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ⅬⅩⅩⅩⅥ 水面下編 後編(1)

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第1章。離脱(2)


 もうひとりの、旧教国正規軍離脱者の副将格ソーケン將は、
情けない声のした方向を見つめる。
やはり情けない容姿の若者と、どこにでもいるような、全く印象が残らない
執事姿の女性が、大天幕の入り口にたたずんでいた。

椅子から立ち上がり、『無礼な!』と口にしようとした刹那せつな
死の閃光せんこうが己の体を透過し、そのままはるか彼方の空間へ
び去っていったのを感じる。
全身に、今だかって感じた事がないほどの悪寒おかんが走る。

『私は、今、殺されたのか!?』

そんな自分でも、おかしすぎることを思いながら、呆然ぼうぜんと椅子になだれ落ちた。
左右をみる。精強をもって知るザイル將にリント將も、
魂を飛ばされた顔をしている。

それは、戦士であればこそ、戦士であるがゆえに思い知らされる行為。

『われら三人のみを選択して、あの圧倒的な閃光せんこうを放ったのか!』

まさに、人の常識では信じられない、人外の怪異の仕業しわざ

『暗黒の妖精の契約者か?たしかアマトとかいう・・・。』

記憶を手繰たぐり寄せるが、理性は目の前の人間と一致しようとしない。

だが、モクシ教皇猊下にカシノ教導士、帝国からの遠征者達、創派の者達は、
そのふたりに、者をみる眼差しで、見つめているのにも
ソーケンは気付く。

『しかし、契約者は魔力ちからが振るえぬという情報だったが・・・。』

『虚偽情報だったのか。・・・まさか後ろの執事が・・・。』

再び、情けない声が、ソーケンの耳にねる。

「イルムさん、旧教国軍の方々にもラファイアさんの、本来の姿を開示しても
いいと思います。」

イルムという名の軍師が、しっかりとうなずくのを、ソーケンは視界にとらえる。

瞬時、ソーケンの目に、女性の執事の姿があざやかな白金に光に包まれ、
その光が7色の光に別れ、数多あまたの光の粒が踊るのが写る。

「・・・聖・・・ラファイス様・・・!??」

ソーケン將とふたりの旧教国正規軍の將は、教国が崩れいった理由を、
五感をはるかに超えたところで、理解させられていた。


第2章。離脱(3)


 ラファイアが、本来の姿をこの場に顕現けんげんさせたあと、みなの注目は、
再び軍師イルムに集まる。
イルムは、その美貌をしずめながらも、重い口を開く。

「まず、モクシ教皇猊下げいか、カシノ教導士に旧教国の正規軍の方々に、
びを申し上げたい。
を、この争いに悪用したことを。」

旧教国側を代表して、ザイル將が答える。

「それが、いくさというものでしょう。
見抜けなかった当方が、おろかだった・・・ということだ。」

ただ、その言葉は、苦渋くじゅうに満ちている。

「ザイル殿、われらが教国を抜けたのは、今の双月教会の堕落だらくした姿に
絶望があればこそ。自らの力でそれを正せなかった我らに、
イルム將を責める気持ちになるのは、見当違いではなかろうか。」

リント將は、自分の感情は押し殺して、冷静にザイル將をいさめる。

「武人として失礼した。イルム將、話を続けて欲しい。」

ザイル將は、深々と頭を下げる。
イルムは、その武人のいさぎよい態度をみて、自分も覚悟を決める。

「この件で、私が撤退をためらうのは、表向きの理由は、
リント將がおっしゃる通り、新帝国が不名誉の汚名をきる、
いや、きせられる事を、きらってのことです。」

ひとたび、言葉を切るイルム。
そして、次の言葉で、そこにいる人々に覚悟を求める。

「・・・・・、ここからさきは、を誓ってもらいたい。」

その言葉に、集った人々の背筋が、ピーンと伸びる。
みなを代表して、モクシ教皇が宣言する。

「我ら、ここにを宣言する。異見ある者は名乗り出よ!」

白光の妖精を除く、すべての者が、厳しい表情でうなずく。
イルムも、重くうなずき返し、話を続ける。

「ルリ、アマト君、ラテイスさん、ラファイアさんの言葉によると、
紫の最高枢機卿の離れ宮に、ふたりの貴人と5人の騎士が、
逗留とうりゅうしたのが、わかっています。」

「貴人の名は、ひとりは武国のカウシム王太子、
もうひとりは、同じくレティア第四王女。」

「なに!」

ソーケン將の口が、思わず感想を吐き出す。

「彼らは?」

創派のハンニ老が、ソーケン將に解答を求める。

「武国の天才的な闘將と副官。乱れに乱れた武国をわずか数年で収めたと。
ただその勝利は血にのみまみれたものと、言われています。」

ソーケン將がハンニ老に答える。

難儀なんぎなものですな。だが、それだけでは、理由になりますまい。」

ハンニ老は、イルムに目をやり、再び言葉を求める。

「その騎士のひとりの正体が、ふたりの契約妖精の変身した姿だったのです。」

「そしてその正体は、!!」

その場にざわめきが走る。

「バ、バカな。教国の首席最高枢機卿のもとに、あのアピスがいたと言うのか!?」

リント將が、椅子から立ち上がり、大声をあげる。

「教皇猊下げいかも、私も、暗黒の妖精ラティスさんから聞かなかったら、
今の話は、悪質な嘘だと思ったでしょう。」

モクシ教皇の気持ちを忖度して、カシノ教導士が冷静に答える。
イルムは片手をあげ、ざわめきを静め、続きを語る。

「そして、1000年ぶりに現れた暗黒の妖精アピスは、
同じ暗黒の妖精のラティスさん、白光の妖精のラファイアさんを相手にして、
余裕で、その魔力ちからを、いなしたとしか思えないふしがあるのです。」

イルムの言葉に、大天幕の中は、静寂におおわれた。
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