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ⅬⅩⅧ 欺罔編 後編(2)

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第1章。教皇の捕囚計画(2)


 アストリアは、イルムに教皇の捕囚計画として3案を提出している。

「3案つくりましたが、最良はこの1案でしょうか。」

イルムは、3案を一通り確認して、戦略学のノープス、帝国史学のタレラ両講師の
助けがあったとしても、このレベルに仕上げた、アストリアの才幹に
満足している。
彼女自身も7案ぐらい用意していたのだが、彼女の最良と思う計画も、
細部はともかく、アストリアが示した計画に、ほぼ一致していた。

しかし、それでもアストリアの思考を確認してみる。

「ヨッシャの平原に、キョウショウに率いられた創派400の兵を
配置するとして、なぜ教国軍が教都を出て対峙してくると考えたの?」

「教国の教義自体と、思い込みですね。」

つまらさそうに、アストリアは語る。

「千年前の大乱において、教国軍は帝国の支援があったにも関わらず、
オフトレと暗黒の妖精アピスに、ヨッシャの平原で壊滅かいめつしてます。
その地に、現在の暗黒の妖精であるラティスさんが陣を引けば、
出てこざるをえないでしょう。」

「彼らは、白光の妖精ラファイスとその契約者が再臨し、今度こそ
暗黒の妖精とその契約者を討ち、神々の栄光をこの世界にもたらすと
800年間説いてきましたからね。」

「しかし、白光の妖精の象徴の一つ、【ラファイスの禁呪】はこともあろうに、
現暗黒の妖精の契約者であるアマト君によってなされた。
そして、その聖ラファイスも、現暗黒の妖精ラティスさんとの闘いを避けた
というのは、人々の言の葉になっていますから。」

そのうえで、アストリアは話を繋ぐ。

「イルムさんからお聞きした、彼らが暗殺者を送ってアマト君の暗殺に
失敗したのが事実であるのなら、なおさらでしょう。」

「次の教義書には、『白光の妖精は予言と違い顕現けんげんしなかったが、
自分達の手により、暗黒の妖精とその契約者はちゅうされた。』とでも、
記したいでしょうから。」

イルムは、後継者になり得る人物に出会えた僥倖に感謝しつつ、
あえて、また質問を重ねる。

「しかし、あなたが予想しているように、教国は総力をこの一戦に
かけてくるでしょう。恐らくは、4百対3万いや、4百対4万の対峙に
なるわね。」

「だからこそ、ラティスさんを中心にした奇襲隊で、簡単に教都ムランから
教皇猊下げいかを、奪取出来ると思います。」

「しかし、4万人と会敵した4百人は壊滅かいめつの可能性もありますよね。」

「あの平原の地形、会敵する時期の気候からいうと、兵法書通りの鶴翼の陣形
をとってくるでしょうから、こちらは兵法書破りの鉄弓の陣形をとり
さも、全部隊を殲滅せんめつできるのだとの、ハッタリをかけ、
にらみ合いの状況を作り出します。」

「教国の戦士は、傭兵を含めてほとんどが、兵職分離された者ですが、
最大の長所、いつでも が、逆に思考のかせになります。」

「名付ければ空虚陣の計ですか、ならば陣の基点は当然?」

「はい、ラファイアさんにお願いできれば、いやラファイアさんでなければ
成立しないと思います。」

「ラファイアさんの膨大ぼうだいな魔力と、分身を生み出す能力を使うわけね。」

「その後は?」

「教都ムランが落とされたとなれば、動揺が走るでしょう。兵職分離された者は、
直接の忠義を尽くす相手は、金銭でしょうから。」

「ムラン撤退時に、公個人の宝庫を破壊または回収。教国軍のうちの傭兵部隊を
瓦解がかいさせるため、コウニン王国方面へだけは、退き口を閉めなければ、
と思います。」

「空虚陣の計をもっともらしく見せるために、テムス大公国が後詰でくびきの陣立を
してくれれば、完璧に近づくわね。」

ふたりの軍師は細部を詰めていく、それはあたかも、ボードゲームの達人たちの
読み合いにも思えた。


第2章。ラファイアの旋律


 ラファイアはナフ副司祭との会合のあとから、昼間用がない時は、
双月教の教会に入りびたっている。
帝都のなかでも、ラファイアの本来の姿でいられる場所は、そう多くない。
ラファイアは、アマトに変化して決闘を行った際、【ラファイスの禁呪】を
成し得たあとに、自身の姿を顕現けんげんさせている。
その後、あのような光景を体験したら・・・。
めんどくさい事は避けたい、自由と倦怠けんたいを愛する白光の妖精さんである。

ここなら、万が一他の人間に見られても、聖ラファイスが御降臨こうりん
(ラファイアから言わせれば光臨)されたと言う事で、誤魔化ごまかしがきく
というのが理由らしいが、自分の障壁をかいくぐって接近し、
のぞき見る事のできる者など、この世界にそうはいないだろう
という事の思いにはいたらない、そのへんは、ちょっとかわいい妖精さんでもある。

ワザク枢機卿は暗黒の妖精との因縁というより、聖ラファイスへの信仰から、
ギミヤ司祭補は日常教務によりかかわる事すらできず、
ラファイアのお相手は、自然とヨスヤ教導士に、一任されることになった。

ラファイアも手ぶらで、来訪しているわけではく、帝都の裏の街の方々から
届けられた、大量の高級香茶の詰め合わせを、寄進という名目で持ち込み、
ヨスヤ教導士にれてもらって、愛飲させてもらっている次第である。

・・・・・・・・

 ラファイアが動くごとに、白金に背光の一部が虹色に変化し、
更にその光は、49色の光の粒に乖離かいりし、周辺に拡散する。
ヨスヤ教導士は、その姿を見せられるたびにに、古くから言われ続けてきた、
白光の妖精とは、神聖と神秘の頂点に君臨するものというのが、
実感として理解させられている。

たが、彼女にもわかってきている。白金の光は、何者も並び立つことを許さない、
孤高の輝きだと。眼に写るその御姿は、信実の存するところとはいえず、
むしろ暗黒の妖精に匹敵する、満天から降り注ぐ滅びの力の化身とさえ、
感応させられていた。

一瞬にして、光砂にされるかもしれないという恐怖をおして、目の前に鎮座ちんざする
そら美しい人外じんがいに、ヨスヤ教導士はたずねてみる。

「ラファイアさま。ナフ副司祭が申したように教皇猊下はとらわれの小部屋に
幽閉させられていると、お思いでしょうか?」

ラファイアは優美に首を傾げながら答える。

「副司祭さんが、あの場で嘘の話をする意味はないでしょうからね。」

「彼の人は、アマトさんに手をかけようとした双月教国に、ラティスさんが
激怒して、教都ムランを、1000年前、暗黒の妖精アピスが
凶行した以上に、流砂と化させることをお望みのようでしたから。」

さらにヨスヤ教導士は、誤魔化すのをやめ、ラファイアに心情を尋ねてみる。

「ラファイアさまは、教皇猊下げいかを捕囚するだけで、我々をお許しに
なるのですか?」

「ヨスヤさん、私は慈悲と博愛の妖精ですよ。アマトさんをかなしませない限り
アピスやラティスさんのように、振る舞ったりはしませんよ。」

「事実、ここでまったりして、香茶をいただいているわけですし。」

「それに、私にとっては、双月教があってもなくても関係のないことですしね。」

ヨスヤ教導士は安堵あんどして、次の香茶を白光の妖精に差し出す。

「しかし、ヨスヤさん。私ができる、究極の慈悲と博愛は、すべてのものを
光砂に変えて、あなたのいう神々の御許に、お届けする事かもしれませんね。
私が奏でる光の世界は、争いもいさかいも、生きる苦しみもないのですから。」

そういうラファイアの顔には、神々しいばかりの微笑みが浮かんでいた。


第3章。ラティスの箴言しんげん


 「い、や、よ !」

 教皇の捕囚計画について、微に入り細を穿つ説明をアストリアが、集まった
全員にしたのだが、ラティスに一言のもとに否定されてしまう。

「アマト、あんた意味わかってて、うなづいているの!」

その剣幕に、名指しされた妖精の契約者は、驚いている。

「つまり、アマトさんには、第2のオフトレになる覚悟があるかと
ラティスさんは言っているんですよ。」

いつもの笑顔でラファイアが、自分の妖精契約者でもあるアマトに助けを入れる。

「無論、アマトさんの覚悟があれば、私は4万の兵と遊んでも構いませんよ。」

「遊ぶって、ラファイア。あんた、なにを考えてるの。」

「いや~。たぶんラティスさんと同じ事ですよ。」

「ラファイア。この地上で、そんな事をしていいと、思っているの!?」

いつものようにやり合う、二人の妖精を横目でみながら、
エリースは、自分の契約妖精である、リーエもわくわくした顔で話を
聞いてるのを見て、私も一緒に遊びたい ポーズをとらないうちに、
話を強引にそらしにかかる。

「ラファイア。そういうことなら、義兄ィを殺略者と呼ばれないようにする、
別の対案を考えているんでしょうね?」

「当然ですよ、エリースさん。」

白光の妖精ラファイアは、胸を張って、話し出す。

「帝都から一直線に教都ムランに向かい、
魔力結界とか魔力障壁とかあるでしょうけど、外周壁の横っ腹に私が
穴を開けますので、ラティスさんが、騒ぎを教都の街中で
起こされているうちに、67世のをかっさらって戻ってくれば、
いいんじゃないんですか。」

『ラファイアさん。それって、何の策もないということでしょう。』と思うも、
いつものように沈黙を強いられる、ふたりの妖精の契約者のアマトである。

「異議があるわ!」

ラティスが声をあげる。

「え、という事はラティスさんにも考えがあると言う事ですか?
明日は氷雷の天気になりそうですね。」

「ラファイア、あんた喧嘩けんかうってるの。だいたい、なぜ暗黒の妖精である私が
教都の裏口あたりから、こそこそ潜入しなければならないのよ。」

「私なら、入るわよ。あとは勝手に向こうの方で
騒いでくれるでしょうが。」

「そこですか・・・。」

残念そうな笑顔で、黒の妖精を見つめる、白の妖精さん。

「ラティス、普通それを、何も考えていないというんじゃない。
ま、多少なりとも答えを期待したラファイアが、
バカだったという事ね。」

香茶を飲みながら、平凡な容姿の少女が口を開く。

「ところでツーリア、なんで当然のようにいるのよ。これはテムスには
関係ないでしょう!」

「魔の山の騒ぎに、無理やり巻き込んだのはだれ?それは忘れたとは
言わせないわよ。知らんふりしていたら、いつまたなにをさせされるか
わからないからね。
共に憂うるが、今日の会合を教えてくれたのよ。」

その答えに、超上級妖精のリーエが、目だけではなく顔も背けている。
なにげに、皆さんに迷惑をかけている暗黒の妖精さんである。


☆☆☆☆


「で、アストリア。このラファイアさんの案では、私たちは何をすればいい?」

創派の將として、キョウショウが尋ねる。

「遠慮なく言ってもらって、結構ですからのう。」

助言者的立場で参加したハンニ老が口をはさみ、同席していたグスタン將も
うなずく。

「この場合、撤退のほうが難しいですから、それを助けなければなりません。
追加の一撃があるようにみせかけるため、撤退時に合わせて教都へ進軍、
ギリギリのところで反転する行動を、お願いしたいかと。」

「だったら、そちらの方の軍師は、アストリアがいいわね。」

それまで、ほとんど無言を貫いていたイルムが、口を開く。

「それは?冷徹な判断は、イルムの方がいいだろう。実戦の経験もあるし。」

「それはダメだキョウショウ。私は最終最後で熱くなるくせがある。大乱の際は
上手くいったけど、それがいい方に転がる確率は低いわ。」

「そう、創派は絶対に直接参戦してはいけない。話が大きくなり、和平交渉に
持ち込む機会がなくなるからね。あくまで姿を見せるだけにしないと。」

「向こうにも、先のみえる人間はいるだろうし、ただそれを使いこなせる
將がいるかどうかは、わからないけど。」

他に思いをせたいのか、イルムは口をつむぐ。

「わかりました。では奇襲に参加するのは、ラティスさんにラファイアさん
アマト君にエリースにリーエさん、そして指揮はイルムさんが。」

「ルリさん、ノマさんは先行して、教都に潜んでもらって。
フレイアとエルナはこのまま帝都に残ってもらうわ。
テムスや学院との連絡、セプティやユウイさん、カオ・ルーの警護を。」

「キョウショウさん、配置はこれでどうですか?」

「それで構いません。このところで皆さんお願いします。」

そこにいた全員が、無言で同意したかにみえたその時、

「いや待って下さい。私も同行いたします。皆さんだけを危ないところに
行かせません。」

と、セプティが急に椅子から立ち上がり、声をあげる。
驚いてエリースが、セプティをたしなめる。

「セプティ、あなたは新帝国の皇帝にならなくてはいけないの。
あなたの死は、創派1万の人達の希望をむわ。」

「けど、エリース。皆さんが帰らなくなっては、そんな事、絵空事に
なってしまうでしょう。」

「だけどセプティ!」

エリースとセプティ、ふたりの間に緊張が走る。

「わかったわ。私が皇帝あなたを護衛してあげる。」

「ツーリア!?」

「テムス大公国の傀儡かいらいとしても、他2大公国への緩衝かんしょう材としても、
皇帝あなたは必要だからね。
ルービス様・ファウス様も、ダメとは言わないでしょう。」

「しかしね・・・。」

複雑な表情でツーリアに向かい合うエリース。

「それに、初めてできた友人を見捨てるのは、人間にならできても、
私にはできないわ。」

『しかたないな。』という暖かい空気が、その場を支配する。

「だったら、私も同行していいかしら。一回は教都に行ってみたいと
思っていたわ。」

「ユウイ義姉ェ。それはいくらなんでも・・・。」

ユウイの言葉に、今度ばかりは、エリースもあわてる。

「あら、ラティスさんのお願いは良くて、私のお願いはダメなの?
それはおかしいと思わない?」

「ねぇ、ラティスさん。」

ユウイは、ジッと暗黒の妖精をにらんで、微笑んだ。

「私は、提案者のラファイアがいいと言えば、別にいいわよ。」

「ふぇ~。」

急に、ユウイを押し付けらたラファイアは、奇妙な声を上げた。



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