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ⅬⅦ 綺想編 前編(2)
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第3章。聖剣エックスクラメンツ
2体1では、どうも分が悪いのと、1つの懸案を解決せねばと、
ラティスは精神感応で、理事長ロンメルにお願いしてアマトとセプティを
呼びにいかせる。
数百拍後、肩で息をしているロンメルが真っ青な顔をして、
アマトとセプティを連れて、名誉学長室に現れる。
「遅かったわね。」
ラティスの非情なねぎらいに、頭から火花を飛び散らせるロンメル。
ふらふらと、学長室を後に出て行く。
「少しは、ロンメルさんを気遣ったらどうです?」
ラファイアが、さすがにラティスの分かり易い八つ当たりに、ジト目で
意見を具申する。
「ラファイア。ちゃんと、私なりに礼は言ったじゃない。」
見事なまでにラティス様になる妖精に、ラファイアは天上を見上げる。
白光の妖精の魔力は、校舎の建物を透過し、天空の姿に目を遊ばせる。
『今日は、雲一つない、快晴ですね。』
現実から顔を背けるラファイア。
その間、アマトとセプティは、長椅子に座りツーリアと挨拶を交わしている。
・・・・・・・・
「あんた達ふたりを呼んだのは、学院内で看過できない事が進行してるの。
セプティ、あんたには学院生の立場からの意見を求めるわ。」
ラティスの畏まった言い回しに、セプティは緊張して、背筋を伸ばす。
「アマト。あんたの事よ。心当たりはない。」
「いや・・・ないけど・・・。」
アマトは不安になって、ラファイアの方をチラリと確認する。
ラファイアの顔にも?が浮かんでいる。
アマトは、自分はラティスさんの契約者と皆に知られてしまったし・・・
と考えを巡らせる。
『旧貴族・騎士達の子弟の新聖会は、事実上解散状態。あと何かあったか?』
考えるが、他に、何も浮かんでこない。
「では言うわ。あんた陰で、レッサーと呼ばれ出しているのよ。」
え、それ何の事。ただの悪口でしょう。アマトは勿論、ラファイアも
セプティも、巻き添えをくったツーリアも唖然とし、暗黒の妖精を見つめる。
「レッサーよ。レッサー。聖剣の一つでも携えて、魔王とか
インペラールドラコ―とかを倒しにいく勇者様みたいな二つ名じゃない。」
唖然の淵から生還したラファイアが、
「いやたぶん、れっとうしゃ(劣等者)を縮めて訛らせて、レッサーと
言ってるだけと思いますよ。」
と、ラティスにモノ申す。
「あまいわよ、ラファイア。語感よ、語感。アマト本人のみならず、
いろんな人が誤解するじゃない。
焼き菓子のオマケみたいなラファイアとのみ契約してるなら
それもいいと思うわ。
世界中の人達も誤解しないと思う。」
「しかしラファイア。私とも契約してるのよ、神聖さと気高さの頂点の
妖精と。」
「アマトを直に見た事のない世界中の人達が、私の姿とレッサーの語感で
創国の英雄みたいな美丈夫を想像してしまうじゃない。」
「それが、全世界から暗殺者を集めている一因よ。」
リーエのように、ポーズを決める暗黒の妖精。
『え、最後のは、とって付けたような理由だよね。』
アマトは、敢えて口には出さず、心の中で思う、
ただ単に、ラファイアさんをデイスりたかっただけの話に聞こえるよね、
ラティスさん。
☆☆☆☆
ここでセプティが珍しく、ラティスに意見を話す。
「でしたら、アマトさんが聖剣の一つでも持っていれば、レッサーの
の二つ名でも、いいんですよね。」
アマトをかばうつもりが、話がずれていくのに、セプティは気付いていない。
「聖剣が、帝国の秘密の地下保管庫にあると、むかし母から
聞いた事があります。」
それを聞いて、さすがにラティスも驚く。
「え、ひょっとしたら、どこかの地下に私の魔力でも察知できない大迷宮があって
ゴブリンレックスとかオーグドミナスとかカリュプスドラコ―とかいて・・・」
ラファイアが、ラティスの言葉に横から割り込み、
「最深層には、4つの醜い顔と6枚の漆黒の羽、3本の尻尾、8本の腕
をもっている、中央広場にある暗黒の妖精の像と瓜二つの、仮名ラティス2
という化け物が、光の妖精である私に討たれるために鎮座しているんですね。」
と、さっきのお返しとばかりにデスってくる。
「いえ、大迷宮はありませんし、魔物も、仮名ラティス2もいません。
たぶん放置され今は、土埃をかぶっているとおもいます。」
「セプティ、単なる聖剣ではだめよ。この優雅さの極みにいる私と
つりあう聖剣よ。それこそ、伝説のエックスクラメンツ並み
じゃなければならないわ。」
「隠されている聖剣は、たぶんそのエックスクラメンツです。」
「「エックスクラメンツ!!」」
ふたりの妖精が、同時に声をあげる。
・・・・・・・
二人の妖精が、自身の魔力の礎を揺るがす程の大事として打撃を受け、
その本心を、周りに隠している1つの事象がある。
それは、契約後、自分の契約者のアマトが魔力を使えない事。
この事実は膨大な魔力を持つ、ふたりの妖精の自尊心をメタメタに傷つけた。
いろいろと、アマトに隠れて、協力してふたりで試しているのだが、
全く、ピクリともアマトは反応しない。
最期の希望というか賭けというのが、あの聖剣エックスクラメンツでもあれば、
火花のひとつでも出るんだはないかという、痛切な想い。
ふたりの妖精は、誇りをかけて、もう意地になっている。
そう、その聖剣エックスクラメンツが、現存していて間近にある。
だったら何としても、手に入れたい。
もはやこの件に関しては手段を選ばずと考える、黒と白の妖精さんである。
・・・・・・・・
ラティスは、ラファイアに御者をさせ、セプティとアマトを引き連れ、
学院から速攻で家に戻ってきている。帰るな否や、
「イルムいる、明日聖剣を捜しにいくわ。場所を特定しなさい。」
と、イルムの部屋になだれ込む。
イルムも、コウニン王国への戦略を、引きこもって昼夜を問わず
考え込んでいて、それにアバウト学院の事まで背負わされて、
爆発寸前だったので、無条件で楽しそうな、この宝探しの話にのる。
セプティが昔、母親から聞いた話を、詳しく聞き取り、
机いっぱいに帝国本領の地図を広げ、直線だの曲線だの引き始める。
帝国本領の帝都の周辺なら、高々度から索敵・把握しているルリを
自室に呼び、打ち合わせを行う。ふたりとも結構楽しそうだ。
「セプティの話から推測すると、この3ヶ所のうちのどれかと思えるんだけど、
ルリはどう思う?」
イルムは、10数本の、直線だの曲線だの引き終わった地図の3点を
指し示し、ルリに確認をとる。
「手前の1ヶ所は、偽物をそれらしく見せてるような匂いがするわね。
盗掘者を諦めさせるためかしら。近くに行って見れば、一目でわかると思う。」
「全員で行く必要はないわ。私達ふたりで先行して、この地に行って
確かめるのが、最善かもね。」
「あとの2ヶ所は、どちらかが本物で、片方が罠と思うわ。」
「やはりそうよね。あとは実際行ってみないと分からないか。」
イルムは、難しい顔でつぶやいている。
「イルム、これ以上は考えても同じ。明日は日の出前から出るわよ。」
「今日はもう、休みましょう。さあ、明日はやるわよ。」
ルリの顔が珍しく上気している。
第4章。聖剣の護り人とツーリア
翌日、セプティは、両手をラファイアとツーリアに握られて、
アマトは首根っこを、ラティスに摑まれて、山脈のほうへ飛翔した。
昨日割り出した、まず一番可能性が薄い場所に、隠れている獲物を探し出し
仕留める任務を過去にいくつもこなしてきたルリとイルムが、
早朝前から5人に先行して動いている。
ツーリアは、暇つぶし程度にはなるかもねと思いながらも、
全く何の利益にもならない事をしてるわと、自分の行動に呆れている。
指定された場所に着く。先行していたルリに導かれて5人は
大地の上に降り立つ。
「1ヶ所目はなにもなかったわ。あるとすればここか次のとこね。」
地形を確認していたイルムが振り向きながら、5人に説明する。
「この地の中では、セプティの母上の言った、
『7つの峰の頂上からの逆落とし、水無き谷の集まるところ。』
というのは、ここだと思わ。」
「けれども、あまりにも見え見えね。」
イルムは、少し先の窪地を指差す。
「あそこに立ってくれと、言わんばかしだからね。」
「と言う事は、イルム?」
ラティスが厳しい顔で、イルムに尋ねる。
「9割がたは罠。残りの1割が本物。」
「けど、試さないと仕方ないじゃない。私が行くわよ。
ラファイア、あとは頼むわよ。」
ラファイアが、白金に輝く多面体立体障壁を、全員の周りに構築する。
「多面体立体障壁って、初めてみたけど、結構、不細工な形ね。」
ツーリアの小声のつぶやきに、ラファイアは、若干凹む。
その間に、ラティスがその場所に屹立している。微かな音がしたかと
思うと、足元に魔法陣があらわれる。魔法陣の白光が、7色に分離する。
次の瞬間、7つの山の頂に、赤・燈・黄・緑・青・藍・紫の魔法円が
呼応して現れる。
その魔法円が、新たな魔法円を創りだし下降して来て、
ラティスの周辺を取り囲む。
その刹那、7柱の赤橙色の炎の奔流が、ラティスを襲う。
黄金色の炎の柱も大地から立ち上がる。
燃えさかる黄金の炎の真中に、暗黒の妖精の影が浮かぶ。
影は、炎の中を上昇してゆき、片手を真上に差し上げる。
ラティスの声と精神波が響く。
≪「我は暗黒を支配する者である。天空の暗黒を支配する者である。
幾億の星辰の輝きは、神々のわれに対する祝福の光である。
祝福されし者ラティスが命じる。
大地よ裂けよ、大気よ鳴け、雷よ踊り狂え。
万物の王たる我に跪け。」≫
≪「ラ・ルーン!!」≫
詠唱が終わるな否や、炎の柱は消し飛び、魔法陣は上書きされる。
ラティスの足元から、大地が割れ、7つの地溝が、7つの山々に走る。
山々は崩れ出し、水蒸気が大地から弾き出される。水蒸気爆発。
地の底から、紅き溶岩が吹き上がり、魔法円はもはやどこにも見えない。
・・・・・・
≪ラティスさん、お楽しみのとこすいませんが、
これじゃ聖剣どころじゃないですよね。≫
あきれ果てたラファイアの精神波が、アマトを除く皆の心に響く。
アマトとセプティ以外の目が冷たい。
その冷たさに、ハッと気づく、ラティス。
しかし、動揺1つ見せないで、精神波を使い言い放つ。
≪私の魔力に抗いきれないようでは、聖剣ではないわ。
ここには、エックスクラメンツは眠ってないわ!≫
☆☆☆☆
その地から離れ、飛翔する7つの影。
確かに、5人が最上級妖精以上の魔力で、溶けた大地を捜索するが、
何の反射も捉える事が出来なかったので、イルムが次を目指す事を
決断した。
『よくも、あんなでたらめな詠唱を、それらしく唱えられるものです。
あれも才能というべきでしょうか。』
と、ラファイアは思ったが、アマトとセプティ以外の同行者も
気付いているようで、さっきから微妙な顔で空を翔けている。
『ただ、{数年後はここは、天然の絶景の温泉地になるわよ。}には
同意しますけどね。』
・・・・・・・・
再び、大地に降り立つ7人。
「ここだと思う。」
ルリが何の変哲もない岩場を指し示す。
近くに来ると、数年にわたる放置のせいで、汚れや土埃が
覆っており、どこがそれか分からない状態だった。
しかし、7つの峰は見当たらない。
「手前の高い岩場が、後ろの山々を覆い隠してますよね。」
今度はラファイアが前に進み、扉らしきところに魔力を放出しようとした時、
「何者か?」
背後から声がかかる。ハッとして振り向く7人。
頭の白い細身の男が、そこに佇んでいた。
「クルーさん?生きてらっしゃったんですね。私です、セプティです。」
セプティはその男を知っているらしく、笑顔で声をかける。
『接近に気付けなかった。いや存在自体にも。』
セプティとは違い、アマトを除く5人は、警戒感をあらわにする。
「セプティちゃんか?久しぶりじゃのう。大きくなって。」
「おかあさんは?」
「大乱のおりに、亡くなりました・・・。」
「そうじゃったか。わしはここから離れられんだったから、すまんのう、
知らんかった。悔やみのひとつも唱えてやれんだった。」
クルーは目を閉じて、祈りの言葉を唱える。
そして改めて、セプティに問いかける。
「ここに来たと言うのは、セプティちゃんが次の管理者か。」
「ひょっとしたら、そうなったかもしれません。
けど帝国は今、滅亡したも同じですから。」
「セプティ離れて、そいつ人間じゃない。」
ラティスが叫ぶ。しかしクルーは、やさしい笑顔で7人を見つめる。
「ばれてしまったかの。ワシはクルーの分身体じゃ。クルーは土の妖精との
契約者。亡くなるにあたって、最後の魔力でワシを作ったんじゃ。
だが、もうあと10日もすれば、与えられた魔力も尽き、
土くれに戻らなければならんじゃった。間に合ったのう。」
「クルーからの遺言じゃ。
『帝国が復興してなければ、聖剣は次の管理者が好きにしたらいい。
ワシのように命令に縛られて残りの一生を一人で護り番をするなど、
愚の骨頂だ。』とな。」
「懐かしい顔にも会えたことだし、クルーの奴も喜んでいるじゃろ。
さて最後の魔力で結界を解放するかの。」
「クルーさん。」
「セプティ幸せにな。よきかな、別れじゃ。」
光りに包まれ、クルーの体が光る粒子と化していく、同時に前方に結界が現れ、
土くれを跳ね飛ばしていき、台座にのった、剣と矛と鎧があらわれる。
・・・・・・・
アマトとルリがセプティを慰めている横で、
ラティスとラファイアとイルムが、聖剣を一つずつ取って確認しているとき、
ひとり離れてツーリアは、物思いに耽っていた。
『ルービス様は、何度も、新帝国側の狙いと想いを読み取れたら、
自由にすごしていい、楽しんできてと、言っておられた。』
『こういう形で分身体の最期を見せられるとはね、
人生って上手くいかないものね・・・。』
己の遠くない未来の瞬間に思いを飛ばす、妖精ルービスの分身体・・・。
このあいだにも、時間は滑らかに進んでいく。
2体1では、どうも分が悪いのと、1つの懸案を解決せねばと、
ラティスは精神感応で、理事長ロンメルにお願いしてアマトとセプティを
呼びにいかせる。
数百拍後、肩で息をしているロンメルが真っ青な顔をして、
アマトとセプティを連れて、名誉学長室に現れる。
「遅かったわね。」
ラティスの非情なねぎらいに、頭から火花を飛び散らせるロンメル。
ふらふらと、学長室を後に出て行く。
「少しは、ロンメルさんを気遣ったらどうです?」
ラファイアが、さすがにラティスの分かり易い八つ当たりに、ジト目で
意見を具申する。
「ラファイア。ちゃんと、私なりに礼は言ったじゃない。」
見事なまでにラティス様になる妖精に、ラファイアは天上を見上げる。
白光の妖精の魔力は、校舎の建物を透過し、天空の姿に目を遊ばせる。
『今日は、雲一つない、快晴ですね。』
現実から顔を背けるラファイア。
その間、アマトとセプティは、長椅子に座りツーリアと挨拶を交わしている。
・・・・・・・・
「あんた達ふたりを呼んだのは、学院内で看過できない事が進行してるの。
セプティ、あんたには学院生の立場からの意見を求めるわ。」
ラティスの畏まった言い回しに、セプティは緊張して、背筋を伸ばす。
「アマト。あんたの事よ。心当たりはない。」
「いや・・・ないけど・・・。」
アマトは不安になって、ラファイアの方をチラリと確認する。
ラファイアの顔にも?が浮かんでいる。
アマトは、自分はラティスさんの契約者と皆に知られてしまったし・・・
と考えを巡らせる。
『旧貴族・騎士達の子弟の新聖会は、事実上解散状態。あと何かあったか?』
考えるが、他に、何も浮かんでこない。
「では言うわ。あんた陰で、レッサーと呼ばれ出しているのよ。」
え、それ何の事。ただの悪口でしょう。アマトは勿論、ラファイアも
セプティも、巻き添えをくったツーリアも唖然とし、暗黒の妖精を見つめる。
「レッサーよ。レッサー。聖剣の一つでも携えて、魔王とか
インペラールドラコ―とかを倒しにいく勇者様みたいな二つ名じゃない。」
唖然の淵から生還したラファイアが、
「いやたぶん、れっとうしゃ(劣等者)を縮めて訛らせて、レッサーと
言ってるだけと思いますよ。」
と、ラティスにモノ申す。
「あまいわよ、ラファイア。語感よ、語感。アマト本人のみならず、
いろんな人が誤解するじゃない。
焼き菓子のオマケみたいなラファイアとのみ契約してるなら
それもいいと思うわ。
世界中の人達も誤解しないと思う。」
「しかしラファイア。私とも契約してるのよ、神聖さと気高さの頂点の
妖精と。」
「アマトを直に見た事のない世界中の人達が、私の姿とレッサーの語感で
創国の英雄みたいな美丈夫を想像してしまうじゃない。」
「それが、全世界から暗殺者を集めている一因よ。」
リーエのように、ポーズを決める暗黒の妖精。
『え、最後のは、とって付けたような理由だよね。』
アマトは、敢えて口には出さず、心の中で思う、
ただ単に、ラファイアさんをデイスりたかっただけの話に聞こえるよね、
ラティスさん。
☆☆☆☆
ここでセプティが珍しく、ラティスに意見を話す。
「でしたら、アマトさんが聖剣の一つでも持っていれば、レッサーの
の二つ名でも、いいんですよね。」
アマトをかばうつもりが、話がずれていくのに、セプティは気付いていない。
「聖剣が、帝国の秘密の地下保管庫にあると、むかし母から
聞いた事があります。」
それを聞いて、さすがにラティスも驚く。
「え、ひょっとしたら、どこかの地下に私の魔力でも察知できない大迷宮があって
ゴブリンレックスとかオーグドミナスとかカリュプスドラコ―とかいて・・・」
ラファイアが、ラティスの言葉に横から割り込み、
「最深層には、4つの醜い顔と6枚の漆黒の羽、3本の尻尾、8本の腕
をもっている、中央広場にある暗黒の妖精の像と瓜二つの、仮名ラティス2
という化け物が、光の妖精である私に討たれるために鎮座しているんですね。」
と、さっきのお返しとばかりにデスってくる。
「いえ、大迷宮はありませんし、魔物も、仮名ラティス2もいません。
たぶん放置され今は、土埃をかぶっているとおもいます。」
「セプティ、単なる聖剣ではだめよ。この優雅さの極みにいる私と
つりあう聖剣よ。それこそ、伝説のエックスクラメンツ並み
じゃなければならないわ。」
「隠されている聖剣は、たぶんそのエックスクラメンツです。」
「「エックスクラメンツ!!」」
ふたりの妖精が、同時に声をあげる。
・・・・・・・
二人の妖精が、自身の魔力の礎を揺るがす程の大事として打撃を受け、
その本心を、周りに隠している1つの事象がある。
それは、契約後、自分の契約者のアマトが魔力を使えない事。
この事実は膨大な魔力を持つ、ふたりの妖精の自尊心をメタメタに傷つけた。
いろいろと、アマトに隠れて、協力してふたりで試しているのだが、
全く、ピクリともアマトは反応しない。
最期の希望というか賭けというのが、あの聖剣エックスクラメンツでもあれば、
火花のひとつでも出るんだはないかという、痛切な想い。
ふたりの妖精は、誇りをかけて、もう意地になっている。
そう、その聖剣エックスクラメンツが、現存していて間近にある。
だったら何としても、手に入れたい。
もはやこの件に関しては手段を選ばずと考える、黒と白の妖精さんである。
・・・・・・・・
ラティスは、ラファイアに御者をさせ、セプティとアマトを引き連れ、
学院から速攻で家に戻ってきている。帰るな否や、
「イルムいる、明日聖剣を捜しにいくわ。場所を特定しなさい。」
と、イルムの部屋になだれ込む。
イルムも、コウニン王国への戦略を、引きこもって昼夜を問わず
考え込んでいて、それにアバウト学院の事まで背負わされて、
爆発寸前だったので、無条件で楽しそうな、この宝探しの話にのる。
セプティが昔、母親から聞いた話を、詳しく聞き取り、
机いっぱいに帝国本領の地図を広げ、直線だの曲線だの引き始める。
帝国本領の帝都の周辺なら、高々度から索敵・把握しているルリを
自室に呼び、打ち合わせを行う。ふたりとも結構楽しそうだ。
「セプティの話から推測すると、この3ヶ所のうちのどれかと思えるんだけど、
ルリはどう思う?」
イルムは、10数本の、直線だの曲線だの引き終わった地図の3点を
指し示し、ルリに確認をとる。
「手前の1ヶ所は、偽物をそれらしく見せてるような匂いがするわね。
盗掘者を諦めさせるためかしら。近くに行って見れば、一目でわかると思う。」
「全員で行く必要はないわ。私達ふたりで先行して、この地に行って
確かめるのが、最善かもね。」
「あとの2ヶ所は、どちらかが本物で、片方が罠と思うわ。」
「やはりそうよね。あとは実際行ってみないと分からないか。」
イルムは、難しい顔でつぶやいている。
「イルム、これ以上は考えても同じ。明日は日の出前から出るわよ。」
「今日はもう、休みましょう。さあ、明日はやるわよ。」
ルリの顔が珍しく上気している。
第4章。聖剣の護り人とツーリア
翌日、セプティは、両手をラファイアとツーリアに握られて、
アマトは首根っこを、ラティスに摑まれて、山脈のほうへ飛翔した。
昨日割り出した、まず一番可能性が薄い場所に、隠れている獲物を探し出し
仕留める任務を過去にいくつもこなしてきたルリとイルムが、
早朝前から5人に先行して動いている。
ツーリアは、暇つぶし程度にはなるかもねと思いながらも、
全く何の利益にもならない事をしてるわと、自分の行動に呆れている。
指定された場所に着く。先行していたルリに導かれて5人は
大地の上に降り立つ。
「1ヶ所目はなにもなかったわ。あるとすればここか次のとこね。」
地形を確認していたイルムが振り向きながら、5人に説明する。
「この地の中では、セプティの母上の言った、
『7つの峰の頂上からの逆落とし、水無き谷の集まるところ。』
というのは、ここだと思わ。」
「けれども、あまりにも見え見えね。」
イルムは、少し先の窪地を指差す。
「あそこに立ってくれと、言わんばかしだからね。」
「と言う事は、イルム?」
ラティスが厳しい顔で、イルムに尋ねる。
「9割がたは罠。残りの1割が本物。」
「けど、試さないと仕方ないじゃない。私が行くわよ。
ラファイア、あとは頼むわよ。」
ラファイアが、白金に輝く多面体立体障壁を、全員の周りに構築する。
「多面体立体障壁って、初めてみたけど、結構、不細工な形ね。」
ツーリアの小声のつぶやきに、ラファイアは、若干凹む。
その間に、ラティスがその場所に屹立している。微かな音がしたかと
思うと、足元に魔法陣があらわれる。魔法陣の白光が、7色に分離する。
次の瞬間、7つの山の頂に、赤・燈・黄・緑・青・藍・紫の魔法円が
呼応して現れる。
その魔法円が、新たな魔法円を創りだし下降して来て、
ラティスの周辺を取り囲む。
その刹那、7柱の赤橙色の炎の奔流が、ラティスを襲う。
黄金色の炎の柱も大地から立ち上がる。
燃えさかる黄金の炎の真中に、暗黒の妖精の影が浮かぶ。
影は、炎の中を上昇してゆき、片手を真上に差し上げる。
ラティスの声と精神波が響く。
≪「我は暗黒を支配する者である。天空の暗黒を支配する者である。
幾億の星辰の輝きは、神々のわれに対する祝福の光である。
祝福されし者ラティスが命じる。
大地よ裂けよ、大気よ鳴け、雷よ踊り狂え。
万物の王たる我に跪け。」≫
≪「ラ・ルーン!!」≫
詠唱が終わるな否や、炎の柱は消し飛び、魔法陣は上書きされる。
ラティスの足元から、大地が割れ、7つの地溝が、7つの山々に走る。
山々は崩れ出し、水蒸気が大地から弾き出される。水蒸気爆発。
地の底から、紅き溶岩が吹き上がり、魔法円はもはやどこにも見えない。
・・・・・・
≪ラティスさん、お楽しみのとこすいませんが、
これじゃ聖剣どころじゃないですよね。≫
あきれ果てたラファイアの精神波が、アマトを除く皆の心に響く。
アマトとセプティ以外の目が冷たい。
その冷たさに、ハッと気づく、ラティス。
しかし、動揺1つ見せないで、精神波を使い言い放つ。
≪私の魔力に抗いきれないようでは、聖剣ではないわ。
ここには、エックスクラメンツは眠ってないわ!≫
☆☆☆☆
その地から離れ、飛翔する7つの影。
確かに、5人が最上級妖精以上の魔力で、溶けた大地を捜索するが、
何の反射も捉える事が出来なかったので、イルムが次を目指す事を
決断した。
『よくも、あんなでたらめな詠唱を、それらしく唱えられるものです。
あれも才能というべきでしょうか。』
と、ラファイアは思ったが、アマトとセプティ以外の同行者も
気付いているようで、さっきから微妙な顔で空を翔けている。
『ただ、{数年後はここは、天然の絶景の温泉地になるわよ。}には
同意しますけどね。』
・・・・・・・・
再び、大地に降り立つ7人。
「ここだと思う。」
ルリが何の変哲もない岩場を指し示す。
近くに来ると、数年にわたる放置のせいで、汚れや土埃が
覆っており、どこがそれか分からない状態だった。
しかし、7つの峰は見当たらない。
「手前の高い岩場が、後ろの山々を覆い隠してますよね。」
今度はラファイアが前に進み、扉らしきところに魔力を放出しようとした時、
「何者か?」
背後から声がかかる。ハッとして振り向く7人。
頭の白い細身の男が、そこに佇んでいた。
「クルーさん?生きてらっしゃったんですね。私です、セプティです。」
セプティはその男を知っているらしく、笑顔で声をかける。
『接近に気付けなかった。いや存在自体にも。』
セプティとは違い、アマトを除く5人は、警戒感をあらわにする。
「セプティちゃんか?久しぶりじゃのう。大きくなって。」
「おかあさんは?」
「大乱のおりに、亡くなりました・・・。」
「そうじゃったか。わしはここから離れられんだったから、すまんのう、
知らんかった。悔やみのひとつも唱えてやれんだった。」
クルーは目を閉じて、祈りの言葉を唱える。
そして改めて、セプティに問いかける。
「ここに来たと言うのは、セプティちゃんが次の管理者か。」
「ひょっとしたら、そうなったかもしれません。
けど帝国は今、滅亡したも同じですから。」
「セプティ離れて、そいつ人間じゃない。」
ラティスが叫ぶ。しかしクルーは、やさしい笑顔で7人を見つめる。
「ばれてしまったかの。ワシはクルーの分身体じゃ。クルーは土の妖精との
契約者。亡くなるにあたって、最後の魔力でワシを作ったんじゃ。
だが、もうあと10日もすれば、与えられた魔力も尽き、
土くれに戻らなければならんじゃった。間に合ったのう。」
「クルーからの遺言じゃ。
『帝国が復興してなければ、聖剣は次の管理者が好きにしたらいい。
ワシのように命令に縛られて残りの一生を一人で護り番をするなど、
愚の骨頂だ。』とな。」
「懐かしい顔にも会えたことだし、クルーの奴も喜んでいるじゃろ。
さて最後の魔力で結界を解放するかの。」
「クルーさん。」
「セプティ幸せにな。よきかな、別れじゃ。」
光りに包まれ、クルーの体が光る粒子と化していく、同時に前方に結界が現れ、
土くれを跳ね飛ばしていき、台座にのった、剣と矛と鎧があらわれる。
・・・・・・・
アマトとルリがセプティを慰めている横で、
ラティスとラファイアとイルムが、聖剣を一つずつ取って確認しているとき、
ひとり離れてツーリアは、物思いに耽っていた。
『ルービス様は、何度も、新帝国側の狙いと想いを読み取れたら、
自由にすごしていい、楽しんできてと、言っておられた。』
『こういう形で分身体の最期を見せられるとはね、
人生って上手くいかないものね・・・。』
己の遠くない未来の瞬間に思いを飛ばす、妖精ルービスの分身体・・・。
このあいだにも、時間は滑らかに進んでいく。
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ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
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