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ⅬⅩⅣ 欺罔編 前編(2)

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第3章。聖剣エックスクラメンツ(3)


 まずは、学院生が、剣組と矛組に分かれて、金属柱の試し切りとか、
己の魔力の発動を試してみる。

確かに、本人が持つ能力以上の魔力放出や、特に上級妖精契約者が使用すると、
刃面が光りをまとい、凄まじい切れ味が学院生レベルでも発動するのもわかったが、
反面、使用者の疲労感は半端なく、中級妖精契約者の学院生では、使用後は
大半のものが座り込み、肩で息するありさまだった。

学院生の最後に、フレイア・アストリア・エレナの三人が挑む、
凛々りりしい立ち姿に、観客からため息がもれる。
剣技は勇壮にして可憐。特にフレイア・アストリアの剣や矛が動いた後には
刃先の光跡が、美しい模様を描き、金属柱をなんなくスパッと切り落とす。
魔力放出による破壊には、最上級妖精契約者なみの一撃が、大気を鳴動させ、
的は完全に破壊された。
しかし美しい舞姫は三人とも、

「「「これは、自分の理性が保てないわ。何だか狂戦士化するみたい。」」」

といって、再度の剣技要求の拍手が鳴りやまなかったが、
二度目は触ろうともしなかった。

学院の講師も挑戦、ジンバラ老らの動きは流麗で、さながら剣舞のようで
見つめる観客達は、その美しい動きに、目を奪われた。
金属柱は何の抵抗もなく切り落とされ、光跡は雷光を呼び、
聖刃から放たれる一撃は、魔力障壁さえ突破し、台ごとまとを消滅させた。
そのすごさは、剣や矛が終動の位置に戻っても、しばらくは沈黙が支配し、
そのあと大歓声と拍手が巻き起こる、ありさまであった。

 夕食の時間が近づいて、パラパラと子供たちが帰っていく。
興味本位で集まってた人々もそれを機に、三々五々自分のいるべきところに
戻りだした。
ジンバラ老ら3人は戻る前に、ラティスの方に近づいてきて、口を開く。

「名誉学長殿、この剣はいかん。我々のような者でも、最上級妖精契約者以上の
魔力を発揮できる。たぶん、エテールを何らかの形で集結させているんだと思う。
しかし、超強力な剣は、絶対に力が持つ暗闇の世界へ、持ち主は魅了される。」

「2世陛下が、【平世の奸剣】と喝破かっぱされたのもわかる。
これは、戦を呼び込むものだ。生半可なまはんかの者では、
剣に使われてしまうだろう。」

彼らの後ろで、剣と矛の刃面が妖しく光っている。

・・・・・・・・

 鼻歌を口ずさみながら、ラファイアが聖剣に近づく、そして触れもせず
ジロジロとつかの部分をなだめる。

「ははは、見つけましたよ、ラティスさん。アルケロンじるしですよ。
ほらここ、ここ。」

ラファイアが、柄の部分に、白金に輝く小さな魔法円を構築し、
魔法式を浮かび上がらせる。

「なに、ラファイア、アルケロン印!なるほどね。」

「なにかしらの魔法式が組んであるとは、想像してたんですが、
ラティスさんのような性悪な魔力の発現法、どうにもおかしいでしょう。
だけど、これだけのいろんな人が試してくれたので、私の目を誤魔化ごまかすことが
できなくなりましたね。」

ラティスの頬がヒクヒクと動いている。アルケロンの名に余程よほどの思い入れが
あるらしい。ラファイアにさり気なくディスられているのに、
気付いていない。

「ラティス、アルケロンって?」

ツーリアが、無邪気にたずねてくる。

「あんたの本体のゆがみねくらが、ラファイアを『顔も見たくない。』って
言ってたでしょう。」

自然なラファイアへのディスりか、記憶の改ざんか、初めに言葉を置くラティス。

「私にとって、アルケロンは顔を見たら、ぶっ飛ばしてやりたい相手なのよ。」

「アルケロンに関して言えば私も同じ意見です。」

めずらしく、ラファイアも同意する。

「あいつ、こんなブータれたもの、仕上げていたのね。」

ラティスの目が聖剣に光る。聖剣の刃面の光が無くなり、刃面に大粒の水滴が
浮かんでいる。

「私も試してみたい、セプティいいかな。」

背後の妖精と妖精もどきのやりとりを知らないルリが、お気楽に声をかける。


第4章。聖剣エックスクラメンツ(4)


 先ほど、ラティスに文句を言ったものの、エリースも矛を持って闘技場に
立っている。
ルリは剣。ふたりがゆっくりと始動をおこなう。すぐに速度が上がり、切っ先が
見えなくなる。
光跡が緑色の雷光を呼び込み、美しい模様を描く。
金属柱は、二つが四つにぎ落とされる。
聖刃から放たれる一撃は、やはり魔法障壁を突破し、台座ごと的を破壊する。

「は~無理、無理。聖剣に心を持っていかれそう。命のやり取りをする場では、
いつもこんなに冷静ではいられないからね。」

大粒の汗を額に浮かべ、ルリが呟く。

「エリース、あんたはどうだったの?」

ツーリアが、エリースに話かける。

「ま、邪魔にはならないってとこかな。」

興味なさげに、エリースが、答える。

「あんたの場合、リーエがいるからね。聖剣の有無で魔力が左右される事は
ないでしょうね。」

あの立ち合い以来、ツーリアも積極的にエリースやセプティと係わり
話をするようになっている。

急に顕現けんげんしたリーエが、そうです私って凄いんです ポーズを決める。

「そろそろ、撤収しようか?」

能天気に、アマトが残っている皆に声をかけた。


・・・・・・・・

「は~!?」

「何を言ってるんですか、アマトさん。」

ふたりの妖精がアマトを睨む。

「え!」

ふたりの妖精がアマトに詰め寄る。アマトは悪い未来しか思い浮かばない。

「これだけの人が、聖剣を試してみたのよ。なぜ『トリに自分が。』って
言えないの。」

「そうですよ、アマトさん。最後にいいとこを見せようとかいう、
気概きがいはないいんですか?」

ふたりの妖精のいつもにない詰め方に、周りは唖然あぜんと見守っている。
さすがに気の毒に思ったのかセプティが、

「あの、ラティスさんに、ラファイアさん。」

と声をかけるが、

「セプティ、あんたも聖剣を試しなさい。」

「そうですね。セプティさんだけにさせるなんて真似は、アマトさんも
しないでしょうから。」

と、墓穴?をほってしまう。

「わかったよ。やるよ、やるよ。」

なぜふたりの妖精が、眉間にしわを寄せて詰めてくるのかわからないが、
取り敢えずアマトは台座の方に向かおうとする。

「ちょっと待ちなさいアマト。」

「アマトさん、ちょっとおまじないをするから、待ってくれませんか。」

とふたりの妖精は、台座の方へ向かい、皆に気付かれないように
エックスクラメンツに、凄まじい笑顔で語りかける。

「アンタ達、元ネタはバレてるんだから、失敗したらわかっているわよね。」

「『お仕置きだべ~。』という言葉、現実に味わいたいですか?」

ラティスは、剣をアマトに。ラファイアは矛をセプティに渡す。
もはや、二つの刃面は蒼白と化し、水滴がボタボタと地面に落ちている。

まずは、セプティが、聖矛を持ち、魔力の発動を試みる。
全く反応しない。
刃面が、橙色に変わるが、何も起こらない。
見かねて、エリースとツーリアが、セプティの元に駆け寄る。
何らかのやり取りがあって、エリースとツーリアが離れる。
刃面が、素色から、再び橙色に変わり、更に真っ赤に変わる。
セプティの周りの大気が鳴き、空間がゆがむ。
やっと、刃先から若干の火花がとぶ。

「やった~。反応してくれました。」

セプティが、飛び跳ねながら戻ってくる。聖矛の刃面は真っ白と化している。

いよいよアマトだ。異様すぎる緊張感がふたりの妖精と聖剣の間に流れる。
アマトが、競技場に立ち、聖剣を両手でかがげる。
やはり何の反応もしない。刃面が素面から、橙色から赤色にさらに真紅に変わる。
大気が鳴き、空間がゆがみ、光が舞い狂う。
しかし、火花どころか、何の魔力の発現も現れない。

「エックスクラメンツ!!」

怒りのあまり、ラティスが大声をあげる。
次の瞬間、音も、光も、空間のゆがみさえ消え、聖剣の刃面は真紅から紫色に、
そして真っ白に変わり、グニャッと中折れした。


☆☆☆☆


 いつぞやのように、黒と白の妖精が夜空に浮かんでいる。
ただ二人とも、見るからに疲れ切っている。
二つの月がなげやりに、くるおしいほどに美しいふたりの人外を、
照らしている。

「ラティスさん、聖剣には私の魔法式も組み入れましたので、
今後は戦いに飢えて狂走するようなことは、ないと思います。」

「・・・・・・・・。」

「どうしたんですか?」

「あのアルケロンよ。あの狂気のオタク妖精よ!あいつのしるしのある剣でも、
火花の一つもでないというのは、どういう事よ。」

「それがアマトさんの、アマトさん所以でしょう。」

「私とアンタよ、妖精界の頂点にいる妖精よ。それに、あのオタクの狂気を
加えても、何も起こらなかったのよ!」

「ラティスさん一緒に、妖精界の笑い者になりましょうよ。」

「嫌よ。その栄誉はアンタに譲ってあげる。」

やれやれという色が、ラファイアの顔に浮ぶ。

「じゃ、アマトさんが亡くなるまで、どこかでふてくされて待っていれば、
いいんじゃないですか。」

「それは、もっといやよ!」

ラファイアは、かすかに笑いながら、この場をしめる。

「だったら、あきらめましょう。」 


第5章。未然の教義書(2)


 その塔の中の一室に続く廊下は、警備が厳しく、毎日のように通う
教導士のカシノでさえ、騎士達に途中何回も検査のため、
持ち物を改めさせられる。
最終の検査場では、女性の騎士により、全裸にされ全身を検査され、
所定の衣服が渡され、やっといのりの小部屋の控えの部屋に通される。

猊下げいか、カシノです。お言いつけの教義書をお持ちいたしました。」

小部屋から、疲れた表情の教皇67世が現れる。
カシノ教導士が、2冊の偽典、〖未然の教義書〗を差し出す。

「カシノ教導士。これです、これです。やはり、教会の大書庫にありましたか。
本当にありがとうございます。」

子供のように喜ぶモクシ教皇に、カシノ教導士は当然の疑問をぶつける。

「なぜ、この誰もが見向きもしない教義書を、お求めになりましたのですか?」

「そうですね。では、カシノ教導士。なぜこの教義書が見捨てられたのかは
ご存じですか?」

「当教会の黎明れいめい期につくられたこの書の内容は、1000年前の暗黒の妖精の
出現を預言していましたが、その前後の出来事があまりにも史実と
異なっていたために、見返られなくなったと記憶してます。」

「書の中身を読まれましたか?」

比喩ひゆ暗喩あんゆや文字遊びが多くて、よくわかりませんでした。」

「そうですか。」

モクシ教皇は少し残念そうにつぶやく。
カシノ教導士は、具体的な事柄を出してみる。

「例えば、暗黒の妖精は、3つの顔を持つとはっきり〖未然の教義書〗に
記されていましたが、どの歴史書にも、暗黒の妖精にそのような外見
だったとの記載はありませんし、その比喩ひゆが意味する事象も
なかったとしか思えません。」

「だったら、こう考えられませんか。教義書が間違っているのではなく、
読み手の解釈が間違っていたと。」

さらに、言葉を続ける。

「この書で唯一はっきりしているのは、暗黒の妖精の出現と双月教の危機です。
しかし、この書のどこにも、暗黒の妖精の出現のため双月教の危機が
引き起こされるとは、記載されていません。」

「≪危機≫というのは、我々が黎明れいめい期に書かれた〖未然の教義書〗の中の言葉
クリーネンを、危機と訳したからですが、私が調べたところ、
当時クリーネンという言葉は、【蘇生】という意味が
一般的であったとという事です。」

「であれば、暗黒の妖精の出現と双月教の蘇生という意味にとれるでしょう。」

モクシ教皇は、そこで一息入れる。

猊下げいかは、この書が、1000年前の事ではなく、今現在を予言していると?」

カシノ教導士は、ハッと気付いたように、教皇に尋ねる。

「この書には、何かの出来事のため教皇のなり手がいなくなり、低き者が
戴冠たいかんするだろうと読める記載があります。」

「それにこの教皇は、2度の捕囚を受けるそうです。」

「失礼ですが、猊下げいかの読み違いというのも、考えられるのではありませんか?」

「そうですね。それも十分に考えられますね。」

モクシ教皇は、あの出来事のあとも、ただひとり側仕そばづかえをしてくれる
カシノ教導士に、柔らかい笑みを向ける。

「それになぜ、2冊も同じ教義書を、お求めになったんですか?」

「もう1冊は、カシノ教導士、あなたに読んで欲しいのです。」

「この書の中に、拝金の国から来て、崩壊して拝金の国ではなくなった
場所に戻るか迷う、教皇の女弟子と思える人の記載もあります。」

「それが、私であると?私は生涯猊下のお側を離れたくありません。」

「そうですか・・・。」

会見に許された時間は直ぐにきて、カシノ教導士は控えの部屋を後にせざるを
えなかった。
そして部屋を後にする、1冊の未然の教義書を持って。
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