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ⅩC 分水の峰編 前編(2)
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第1章。暗器(3)
「ソーケンさん、リントさん、大丈夫だったですか。」
鉄馬車の御者台の上から、情けない顔の若者が、凛とした大声をあげている。
その横で鉄馬車を操っている騎士は、見覚えがない。
手を振りながら、リントは、騎士は創派のだれかかと推測する。
教徒から離脱してきた者たちは、上空に5にんの聖画に描かれていたような
白光の妖精を眼にしたことで、信仰的な恍惚感に襲われ、その姿が消えたあとも
祈りの姿を崩していない。
ただ、ソーケン將が冥い顔で、俯いているのを、この男も恥というものを
持ち合わせていたんだなと、リントはどこか安堵する。
妖精の契約者が鉄馬車を降りてきて、疲れ切った顔に笑みを浮かべる
リントに尋ねる。
「よかった無事でしたか。」
「アマト君、君の方も無事だったか。」
「あと教都の離脱者の人々は?」
「離脱者はあれで全員だ。もう、一刻も早く、この場を離れて、
帝都に撤退した方がいい。」
「はい。教都からの追撃は考える必要はないと思いますが、万が一のことを考えて
ラティスさんとラファイアさんは周辺を探っていますので。」
「僕たちは、まず退避を。では、急ぎましょう。」
リントは、アマトを案内しようと先に離脱者の方へ体を向ける。
「グッ。」
その声に、リントが振り向いた時、アマトの背後から、
ソーケン將がその巨体をぶつけていた。
アマトが、ゆっくり 倒~れ~て~い~く。
「ソーケン、何をした!」
ソーケンの手に短い刃物が。
アマトの血を吸い、鈍く輝き、黒光の粒子をまき散らしている。
「黒光の粒子!?まさか伝説の暗器、【黙示の九死】か。
だが、あれは秘匿の凶物庫に封印されていたはずだ!」
「妖精契約者のみに効く・・少しでも掠れば・・助かることはない妖物。」
「ほう、リント、知っておったか。」
地面に倒れている、アマトの体が痙攣を始める。
「だが、なぜだ!」
その問いに直接は答えようとせず、ソーケンは呆然としていた騎士と
離脱してきた人々に、双流の橙色の炎の劫火を放つ。
「「「ギヤ―!」」」
複数の悲鳴が、その場に響きわたる。
「ふん、リント。このご時世に、上を狙うのがなぜ悪い?」
「わけわからない娘が血筋だけで皇帝?今くたばりかけてるこの腐れが、
化け物の妖精と契約しているだけで、未来の宰相様か?
フッハハハ、年長者として、身の程をわきまえさせてやったのよ。」
年長者を唄う男の顔が、醜く歪む。
「あのふたりの化け物妖精は、この腐れがくたばれば、妖精界に帰る。
あとはここにいる、おまえをかたずければ・・。」
「この外道が!!」
リントは剣を構え、魔法盾を構築する。
「フへへへ、お前はオレ様の姿を見て侮蔑の眼差しを向けやがって、
楽には殺さん。」
自分の全身をなぶるようなソーケンのおぞましい目つきに、リントは怒りに震え、
先制の一撃を喰らわせようとするも、体が動かない。
『なんだ!』
リントが音なき声で叫んだ時、間の抜けた精神波が彼女の心に響く。
≪リントさん、それまでです。ラティスさんお疲れさま。
けど、鉄馬車に乗っているだけの役でしょう。
もっとうまく、演技できないんですか?≫
≪うるさいわ!≫
再び、もう一つの精神波がリントの心に響いた。
第2章。暗器(4)
倒れていたアマトが、何もなかったように立ち上がる。
その影がリントの方を振り向いた時には、白光の妖精に変わっていた。
妖精は、今起こったひとつの惨劇が、まるでなかったかのように話し出す。
「ここだけの話なんですが、アマトさんに化けるのを、ラティスさんが
嫌がりましてね。『そこまでは堕ちたくないわ。』だそうです。
やっぱり、リントさんから見てもアマトさんは、
もろ、ゴミムシ君の印象ですか?」
リントは、目の前にいる神々しい妖精が、
500名に近い反乱軍を瞬滅した化け物だ
ということに記憶が警鐘を鳴らしていても、感情がついてこない。
親愛の情を惜しげもなく投げかけてくる妖精は、どうみてもパッとしない弟を
心配する、優しい姉にしかみえないのだ。
フッと、もう一つの気配が、静かに隣に現れる。
「ラファイア、なに、あさっての話をしてるのよ。」
「黙って下さい、ラティスさん。今、アマトさんには絶対に聞かせられない、
最優先課題の話をしてるんですから。」
「ま、それは否定できないわね。」
リントは思い出していた。
ふたりの妖精が、この場に残ると聞いた際に、言い知れない恐怖を感じた時、
それを察したのか、創派のキョウショウ將から、かけられた言葉を。
『リント將、暗黒の妖精も白光の妖精も、アマト君を裏切り、
命を狙ったりしなければ、怒りの死雷を轟かせることはない。』
『愚かにも、白光の妖精に立ち合いを行った私を、あのふたりは、未来において
アマト君の友人になれると思ったらしく、許してくれ、
さらに、かけがいのない贈りものもしてくれた。』
『イルム將とルリ將とも話したんだが、リント將、あなたは、
アマト君とも私たちとも、友人になれると思う。』
・・・・・・・・
「さてと。」
それはどちらの妖精が発した、死の宣告だったろう。
その時、恐ろしいほどの殺気が、リントの前方で凍てつかされている腐敗物に
浴びせかけられる。
その、想像を超える極寒の烈風に、リントは現実に、引き戻される。
第3章。暗器(4)
リントは、そのふたりの妖精の底のみえない魔力の前に、
知らないうちに跪いて、懇願していた。
「ラティス殿に、ラファイア殿。今回のことは、他の双月教の者、
とくに教皇猊下には、全く関係のないこと。」
「もし、どうしても怒りが収まらんというのであれば、
私の命で贖わせてくれ。」
白光の妖精は、その訴えをなかったかのようにして、リントに語る。
「リントさん。この腐敗物は、今、ラティスさんの世界に囚われています。」
「その偽りの悪夢の世界で、これは、何回殺されているんでしょうね。」
そう言われて、改めてソーケンの顔をみる。そこには、顔面に恐怖を張り付けた
もと人間が、土の上に生えているようにしか、リントには感じられなかった。
「ラティスさんの魔力は、人の五感だけではなく、契約している妖精の感覚も
支配します。これは、やってはいけない事をやってしまった。
私が変化した仮生の姿とは言え、私たちの契約者に、アマトさんに、
致死の刃を向けたんですから。」
ラティスは、すべての感情を消し、無機質とかしたように、佇んでいる。
思い出したように、美しい彫刻とかした妖精が、リントに安心を与える。
「リント、私が、あの楽しい爺さんを、どうこうするわけないじゃない。
私は白光の妖精じゃないのよ。」
「なんか、言いました。ラティスさん。」
ラファイアの腐敗物に向けたそのままの死氣が、ラティスに向かう。
だが、さすがに自称、妖精界の頂点にいる存在。
ラティスは、ラファイアの死氣を、軽く受け流す。
「そう、私の世界で追い込んでわかったわ。こいつは、ただ、誘導されただけ。
ま、自我が肥大しすぎて、誘導されたことにも気づかないような奴よ、
利用はしやすかったんでしょうね。」
「こいつは、自分自身が歩く暗器として使われた事に、気付いてもいないわ。」
「その暗器使いは、誰だと?」
リントが、明日の見えない怒りを抑えて、暗黒の妖精に問いかける。
「・・・・・・・・。」
ラティスは、その名を、リントに囁く。
「ま・さ・か!そんなはずは。彼は人格者としても知られている。」
ふたりの妖精の魔力を散々みせつけられていたにも関わらず、
リントはラティスのその言葉に、無条件に同意できない。
「ねえ、ラティスさん。このゴミはどうするんですか?」
まだ、怒りの感情をまとわりつかせながらも、
ラファイアが、やっといつもの口調で、
ラティスに詰問した。
ラティスは、そのラファイアを不思議な表情で眺めてる。
「ソーケンさん、リントさん、大丈夫だったですか。」
鉄馬車の御者台の上から、情けない顔の若者が、凛とした大声をあげている。
その横で鉄馬車を操っている騎士は、見覚えがない。
手を振りながら、リントは、騎士は創派のだれかかと推測する。
教徒から離脱してきた者たちは、上空に5にんの聖画に描かれていたような
白光の妖精を眼にしたことで、信仰的な恍惚感に襲われ、その姿が消えたあとも
祈りの姿を崩していない。
ただ、ソーケン將が冥い顔で、俯いているのを、この男も恥というものを
持ち合わせていたんだなと、リントはどこか安堵する。
妖精の契約者が鉄馬車を降りてきて、疲れ切った顔に笑みを浮かべる
リントに尋ねる。
「よかった無事でしたか。」
「アマト君、君の方も無事だったか。」
「あと教都の離脱者の人々は?」
「離脱者はあれで全員だ。もう、一刻も早く、この場を離れて、
帝都に撤退した方がいい。」
「はい。教都からの追撃は考える必要はないと思いますが、万が一のことを考えて
ラティスさんとラファイアさんは周辺を探っていますので。」
「僕たちは、まず退避を。では、急ぎましょう。」
リントは、アマトを案内しようと先に離脱者の方へ体を向ける。
「グッ。」
その声に、リントが振り向いた時、アマトの背後から、
ソーケン將がその巨体をぶつけていた。
アマトが、ゆっくり 倒~れ~て~い~く。
「ソーケン、何をした!」
ソーケンの手に短い刃物が。
アマトの血を吸い、鈍く輝き、黒光の粒子をまき散らしている。
「黒光の粒子!?まさか伝説の暗器、【黙示の九死】か。
だが、あれは秘匿の凶物庫に封印されていたはずだ!」
「妖精契約者のみに効く・・少しでも掠れば・・助かることはない妖物。」
「ほう、リント、知っておったか。」
地面に倒れている、アマトの体が痙攣を始める。
「だが、なぜだ!」
その問いに直接は答えようとせず、ソーケンは呆然としていた騎士と
離脱してきた人々に、双流の橙色の炎の劫火を放つ。
「「「ギヤ―!」」」
複数の悲鳴が、その場に響きわたる。
「ふん、リント。このご時世に、上を狙うのがなぜ悪い?」
「わけわからない娘が血筋だけで皇帝?今くたばりかけてるこの腐れが、
化け物の妖精と契約しているだけで、未来の宰相様か?
フッハハハ、年長者として、身の程をわきまえさせてやったのよ。」
年長者を唄う男の顔が、醜く歪む。
「あのふたりの化け物妖精は、この腐れがくたばれば、妖精界に帰る。
あとはここにいる、おまえをかたずければ・・。」
「この外道が!!」
リントは剣を構え、魔法盾を構築する。
「フへへへ、お前はオレ様の姿を見て侮蔑の眼差しを向けやがって、
楽には殺さん。」
自分の全身をなぶるようなソーケンのおぞましい目つきに、リントは怒りに震え、
先制の一撃を喰らわせようとするも、体が動かない。
『なんだ!』
リントが音なき声で叫んだ時、間の抜けた精神波が彼女の心に響く。
≪リントさん、それまでです。ラティスさんお疲れさま。
けど、鉄馬車に乗っているだけの役でしょう。
もっとうまく、演技できないんですか?≫
≪うるさいわ!≫
再び、もう一つの精神波がリントの心に響いた。
第2章。暗器(4)
倒れていたアマトが、何もなかったように立ち上がる。
その影がリントの方を振り向いた時には、白光の妖精に変わっていた。
妖精は、今起こったひとつの惨劇が、まるでなかったかのように話し出す。
「ここだけの話なんですが、アマトさんに化けるのを、ラティスさんが
嫌がりましてね。『そこまでは堕ちたくないわ。』だそうです。
やっぱり、リントさんから見てもアマトさんは、
もろ、ゴミムシ君の印象ですか?」
リントは、目の前にいる神々しい妖精が、
500名に近い反乱軍を瞬滅した化け物だ
ということに記憶が警鐘を鳴らしていても、感情がついてこない。
親愛の情を惜しげもなく投げかけてくる妖精は、どうみてもパッとしない弟を
心配する、優しい姉にしかみえないのだ。
フッと、もう一つの気配が、静かに隣に現れる。
「ラファイア、なに、あさっての話をしてるのよ。」
「黙って下さい、ラティスさん。今、アマトさんには絶対に聞かせられない、
最優先課題の話をしてるんですから。」
「ま、それは否定できないわね。」
リントは思い出していた。
ふたりの妖精が、この場に残ると聞いた際に、言い知れない恐怖を感じた時、
それを察したのか、創派のキョウショウ將から、かけられた言葉を。
『リント將、暗黒の妖精も白光の妖精も、アマト君を裏切り、
命を狙ったりしなければ、怒りの死雷を轟かせることはない。』
『愚かにも、白光の妖精に立ち合いを行った私を、あのふたりは、未来において
アマト君の友人になれると思ったらしく、許してくれ、
さらに、かけがいのない贈りものもしてくれた。』
『イルム將とルリ將とも話したんだが、リント將、あなたは、
アマト君とも私たちとも、友人になれると思う。』
・・・・・・・・
「さてと。」
それはどちらの妖精が発した、死の宣告だったろう。
その時、恐ろしいほどの殺気が、リントの前方で凍てつかされている腐敗物に
浴びせかけられる。
その、想像を超える極寒の烈風に、リントは現実に、引き戻される。
第3章。暗器(4)
リントは、そのふたりの妖精の底のみえない魔力の前に、
知らないうちに跪いて、懇願していた。
「ラティス殿に、ラファイア殿。今回のことは、他の双月教の者、
とくに教皇猊下には、全く関係のないこと。」
「もし、どうしても怒りが収まらんというのであれば、
私の命で贖わせてくれ。」
白光の妖精は、その訴えをなかったかのようにして、リントに語る。
「リントさん。この腐敗物は、今、ラティスさんの世界に囚われています。」
「その偽りの悪夢の世界で、これは、何回殺されているんでしょうね。」
そう言われて、改めてソーケンの顔をみる。そこには、顔面に恐怖を張り付けた
もと人間が、土の上に生えているようにしか、リントには感じられなかった。
「ラティスさんの魔力は、人の五感だけではなく、契約している妖精の感覚も
支配します。これは、やってはいけない事をやってしまった。
私が変化した仮生の姿とは言え、私たちの契約者に、アマトさんに、
致死の刃を向けたんですから。」
ラティスは、すべての感情を消し、無機質とかしたように、佇んでいる。
思い出したように、美しい彫刻とかした妖精が、リントに安心を与える。
「リント、私が、あの楽しい爺さんを、どうこうするわけないじゃない。
私は白光の妖精じゃないのよ。」
「なんか、言いました。ラティスさん。」
ラファイアの腐敗物に向けたそのままの死氣が、ラティスに向かう。
だが、さすがに自称、妖精界の頂点にいる存在。
ラティスは、ラファイアの死氣を、軽く受け流す。
「そう、私の世界で追い込んでわかったわ。こいつは、ただ、誘導されただけ。
ま、自我が肥大しすぎて、誘導されたことにも気づかないような奴よ、
利用はしやすかったんでしょうね。」
「こいつは、自分自身が歩く暗器として使われた事に、気付いてもいないわ。」
「その暗器使いは、誰だと?」
リントが、明日の見えない怒りを抑えて、暗黒の妖精に問いかける。
「・・・・・・・・。」
ラティスは、その名を、リントに囁く。
「ま・さ・か!そんなはずは。彼は人格者としても知られている。」
ふたりの妖精の魔力を散々みせつけられていたにも関わらず、
リントはラティスのその言葉に、無条件に同意できない。
「ねえ、ラティスさん。このゴミはどうするんですか?」
まだ、怒りの感情をまとわりつかせながらも、
ラファイアが、やっといつもの口調で、
ラティスに詰問した。
ラティスは、そのラファイアを不思議な表情で眺めてる。
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