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ⅬⅩⅨ 使嗾編 前編(1)

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第0章。餞別せんべつ


 暗いうちから、多くの人が、ある者は鉄馬で、ある者は鉄馬車で、
またある者は徒歩で、アマト達の居館の前を通り、帝都の正門へ向かっていく。
帝都を離れる人達だが、少し前まで朝の曙光しょっこうがささないうちに、
帝都の中を歩くのは、自殺行為と言われていた。

だが、ラファイアとその分身体、リーエのによりそれは劇的に
改善され、特にアマト達の居館の周囲は、ラティス様の絶対治安地域と陰で
呼ばれるくらいに、帝都内全体も含めて治安は改善されている。

「遅いわ、ラファイア。ルリもノマも、もう出掛けるところよ。」

空間を光らせ現れた、ラファイアとリーエそれに自分の姿をした蜃気楼しんきろう体に
ラティスが怒りの声をあげる。

「すいませんね。今だにをする人たちがいらっしゃたので、
仮称ラティス様の、魔力使用の調節の練習を兼ねて、遊んでいました。」

「さて、仮称ラティス様は、誰に似たんでしょうか、すぐに帝都ごと
吹き飛ばすような魔力を使用されようとなさるので。
ただあと1、2日で、抑える事を覚えられると思います。」
 
笑顔でラファイアが答える。仮称ラティス様はそれを恥じてか、うつむいている。

「もういいわ。おまえが頭を下げると、なんか私が悪い事を
しているみたいだわ。」

ラティスは、きびすを返し、アマトの方に振り向く。

「ところで、アマト。頼んでいたものは持ってきた?」

「ここにあるよ、ラティスさん。」

ラティスは、アマトからそれを受け取り、ノマに声をかけ自ら手渡す。

「ノマ、餞別せんべつよ。貸してあげる。」

ノマは、剣をさやから払い確認し、剣の正体を知り、固まってしまう。

「聖剣エックスクラメンツ!!これはいくらなんでも。」

ラティスは、驚愕きょうがくするノマをにらんで、言葉をかける。

「ノマ、あんたの瞳に、死ぬ覚悟がみえるわ。馬鹿らしい。
どうせなら、ってでも生き抜く覚悟をしなさい。」

「そして、必ず生きて帰って、あんたの手でセプティに返すこと。
あんたも、ここの仲間の一員だからね。」

「仲間!?・・・わかりました。」

ノマの目に光るものが浮かんでいる。


・・・・・・・・


 それを目の端にとらえながら、ルリはキョウショウの言葉に答えている。

「ルリ、その服の上下、マントの表地は迷彩色で、裏地は濃黒茶色よね!?
ということは傭兵希望者として、ムランに入るの?」

ルリは自分の上下をつまらなそうに確認して、キョウショウに返事をする。

「暗黒の妖精に対峙するため、ムランでは上級妖精契約者以上の傭兵を
極秘で募集しているというのを、テムス経由で確認したからね。」

「ただ、国家としてではなく、各最高枢機卿すうききょう家個々として募集しているのが、
あの国の限界。せっかく兵職分離を徹底しているのに。」

嘲笑ちょうしょうまじりに話すルリに、キョウショウは、

「香茶の商人として教都に入り、火を放ち武国の将軍を害した暗殺者の
するかと思っていたわ。」

と、この場とルリの緊張を和らげるためか、冗談口を叩く。
それに対しルリは、片目でにらみ、

?同じことを二度すれば悟られるし、
普通の警備機関なら、対抗策もとられているだろうし。」

と、ポツンとつぶやく。それにあきれたような目でイルムが、横から話に加わってくる。

「なんか、現代の歴史のに、ルリの影ありという感じね。」

「それに、キョウショウ、ルリに、事に当たっての緊張なんて言葉はないわ。」

イルムは、キョウショウの想いを心地よく感じながらも、笑みを消し
話を続ける。

「最終の確認をするけど、今回は教皇猊下のとらわれている場所の特定が第一義。
そして、各最高枢機卿の金庫の位置の特定が第二義。」

「双月教会は妖魔さえ手の者として使っていた、深くつつけば何が出てくるか
わからないから、絶対に無理はしないで。」

冷徹な暗殺者の表情がルリの顔にうかぶ。

「わかっている。無理はしないわ・・・。」

そう答えるとルリは、ノマを振り返り、声をかける。

「ノマ、行くわよ。鉄馬の用意はできてる?」

最後にキョウショウとイルムは、無言でルリと拳をあわせる。
その部屋にいる、全員の真摯しんしな眼差しを背中に受け、
傭兵志願者の雰囲気をまとい直したふたりは、
マントを翻し、教都へ足を踏み出した。


第1章。出立


 たった今、帝都の側門を抜けた。ツーリアさんを通じて、話がいってたらしく
深夜にもかかわらず、テムスの帝都警備隊から誰何もされず、
何の障害もなく通過できた。

僕達は二台の鉄馬車に別れ、教都ムランを目指して行く。
前の鉄馬車には、僕とラティスさん、イルムさんが、
後ろの鉄馬車には、ユウイ義姉ェ、エリース、セプティ、フレイアさん、
そしてツーリアさんが搭乗とうじょうしている。

「だいたいなんで、私が深夜に出発しなければならないのよ。」

と、ラティスさんが、暗黒の妖精らしからぬ、文句を言っている。

 それは、創派の村からのサニーさん、サーレスさんの兄弟一行の到着が、
昨日の朝方に遅れたため、帝都に残るエルナさんや創派の人達、
今回の件に協力するテムスや学院の人達との必要な打ち合わせが、
昨日の深夜までかかり、
よって、キョウショウさん、グスタン將、ハンニ老そしてアストリアさんの
創派の村への出立が、今日の夕方になってしまい、

最終的に、僕たちの出立は、当初の予定の1日半遅れとなってしまった。

 進む馬車の中に、光がふくらみ、光の粒が舞い散る。
スッキリした顔のラファイアさんが、空間をらしながら現れる。

「仮称ラティスさまの調整がなんとか間に合いました。この1日半の遅れは、
言い換えれば、帝都の護りを、強固なものとしたはずです。」

胸を張る、ラファイアさん。ぼくは、ゆっくりと口を開く。

「ラファイアさん、おつかれさま。」

僕の言葉に、ジーッと、ラファイアさんが見つめ返してくる。

「あのアマトさん、私ここに転移してきたんですよ・・・。」

「?」

なぜか、ラティスさんが、ラファイアさんを可哀想な目で見ている。
一拍おいて、僕に向き合い、

「アマト、私の障壁を突破してこの場にきたのよ。白光の妖精の魔力ちからが、
凄いでしょうと、思われたいのよ。」

と、ラファイアさんの不機嫌な笑顔の意味を解説してくれる。
そして、ラファイアさんに向かい、

「けどね、ラファイア。私たちの契約者は、エリースが指一本分髪を切っても
気付かないのよ。アンタの、ざ~とらしい笑顔の違いに
気付くわけないでしょう。」

「は~。そこまでですか。アマトさん、それは鬼畜のレベルの鈍感さですね。」

「アマトさん、仮にも私たちと契約しているんですよね?」

あきめなさい、ラファイア。」

「暗黒の妖精さんは、心がはがねでできてるからいいでしょうが・・・。」

「何か言った?双月教より先に、アンタとケリつけてもいいんだからね。」

やってしまったと落ち込んでいたら、ふたりの妖精の顔がゆがみだした。
あれ?おかしいと考えようとしているうちに
光も音も消えていく・・・・。


☆☆☆☆


 「アマトの意識を飛ばして、どういうつもりラファイア?」

腕と脚を組んだ姿勢のままラティスは、ラファイアを片目で睨みながら
問いかける。

「人間に、いえアマトさんに、聞かれたくない話をしたいからですよ。」

「無視してもよかったんですが、どうしても気になりまして。
ラティスさん、どこまで、係ろうと思っているんですか?」

ラティスはその姿勢を崩さず、無言のまま、ラファイアを見つめている。

「向こうの世界で、大半の妖精が、こちらの世界のありさまを知り、
侵略し、人間の言葉に直すと、『家畜とすべし。』という考えに、
一本化になろうとした時、ラティスさんは、断固反対なされた・・・。」

「当然よ、それはあまりにも図々しすぎるわ!」

その時の事を思い出してか、ラティスの瞳に、怒りの色が浮かぶ。

「しかし、異能の妖精の反対は、ひとりでも、力の均衡を崩しますからね。」

「だから、ラファイス、アピス、ルービス、クリスタ、エメラルア、〇△×□、
異能の妖精たちは、少なくとも反対の意思を表さなかった・・・。」

「あの時、討っ手として来たのが、アンタだったわね。」

「私も旗幟きしを鮮明にしなかったので、踏み絵を踏まされたんですよ。」

その時の苦悩のせいか、ラファイアの笑顔がゆがむ。

「けれど私は、お話合いに行ったつもりですが。」

「は!?最初から、魔力ちからをぶっ放したのは、誰だったけ。」

「あの時は、魔力こぶしで語り合ったつもりでしたけど。」

「それにそんなかわし方では、この話、誤魔化されませんよ。」

ラティスは沈黙し、目を閉じた。

「今もその思いに変わりはないわ。」

「普通の妖精にとって、人間と同依どういする事によってより簡単に、この世界の
エーテルを得られることになった。」

「人の一生に付き合えば、その3倍の時間は私たちの世界に戻っても、
消滅しないぐらいにはね。」

ラティスは、一瞬、暗黒に沈み込む。

「それは人間に・・・こっちの世界に・・・失礼ではなくて。」

「少なくても、私たち妖精と共存することによって、人が人として
進化のきざはしを昇る、一助にはならないとね・・・。」

「ククク・・・。よくも思ってもいない、高尚こうしょうな建前を語れますね。」

ラファイアの全身が光に包まれ、光の粒が馬車の外にも広がっていく。

「ラティスさん、本音を語ったらどうです。アマトさんが好きで好きで
たまらないからでしょう・・・。」

「悪い!」

「そう私は・・・、アマトの死と共に消滅してもいいと思っているわ。」

ラティスの顔に、何とも言えない表情が浮かんでいる。

「けど、アマトさんとラティスさんだけが次の世界に行ったら、
アマトさんがかわいそうです。その時は私も行きますから。」

「は?アンタには生き残って、暗黒の妖精の物語サーガを、
ふたつの世界で、詠ってもらうつもりだからね。」

「いやですよ。それは、リーエさんにでも頼んだらいかがです?」

「・・・・・・・・。」

ふたりの妖精の優しい眼差しが、アマトに注がれる。
知ってか知らずか、イルムの操る鉄馬車が、闇の中を駆け抜けていく。
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