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ⅩⅩⅩⅧ 標なき船出編 中編(1)

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第1章。近衛の騎士


 統計学の講義が終わり、セプティと休憩所で果実水を飲んでいると、
エルナさんとアストリアさんがやってきた。席につくなり、

「エリース聞いた?追加で学院生を募集する試験日決まったわよ。」

いつも思うんだが、エルナさんの情報収集能力は半端ない。男性でも女性でも
彼女の前では口が軽くなる。ほんと、大きな猫をかぶっているエルナさんに
騙される人の多さに呆れる。
今回のは、理事長代理のロンメルさんの情報管理が情けないのが理由かも
しれないけど。

「そうなんですね。」

と、取りえず無難な返事をしておく。

「私達も、果実水をもらおうかな、エルナ3人分頼むわ。」

「はい、姉さん。」

ここの親父さんガクさんとおばさんルックスさんは、ラティスがつぶれかけた
屋台から拾ってきた人たちで、水の妖精契約者のガクさんの果実水などの
冷やし具合、火の妖精契約者のルックスさんの香茶など温め具合による、
味加減は絶品で、時間があれば、学院生はここで休むことが多くなった。
ラティスは毎日のように顔だけは出している。

「アストリアさん、フレイアさんは?」

セプティが、当然の質問を投げかける。

「『先にいくよ。』と言ってたんだけどね。あ、きた。」

「ここよ、フレイア。」

アストリアさんが立ち上がり手を振る。学院内はラティスの魔法陣の
影響が濃くて、上級妖精契約者ぐらいでは、精神感応ができない。
【学院の自治と学問の自由】のためなら当然と、以下を
納得いる。
それがまた、ラティスの力を際立たせて、いつの間にか、学院の最重要人物と
自他共に認めさせている。

「ごめん、遅くなった。こんなチラシが学院の門の外に置いてあったんで、
 取ってきたわ。」

と、フレイアさんが、エルナさんから果実水を受け取りながら、
チラシをみんなに、一枚ずつ渡す。
それは、クリル大公国・ミカル大公国の連名で書かれた、傭兵の募集書だった。

「期間は2年、場所はホウコウ山脈のオリカルクム鉱山の防衛か、
 報酬はまあまあね。」

「期間後、両大公国への仕官の可能性があるんだ?!」

とアストリアさんが声を上げる。エルナさんが、チラッとフレイアさんを
盗み見る。

「まあ、1年後の生存確率は、このまえ、エリースが言ってた1割を切って
 3分くらいしかないと思うけどね。」

そう言いながらも、フレイアさんは、食い入るように募集書を見ている。
セプティが何かを感じたらしく、おそるおそる声をかける。

「あの~、フレイアさん。私個人としては、例の約束にこだわらず、
 将来を見据えて、フレイアさんが進むべき道を、選んでくれたほうが
 嬉しいです。」

「じゃ、講義の用意をしないといけませんので。」

セプティは、席を立って講師室の方に駆け出していく。

『リーエ!』

お任せ下さいポーズのリーエが心象に浮かぶ。これで、セプティの守護は
問題ないだろう。
私も、立ち上がろうとしたが、3人の真剣な眼差しを感じて、再び席につく。

「エリース、聞きたい事がある。」

『やはりきたか。』

フレイアさん自身が操る剣のような、厳しい問いかけ。
だれにも気付かれないように、風の音響障壁を周囲に構築する。

「セプティは何者なんだ。それに君やラティスさんはどう絡んでいる。」

『イルムは学内でも同船者を探して欲しいと言っていたけど、私達の行動に
 本当に巻き込んでいいの?』

『けど、選択の機会は3人に示す必要がある、これが原因で
 友誼ゆうぎがなくなっても。』

湧き上がるいろんな思いを抑えて3人に向き合う。

「フレイアさん、アストリアさん、エルナさん。話してもいいけど、聞いたら
 あなた達は自分の命だけではなく、家族の命の保証もなくなるけど、
 それでも知りたい!?」


・・・・・・・・


 目の前で、エリースという名の燃えるような美少女が、私達3人を見つめている。
ここで、『1日考えさせて。』などと言えば、友の口はオリカルクムよりも
固くなり、再び開く事はないだろう。

私のかんささやいている、一生に一度あるかないかの、大きな機会が
扉を開けて待っている事を。

 そもそも、私とアストリアとエルナの両家にとっては、騎士階級への復位が
亡き父・祖父達も目指した、受け継がれてきた悲願。

だがそんな機会は、なかば、来るはずはないだろうと思っていた。

私個人は、私達の階級から伯爵まで上り詰めた、矛の英雄ギウスの人生に
あこがれて、リウスの私塾で剣の腕を磨いたのだが、現実の社会に出てみると、
剣の腕より、〇○○さんのの方が余程価値があることに気付かされた。

エリースが話そうとしている事は、両大公国に傭兵として雇われ、
わずかな生存確率とその後の僥倖ぎょうこうに人生をかけるより、
私達の夢に答えてくれるかもしれない。

『暗黒の妖精ラティスが、君の人生と交差したとき、君はある妄想に
 ひたらなかったか?』

今感じる、そうだ、その問いかけをしてくれる誰かを、内心、
心待ちにしていたのだ。

実際沈黙したのは10拍もなかっただろう。

「アストリアとエルナには悪いけど、私はそれを聞きたい。」

と、エリースの瞳を見つめて決断の結果を言葉にする。

「悪くはないわよフレイア。私も聞きたいわ。」

とアストリアは言ってくれた。

「そうですよ、フレイア姉さま、家族の中で誰かが騎士や貴族を目指したら、
 家族の命を狙われる可能性は、十二分にありますから。私達のお母様は、
 その覚悟はしているはずですわ。」

「きれいごとだけでは、世の中は渡っていけませんし。私も聞きたいです。」

とエルナも同意してくれた。


・・・・・・・・


 フレイアは、私の幼なじみ。家が隣同士だったというだけではない、
大乱中お互いの父を亡くし、家が一斉攻撃で破壊され、苦労を共にした
仲でもある。

彼女の明るいさわやかな性格は表面のお飾りでしかない、
その内心は、常に激しくいる。

あの日、矛の英雄ギウス伯爵の事を詳しく知った時から、彼女は変わった。
私には歴史の半ページにすぎなかったが、フレイアは翌日、

『アストリア、私はリウス先生の魔法剣の私塾に通うけど、
 アストリアはどうする?』

と私に、満面の笑みで聞いてきた。

それからの彼女の魔力剣への打ち込みぶりは、鬼気迫るものがあった。
それゆえ、私塾では、開塾以来の天才といわれるほどになったが、
フレイアと妹と私に待ち受けていたのは、絶望だった。

まず、お互いに、他国の学院へ留学できるほどのお金は、
どこを探してもなかった。
そう、普通に騎士職以上を目指す道は、あっけなく閉じてしまった。
そのあと、初等学校卒業後以降は、短期の雇われの繰り返しだった。

昨年できた、帝都予備隊でも採用条件が魔法剣・魔法槍の可否だったはずだが、
準騎士扱いとして雇用されたのは、私達が採用試験の際、
地べたにいつくばらせた者達だった。
他を凌駕りょうがする力を持っていながら、私達に与えられたのは、
短期の準騎士補佐扱いの席だった。

それでも、道を切り開く最後の希望を抱いて、再開したアバウト学院に受験。
だけど最終日までに、フレイアは入学金に授業料を用意する事ができなかった。
入学を辞退するのを打ち明けてきた時の、フレイアの、あの乾いた笑いは
忘れられない。

だが、悪鬼のいたずらか、あのような下衆な条件で、フレイアは学院に通う事を
許された。

今、フレイアの目は、魔法剣の私塾に通う事を宣言した時のように、輝きを
取り戻している。
私の心も即決まった。背中を預けられる相手など人生に2人は出てこない
だろうから。

話を飾らない、私自身が、この閉塞へいそくした世界を破壊したいから、エリースの話を
聞くわ。

・・・・・・・・

 天才と秀才、陽と陰、フレイア姉さまとアストリア姉さんは、
私のずっとあこがれの存在だった。
だから私は、小さい頃から常に2人の後を追いかけていた。

さわやかだった2人の顔に影が差してきたのは、いつ頃からだったろうか。
少なくとも、大乱の中で、父とフレイア姉さまのお父さまが亡くなり、
家が半壊した時でさえ、まだ希望の眼差しが多かった気がする。

しかし、大乱後の帝都のありさまはひどかった。殺人・傷害・強盗・窃盗は、
日常の事だったし、女性には、それに加えて強姦の危険が常に付きまとった。

私も、フレイア姉さまとアストリア姉さんも、妖精契約が初級妖精だったら、
剣の腕がなかったら、どうなったかわからない。

戦後4年目にして、やっと表向きは落ち着いてきたが、6世時代と変わらぬ
汚濁が常に変わらず、この都市をおおっている。

3大公国の派遣隊は、本気で秩序を守る気はない。彼らからすれば、私達は、
あの6世の汚政の協力者なのだ。死に絶えて当然というところだろう。

今、帝都と帝国本領で、本当の意味で秩序が存在するのは、
このアバウト学院の中のみ。
おかしい事に、1000年の間、人々にみ嫌われた存在が、そのくらい伝承ゆえに
不可侵の領域をつくっている。

セプティの本来の名前も、エリース達が何をしたいのかも、3人で集まって
何回も話あってみた。

恐らくは、帝国の簒奪さんだつでしょう。いいんじゃない、永久に続く国家など
ありえないんだから。

フレイア姉さまとアストリア姉さんが行くところなら、
地の果てまでもついていく。

『さあ、エリース始めて!』


☆☆☆
 

 学院から帰ったら、フレイアさんとアストリアさんとエルナさんが来ていた。

「遅かったわね、アマトにセプティ。ラファイアさんお疲れさま。」

と、いつものように、イルムさんが声をかけてくる。

「いえいえ、ではこれで。」

食堂兼居間から出ていこうとする、ラファイアさん。それをイルムさんが止める。

「ラファイアさんも、いて欲しいんですが。」

「そういう話合いをですか、わかりました。」

ラファイアさんは、キョウショウさんルリさんの横に座る。2人は戦士の顔に
なっている。しかし、ラファイアさんの笑顔は変わらない。

「セプティも義兄ィも座ったら。」

エリースが話しかけてくる。その顔色がいつもと違って青白い。
セプティも、おずおずと椅子に座る。
イルムが、セプティに、優しく話かける。

「セプティ、初めに言っとくけど。あなたがだれなのかを、エリースが、
 3人に話している。そして、仲間を1人でも多く必要としている事も。」

「そう、そうなんですか。」

セプティは、唇をみ締めている。
イルムさんが、セプティから視線を外し、3人に向き直る。

「セプティが、8世になる資格を持っているのは、わかったわ。」

「けど、イルムさんといったかしら、あなたはセプティを使って何をたくらむの?」

アストリアさんが、珍しく激しい口調でイルムさんにせまる。

たくらむ?いえ、たくらみなんかはしない、つくるんですよ。」

新帝国ノウムインぺリウムを!」


時間の流れる音さえ聞こえそうな、しばしの静かな沈黙。


それを破るようにエルナさんが、冷静な切り口でイルムさんに尋ねる。

「イルムさん、旗印としてのセプティと、力の根源のような暗黒の妖精の
 ラティスさんがいたとして、このわずかな人数で何ができるというの?」

「ふふふ、イルムさん、我々は、誇大妄想へきをこじらせた野盗のたぐいに思われている
 ようね。」

と口をはさむキョウショウさんに、ルリさんが

「キョウショウさん、私も、サニー・サーレス兄弟以外の創派の人達にあって
 はじめて、現実の話だと思えたんだ、無理もない。」

と、普通に話している。その変化にぼくは内心驚き、あわせて横顔にカイム先生の
授業の面影を重ねていた。その小さな思いを無視して話は進んでいく。

「今、創派の人達といいましたよね?それは400年前忽然こっぜんと消えた
 あの創派ですか?」

「フレイアさん、その通りです。キョウショウさんは、創派の人々の子孫です。
 創派の人々は400年の間、黒い森ニゲルシルファに結界を張って、潜んでました。
 今ある事情から、外の世界に戻ろうとしています。
 そこには、キョウショウさんの指揮下動く、500人の戦士がいます。」

「そして、キョショウさんの隣にいるルリさんは、コウニン王国で
 ヒストリアファープラリスと呼ばれた暗殺者。
 7世を弑いたのは彼女だと言えば、彼女の力はわかるでしょう。」

「私のことも話さないといけませんね。私はクリルのレオヤヌス大公の元めかけ
 影で軍師もしてました。大乱時の、クリルの戦略・戦術は私が絵をかいたものが
 多いですよ。」

「それに3人とも、最上級妖精契約者で、戦士としての覚悟もあります。」

「待って。話が大きすぎて理解が・・・。」

フレイアさんが、悲鳴をあげる。

「では、少し休みましょうか。セプティさん香茶を人数分お願いできますか。」

「陛下自ら、お入れ頂く香茶は、学院のガクさん程は美味おいしいとは
 思えませんが、そうとう上達なされてますよ。」

いたずらっ子のように、セプティに頼むイルムさん。
先程から身の置き場がない風情だった、セプティがはじかれたように立ち上がる。
ぼくもさり気なく立ち上がり、セプティの手伝いをする。

香茶に焼き菓子が配られる。
香茶のいい匂いが、緊張の空気を少しだけときほぐす。

「キョウショウさん、これは?」

「イルムさん、普通に帝国産のものだ。ルリさんの、選茶の目利めききはすごいよ。」

「香茶に毒を仕込むのは、暗殺者にとって基礎。香茶自体が
 全部飲んでくれないような不味まずいやつじゃ、
 どうしようもないから。」

その言葉に、思わず香茶をみつめるキョウショウさんとイルムさん。
相変わらずラファイアさんの笑顔は変わらない。
しかし、3人の冗談?も耳にはいらない様子で考え込むフレイアさん達3人に、
エリース、セプティも無言で香茶を飲んでいる。

しばらくして、3人を代表してフレイアさんが話し出した。

「イルムさん、つまり、500の兵と、あなたの頭脳、ルリさんの技術、
 キョウショウさんの指揮、そしてラティスさんの魔力でセプティを旗頭にして
 帝国本領を占拠するつもりですか?」

「それもいいですね。勢いがついたら、人は集まってくるものですよ、
 先の大乱もそうでした。」

「だが風頼みの戦なんて、愚劣の極みでは。」

アストリアさんが、理性的な考察を、淡々たんたんと、隠形の軍師に述べる。

「無論そうです。だがこちらにはあと2枚の手札があります。」

「エリースさん、お願いします。」

エリースが泣き笑いのような表情を浮かべ、ひと言つぶやく。

「リーエ!」

窓際に、激しい緑色の光とともに、緑色の髪、青白い瞳、純白の肌、超絶美貌の
蜃気楼体が現れる。今回はエリースの後ろに隠れようとしない。

「フレイアさん、アストリアさん、エルナさん、
本当は私、超上級妖精契約者 なんだ。
あの妖精は、リーエ。風の超上級妖精。」

リーエさんはその場で、3人に、優雅な一礼をしてみせる。

「・・・・・・・・!?」

3人は、初めて見る、超上級妖精に心を奪われたようで、言葉を発する事が
できないようだった。

「アマトさん、あと、いいですか?」

イルムさん、なぜこちらに話をふる、3人の鋭い視線が痛い。
やはり、ぼくはヘタレだ。

「ラファイアさん、お願いするよ。」

なんとか声がでた。3人の視線がラファイアさんに向かう。

「やっと、出番ですか?けど、ほんとアマトさんは、レアヘタレなんですから。」

「あのな暗黒の妖精と契約してるんですから、アマトさんの
 秘められた至上の力の発現したなんて、天が大笑いするような事は
 期待してませんけど、心だけでも少し強くなって下さいよ。」

ご高説ごもっとも。あれ3人の顔が土色に変わっている。あ、そうか、何気に
ラティスさんをディスっているのか、ラファイアさん、道理で。
しかし、この世界でラティスさんをディスれるのは、 
あなたとエリースぐらいだよね。

・・・・・・・・

ラファイアの全身に、涼しい白金の光背が揺らめく、平々凡々な御者の姿が
消えていき、
白金の髪に白金の瞳、超絶美貌の顔、聖画に描かれる白光の妖精が顕在する。

「「「聖ラファイス様!!?」」」

3人は椅子から、転げ落ちるように跪き、胸の前で、五芒星を描く。
ラファイアの姿に対して、この衝動を抑えるのはむずかしい。

「私は、白光の妖精、ラファイア。ラファイスではありませんよ。」

「そして、私もラティスさんと同じように、アマトさんと妖精契約をしてます。」

「そう、私は、ラファイスに対してもですけど、暗黒の妖精のラティスさんにも、
 魔力で負ける気はありません。」

ラファイアは、親愛の情を強烈な笑顔であらわす。
しかし、呆然自失の3人。もう頭で理解できる状態を、超えている。

その最後に、イルムがフレイア達に、真摯に訴えた。

「あなた達に望むのは、最後までセプティさんの側にいてもらう事。
 私もルリさんもキョウショウさんも戦のなかばで倒れる可能性が大きいわ。」

「セプティ朝が誕生したら、それを守る者が必要になります。死の間際まで、
 アマトさんやエリースさんと共に、セプティさんを支えてくれないかしら。
 あのが背負うものは、ひとりで耐えるには
 巨大すぎるものになるから。」

「あなた達3人が、私達の仲間になって、セプティさんの
 になって欲しい。」

月が地平から顔を出す頃、フレイア、アストリア、エルナは、
セプティと共に進む未来を選んだ。

☆☆☆

 ラファイアさんは、リーエさんと光折迷彩をまとって、
早々と夜の警戒行動(お散歩)に出かけている。
やはり、リーエさんはやり慣れない事をして、目一杯だったようだ。
行こう行こうポーズでラファイアさんを無理やり連れだしている。

さっき、ラファイアさんは、気合い全開で、親愛の精神感応をしたらしい。
帰り際、フレイアさん達は、『心が壊れる寸前まで、追い込まれた。』
と言っていた。
入れ替わりに、戻ってきたラティスさんが、

「ラファイアが、気合いを入れて、親愛を示す精神感応を向けたら、
 耐えられるのは、レアヘタレのアンタぐらいかもね。」

と、奇妙なめ方?をしてくれた。

ラティスさんの姿が消えたあと、エリースが、

「場合によっては、3人の口を封じなければと、思っていた。いい結果に終わって
 本当に良かった。」

とポツンと、僕に話して、きびすを返して部屋から出ていく。

『エリース、ゴメン。義兄貴として、その葛藤かっとうに気付いてやれなかった。
 義兄貴失格だよね。』

誰もいなくなった部屋に立ち尽くし、僕は激しく後悔していた。
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