86 / 266
ⅬⅩⅩⅩⅥ 水面下編 後編(1)
しおりを挟む
第1章。離脱(2)
もうひとりの、旧教国正規軍離脱者の副将格ソーケン將は、
情けない声のした方向を見つめる。
やはり情けない容姿の若者と、どこにでもいるような、全く印象が残らない
執事姿の女性が、大天幕の入り口に佇んでいた。
椅子から立ち上がり、『無礼な!』と口にしようとした刹那、
死の閃光が己の体を透過し、そのまま遥か彼方の空間へ
翔び去っていったのを感じる。
全身に、今だかって感じた事がないほどの悪寒が走る。
『私は、今、何度殺されたのか!?』
そんな自分でも、おかしすぎることを思いながら、呆然と椅子になだれ落ちた。
左右をみる。精強をもって知るザイル將にリント將も、
魂を飛ばされた顔をしている。
それは、戦士であればこそ、戦士であるがゆえに思い知らされる行為。
『われら三人のみを選択して、あの圧倒的な閃光を放ったのか!』
まさに、人の常識では信じられない、人外の怪異の仕業。
『暗黒の妖精の契約者か?たしかアマトとかいう・・・。』
記憶を手繰り寄せるが、理性は目の前の人間と一致しようとしない。
だが、モクシ教皇猊下にカシノ教導士、帝国からの遠征者達、創派の者達は、
そのふたりに、たのもしき者をみる眼差しで、見つめているのにも
ソーケンは気付く。
『しかし、契約者は魔力が振るえぬという情報だったが・・・。』
『虚偽情報だったのか。・・・まさか後ろの執事が・・・。』
再び、情けない声が、ソーケンの耳に撥ねる。
「イルムさん、旧教国軍の方々にもラファイアさんの、本来の姿を開示しても
いいと思います。」
イルムという名の軍師が、しっかりとうなずくのを、ソーケンは視界に捉える。
瞬時、ソーケンの目に、女性の執事の姿が鮮やかな白金に光に包まれ、
その光が7色の光に別れ、数多の光の粒が踊るのが写る。
「・・・聖・・・ラファイス様・・・!??」
ソーケン將とふたりの旧教国正規軍の將は、教国が崩れいった理由を、
五感をはるかに超えたところで、理解させられていた。
第2章。離脱(3)
ラファイアが、本来の姿をこの場に顕現させたあと、みなの注目は、
再び軍師イルムに集まる。
イルムは、その美貌をためらいに沈めながらも、重い口を開く。
「まず、モクシ教皇猊下、カシノ教導士に旧教国の正規軍の方々に、
お詫びを申し上げたい。
聖ラファイスの栄光を、この争いに悪用したことを。」
旧教国側を代表して、ザイル將が答える。
「それが、いくさというものでしょう。
見抜けなかった当方が、愚かだった・・・ということだ。」
ただ、その言葉は、苦渋に満ちている。
「ザイル殿、われらが教国を抜けたのは、今の双月教会の堕落した姿に
絶望があればこそ。自らの力でそれを正せなかった我らに、
イルム將を責める気持ちになるのは、見当違いではなかろうか。」
リント將は、自分の感情は押し殺して、冷静にザイル將を諫める。
「武人として失礼した。イルム將、話を続けて欲しい。」
ザイル將は、深々と頭を下げる。
イルムは、その武人の潔い態度をみて、自分も覚悟を決める。
「この件で、私が撤退をためらうのは、表向きの理由は、
リント將がおっしゃる通り、新帝国が不名誉の汚名をきる、
いや、きせられる事を、嫌ってのことです。」
ひとたび、言葉を切るイルム。
そして、次の言葉で、そこにいる人々に覚悟を求める。
「・・・・・、ここからさきは、沈黙の掟を誓ってもらいたい。」
その言葉に、集った人々の背筋が、ピーンと伸びる。
みなを代表して、モクシ教皇が宣言する。
「我ら、ここに沈黙の掟を宣言する。異見ある者は名乗り出よ!」
白光の妖精を除く、すべての者が、厳しい表情で肯く。
イルムも、重く頷き返し、話を続ける。
「ルリ、アマト君、ラテイスさん、ラファイアさんの言葉によると、
紫の最高枢機卿の離れ宮に、ふたりの貴人と5人の騎士が、
逗留したのが、わかっています。」
「貴人の名は、ひとりは武国のカウシム王太子、
もうひとりは、同じくレティア第四王女。」
「なに!」
ソーケン將の口が、思わず感想を吐き出す。
「彼らは?」
創派のハンニ老が、ソーケン將に解答を求める。
「武国の天才的な闘將と副官。乱れに乱れた武国をわずか数年で収めたと。
ただその勝利は血にのみ塗れたものと、言われています。」
ソーケン將がハンニ老に答える。
「難儀なものですな。だが、それだけでは、理由になりますまい。」
ハンニ老は、イルムに目をやり、再び言葉を求める。
「その騎士のひとりの正体が、ふたりの契約妖精の変身した姿だったのです。」
「そしてその正体は、暗黒の妖精アピス!!」
その場にざわめきが走る。
「バ、バカな。教国の首席最高枢機卿のもとに、あのアピスがいたと言うのか!?」
リント將が、椅子から立ち上がり、大声をあげる。
「教皇猊下も、私も、暗黒の妖精ラティスさんから聞かなかったら、
今の話は、悪質な嘘だと思ったでしょう。」
モクシ教皇の気持ちを忖度して、カシノ教導士が冷静に答える。
イルムは片手をあげ、ざわめきを静め、続きを語る。
「そして、1000年ぶりに現れた暗黒の妖精アピスは、
同じ暗黒の妖精のラティスさん、白光の妖精のラファイアさんを相手にして、
余裕で、その魔力を、いなしたとしか思えないふしがあるのです。」
イルムの言葉に、大天幕の中は、静寂に覆われた。
もうひとりの、旧教国正規軍離脱者の副将格ソーケン將は、
情けない声のした方向を見つめる。
やはり情けない容姿の若者と、どこにでもいるような、全く印象が残らない
執事姿の女性が、大天幕の入り口に佇んでいた。
椅子から立ち上がり、『無礼な!』と口にしようとした刹那、
死の閃光が己の体を透過し、そのまま遥か彼方の空間へ
翔び去っていったのを感じる。
全身に、今だかって感じた事がないほどの悪寒が走る。
『私は、今、何度殺されたのか!?』
そんな自分でも、おかしすぎることを思いながら、呆然と椅子になだれ落ちた。
左右をみる。精強をもって知るザイル將にリント將も、
魂を飛ばされた顔をしている。
それは、戦士であればこそ、戦士であるがゆえに思い知らされる行為。
『われら三人のみを選択して、あの圧倒的な閃光を放ったのか!』
まさに、人の常識では信じられない、人外の怪異の仕業。
『暗黒の妖精の契約者か?たしかアマトとかいう・・・。』
記憶を手繰り寄せるが、理性は目の前の人間と一致しようとしない。
だが、モクシ教皇猊下にカシノ教導士、帝国からの遠征者達、創派の者達は、
そのふたりに、たのもしき者をみる眼差しで、見つめているのにも
ソーケンは気付く。
『しかし、契約者は魔力が振るえぬという情報だったが・・・。』
『虚偽情報だったのか。・・・まさか後ろの執事が・・・。』
再び、情けない声が、ソーケンの耳に撥ねる。
「イルムさん、旧教国軍の方々にもラファイアさんの、本来の姿を開示しても
いいと思います。」
イルムという名の軍師が、しっかりとうなずくのを、ソーケンは視界に捉える。
瞬時、ソーケンの目に、女性の執事の姿が鮮やかな白金に光に包まれ、
その光が7色の光に別れ、数多の光の粒が踊るのが写る。
「・・・聖・・・ラファイス様・・・!??」
ソーケン將とふたりの旧教国正規軍の將は、教国が崩れいった理由を、
五感をはるかに超えたところで、理解させられていた。
第2章。離脱(3)
ラファイアが、本来の姿をこの場に顕現させたあと、みなの注目は、
再び軍師イルムに集まる。
イルムは、その美貌をためらいに沈めながらも、重い口を開く。
「まず、モクシ教皇猊下、カシノ教導士に旧教国の正規軍の方々に、
お詫びを申し上げたい。
聖ラファイスの栄光を、この争いに悪用したことを。」
旧教国側を代表して、ザイル將が答える。
「それが、いくさというものでしょう。
見抜けなかった当方が、愚かだった・・・ということだ。」
ただ、その言葉は、苦渋に満ちている。
「ザイル殿、われらが教国を抜けたのは、今の双月教会の堕落した姿に
絶望があればこそ。自らの力でそれを正せなかった我らに、
イルム將を責める気持ちになるのは、見当違いではなかろうか。」
リント將は、自分の感情は押し殺して、冷静にザイル將を諫める。
「武人として失礼した。イルム將、話を続けて欲しい。」
ザイル將は、深々と頭を下げる。
イルムは、その武人の潔い態度をみて、自分も覚悟を決める。
「この件で、私が撤退をためらうのは、表向きの理由は、
リント將がおっしゃる通り、新帝国が不名誉の汚名をきる、
いや、きせられる事を、嫌ってのことです。」
ひとたび、言葉を切るイルム。
そして、次の言葉で、そこにいる人々に覚悟を求める。
「・・・・・、ここからさきは、沈黙の掟を誓ってもらいたい。」
その言葉に、集った人々の背筋が、ピーンと伸びる。
みなを代表して、モクシ教皇が宣言する。
「我ら、ここに沈黙の掟を宣言する。異見ある者は名乗り出よ!」
白光の妖精を除く、すべての者が、厳しい表情で肯く。
イルムも、重く頷き返し、話を続ける。
「ルリ、アマト君、ラテイスさん、ラファイアさんの言葉によると、
紫の最高枢機卿の離れ宮に、ふたりの貴人と5人の騎士が、
逗留したのが、わかっています。」
「貴人の名は、ひとりは武国のカウシム王太子、
もうひとりは、同じくレティア第四王女。」
「なに!」
ソーケン將の口が、思わず感想を吐き出す。
「彼らは?」
創派のハンニ老が、ソーケン將に解答を求める。
「武国の天才的な闘將と副官。乱れに乱れた武国をわずか数年で収めたと。
ただその勝利は血にのみ塗れたものと、言われています。」
ソーケン將がハンニ老に答える。
「難儀なものですな。だが、それだけでは、理由になりますまい。」
ハンニ老は、イルムに目をやり、再び言葉を求める。
「その騎士のひとりの正体が、ふたりの契約妖精の変身した姿だったのです。」
「そしてその正体は、暗黒の妖精アピス!!」
その場にざわめきが走る。
「バ、バカな。教国の首席最高枢機卿のもとに、あのアピスがいたと言うのか!?」
リント將が、椅子から立ち上がり、大声をあげる。
「教皇猊下も、私も、暗黒の妖精ラティスさんから聞かなかったら、
今の話は、悪質な嘘だと思ったでしょう。」
モクシ教皇の気持ちを忖度して、カシノ教導士が冷静に答える。
イルムは片手をあげ、ざわめきを静め、続きを語る。
「そして、1000年ぶりに現れた暗黒の妖精アピスは、
同じ暗黒の妖精のラティスさん、白光の妖精のラファイアさんを相手にして、
余裕で、その魔力を、いなしたとしか思えないふしがあるのです。」
イルムの言葉に、大天幕の中は、静寂に覆われた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる