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ⅩⅩⅨ アバウト学院 後編(2)

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第2章。ラティスの思い


 「ラファイス!!!!」

天をもて尽くす威風を伴った、激しく美しい声が、人々の耳朶じだを撃つ。
人々は、振り返り、昔からの伝承を思い出していた。

【暗黒の妖精と白光の妖精は、よく闘いたまふ。】

2人の妖精の間に、至極の緊張感がはしる。
人々の契約している、非覚醒の妖精達が、一瞬だけ目覚め、契約者に警告する。

『白光の妖精 暗黒の妖精 神々の黄昏ラグナロク 逃げろ』

人々は、帝都のすべてが劫火に包まれ、大陸ごと海中に沈む未来像に絶望する。

緊張が頂点を突き抜けた時、

白光の妖精は、微かに笑い、姿を消していく。
代わりにアマトの姿が現れ、ゆっくりと大地に崩れ落ちる。
立会人席にいた、暗黒の妖精は、立ち上がり虚空をにらんでいる。

・・・・・・

「アマト義兄ィ!!」

介添席から飛び出すエリース。だが内心は、

『お約束だからね、けど二人ともよくやるわ!』

エリースには、どうしても二人のいさかいの景色は、コイントスのそれと重なる。

「ラファイア。なに寝たふりしてんの?」

小声で聞く、エリース。

「【ラファイスの禁呪】のお約束と言う事で、鉄馬車まで浮かんでいきますので、
それとない演技お願いしま~す。」

「わかったわよ。義兄ィの名誉のために、してくれたことだもんね。」

立ち上がり、短呪を唱えるエリース。アマトの体が淡い緑の光に包まれ上昇する。
そのまま移動させていく。

「「「アマト君は、大丈夫?」」」

駆け寄ってきたフレイヤ・アストリア・エルナ。

「【ラファイスの禁呪】、それは使用者の命を代償とする、
聖なる禁呪と聞くけど。」

アストリアが心配して、エリースに問う。

「実を言うと2度目なんだ、義兄ィが【ラファイスの禁呪】を使ったのは。」

「2度目!?1000年の間、誰もなしえなかった禁呪を!
アマト君は聖ラファイスに愛されてるとういう事!」

「愛されてるかどうかは分からないけど、とにかく2度目、
だから、たぶん大丈夫。」

「そう。けど、あいつらは人としてはもうダメだな。」

フレイアが唾棄だきする。アマトの敵だった卑怯ひきょうなる者は、妖魔としか見えない
外見に変化へんげしている。

「禁呪が成ったという事は、聖ラファイスが、あいつらを『罪にけがれし者』と
認めたという事。もう帝国でも王国でも、表の世界では生きてはいけないはず。」

エルナが軽侮けいぶ眼差まなざしを向ける。

・・・・・・・・

 アマト(ラファイア)を、鉄馬車に運んだエリースゆっくりドアを閉める。
そして、振り向きながら言う。

「出てきたら!」

数人の戦士が、他の鉄馬車の影から現れる、すべての者の髪が白い。

「アマト様を、こちらに渡して頂きたい。」

最も年嵩としがさの男が、魔法円を描きながら、エリースに話かける。

「答えは言わなくてもわかるでしょう。引いてくれない?」

「あなた様のような、お美しい方のお頼みでも、それはきけません。」

「今回の仕儀、拝見させて、いただきました。」

「我らが主達のおこない、あれは貴族というには、ほど遠いものでした。
滅びゆくときに消え去らなかったものの
不幸というものでしょう。」

「だが、ここにいるものは、代々、主家に仕えてきた者達なんです。
若様達が失敗なされため、ここまで追いかけて参りました。」

「立ち姿もお美しい、あなた様の魔力が、我々の及ぶところではない事は、
重々承知しております。」

「せめて一太刀、老骨たちの妄執もうしゅうとお笑い下さい。」

老人たちが描くすべての魔法円が、彼らの命の輝き。

「最後に良き機会を与えて下されたこと、感謝いたします。」

「お覚悟を、参ります。」

『リーエ!!!』

エリースの精神感応の叫び。
同時に、何本もの緑電が、激しい轟音ごうおんと共に、天空から地面を穿うがつ。
そこには、黒焦げの影しか、残っていなかった。

『何もなかったわ、本当に何もなかったわ。』

エリースはきびすを返し、御者台に向かった。

☆☆☆


 アマトは、同じようにやっと起きてきたセプティに、決闘の経緯を聞き、
急いで、闘技場へ向かおうとするが、キョウショウに止められる。

「アマト君、いまから行っても間に合わない、むしろ何もなければ、
ラティスさん・ラファイアさん・エーリスさん・リーエさんも、
もう帰ってくる時間だ。」

外に鉄馬車が止まる音が聞こえる。

 満面の笑顔のラファイア、颯爽さっそうとした顔のエリース、硬く凍仮面なラティス、
リーエだけが『もう終わり?』と不満げな顔で、部屋に入ってくる。

セプティもユウイも泣き笑いの表情で、キョウショウを加えた5人の無事を
喜び、その行為の重さに5人を気遣う。

アマトも、5人を気遣きづかい、『ありがとう』と真摯しんしな礼を言いながらも、別の想いに
とらわれていた。

決闘の前夜からその直後まで、当人達以外の人間が殺しにきたのだ。
それも、自分(に化身したラファイア)だけではなく、周りの人間を巻き込む事に
何の躊躇ちゅうちょもしなかった。

アマトは思った。自分の想いと行動が、周りの仲間達の想いの内側にあるなら、
もはや悩めないと。

辛い分かれ道だった。

・・・・・・・・

 その日の深夜、アマトは、目が覚めて眠れなくて、庭に出てきている。
2つの月が夜空になく、星々が美しい。先ほどから星がよく流れている。

やさしい影が、アマトに寄り添い、声をかける。

「アマト。没落貴族の奴らが、戦力の逐次ちくじ投入なんて、
出来るだけの余裕があると思う。今夜はないわ。心配しないで寝たら。」

「ラティスさん。」

アマトの顔に覚悟の色を読み解く、ラティス。

「そういう事じゃないようね。」

「僕は、自分の手に剣を握る事は、無理だと思ってた。
いや、思おうとしていた。」

「悪いけど、アマト。あんたが、ユウイとエリースを救いたいと私と契約を
望んだあの時、アンタは剣に手を伸ばしていたのよ。」

「もし順番が逆で、あの時がラファイアでもね。同じ事だったと思うわ。」

「アンタがもう1000年遅く生まれたら、法がアンタを守ってくれる世が
来てるかもしれない。」

「ただ人間の今までをみていると、殺し合い自体が正義の名の元に
合法化されてるかもね。」

「ラティスさん。」

「いきなさい、アマト。神々がアンタを裁くというなら、神々とでも闘うわ。
それが私と契約しているという事よ。」

「・・・・・・・・。」

2人のやり取りを、上空からのぞいていた白い影も、無言でうなずいていた。
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