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CⅤ 星々の合と衝編 前編(5)

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第1章。歴史の新しき潮流(2)


 「あと、ふたりの伝説級妖精の契約者のアマト君よ。イルムさんの薫陶くんとう
よろしかったのか、あの考え方は少なくとも男性原理ではないわね。」

ファウス妃は、いたずらっぽく微笑ほほえみながら、イルムにたずねる。

「けど、それで良かったわ。もし英雄願望がある坊やだったら、
帰り道、全力で叩かなければならなかった。」

「テムスというより、この世界のためにね。ふたりの伝説級の妖精と契約してる
人間なんて、悪夢が人の皮をまとって、歩いているようなものですからね。」

そこで、ファウス妃は一端いったん話を切り、口調を明るく戻して、話を続ける。

「けど、実際お会いすると、そのふたりの妖精さんもルービスに負けず劣らず、
されてるようだから。」

話をしながらも、日頃のルービスの行動を思い返したのか、
ファウス妃はひとりでうずむいている。

「そう、私などより、アマト君には、ユウイさんという母性豊かな義姉がいます。
その方の影響でしょう。」

イルムは、ファウス妃の懸念けねんを読み解き、少し笑いを含みながら、話をそらす。

「だとしたら、アマト君にあの道を選択させたのは、大地のような母性原理を
持たれている方と、言うべきなのかしら。」

ファウス妃は、その美しい顔を傾けて何かを考えている。

「そのユウイさんと言う人にも会ってみたいわね。義弟が世界にとって最悪の・・
本人にとっては、極めてやすい生き方に流れるのを、
阻止してくれたんだから・・。」

「ファウス!この前みたいに、勝手にアスリウムを抜け出したら困ります。」

あわてて、アリュスが言葉をはさむ。

「あの時、陛下は,
『大公位も大公国も投げ出して、ファウスのあとを追いかける!』
とか、言い出されて、大変だったんですから。」

『まさか、お家騒動!?それとも単なる夫婦喧嘩げんか!?』

イルムも、この場で暴露されるテムスの一大事に、唖然あぜんとして聞きいってしまう。

「アリュス。国家のを、暴露してしまって・・・。」

「いえいえ、あなたが、あのような行為を2度としないように、
また今後お行儀がよくなるように、全世界に印刷して届けてやりたいわ。」

相当の騒動に発展したのだろう、アリュスは、演技ではなく
本当に腹を立てているようだ。

旗色が悪くなったのを見て取ったのか、ファウス妃は話題をサラリと変更する。

「印刷と言えば、カシノさん。猊下げいかもあれは大タヌキね。
知ってたの、木版印刷・活版印刷をとして認めると。
双月教のをするというのを。」

「いいえ。ただ猊下が、何十年も温めてこられたものだと思います。」

静かな面持ちで、カシノはファウス妃に返答する。

「そうなの・・・。」

恐らく、双月教の改革の一案として、ずっと心の中であたためてこられたのだろう。
9割9分は無駄になると思いながら・・・。
【尊敬すべき信仰者】これは、猊下げいかへの、5人のいゆわらざる気持ちである。

羽化うかする機会が神々に与えられるか、わからないのに・・・。」

アリュスが、さっきまでの態度とは違い、感動して口に出してつぶやく。

「でも、
『本は作者の想いをのせているものだから、
書き写したものでしか、本とは認めない。』
とは、双月教が考え出した最高の美辞麗句びじれいく、いや歴史的な巧言こうげん。」

ファウス妃が冷静に、淡々と事実を述べる。

「素晴らしい語句のうちに、支配者に都合のいい毒を混ぜ入れてきたわけです。」

イルムも、ファウス妃の言葉に同意する。

「これで、新帝国・テムス大公国を中心に、各種学術書・技術書のみならず、
反政治書・反宗教書も、相当の冊数、今から世界に出回るわ。
教皇猊下げいかの許可とともに。」

「この公布で、知らせない事を通しての国家の統治は、不可能になる。
そして、双月教国の双月教、そしていくつかの国家も傾くでしょう。
本の数で、世界の歴史が変わるわ。」

ファウス妃が、未来を見通したように、全員に語る。

「国家を滅ぼすのは、剣のみに非ずと言う事ね。」

アリュスが、代表して感想を述べる。
話が血生臭ちなまぐさい匂いを含んできたため、ファウス妃は話題を変える。

「ところで、猊下げいかが言っていた、例えばこんな本でも一切拒否はしないとの
話に出てきた、【カシノ教導士の教皇猊下げいか観察日誌】というのは、
あれってなに。」

ルリも、悪ノリする。

「そうそう、カシノ、あなた、あの話から言うと、教会を訪ねてきたアマト君に、
『で、ご用は、?』って言ったの?」

「いや、あれはそうではなくて・・・。」

カシノは、あの場を思い出したのか、顔が真っ赤になる。

「気にすることはないわ、カシノ。ルリなんて、アマト君の前で、上半身を
脱いで見せた事もあるんだから。」

これでイルムに言い負けるルリではない。

「イルム、あの時はあなたも、『今日の夜はひまはあるか。』なんて、
悪ノリしてたじゃない。」

思わぬ暴露ぼうろ合戦に、ファウス妃もアリュスも、肩を震わせて笑っている。

が、あの坊やを、いかにいつくしんでおられるかは、わかりました。
あの坊やを、これ以上疑いの目でみるのは止めましょう。
アウレスにも、そう伝えますから。」

イルムとルリの顔に安堵あんどの色が浮かぶ。
これも、今回の会談の隠れた議題であったからだ。

「そういえば、ルービスさまは、どこに?」

アリュスが、ファウス妃にたずねる。

「さあ、誰かと久闊きゅうかつじょしているんじゃない。」

ファウス妃は、いたずらがばれた子供のような笑いを浮かべた。


☆☆☆☆


 二つの月が、なんかな~的な光で、大地をあまねく照らしている。

アマトは、会議後、

「今から、ルービスさんとラティスさんの会合がありますので、
仲裁ちゅうさい役として、私も参加しますから。」

と、白光の妖精ラファイアから、珍しく行き先を告げられた。
しかし、アマトにはラファイアの心の中の声が聞こえた気がする。

『今から、ルービスさんとラティスさんが、するようですので、
私も暇だから、ちょっと参加してきます。後始末はよろしくです。』と。

下手したら、テムスと新帝国の半分は、なくなるかもしれないと、
あわてて、アマトはラファイアについて来ている。

ラファイアも、いつもなら姿を消して、アマトを振り切るのだが、
今回は、含むところがあるのか、執事の姿に戻り、アマトを連れて行く。

で!


廃城の庭の真ん中の4つの見合わせた椅子に、三人の伝説級の妖精と、
ふたりの妖精のレアヘタレの契約者が、座っている。

アマトの左手に不機嫌ふきげんな表情の暗黒の妖精、右手に無表情な火の妖精、
対面に、嘘っぽい笑顔の白光の妖精。

障壁や結界が張ってあるのか、警備の騎士のひとりもこない。

ふたりの妖精の間に、

【先に抜け!】的な圧が、際限なくふくらみ、アマトは青息吐息状態におちいっている。

そして、朝日が差し込むまでに、語られた言葉は、

ラティスの、

「あの、自分でも八つ当たりだと理解はしてたそうよ。」

と、

ルービスの

「そうか。」

のふた言だけだった。

朝と同時に、それぞれの妖精の姿が、霧のように消えたのと相前後して、
真っ白になっていたアマトは、ゆっくりと椅子からくずれ落ちていった。
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