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ⅬⅩⅩⅩ 水面下編 前編(2)

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第1章。ラファイアさんのぼやき


 ≪ほう、やっと出てきたか。≫

あら、あら、やっぱりバレてましたね。けど、仕方ないでしょうね。
ラティスさんの魔力の伝播でんぱは、超上級以上の力がある妖精にとって、
喧嘩けんかを売られているようなものですから。
しかし、リーエさんは、いつもどう受け流しているんですかね。
エレメントの違いですかね?いえ、いえ、根本的にあの妖精ひとは、鈍いんでしょう。
私が、過敏すぎるわけじゃないはずです。

≪あんた、かぶとぐらい外しなさいよ。≫

あれ、ラティスさん、この妖精ひとのこと、本当に分からないんですか?
この粘着ねんちゃく性のある魔力の伝播、あなたと同じエレメントでしょう。

≪まさか、本当にわからないのか?≫

そうですよ、この妖精ひとは本当にわからないんですよ。
『私は、過去に縛られない。』なんて言ってますけど、
だいたい、都合の悪いことは、全く覚える気はないでしょう。
けど妙な事だけは、しつこく忘れないんですよね、このお方は!

ラティスさん。兜からたなびく、黒緑いや黒碧色の妖しいまでに美しい髪、
だとしたら、あの妖精ひとしかいないじゃありませんか。
星々さえ凍てつかせる冷たさの中に、天さえ燃やし尽くす闇の光をまとう御方。
1000年以上ぶりに、こちらの世界に顕現けんげんされていましたか。

だとしたらラティスさんのことだから、宿命の戦いとか、ともに天をいただかずとか
ひとり盛り上がるんでしょうね。

ムッ、ふたりとも、姿が消えました。白銀の光芒が・・・、始まりましたね!


・・・・・・・・


≪いい一撃を、浴びさせてくれたじゃないの。≫

え、ラティスさんの表情がゆがんでいます。
今の攻防、相討ちで、互いの威力を打ち消し合ったかと思いましたが。

≪あんたもね、ラティス。≫

なるほど、かわりに兜を破壊したという事ですか。認めたくないですが、
ラティスさんはやはり、極上級の魔力使いですね。

≪あんたとの記憶は、私の魔力で、全五感から消去したはずだったけど。
 その顔見ただけで、すべてがよみがえったわ。一瞥いちべつ以来ね、!!≫

そうでしたか、ラティスさん、魔力で記憶を操作していたんですか、なるほど。
けど、アピスさん以外の記憶の話は別でしょう。

≪お前みたいな。いつでも、滅し去ることはできる。
 自分の存在が惜しければ、尻尾をいて逃げれば、ラティス。≫

う~ん。なんて耳障りの言い言葉ですか。いい仕事ぶりです、アピスさん。

≪ひとつだけ聞くわアピス。私の仲間のノマを討ったのは、アンタ?≫

≪仲間?暗黒の妖精は孤高のいただきにあって、輝くもの。
 前々からそうだったが、そこまで堕落だらくしたのラティス!≫

ラティスさん、ルリさんを助けるためじゃなくて、ノマさんの仇討に。
それだけはだめですよ、妖精界の掟を、破るつもりですか。
それをやってしまったら、私やリーエさん、ルービスさんも
ラティスさんを本気で、滅しにいかなくてはならなくなります。

・・・・・だめですよ。なんとかして、止めなければ。・・・・・


・・・・・・・・


クッ、二人とも、なかなか、動きませんね。いえ、動けませんか。
今、魔力ちからの緊張の限界で、互いに凌ぎ合っているからですね。
だけどもう、互いに互いの間合いの中にあるのは、分かっているはずです。
ラティスさんとアピスさんの間に、どう入るか・・・・。


刹那せつな、ふたつの巨大な魔力がぶつかり合う。
ラファイアの力をもってしても、ふたりの暗黒の妖精の仲裁ちゅうさいに入るのは
不可能だった。
白銀の輝きが、この世界を包み込んでいく。
瞬時、アマト、ルリの周りにも、多面体立体障壁を構築する、ラファイア。
だが、その姿は消えていく。


第2章。星辰(3)


 アマトは、ラティスとラファイアに、睡眠中に強引に拉致され、
ルリと黒ずくめの騎士の立ち合いの場に、ほうりだされたあと、
ラティスとアピスの暗黒の妖精の頂上決戦?に巻き込まれ、
光りに満ちあふれた空間に跳ばされている。

「なんか、妖精契約の空間に似ているところだな・・・。」

とひとり言をつぶやきながら、長い間、体も心も浮遊していた。

「やっと、見つけました。アマトさんも精神感応できれば、
こんなに苦労しないんですが!」

ふいに、ラファイアのいつもの声が、アマトの耳をうつ。

「ラファイアさん、ルリさんは?ラティスさんは?」

それに対して、悩みながらも、真摯しんしにラファイアは答える。

「ラティスさんは、ほっといても平気でしょう。
最悪な結果が起こっていたら、ラティスさんの支配下にあったエーテルが暴走し、
私もさすがに、アマトさんを助けることは出来なかったと思いますし、
そう、ルリさんは元の空間に、ね返されたみたいです。」

「じゃ、ぼくらも一刻も早く戻らなければ・・・。」

次の瞬間、アマトに白銀の電光が襲い掛かる、それをいとも簡単にラファイアが
白金の大盾を構築させ、受け止める。
しかしその魔力の振動は、空間をゆがめ、結果、彼方かなたに二つの人影を現わさせる。

「レティア、不意をついて、思いっきりぶっ放すなんて、なんてはしたない。」

「淑女にあるまじき、行いですよ。」

彼我のへだたりが相当あるはずなのに、なぜか悠々ゆうゆうとした声が空間に響く。

「義兄上、あの暗黒の妖精と一緒に来た奴ですよ。」

「それに、ブーリカたち4人を討った奴かもしれませんし。」

今度は、若い女性の声がこだまする。

「レティア、あなたにも、見えないかもしれませんが、あなたの一撃を、
いとも簡単に無効化した妖精ごじんが、たぶん向こうにいらっしゃるはずです。」

「だとしたら、この数日の流れを考えれば、もう一つの考察ができませんか?」

「まさか・・・、白光の妖精・・・聖・・・ラファイス・・・様・・・?」

最初の一撃を浴びたものの、彼方での義兄妹のやりとりがはっきりと聞こえ、
毒気を抜かれたのか、ラファイアも困った笑顔で、アマトを見返る。
無論、それはアマトの肉眼では見えてなかったが。

「ラファイアさん、攻撃は少し待ってくれないかな。」

アマトは、光折迷彩を解かずに構える、ラファイアに語りかける。

「向こうさんは、口喧嘩くちげんかしてらっしゃるみたいですからね。」

向こうのふたりも、アマト達の会話が聞こえたのか、流石さすがに驚いて
こちらを見ている。

「勇士殿、こちらの声が聞こえていらっしゃいますか?
わたしの名はカウシムと申します。武国の元第三王太子です。」

「義兄上、あのようないやしき者に、自らお名乗りになるとは・・・!」

ひかえなさい、レティア!」

『あなたの肉眼には、情けない顔の若者がいるようにしか
見えないかもしれませんが・・・・。』

『私の推察では、彼は、暗黒の妖精とたぶん白光の妖精の両方の契約者、
そう、人間の歴史には、出現してはいけない怪物が、
そこにいるんですよ。』

とカウシム元王太子は、自分の洞察に、生まれて以来最高の緊張と警戒を伴って、
心の中でつぶやいていた。
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