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ⅩⅬⅤ 詰め開き編 中編(1)

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第1章。 同年 同月 同日 


 飲んで気分がよくなり、ラティス・ラファイアと、アマトにからんだ数日前、
風の最上級妖精契約者のルリの、高々度 高速曳航えいこうで引っ張られて、
イルムとキョウショウは、この荒れ地に来ている。

ここは帝都北方の、岩・岩・岩の岩山だらけの山脈の片隅。

 ≪「スキャルド広範囲ブレイツール防御盾!」≫

キョウショウが構築した防御障壁の大きさにあきれたように、
イルムとルリが見ている。

「よくもここまで、黒い森の中で独自に進化したものね。だけど強度は?」

ルリがつぶやく。

「少し試してみようか。」

イルムが、高速の滑空移動を行い、キョウショウの遥か前方に移動する。
と同時に、威力を最大限にするため、魔法円をも完成させる。

 ≪「メギド・イグニース!」≫

振り返ったイルムの正面に発動した青白い炎の劫火ごうかが、蒼龍と化して
防御盾に激突する。盾は多少のゆがみをみせながらも、荒れ狂う炎を無力化する。

「まいったな、全く通用しない、さすがね。」

何回も自分の命を救ってきた魔力技が簡単に防御・抹消させられ、
天をあおぐイルム。

≪イルムさん、少しは加減して。上着が焦げてしまったわ!≫

そこに、キョウショウの怒りの精神感応が、イルムの心に届く。
視界の片隅で、ルリが肩を震わせて失笑しているのを、みつける。

『明るくなったわね、ルリさん。』

自分が怒っているのに、笑顔になっているイルムをみて、バカらしくなった
キョウショウの口元もゆるむ。

3人は、風・水・火のエレメントの違いはあるものの、最上級妖精契約者として
高みに登るため、互いに自分の魔力の開示を行い、切磋琢磨せっさたくましている。

ラティス・ラファイアの力によって、最上級妖精契約者と知覚させられた
キョウショウ・イルムと、当初から最上級妖精と契約したと自覚していた
ルリとの間には、絶対的な力の空白がある。

しかもルリは、エリースを通して、同じエレメントの超上級妖精リーエにも
魔力の確認ができるのだ。
そのままであれば、その差は開くだけであろう。

だがそのルリにしても、刺客という形に特化していたため、戦場を駆ける
戦士としては攻防にかたよりがある。それを平準化する必要を本人も
感じている。

隠形の軍師だったイルムも、戦時、最前線ではなく、第2戦にいた事が多く、
頭で理解しても、魔力の発動に体が追い付かないことも多い。

キョウショウの場合はもっといびつで、400年の間外界と遮断しゃだんされてたため、
攻撃魔力では、格下の上級妖精契約者としてみても?がつくほど劣っているが、
逆に、防御障壁などは??がつくほどの理解できない域に達している。

それぞれ、戦士として、欠けたるところを持つ3人。隠すところなくお互いに、
秘めたる技術まで見せあう3人には、信頼以上のきずねが芽生えつつある。

「今度は私ね!」

ルリは待機型多発使用の緑電奔流を岩山に放つべく、
自分の足元に十二角の魔法陣を構築する。

・・・

「そろそろ帰ろうか?」

イルムが、一息ついた2人に声をかける。
3人ともまだ充分にエーテルは保持しているが、ここでめる事とする。
イルムとルリ、特にルリにとっては、常在戦域なのである。

いつ、コウニン王国から、刺客団が襲い来るか分からない。
いくらルリが最上級妖精契約者でも、相手がエリースのような
超上級妖精契約者だとしたら・・・、むくろと化すしかあるまい。
少なくとも、エーテル切れの愚を起こすことは、厳禁なのだ。

現在コウニン王国にそのような刺客がいないかもしれない、
しかし、組織に属さない超上級妖精契約者の掃除人がいないと言えようか。
そういう者のうわさを聞かないのは、完璧なが行なわれてるからだとしても、
今までの経験から、イルムは驚かない。

そのような物騒な事をイルムが考えているとも知らず、うなずく2人。
セプティから貰ったクロスで汗をいたキョウショウが、さわやかな顔で、

「ではルリさん、帰りも高速度での曳航えいこうをお願いするわ。」

と声をかける。それに対し、ルリが唐突に、ほほを染めて誘う。

「少し、寄って行きたいとこがあるけど、ふたりともいい?」

「こんな岩だらけの山脈の一角に、花を咲かしている木々がある
谷を見つけたから。」

2人とも、自分達には似合わないなと思いながらも、笑顔を取り戻しつつある
ルリの話に乗ってみる。

・・・・・・・・

 そこは峻岳の山間にある、泉いや湖を囲むくぼ地で、そこだけ緑がれていた。
今が盛りなのか、多くの木々が花をつけている。

3人は湖のほとりに降り立ったが、しばらくは言葉もでなかった。

よく目に写るのは、白・薄紅・白桃色の満開の花々だが、よく目を凝らすと赤紫
退紅・真紅・紅緋・月白・二藍・瑠璃・本紫・青磁・・色の花も咲き誇っている。

「きれいね・・・・。」

日頃は、女らしさをどこかに置き忘れてきたようなイルムだが、
このじかんは乙女に戻り、言葉が心の底からき出している。

「これほどだとは・・・。」

遠々距離から、この地を瞳にとらえたルリもこの景色に圧倒され、呆然としている。

伝説の宴があった地はこのようなところではなかったのか、
キョウショウが我を忘れて、ある言葉を口ずさんでいた。

『我等3人、生まれし日、時は違えども、志を同じくして助け合い、
同年 同月 同日 に死せる事を願わん・・・。』

湖を渡る風の踊る音さえ美しい、花々が咲き誇る楽園に、しゃべる事を忘れた3人。

その日から、3人がお互いをさんづけで呼び合う事はなくなった。


第2章。新帝の教育


 新アバウト学院の胎動たいどうに力を貸した講師達にとって、自他共に笑う
1つの妄想があった。

《王や王帝を、自らの手で育成してみたい。》

東方の大王を育てたいにしえの哲学者にして教育者は、彼らにとって
垂涎すいぜんの存在であり、手に届かないはずの夢だった。

しかし、新アバウト学院の講師募集要項 【報酬は名誉のみ】 という
暗黒の妖精ラティスの挑戦に、あの時応じた事から、
その僥倖ぎょうこうが目の前に現れたのだ。

彼らは、講義の手伝いをしているセプティに、新帝国女帝テイシア1世を
小間使いのアマトに、新帝国初代摂政せっしょうの幻をみたのであった。

同時に、住み込みの大乱未亡人を採用した際の経緯で、名誉学長?の
暗黒の妖精ラティスがらした、何気ない一言で、
新帝国の近衛の騎士として、またその未来の形として、
アストリア、エレナに新宰相・新執政官、
フレイアに新将軍の影をみていた。

それに講師達は、エーテルを完全元素と喝破かっぱし、人間の本性が〔知を愛するもの〕
と唱えた、万学の祖と評されるこの哲学者にして教育者が、大王と民のため
つくったと伝わる、古代のミザエ学園やリュオンケイ学園を、
新アバウト学院に重ねつつあったのだ。

・・・・・・・・

 ハイヤーン老のもとに、座学の講師達が集まっている。
帝国史学の講師タレラが、他の4名の考えを代表して述べる。

「セプティの学習レベルですが、自分で帝宮にある本を読んでいたという事で、
興味がある事由は、高いところにありますが、王帝学を修めるには、
なんせ時間がありません。」

「ですので、セプティ学院生、アマト準講師、フレイア学院生、アストリア学院生
エレナ学院生、合わせて1人の王帝とみて、今後の組み立てを
していくべきでしょう。」

戦略学の講師ノープスが、ハイヤーン老に自分の考えを追加する。

「今、ラティス名誉学長の下に、イルムというがいますが、
この者は、かってノープル学院で開校以来と言われた天才で、大乱の際の
クリル大公国の戦術・戦略は、ほとんどその頭脳から生まれたと
言われています。この者にも協力を依頼したら如何いかがかと。」

ハイヤーン老が香茶を一口飲み、毅然とした口調で皆に応じる。

「セプティに関して言えば、トゥルポー竜巻型ストゥディウム学習で行きたい。
残念なことに、本人に野心というのが全く感じられん。たとえ、そうであっても、
他人に利用されるお人形さんにしてはいかん。」

さらにハイヤーン老は話を続ける。

「アマト準講師とフレイア・アストリア両学院生で宰相1人分とみなし、
予備にエレナ学院生をと考えるほうがよかろうよ。」

「ノープス。イルムなる者の事は、考えんではないが、
果たしていつまで存命かな。
新帝国が1回も戦をせんでいいことは、あるまい。」

比較統治学のウルスも口を開く。

「イルムという才媛には長生きしてもらう事を祈りましょう。アマト準講師には
統治を、フレイア学院生には軍事を、アストリア学院生には外交を、
予備であるエレナ学院生には内政と、色分けすべきでしょうな。」

全員が同意したところで、帝国法学のルックスが、今回の学策に疑問を呈す。

「追加の生徒募集ですが、願書からでさえ、暗殺者や誘惑者もしくは寄生者
としか思えない者も多いと、ノリア事務長から話がきてます。」

ハイヤーン老が含み笑いをこらえながら、皆に語る。

「暗殺者に関しては、ラティス殿が、『楽しみだよね、本当に。』と言われたので
任せておいてよかろう。誘惑者と寄生者に関しては、バレンとジンバラが
何か相談しておったわ。ま、2人の実物をみて、学院を辞めたく思わなければ
良いがのう。」

閉じた笑いをみせる、ハイヤーン老、伊達に年を重ねてはいない。
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