29 / 266
ⅩⅩⅨ アバウト学院 後編(2)
しおりを挟む
第2章。ラティスの思い
「ラファイス!!!!」
天をも凍て尽くす威風を伴った、激しく美しい声が、人々の耳朶を撃つ。
人々は、振り返り、昔からの伝承を思い出していた。
【暗黒の妖精と白光の妖精は、よく闘いたまふ。】
2人の妖精の間に、至極の緊張感がはしる。
人々の契約している、非覚醒の妖精達が、一瞬だけ目覚め、契約者に警告する。
『白光の妖精 暗黒の妖精 神々の黄昏 逃げろ』
人々は、帝都のすべてが劫火に包まれ、大陸ごと海中に沈む未来像に絶望する。
緊張が頂点を突き抜けた時、
白光の妖精は、微かに笑い、姿を消していく。
代わりにアマトの姿が現れ、ゆっくりと大地に崩れ落ちる。
立会人席にいた、暗黒の妖精は、立ち上がり虚空を睨んでいる。
・・・・・・
「アマト義兄ィ!!」
介添席から飛び出すエリース。だが内心は、
『お約束だからね、けど二人ともよくやるわ!』
エリースには、どうしても二人の諍いの景色は、コイントスのそれと重なる。
「ラファイア。なに寝たふりしてんの?」
小声で聞く、エリース。
「【ラファイスの禁呪】のお約束と言う事で、鉄馬車まで浮かんでいきますので、
それとない演技お願いしま~す。」
「わかったわよ。義兄ィの名誉のために、してくれたことだもんね。」
立ち上がり、短呪を唱えるエリース。アマトの体が淡い緑の光に包まれ上昇する。
そのまま移動させていく。
「「「アマト君は、大丈夫?」」」
駆け寄ってきたフレイヤ・アストリア・エルナ。
「【ラファイスの禁呪】、それは使用者の命を代償とする、
聖なる禁呪と聞くけど。」
アストリアが心配して、エリースに問う。
「実を言うと2度目なんだ、義兄ィが【ラファイスの禁呪】を使ったのは。」
「2度目!?1000年の間、誰もなしえなかった禁呪を!
アマト君は聖ラファイスに愛されてるとういう事!」
「愛されてるかどうかは分からないけど、とにかく2度目、
だから、たぶん大丈夫。」
「そう。けど、あいつらは人としてはもうダメだな。」
フレイアが唾棄する。アマトの敵だった卑怯なる者は、妖魔としか見えない
外見に変化している。
「禁呪が成ったという事は、聖ラファイスが、あいつらを『罪に穢れし者』と
認めたという事。もう帝国でも王国でも、表の世界では生きてはいけないはず。」
エルナが軽侮の眼差しを向ける。
・・・・・・・・
アマト(ラファイア)を、鉄馬車に運んだエリースゆっくりドアを閉める。
そして、振り向きながら言う。
「出てきたら!」
数人の戦士が、他の鉄馬車の影から現れる、すべての者の髪が白い。
「アマト様を、こちらに渡して頂きたい。」
最も年嵩の男が、魔法円を描きながら、エリースに話かける。
「答えは言わなくてもわかるでしょう。引いてくれない?」
「あなた様のような、お美しい方のお頼みでも、それはきけません。」
「今回の仕儀、拝見させて、いただきました。」
「我らが主達のおこない、あれは貴族というには、ほど遠いものでした。
滅びゆくときに消え去らなかったものの
不幸というものでしょう。」
「だが、ここにいるものは、代々、主家に仕えてきた者達なんです。
若様達が失敗なされため、ここまで追いかけて参りました。」
「立ち姿もお美しい、あなた様の魔力が、我々の及ぶところではない事は、
重々承知しております。」
「せめて一太刀、老骨たちの妄執とお笑い下さい。」
老人たちが描くすべての魔法円が、彼らの命の輝き。
「最後に良き機会を与えて下されたこと、感謝いたします。」
「お覚悟を、参ります。」
『リーエ!!!』
エリースの精神感応の叫び。
同時に、何本もの緑電が、激しい轟音と共に、天空から地面を穿つ。
そこには、黒焦げの影しか、残っていなかった。
『何もなかったわ、本当に何もなかったわ。』
エリースは踵を返し、御者台に向かった。
☆☆☆
アマトは、同じようにやっと起きてきたセプティに、決闘の経緯を聞き、
急いで、闘技場へ向かおうとするが、キョウショウに止められる。
「アマト君、いまから行っても間に合わない、むしろ何もなければ、
ラティスさん・ラファイアさん・エーリスさん・リーエさんも、
もう帰ってくる時間だ。」
外に鉄馬車が止まる音が聞こえる。
満面の笑顔のラファイア、颯爽とした顔のエリース、硬く凍仮面なラティス、
リーエだけが『もう終わり?』と不満げな顔で、部屋に入ってくる。
セプティもユウイも泣き笑いの表情で、キョウショウを加えた5人の無事を
喜び、その行為の重さに5人を気遣う。
アマトも、5人を気遣い、『ありがとう』と真摯な礼を言いながらも、別の想いに
囚われていた。
決闘の前夜からその直後まで、当人達以外の人間が殺しにきたのだ。
それも、自分(に化身したラファイア)だけではなく、周りの人間を巻き込む事に
何の躊躇もしなかった。
アマトは思った。自分の想いと行動が、周りの仲間達の想いの内側にあるなら、
もはや悩めないと。
辛い分かれ道だった。
・・・・・・・・
その日の深夜、アマトは、目が覚めて眠れなくて、庭に出てきている。
2つの月が夜空になく、星々が美しい。先ほどから星がよく流れている。
やさしい影が、アマトに寄り添い、声をかける。
「アマト。没落貴族の奴らが、戦力の逐次投入なんて、
出来るだけの余裕があると思う。今夜はないわ。心配しないで寝たら。」
「ラティスさん。」
アマトの顔に覚悟の色を読み解く、ラティス。
「そういう事じゃないようね。」
「僕は、自分の手に剣を握る事は、無理だと思ってた。
いや、思おうとしていた。」
「悪いけど、アマト。あんたが、ユウイとエリースを救いたいと私と契約を
望んだあの時、アンタは剣に手を伸ばしていたのよ。」
「もし順番が逆で、あの時がラファイアでもね。同じ事だったと思うわ。」
「アンタがもう1000年遅く生まれたら、法がアンタを守ってくれる世が
来てるかもしれない。」
「ただ人間の今までをみていると、殺し合い自体が正義の名の元に
合法化されてるかもね。」
「ラティスさん。」
「いきなさい、アマト。神々がアンタを裁くというなら、神々とでも闘うわ。
それが私と契約しているという事よ。」
「・・・・・・・・。」
2人のやり取りを、上空から覗いていた白い影も、無言でうなずいていた。
「ラファイス!!!!」
天をも凍て尽くす威風を伴った、激しく美しい声が、人々の耳朶を撃つ。
人々は、振り返り、昔からの伝承を思い出していた。
【暗黒の妖精と白光の妖精は、よく闘いたまふ。】
2人の妖精の間に、至極の緊張感がはしる。
人々の契約している、非覚醒の妖精達が、一瞬だけ目覚め、契約者に警告する。
『白光の妖精 暗黒の妖精 神々の黄昏 逃げろ』
人々は、帝都のすべてが劫火に包まれ、大陸ごと海中に沈む未来像に絶望する。
緊張が頂点を突き抜けた時、
白光の妖精は、微かに笑い、姿を消していく。
代わりにアマトの姿が現れ、ゆっくりと大地に崩れ落ちる。
立会人席にいた、暗黒の妖精は、立ち上がり虚空を睨んでいる。
・・・・・・
「アマト義兄ィ!!」
介添席から飛び出すエリース。だが内心は、
『お約束だからね、けど二人ともよくやるわ!』
エリースには、どうしても二人の諍いの景色は、コイントスのそれと重なる。
「ラファイア。なに寝たふりしてんの?」
小声で聞く、エリース。
「【ラファイスの禁呪】のお約束と言う事で、鉄馬車まで浮かんでいきますので、
それとない演技お願いしま~す。」
「わかったわよ。義兄ィの名誉のために、してくれたことだもんね。」
立ち上がり、短呪を唱えるエリース。アマトの体が淡い緑の光に包まれ上昇する。
そのまま移動させていく。
「「「アマト君は、大丈夫?」」」
駆け寄ってきたフレイヤ・アストリア・エルナ。
「【ラファイスの禁呪】、それは使用者の命を代償とする、
聖なる禁呪と聞くけど。」
アストリアが心配して、エリースに問う。
「実を言うと2度目なんだ、義兄ィが【ラファイスの禁呪】を使ったのは。」
「2度目!?1000年の間、誰もなしえなかった禁呪を!
アマト君は聖ラファイスに愛されてるとういう事!」
「愛されてるかどうかは分からないけど、とにかく2度目、
だから、たぶん大丈夫。」
「そう。けど、あいつらは人としてはもうダメだな。」
フレイアが唾棄する。アマトの敵だった卑怯なる者は、妖魔としか見えない
外見に変化している。
「禁呪が成ったという事は、聖ラファイスが、あいつらを『罪に穢れし者』と
認めたという事。もう帝国でも王国でも、表の世界では生きてはいけないはず。」
エルナが軽侮の眼差しを向ける。
・・・・・・・・
アマト(ラファイア)を、鉄馬車に運んだエリースゆっくりドアを閉める。
そして、振り向きながら言う。
「出てきたら!」
数人の戦士が、他の鉄馬車の影から現れる、すべての者の髪が白い。
「アマト様を、こちらに渡して頂きたい。」
最も年嵩の男が、魔法円を描きながら、エリースに話かける。
「答えは言わなくてもわかるでしょう。引いてくれない?」
「あなた様のような、お美しい方のお頼みでも、それはきけません。」
「今回の仕儀、拝見させて、いただきました。」
「我らが主達のおこない、あれは貴族というには、ほど遠いものでした。
滅びゆくときに消え去らなかったものの
不幸というものでしょう。」
「だが、ここにいるものは、代々、主家に仕えてきた者達なんです。
若様達が失敗なされため、ここまで追いかけて参りました。」
「立ち姿もお美しい、あなた様の魔力が、我々の及ぶところではない事は、
重々承知しております。」
「せめて一太刀、老骨たちの妄執とお笑い下さい。」
老人たちが描くすべての魔法円が、彼らの命の輝き。
「最後に良き機会を与えて下されたこと、感謝いたします。」
「お覚悟を、参ります。」
『リーエ!!!』
エリースの精神感応の叫び。
同時に、何本もの緑電が、激しい轟音と共に、天空から地面を穿つ。
そこには、黒焦げの影しか、残っていなかった。
『何もなかったわ、本当に何もなかったわ。』
エリースは踵を返し、御者台に向かった。
☆☆☆
アマトは、同じようにやっと起きてきたセプティに、決闘の経緯を聞き、
急いで、闘技場へ向かおうとするが、キョウショウに止められる。
「アマト君、いまから行っても間に合わない、むしろ何もなければ、
ラティスさん・ラファイアさん・エーリスさん・リーエさんも、
もう帰ってくる時間だ。」
外に鉄馬車が止まる音が聞こえる。
満面の笑顔のラファイア、颯爽とした顔のエリース、硬く凍仮面なラティス、
リーエだけが『もう終わり?』と不満げな顔で、部屋に入ってくる。
セプティもユウイも泣き笑いの表情で、キョウショウを加えた5人の無事を
喜び、その行為の重さに5人を気遣う。
アマトも、5人を気遣い、『ありがとう』と真摯な礼を言いながらも、別の想いに
囚われていた。
決闘の前夜からその直後まで、当人達以外の人間が殺しにきたのだ。
それも、自分(に化身したラファイア)だけではなく、周りの人間を巻き込む事に
何の躊躇もしなかった。
アマトは思った。自分の想いと行動が、周りの仲間達の想いの内側にあるなら、
もはや悩めないと。
辛い分かれ道だった。
・・・・・・・・
その日の深夜、アマトは、目が覚めて眠れなくて、庭に出てきている。
2つの月が夜空になく、星々が美しい。先ほどから星がよく流れている。
やさしい影が、アマトに寄り添い、声をかける。
「アマト。没落貴族の奴らが、戦力の逐次投入なんて、
出来るだけの余裕があると思う。今夜はないわ。心配しないで寝たら。」
「ラティスさん。」
アマトの顔に覚悟の色を読み解く、ラティス。
「そういう事じゃないようね。」
「僕は、自分の手に剣を握る事は、無理だと思ってた。
いや、思おうとしていた。」
「悪いけど、アマト。あんたが、ユウイとエリースを救いたいと私と契約を
望んだあの時、アンタは剣に手を伸ばしていたのよ。」
「もし順番が逆で、あの時がラファイアでもね。同じ事だったと思うわ。」
「アンタがもう1000年遅く生まれたら、法がアンタを守ってくれる世が
来てるかもしれない。」
「ただ人間の今までをみていると、殺し合い自体が正義の名の元に
合法化されてるかもね。」
「ラティスさん。」
「いきなさい、アマト。神々がアンタを裁くというなら、神々とでも闘うわ。
それが私と契約しているという事よ。」
「・・・・・・・・。」
2人のやり取りを、上空から覗いていた白い影も、無言でうなずいていた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?
闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。
しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。
幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。
お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。
しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。
『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』
さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。
〈念の為〉
稚拙→ちせつ
愚父→ぐふ
⚠︎注意⚠︎
不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる