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ⅩCⅧ 分水の峰編 後編(2)
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第1章。焔と闇と晄の会合(1)
「フハハハ、風よ叫べ、雨よ大地に叩きつけろ、雷よ天空を疾れ、
天空と大地の覇者たる我を、讃え狂うのだ!」
天蓋を外している、鉄馬車の御者台の上で、ポーズを決めるラティス。
「あの~ラティスさん。そよ風、快晴、雲ひとつない天気の日に、
そんなこと言って、はしゃいでも・・・。」
心地良い涼風が吹きつける山道、ラファイアの間延びした凍たい指摘が、
その場に流れていく。
「はあ~、ラファイア。あの目の前の山の背後には、クルースの廃城があって、
そこに、あいつがいるのよ、あいつ。あのルービスが!」
「だから雰囲気づくりよ、雰囲気づくり。闘いの前に、アマトのような
レアヘタレ兼愚民の志気を高めるのは、神々に選ばれし聖なる妖精の役割よ。」
「いろいろと、突っ込みたいところはありますが・・。まずはラティスさん、
神々のことを言ってますね、いつ双月教に帰依したんです?」
巧みに鉄馬車を操りながら、ラファイアは、ラティスの顔を見ないで、
声だけ、暗黒の妖精の方に向ける。
「いやいや、ラファイア殿。ラティス殿ならいつでも、入信を歓迎するぞ。
当然、入信日は過去にさかのぼっても、かまわん。」
「教皇の権限で、それを許可しましょう。」
鉄馬車の後ろの席で、ふたりのやりとりを眺めていた、モクシ教皇が、
大真面目な顔で声をかける。
毎日のように行われる、ふたりの妖精の小芝居もどきに、いつしかモクシ教皇も、
機会を探して、参戦してきている。
モクシ猊下の、あまりの白々しい演技に、横に座っていたカシノ教導士は、
美しい顔を崩壊させたかのように笑いだし、教都の教会内で冷氷の美女と
噂されていたのは、別人じゃないかとさえ思わせる。
セプティは、対面の席のカシノの崩れゆく表情を見て、
耐えられる限度を超えたのか、顔を伏せ、肩を震わせている。
いつもなら、ここで辛口の批判をし、芝居をまとめるエリースだが、
セプティの横の席で、引き締まった美しい表情を崩そうとしない。
その義妹のありように、なにかを感じた義兄アマトは、怒りに満ちているだろう
自らの契約妖精に、無謀にも声をかける。
「ラティスさん、一応、話合いにいくんだから。」
ラティスは、アマトを睨み、行き場のなかった全怒りを、アマトにぶつけてくる。
「あまいわよアマト。あの歪みねくらのルービスが向こうにいるのよ。」
≪「あの歪み ねくらが!!」≫
声だけでなく、精神感応でも絶叫する暗黒の妖精。
次の瞬間、右前方の山の端が、煌々とした白い光に包まれる。
山のこちらの側のあちこちから、青白色の炎が溢れ出し、
山全体が赤橙色・黄橙色の溶岩の半液状の立体に変わる。
間髪をおかず、山のすべては蒸発し、巨大な白い炎の濁流が
アマトたちに襲い来る。
「ラファイア!」
「はいな!」
ラティスの巨大な白銀に輝く魔法盾、ラファイアの巨大な白金に輝く魔法盾が
瞬時に顕現し、その白い炎の濁流を撥ねつける。
そしてふたつの盾は、激しい光を発しながらひとつに交わり、
純白に輝く、更に巨大な斜めの楕円の盾となり、
白い炎の濁流を、中天に弾き飛ばしてゆく・・・・・・。
・・・・・・・・
「今回は、ラティスさん、ラファイアさん、どちらが原因なの?」
後ろの鉄馬車にから降りてきたイルムが、ふつふつと湧き上がる怒りを抑え、
顔に鬼の微笑を張り付け、ふたりの妖精のもとに歩み寄る。
高空で監視行動をしていたリーエもいつの間にか着陸してきて、
自分の契約者のエリースが巻き込まれたことに、いつもと表情を変え、
その光景を、凝視している。
☆☆☆☆
「私が、そんなこと、しでかすわけないじゃないですか。
私は、平穏と救済の妖精ですよ。」
と、いつものようにラファイアが、イルムの追及も躱しにかかる。
「ラファイア、いつ、宗旨替えしたのよ。それにルービスとは、アンタの方が、
やらかしているじゃない。」
ラティスは、冷たい視線でラファイアを睨む。
「いえいえ、確かに回数は上ですけど。やらかした規模は、全くラティスさんに
かないませんよ。」
ラファイアは、全身から数多輝く光粒をまき散らし、似非女神然とした
ポーズを構築する。
『ふたりとも、心当たりはあり過ぎるということね・・・。』
と、皇国の軍師殿は頭をかかえた。
・・・・・・・・
引き続きイルムは、目の前の広がった橙黒色の溶岩の湖を見て思う。
『ファウス妃も、伝説の火の妖精ルービスが自らの意思で動き出したら
止めることはできないと、密書で送ってきたけど。』
今回の、クルースの会合の裏には、3人の極上級妖精の顔合わせの意味もある。
仲良くしてくれとはいわない。せめて、無視しあって欲しい。
ラティス対ルービス、ラファイア対ルービス。悪夢としか思えない。
そして、現実化した悪夢の欠片の前で、ふたりの巨大な魔力を持つ妖精が
賑やかに、口喧嘩をしている。
もう、何と言っていいものやら。
・・・・・・・・
「ラファイア、アンタの方がルービスと多く揉めてんだから、
目の前のこの暑苦しいのを、処分しなさい!」
「こんなのは、ラティスさんの方が得意じゃありませんか。
ほんと、適材適所の意味、知ってますか?」
だが、後ろめたい事がありすぎるのか、コイントスもしないで、ラファイアは
フツフツと煮だつ溶岩湖の前に立つ。
「ラファイアさん、大丈夫?」
心配するアマトの声に、なぜだかラファイアは、嬉しそうな表情をうかべる。
そのラファイアの全身に、白金の輪が幾重にも取り囲む。
そして、ラファイアは、両手を水平に掲げる。
「放つ!」
煮えたぎる湖面の上に、ラファイアの白金の光の投網が、覆い被さる。
一瞬、白金の光が、その上でまぶしく輝く。
「アマトさん、終わりました。この大湖から、熱を消しましたので。」
他には見せぬ優しい表情で、ラファイアはアマトに、先ほどの答えを返す。
だが、その雰囲気のなかに、ラティスの好戦的な美しい声が割って入る。
「お客様が、来るようよ!」
冷え切った溶岩台地の彼方をみやる、ラファイアの顔も、麗しい戦女神の表情に
変わっていく。
「フハハハ、風よ叫べ、雨よ大地に叩きつけろ、雷よ天空を疾れ、
天空と大地の覇者たる我を、讃え狂うのだ!」
天蓋を外している、鉄馬車の御者台の上で、ポーズを決めるラティス。
「あの~ラティスさん。そよ風、快晴、雲ひとつない天気の日に、
そんなこと言って、はしゃいでも・・・。」
心地良い涼風が吹きつける山道、ラファイアの間延びした凍たい指摘が、
その場に流れていく。
「はあ~、ラファイア。あの目の前の山の背後には、クルースの廃城があって、
そこに、あいつがいるのよ、あいつ。あのルービスが!」
「だから雰囲気づくりよ、雰囲気づくり。闘いの前に、アマトのような
レアヘタレ兼愚民の志気を高めるのは、神々に選ばれし聖なる妖精の役割よ。」
「いろいろと、突っ込みたいところはありますが・・。まずはラティスさん、
神々のことを言ってますね、いつ双月教に帰依したんです?」
巧みに鉄馬車を操りながら、ラファイアは、ラティスの顔を見ないで、
声だけ、暗黒の妖精の方に向ける。
「いやいや、ラファイア殿。ラティス殿ならいつでも、入信を歓迎するぞ。
当然、入信日は過去にさかのぼっても、かまわん。」
「教皇の権限で、それを許可しましょう。」
鉄馬車の後ろの席で、ふたりのやりとりを眺めていた、モクシ教皇が、
大真面目な顔で声をかける。
毎日のように行われる、ふたりの妖精の小芝居もどきに、いつしかモクシ教皇も、
機会を探して、参戦してきている。
モクシ猊下の、あまりの白々しい演技に、横に座っていたカシノ教導士は、
美しい顔を崩壊させたかのように笑いだし、教都の教会内で冷氷の美女と
噂されていたのは、別人じゃないかとさえ思わせる。
セプティは、対面の席のカシノの崩れゆく表情を見て、
耐えられる限度を超えたのか、顔を伏せ、肩を震わせている。
いつもなら、ここで辛口の批判をし、芝居をまとめるエリースだが、
セプティの横の席で、引き締まった美しい表情を崩そうとしない。
その義妹のありように、なにかを感じた義兄アマトは、怒りに満ちているだろう
自らの契約妖精に、無謀にも声をかける。
「ラティスさん、一応、話合いにいくんだから。」
ラティスは、アマトを睨み、行き場のなかった全怒りを、アマトにぶつけてくる。
「あまいわよアマト。あの歪みねくらのルービスが向こうにいるのよ。」
≪「あの歪み ねくらが!!」≫
声だけでなく、精神感応でも絶叫する暗黒の妖精。
次の瞬間、右前方の山の端が、煌々とした白い光に包まれる。
山のこちらの側のあちこちから、青白色の炎が溢れ出し、
山全体が赤橙色・黄橙色の溶岩の半液状の立体に変わる。
間髪をおかず、山のすべては蒸発し、巨大な白い炎の濁流が
アマトたちに襲い来る。
「ラファイア!」
「はいな!」
ラティスの巨大な白銀に輝く魔法盾、ラファイアの巨大な白金に輝く魔法盾が
瞬時に顕現し、その白い炎の濁流を撥ねつける。
そしてふたつの盾は、激しい光を発しながらひとつに交わり、
純白に輝く、更に巨大な斜めの楕円の盾となり、
白い炎の濁流を、中天に弾き飛ばしてゆく・・・・・・。
・・・・・・・・
「今回は、ラティスさん、ラファイアさん、どちらが原因なの?」
後ろの鉄馬車にから降りてきたイルムが、ふつふつと湧き上がる怒りを抑え、
顔に鬼の微笑を張り付け、ふたりの妖精のもとに歩み寄る。
高空で監視行動をしていたリーエもいつの間にか着陸してきて、
自分の契約者のエリースが巻き込まれたことに、いつもと表情を変え、
その光景を、凝視している。
☆☆☆☆
「私が、そんなこと、しでかすわけないじゃないですか。
私は、平穏と救済の妖精ですよ。」
と、いつものようにラファイアが、イルムの追及も躱しにかかる。
「ラファイア、いつ、宗旨替えしたのよ。それにルービスとは、アンタの方が、
やらかしているじゃない。」
ラティスは、冷たい視線でラファイアを睨む。
「いえいえ、確かに回数は上ですけど。やらかした規模は、全くラティスさんに
かないませんよ。」
ラファイアは、全身から数多輝く光粒をまき散らし、似非女神然とした
ポーズを構築する。
『ふたりとも、心当たりはあり過ぎるということね・・・。』
と、皇国の軍師殿は頭をかかえた。
・・・・・・・・
引き続きイルムは、目の前の広がった橙黒色の溶岩の湖を見て思う。
『ファウス妃も、伝説の火の妖精ルービスが自らの意思で動き出したら
止めることはできないと、密書で送ってきたけど。』
今回の、クルースの会合の裏には、3人の極上級妖精の顔合わせの意味もある。
仲良くしてくれとはいわない。せめて、無視しあって欲しい。
ラティス対ルービス、ラファイア対ルービス。悪夢としか思えない。
そして、現実化した悪夢の欠片の前で、ふたりの巨大な魔力を持つ妖精が
賑やかに、口喧嘩をしている。
もう、何と言っていいものやら。
・・・・・・・・
「ラファイア、アンタの方がルービスと多く揉めてんだから、
目の前のこの暑苦しいのを、処分しなさい!」
「こんなのは、ラティスさんの方が得意じゃありませんか。
ほんと、適材適所の意味、知ってますか?」
だが、後ろめたい事がありすぎるのか、コイントスもしないで、ラファイアは
フツフツと煮だつ溶岩湖の前に立つ。
「ラファイアさん、大丈夫?」
心配するアマトの声に、なぜだかラファイアは、嬉しそうな表情をうかべる。
そのラファイアの全身に、白金の輪が幾重にも取り囲む。
そして、ラファイアは、両手を水平に掲げる。
「放つ!」
煮えたぎる湖面の上に、ラファイアの白金の光の投網が、覆い被さる。
一瞬、白金の光が、その上でまぶしく輝く。
「アマトさん、終わりました。この大湖から、熱を消しましたので。」
他には見せぬ優しい表情で、ラファイアはアマトに、先ほどの答えを返す。
だが、その雰囲気のなかに、ラティスの好戦的な美しい声が割って入る。
「お客様が、来るようよ!」
冷え切った溶岩台地の彼方をみやる、ラファイアの顔も、麗しい戦女神の表情に
変わっていく。
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