。』
アマトが下らない感慨に耽っているとも知らず、
イルムは、美しい顔を引き締め、最も大事な話に移る。
「レリウス大公の来訪の目的は猊下との面会だけではない。
いろんな可能性を低いものから、消去法で消していくと、
最後まで残るものがある。それは、アマト君、君との面会だ。」
「たぶん、暗黒の妖精の契約者というのが、どのような人間なのか。
なぜ、世界を狙わないのかとね。」
アマトの顔色が、『武国の凶虎に続き またか!』とばかり、蒼白に変わる。
それを見て、イルムは一息いれる。
「う~ん。暗黒の妖精に会えば、その扱いづらさがわかるんですけどね。」
と、ラファイアが退屈したのか、いつものようにラティスを、ディスリ始める。
「は、そいつが、あんたとも契約してると知らないからよ。
だから教えてやれば。」
ラティスが、めんどくさそうに、もう一つの解決案を提示する。
「ほぇ~?」
「伝説級の妖精ふたりと契約しても世界を狙わない。
これは、神話級の不動のヘタレということ。
それで、理解できるでしょう。」
「・・・・・・・・。」
なぜか、ラファイアはアマトをジーッと見詰めている。
・・・・・・・・
「アマト君、レウス公女の情報は少ない。君が大公の影供をしている間に、
調べさせておくから。」
「とりあえずは、ミカル大公国のレリウス大公よ。
今、ミカルの公都ではトリハ宰相だけではなく、
副宰相のリリカの動きもおかしい。
それに、イルト・オルク・ウルトのミカル最強の三將が、
公都に集められている。」
「教皇猊下と君に会見している間に、隠れた何かを
進行させるとするような行為にも思える。」
「イルムさん。それは、何ですか?」
「アマト君。笑ってくれても構わないが、反大公派貴族に対して、
決起の隙を見せてるような。」
「とにかく、ミカルのゴタゴタには、巻き込まれぬようにしなければ・・・。」
「そうよね!」
「当然だな。」
ルリとキョウショウも、イルムの言う事にはっきりと同意した。
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